Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「“パートナーシップの8大原則”とは? JAA『デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言』の本質」 2019年11月26日開催 月例セミナーレポート(1) イベント報告

  • 掲載日:2020年1月10日(金)

大手企業のマーケターが感じているデジタル広告の課題とは? その課題に対して業界が行っていくべきこととは? 「アドフラウド」「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」をはじめとする課題とその対応方針についてまとめた“パートナーシップの8大原則”を、JAAの山口有希子氏が解説した。



アドフラウドを筆頭に、デジタル広告はいま、さまざまな課題に直面している。こうした情勢に対し、2018年5月に開催された「WFAグローバルマーケターカンファレンス」(世界広告主連盟 世界大会@東京)では、アドバタイザーをはじめとする各プラットフォーマーが守るべき原則「WFA Global Media Charter」が発表されている。

これを受け公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(JAA)でも、会員社のメンバーで構成するデジタルメディア運営委員会(2016年11月設立)が中心となって行動原則の検討を重ね、「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を発表した。

・アドバタイザー宣言は、JAAサイトからダウンロード可能
http://www.jaa.or.jp/?p=6931

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会は、この「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」解説セミナーを11月26日に月例セミナーとして開催。第1部では、JAAデジタルメディア委員長の山口有希子氏が登壇し、「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」(以下、アドバタイザー宣言)を解説した。


デジタル広告が直面する課題に対し、JAAが“8つの行動原則”を提言


日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア運営委員会 委員長 /
パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
常務 エンタープライズマーケティング本部 本部長 山口 有希子 氏


アドバタイザー宣言は、「ビューアビリティ」「アドフラウド」「ブランドリスク」といった、ネット広告を取り巻く課題に対し、あるべき方向とそこに向けての基本的なアクションを「宣言」としてまとめたものだ。「いろんな想いを込めて、ディスカッションをした内容」(山口氏)として発表に至ったという。

山口氏による解説は、まずデジタル広告をめぐる現状、そして問題点の考察からスタートした。


ネット広告の課題は、すでに“社会問題”

D2C/CCI/電通による共同調査「2018年 日本の広告費インターネット広告媒体費 詳細分析」によると、わが国の2018年の総広告費6兆5,300億円のうち、「インターネット広告費」は1兆7,589億円(前年比116.5%)で、全体の26.9%を占めるという。「インターネット広告制作費」を除いた「インターネット広告媒体費」でも1兆4,480億円で、二桁成長を続けている。

一方で、インターネット広告に関連してさまざまな問題も発生した。たとえば、
・漫画村への広告費の流れ
・ロボットによる広告視聴
・やらせレビュー
・サービス利用者水増し
などだ。 “広告費詐欺”が数百億円規模で発生しているという分析もあり、こうした情報が、NHKの番組で『ネット広告の闇』として複数回にわたり特集され、世間にも認知されるようになった。




「運用型広告、さらにはディスプレイ広告においても、いろいろ課題が生まれた。ネット広告の課題は、すでに“社会問題”になっている。広告費が不正に盗られ、場合によっては反社会勢力に流れている可能性すらある」と山口氏は指摘。

これに対し広告業界はどう活動しなければならないか、真剣に考えるべきフェーズであるとした。


3つの主要課題「ビューアビリティ」「アドフラウド」「ブランドリスク」

山口氏はまず、インターネット広告取引の仕組みを再確認する。現場の人たちには当然の仕組みなのだが、「問題を把握するべきなのにネット広告のことをよく理解していない経営陣に、ネット広告の仕組みを理解してほしい」という意図からだ。

一般的にイメージされる広告では、「広告主」が「代理店」に依頼し「媒体」に広告が掲載される。もっともシンプルな形だ。テレビや新聞などはおおむねこの形態だ。

しかし現在ネット広告では、仕事やお金の流れがもっと複雑になっており、
・「アドネットワーク業者」が、「代理店」と「媒体」の間に入る
・「アドネットワーク業者」は、単一媒体でなく、複数の媒体に配信する
・「アドネットワーク業者」が複数ある場合は、さらにそれを束ねる「アドエクスチェンジ」が間に入る
・さらにデータ活用による個人向け配信を行う「データエクスチェンジ」が使われる
・代理店が「DSP」を、媒体が「SSP」を利用する
といったように、非常に複雑な流れで広告が配信され、広告費が動いている。

これによって「自社の広告がどの媒体に掲載されたのか、広告主が把握しきれない」という現状を生み出している。



「『広告主』と『媒体』の間に、日本の広告でも、これだけたくさんのプレイヤーが参画している。そのなかでいろんな取引が発生している。
・私たちは本当に効果的な広告を実施しているのか
・健全に消費者とつながっているのか
といったことが、大きなテーマとなる」(山口氏)。



ここでとくに大きな課題として意識されるのが、次の3つだ。
ビューアビリティ
アドフラウド
ブランドリスク

もちろん、これ以外の問題、複合して発生している問題もあるが、とくにこの3つの課題が「看過できない状況」(山口氏)であることは間違いない。


●ビューアビリティ――我々の広告は、実際に閲覧可能な状態で表示されているか

グローバル基準では「広告の50%以上の面積が画面に1秒以上露出するインプレッション」された状態が「ビューアブル(閲覧可能な状態であった)とされている。

しかし山口氏は「この定義は非常にゆるいと思う。にもかかわらず実際には、そのゆるい基準すら満たされていないのに広告が配信されたとみなされているのが現状だ」と山口氏は指摘する。


●アドフラウド――我々の広告は、本当にターゲットユーザー(人間)に届いているのか

アドフラウドとは広告詐欺のことで、そもそも人間にすら広告が届いていないのに広告主には広告が配信されたとレポートされて広告費が支払われている(広告費用が窃取されている)状況を指す。その不正手法には、
・隠し広告
・不正な広告挿入
・第三者からの不正なトラフィック獲得
・支配権を奪われた端末からの広告リクエスト
など、さまざまなものがある。

広告費がアドフラウドによってどの程度無駄になっているのかの調査データとして、

・モメンタムの調査によれば、2017年の日本国内顧客企業の運用型広告に含まれたアドフラウドは9.1%(件数ベース)
・米IASの同様の調査によれば、2018年の日本国内顧客企業のアドフラウドは8.4%

といったものを紹介し、山口氏は「けっこうなボリュームで、アドフラウドは起こっている。認識していましたか? 対策していますか?」と問いかけた。

参考:
・2017年度日本のアドベリフィケーション調査レポートについて(アドベリフィケーション推進協議会)
https://ad-veri.jp/whitepaper.html
・モメンタム、「アドベリフィケーション推進協議会」において、国内での実態調査レポートを公開(Momentum)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000011681.html


●ブランドリスク――広告が、不適切サイトやコンテンツに配信されると企業ブランドが棄損する

デジタル広告は複雑な仕組みで配信されているため、広告主が掲載を意図していない、
・漫画村のような不正サイト・違法サイト
・公序良俗に反するコンテンツサイト
・自社ブランドにそぐわないサイト
といったサイトであっても、ネット広告が配信されてしまう可能性がある。

こうしたサイトに自社の広告が掲載されれば、支払った広告費がそれらのサイトに流れることになる。消費者の目線でみれば「この企業は、こんなサイトの運営を広告で助けているのか」という印象になり、ブランド毀損の可能性があるだろう。

山口氏は、「自治体も含め、200ぐらいの広告主が、こうしたサイトに広告を載せていた」と、こうした状況が実際に発生していることを示す。

こうした問題に対し、世界的規模の大手広告主でもあるP&Gは、「恥ずべき詐欺的なメディア群がある。我々はそれを一掃し、節約した時間と費用を、広告業界に再投資して成長を促す必要があります」とのメッセージを送っているという(IAB 2017でのCMO講演より)。





すべてのステークホルダーが「アドバタイザー宣言」8原則に基づく行動を

そうした流れのうえで、世界の広告費の90%を扱う「WFA」(世界広告主連盟)は、2018年5月に「WFAグローバルマーケターカンファレンス」を東京で開催。各プラットフォーマーが守るべき原則「WFA Global Media Charter」を発表した。

日本アドバタイザーズ境界が今回発表した「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」は、その日本版を目指したものだ。最新情勢をおさえつつ、日本独自の構造や状況をデジタルメディア運営委員会が反映させている。

アドバタイザー宣言の内容は、「日本のネット広告に絶対的に必要」(山口氏)なアクションで構成されており、
・アドバタイザー(広告主)
・メディア(媒体)
・エージェンシー(代理店)
・プラットフォーマー(主要サービス事業者)
のための“8つの行動原則”を掲げ、さらに「広告主の倫理観」にも言及している。

参考:
・デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言(日本アドバタイザーズ協会)
http://www.jaa.or.jp/wp-content/uploads/2019/11/JAA_proclamation.pdf (PDF)



これらの8大原則と、それを実現するために、アドバタイザーが持つべき倫理観について、それぞれ解説していく。

それぞれの解説ででている用語は次のように定義されている。




1. アドフラウドへの断固たる対応
~アドフラウドはアドバタイザーの投資を搾取する事象であり、本来あってはならないもので、断固とした対応が必要である



山口氏はアドフラウドを「瑕疵のある商品を売るのと同じで、ある意味で詐欺」だと表現。そのうえでパートナーが提供するデジタル広告枠について、
・瑕疵の有無をきちんと把握しなければならない
・第三者ツールで透明性を図る必要がある
と説く。

アドフラウドを完全に排除することは難しいため、現実的には問題が発生した場合には補償することになるだろう。そのためには「広告主とパートナーさんが事前に合意しておくべきであり、フェアな関係作りが大切」(山口氏)なのだという。


2. 厳格なブランドセーフティの担保
~アドバタイザーに対してブランド毀損を及ぼす事象や、ブランドセーフティを妨げる脅威から、ブランドを守らなければならない



山口氏は、「パートナーの皆さんは、掲載先の品質を担保する必要がある。
・著作権を侵害しているようなコンテンツ
・社会的に問題のあるコンテンツ
に広告が配信されないことに責任を持ってほしい」と説く。

この項目については、アドバタイザー(広告主)自身がとるべき行動が多い。現場としては問題のあるサイトであっても「数字が稼げるから」という理由で広告を出してしまうこともあったかもしれない。それに対して山口氏は「そうした投資をするのは止め、反対の立場を取りましょう」と問いかける。


3. 高いビューアビリティの確保
~日本におけるビューアビリティのレベルはグローバルに比べて低い水準にあり、インプレッションを重視する広告活動の場合などにおいて、ビューアビリティは保証されるべきである



「ビューアビリティ」の現状としては、定義もさまざまで、広告主が期待する数値レベルもさまざまだ。PCとモバイルでも違いがあるうえに、キャンペーンによって成果が異なってくる。

そうした現状をふまえ山口氏は「パートナー側は、広告主にしっかりと事前説明を行い、理解してもらうことが重要」だと説く。


4. 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
~アドバタイザーはメディア自らが行う評価を受け入れておらず、提供されるデータは、デジタルメディアにおいても第三者による検証や測定によるものであるべきである



広告主は、広告を掲載するメディアに問題がないことを、パートナーに求めている。「その条件を正確に理解する必要がある」(山口氏)。

メディアの検証は第三者が公正に行うべきだが、山口氏は「現在その組織作りに向け、我々も議論を進めている」としたうえで、「正しく優良なコンテンツを掲載しているメディアが重視されることは、ジャーナリズムを尊重するためにも必要である。そういうことを意識してメディアを選定してほしい」と解説する。


5. サプライチェーンの透明化
~デジタル広告において、アドバタイザーのメディア投資に対するメディアの収益は一部に限られており、中間取引の透明性を高め、ステークホルダーへ適切に配分されているか開示されるべきである



WFAでも課題になっているように「日本は、中国に次いでとくに透明性が低い国という認識」とした山口氏は、「私たちが透明性を高める努力をする必要があるのではないか?」と問いかける。


6. ウォールドガーデンへの対応
~アドバタイザーはプラットフォーマーとの公平な関係を保つことが必要であり、プラットフォーマーによる広告出稿に関するデータのアクセス制限や一方的な活用は容認されるべきではない



GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるような巨大プラットフォーマーにより、広告出稿に関するデータの囲い込み、いわゆる「ウォールドガーデン」が進んでいる。

その現状に対し山口氏は「広告主が払っている広告費を利用して、データや知見がプラットフォーマーに囲い込まれている。これは広告主に開示されるべきではないのかという議論が、世界的に起こってきている」と述べる。


7. データの透明性の向上
~生活者のデータに関する不透明な取り扱いは問題であり、生活者のプライバシーの権利を尊重し、データの活用について透明性を高める必要がある



パートナーは、生活者にとって安全で、プライバシーを守っている存在でないといけないとしたうえで山口氏は「アドバタイザーも含め、センシティブに対応していくことが期待されている」と現状を解説。


8. ユーザーエクスペリエンスの向上
~広告は価値ある有益な情報を提供するものではあるが、いたずらに広告接触を増やすことはせず、適切な広告の出し方をすることで、生活者に良質なユーザーエクスペリエンスを提供する必要がある



昨今「アドブロック」のユーザーが増えている現状をふまえ山口氏は「“ユーザーの意志に反して追いかけてくる広告”などを「気持ち悪い」という感覚がある」と解説。

しかしユーザーがアドブロックを導入するということは、ユーザーとの“コミュニケーションの機会”を失うことを意味する。

「パートナーにしてもアドバタイザーにしても、どういうエクスペリエンスをユーザーに与えるのかを考えないといけない。ネガティブなエクスペリエンスは改善しないといけない」と、エクスペリエンスという枠組みで広告をとらえるべきだと山口氏は解説する。


8大原則を実現するために、アドバタイザーが持つべき倫理観
~アドバタイザーは生活者とのコミュニケーションの進化を求められている。その一方、このテクノロジーの進化がフェイク広告やアドフラウドなどの悪質な行為を生み出している

アドバタイザー宣言の資料では、こうした8つの原則に加え、アドバタイザーが持つべき倫理感についてもページを割いて言及している。

「数字を作りたいから」という理由で、良くないとわかっていてもフェイク広告などに手を出す広告主もいる現状に山口氏は「こういうことが繰り返されると、社会的な影響力・信頼を失っていくし、なにより“デジタル広告の未来”を失っていくことにつながる」と危機感を示し、「法律で禁止されていなくても、倫理的にやっていいのか悪いのか、アドバタイザー自身がそれぞれ考えるべき」と、企業が社会において適切な役割を果たし続けるために必要な立ち位置を示す。


悪質行為根絶は「業界に関わるものすべてのレスポンシビリティ(責任)」

最後に山口氏は、個人的な感情ではあるがと前置きしたうえで、次のように指摘する。

「デジタルは人の生活をよりよく変えてくれた。技術というのは、ポジティブな部分とネガティブな部分と両面あると思う。

しかし今、デジタル広告に関しては、ネガティブなところが、すごく大きく見えている。デジタル広告もポジティブな部分があるはずなのに、ネガティブな部分が目立っている」

そのうえで、「本質的なところで意識を高め、アクションして、解決しないといけない。業界に関わるものすべてのレスポンシビリティ、将来に対するレスポンシビリティだと思う。真剣に皆で考えていきましょう」と、アクションへの参加を呼びかけた。

◇ ◇ ◇

「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」要旨

1. アドフラウドへの断固たる対応
2. 厳格なブランドセーフティの担保
3. 高いビューアビリティの確保
4. 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
5. サプライチェーンの透明化
6. ウォールドガーデンへの対応
7. データの透明性の向上
8. ユーザーエクスペリエンスの向上
※ 8大原則を実現するために、アドバタイザーが持つべき倫理観
 


2019年11月26日開催 月例セミナーレポート(2)
https://www.wab.ne.jp/wab_sites/general-browse/view/3139



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