Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2011年3月23日開催 Web広告研究会3月月例セミナーレポート(1) 転換期にある日本の広告と2011 CESにみるスマートデバイスの躍進

  • 掲載日:2011年4月13日(水)

転換期にある日本の広告と
2011 CESにみるスマートデバイスの躍進


Web広告研究会の2011年度の第1回の月例セミナーとなる3月の月例セミナーは、震災から2週間ほどたった3月23日に開催された。セミナーでは、昨年に引き続き、第一部では電通の小野裕三氏が「日本の広告費とインターネット広告の潮流」を発表。第二部では、2011年1月6日~9日に米国のラスベガスで行われた国際家電ショーの「2011 International CES」に参加した電通の森直樹氏が、「CESレポート 盛り上がりを見せるスマートテレビ動向から見る今後の戦略」と題した講演を行った。

広告費の減少は2010年末時点で回復傾向にある


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株式会社電通
デジタル・ビジネス局
インタラクティブ・プロデューサー
小野 裕三氏



第一部に登壇した小野氏は、「日本の広告業界を元気づけなければならないという趣旨で話を進めていきたい」と話し2011年2月に電通から発表された「2010年の日本の広告費」をもとに、まずマス広告も含めた「日本の広告費全体について」の考察を行った。

2010年の日本の総広告費は、5兆8,427万円と前年比1.3%減であり、これは2008年(前年比4.7%減)と2009年(前年比11.5%減)に続いて前年を下回る結果となっているが、減少率は縮小しておりほぼ横ばいだといってもよい。また、マス4媒体の広告費は2008年に初めて全体の5割を切り2010年も全体の47.5%と減少傾向にある一方で、2008年に全体の1割を超えたインターネット広告費が、2010年は全体の13.3%にまで伸長していることを示した。

小野氏は、「インターネット広告の市場規模を他のメディアと比較すると、テレビに次ぐ“第2のメディア”となっている」と話しを続け、2009年に新聞を抜いて第2のメディアとなったインターネット広告が、2010年もテレビに次ぐ存在となっていると説明した。

各媒体の伸び率を見ると、前年比で増加したのはテレビ、衛星メディア関連、インターネットとなる。一方で、新聞、雑誌、ラジオのマス3媒体は減少しているが、2009年よりは減少率が低くなっており、「2010年はテレビも微増だが伸びに転じており、全体としては復調傾向にあるといえるものの、雑誌については1割近く広告費が減少している」と小野氏は説明した。

広告費を四半期ごとに見ていくことで、マス4媒体の復調傾向はより明確に見えてくる。2010年第3四半期まで(1月~9月まで)は四半期ごとに減少率が低くなり、第4四半期(10月~12月)はわずか0.4%ではあるが前年を上回っており、「今回の震災で今後は予断を許さない状況ではあるが、統計で見る限り、2010年末の時点では日本の広告費は回復基調にあるといってよい」と小野氏は分析した。

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マス広告の四半期ごとの推移

全般的傾向として「2010年後半にかけて下げ止まりの傾向がみられた」と話す小野氏は、これらの背景として、緩やかな景気の回復と企業業績の改善、国際的な大型イベントの開催(冬季五輪、サッカーワールドカップ、上海万博など)、エコカー補助金やエコポイントなどの景気刺激策の3つをあげた。また、業種別の伸び率では、全21業種中8業種が前年比増となっており、衆議院選挙の影響で「官公庁・団体」しか伸びていなかった2009年に比べ、2010年は伸びている業種が増えてきていることを説明した。

マス広告からインターネット広告へのシフトではなく
「広告媒体の多様化」と考える


「インターネット広告の成長を考える視点」という話題に移った小野氏は、インターネット広告が爆発的に成長している証として1996年のインターネット広告費が16億円だったのに対し、2010年は7,747億円と15年間で484倍の伸長率となっていると説明する。他のメディアの登場から15年間の伸長率と比べると、ラジオは54倍とインターネット広告よりもはるかに伸びが小さいが、テレビは1,509倍と現在のインターネット広告の伸長率よりも上回っていた、と小野氏は説明する。

続いて、広告費全体における構成比の推移のグラフを示した小野氏は「よく、マス広告からインターネット広告にシフトしているといわれるが、マス広告は戦争直後から始まるこれまでの長い間、広告媒体の多様化によってずっとダウントレンドにあり、近年の多様化の1つとしてインターネット広告が登場してきていると考えたほうがよい」と話した。

また、小野氏は海外の傾向として、eMarketerが発表した調査データから米国では2010年にインターネット広告が初めて新聞広告を超えたことを示し、消費者のWeb移行だけでなく、不況がデジタル広告へのシフトを加速していることも考えられるとした。また、IABのレポートから英国では2009年上半期にインターネット広告がテレビ広告を抜いたことを示し、北欧の国を中心に、広告費全体の1/4~1/5をインターネット広告が占める市場も存在していることを示した。

インターネット広告市場についての説明を始めた小野氏は、2010年のインターネット広告費について、次の図のように示している。

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インターネット広告市場の概況

その上で小野氏は、広告費の推移について触れ、「毎年2ケタ成長を続けていたインターネット広告は、2009年に世界的な景気後退の影響で微増にとどまったが、2010年は再び大きく成長している」と説明した。また、検索連動広告とモバイル広告が大きく成長し、その掛け合わせであるモバイル検索連動広告は前年に引き続いて躍進した、としている。一方で、PCディスプレイ広告は2009年に大きく前年を割り込むなど、成長が緩やかになってきていることも示した。成長を続けるモバイル広告の全体的な傾向としては、SNS系広告主の急成長とスマートフォンの本格的な普及を背景にあげ、モバイル検索連動広告が引き続き成長していくとした。

堅調に成長しているインターネット広告だが、小野氏は「日本の広告は転換期に入っていると思われ、多くの担当者が悩んでいる」と話し、図のようなインターネット広告の分類を示した。

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インターネット広告分類の歴史


最初期のインターネット広告は、バナー、テキスト、メールと非常にシンプルだったが、動画広告などの表現、検索連動広告などの手法、新たなデバイスの登場などにより、次第に分類が難しくなってきた。そのため、現状では、上記の図のようにPCとモバイル、それぞれにディスプレイ広告と検索連動広告が連なる形で4つに分類されている。しかし、実際にはアフィリエイト広告やコンテンツ連動型広告、行動ターゲティング広告などのさまざまなレイヤーが併存しており、複雑かつ変化の速度が速く、分類が複雑化している。PCとモバイルの分類に関しても、スマートフォンや電子書籍リーダー、タブレットPCなどのデバイスの進化により分類が複雑化し、今後も新たなデバイスが登場することも考えられる。

また、マス媒体との境界の曖昧化なども考えると、単純にインターネット広告の分類だけが複雑化しているとはいえない、と小野氏は話を続ける。たとえば、広告費としての新聞広告は減少しているが、インターネット上には多くの新聞社サイトが存在し、大手ポータルサイトへの新聞コンテンツの提供なども考えると、新聞社が生み出すコンテンツが大きな広告費を生んでいる、とも考えられるのだ。この点について小野氏は「インターネット広告は、マスとの連携も含めて、媒体、表現、仕組、デバイスなどのレイヤーが複雑に絡み合っているため、活用するためには複数の視点を高度に組み合わせる必要がある」と説明した。

ここまでの解説をまとめて小野氏は、「デジタル化の進展によって、従来の広告分類や広告観が大きな変動を余儀なくされている」と話す。「広告自体のパラダイムシフトが今起きつつあり、従来のメディア分類にとらわれない発想の転換が必要」と説明する小野氏は、「マスVSネットという構図ではなく、“広告手法の多様化と再編成”と捉えるべき」と話し、その上で、媒体、広告枠、ターゲット層という見方を見直し、従来の組織や職分にとらわれない運営も必要となるとした。

最後に小野氏は、ソーシャルメディアの躍進にも触れ、メディア接触時間のなかでソーシャルメディアの存在感が増してきていることを示した。また、ソーシャルメディアが生み出す新たな可能性の例としてフラッシュマーケティングをあげ、十年前にも存在したクーポン共同購入サイトが最近急速に成長を遂げている背景には、リアルタイム性と伝播力の2つがあり、ソーシャルメディアのパワーがネットを変えている、とした。さらに小野氏は、「ソーシャルメディアが注目される深層にはもう1つある」として、「人」がネットでの情報流通における秩序の中心になりつつある、と説明した。検索エンジンの時代はあらゆるもののデータ化が行われてきたが、ソーシャルメディアの時代となり、データと人をつなげる時代となってきているのだという。

「2011年は、広告もインターネットも大きな転換点に差し掛かってくる」とまとめた小野氏は、東日本大震災の際にソーシャルメディアが情報共有や支援に貢献したことをあげ、ソーシャルメディアの最大の力はリアルタイム性や伝播力だけではなく、ネットの向こうに人が見える「人のぬくもり」というものが重要であるとして、セッションを終了した。

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