2011年3月23日開催 Web広告研究会3月月例セミナーレポート(2)スマート化の時代へと進む米国のテレビ業界と携帯電話業界
- 掲載日:2011年4月14日(木)
スマート化の時代へと進む
米国のテレビ業界と携帯電話業界
株式会社電通
コミュニケーション・デザイン・センター
次世代コミュニケーション開発部 プロデューサー
森 直樹氏
続いて第二部に登壇した電通の森直樹氏は、「CESレポート 盛り上がりを見せるスマートテレビ動向から見る今後の戦略」と題し、2011 CES(国際家電ショー)の視察をもとに今後のデジタル戦略について解説を行った。
まず米国のテレビ事情に関して説明を始めた森氏は、「米国は日本と比較して人口は3倍だが、有料放送市場は日本の約10倍、ケーブルテレビ市場については日本が約4,500億円に対して米国は約7兆6,000億円と、市場に大きな開きがある」と、日米における市場の違いを説明した。また、米国の放送業界のプレイヤーは、ほとんどがケーブルテレビと衛星放送で、地上波を直接受信している世帯は約11%にすぎず、新たにテレコム系サービス(IPTV)の事業者も登場し、ケーブルテレビと同等のサービスを提供して市場を伸ばしているという。
米国で毎年1月に開催されているCESに参加した森氏は、会場の雰囲気を伝えるビデオなども上映しながら、「メインはテレビだが、前述のトラディショナルな米国放送業界のプレイヤーに加え、新興のプレイヤーも参入してきている」と展示会場の様子を説明し、代表的な例として「Hulu」「ROKU」「Vudu」「Apple TV」「NETFLIX」「Google TV」「BOXEE」などの存在をあげた。
米国の動画視聴態度は変化を見せており、森氏はニールセンのデータからトレンドとして、1年間でタイムシフト視聴が22.5%増加し、インターネットでのオンデマンド動画視聴が34.9%増加していることを示した。また、コムスコアのデータから米国のオンラインビデオ視聴ランキング(月間)も示し、Google(1.44億人)やFacebook(5,217万人)の総ユニークビューワーの数に比べ、Huluは約3,000万人と少ないが、視聴時間を比べるとHuluは162.6分とGoogleの260.4分に次いで長くなっており、Huluが非常に成長していることがわかると話した(Facebookは31.5分)。米国オンラインビデオ広告リーチの月間データでも、Huluが7.94億インプレッションで1位となっており、米国では今後10年でインターネットビデオがライブブロードキャストテレビを視聴時間で逆転することも予想されているという。
「米国の動画配信ビジネス業界では、ベンチャー系の新興サービスが登場してきているだけでなく、従来のトラディショナルなメディア系サービスも参入してきている」と話す森氏は、NETFLIX、Hulu、Google TV、Apple TV、BOXEE、Vudu、Qriocityなどのサービスを紹介している。特にHuluは、広告ビジネスモデルで運営されており、10秒単位の視聴率調査などの精密なデータ分析を行い「真偽のほどはわからないが、ユーザー登録していなくても過去の視聴履歴から99%の精度で性別の判定が可能だといわれている」と森氏は話す。また、Huluでは視聴者はCMのスキップはできないが、数種類のCMを選択できるといった形で、広告の効果を高める取り組みを行うなど、広告ビジネスに本格的に取り組んで軌道に乗せていることがうかがえるという。またDRM(Digital Rights Management)のコンソーシアムとして、UltraVioletとKeychestの2つのコンソーシアムがあり、それぞれ多くの企業が集まって著作権管理の共通ルール作りを行っていることも新興テレビ業界の動きの1つだという。
一方で、従来のケーブルテレビ業界も静観しているわけではなく、「TV Everywhere」という構想が生まれてきており、米国の大手ケーブルテレビ会社のcomcastは「XFINITY」というサービスで契約者がPCなどで好きなときにコンテンツを楽しめるようにしている。
森氏は、再びCESでの会場の様子を映した動画を紹介し、これらのインターネットテレビの事業者やハードウェアメーカー各社が具体的にどのようにサービスを提供しているかを説明し、「今回のCESのキーワードは“Smart”で、SmartテレビやSmartデバイスの出展が非常に多かった」と話した。
「Smartテレビ、インターネットテレビ、コネクテッドテレビ、ソーシャルテレビのいずれも、表現の違いはあってもすべてインターネットやソーシャルメディアと連動するという打ち出し方をしている」と話す森氏は、Smartテレビの定義として、「ブロードバンドへの常時接続」「ストリーミングでのコンテンツ受信と再生」「ゲームやアプリのダウンロードすることによる機能拡張」「ソーシャルメディアとの連携」「タッチスクリーンのリモコン」の5つをあげている。一例として森氏は、CESで最も大きなブースを展開し、CEOが基調講演も行っている韓国サムスン電子の例を示し、「いつでも、どこでも、すべてのデバイスで、すべてのコンテンツ」をクラウドで実現し、アプリによって機能を拡張していることを説明して、「タブレットPCをもっと大きくしてテレビにすればSmartテレビになるのではないかと思うほど、テレビとタブレットPCの境界がなくなってきている」と説明した。
テレビの将来像について森氏は、「放送もインターネットコンテンツも同列に選択される環境の可能性」「テレビからマルチデバイスへ」「ソーシャルメディアとの連携」「インターネット業界の参入」「受像機目メーカーによる独自の囲い込み」「映像ではないコンテンツと画面表示時間を争う時代の到来」の6点を示した。
続いて、CESでの携帯電話の展示の様子を動画で紹介した森氏は、「次世代の高速通信サービスの展開とスマートフォンの展示が多く、Android一色といってもよかった」と説明する。また、韓国や中国の企業の勢いがあり、特にLG電子やサムスン電子などの韓国勢や台湾のHTCの勢いが高く、米国の携帯キャリアVerizonの記者発表にはLG電子とサムスン電子のCEOが出席していたことなども明かした。
また、最後の基調講演で行われたWPPなどの米国の広告代理店、コカ・コーラ、マイクロソフト、アカマイの各担当者が出席したパネルディスカッションの模様についても解説。Facebookがマーケティングツールとして大きな役割を果たしており、顧客の考えや要望を傾聴する場として非常に役立てられていることをはじめ、広告に携わる人がテクノロジーを大切にしないとブランドに影響を与える可能性があることなどが話し合われたという。森氏は、「広告業界では、サーバーのテクノロジーなどを重視していない傾向があり、関与したがらないが、インフラデザインを失敗してサーバーがダウンしてしまえばブランドの失墜にもつながるため、広告会社はシステム側のテクノロジーについても考慮する必要がある」と話した。
最後に「デバイスはスマートの時代になることを実感した」と話す森氏は、「米国では放送とVODの区別がなくなり、タブレットPCで放送コンテンツもインターネットで利用できるようになる」ということを示し、今後はAndroid端末が大量にあふれて、デバイス間の境界があいまいになるだろうと話してCESレポートをまとめた。