Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2010年7月27日開催 Web広告研究会7月月例セミナーレポート(1)トリプルメディア時代に求められる企業のコミュニケーション戦略とは イベント報告

  • 掲載日:2010年8月27日(金)

2010年度 第五回Web広告研究会月例セミナーレポート
トリプルメディア時代に求められる企業のコミュニケーション戦略とは


第五回のWeb広告研究会月例セミナーでは、2006年からメディア定点調査を行っている博報堂DYメディアパートナーズからメディア・コンテンツソリューション局の局長代理である榊原廣氏を招き、「メディア定点調査2010」の調査結果と分析を解説する「生活者のメディア接触のイマ」という講演が開催された。トリプルメディアの時代とされている今、実際ユーザーがどのようにメディアを使い、サービスを利用しているのかを知ることで、今後のマーケティング戦略を考えることができる意義深い講演となった。また、第二部ではiPhone以降急増しているスマートフォン利用者に向けて、どのようなプロモーションを行えばよいかを、アドモブ株式会社のセールスマネージャーである藤沢聡明氏が解説した。

第一部「生活者のメディア接触のイマ - メディア定点調査2010より」
新時代型マスの登場で求められるコミュニケーション戦略とは


榊原氏
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
メディア・コンテンツソリューション局 局長代理
榊原 廣氏

第一部に登壇した榊原氏は、「メディア定点調査2010年(http://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/2010/HDYnews100623.pdf)」の調査結果を受けて、はじめに「メディア接触時間は約5時間半前後が平均的で、その半分以上をテレビが占めており、その次はパソコンからのインターネット接続という結果となった」と説明した。博報堂DYメディアパートナーズのメディア定点調査は、東京都・大阪府・愛知県・高知県の4か所で毎年年初に行われ、15~69歳の男女個人を対象にテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、パソコンからのインターネット接続、携帯電話からのインターネット接続のそれぞれの接触時間、イメージ、浸透状況、意識などを調査している。


メディア接触時間 週平均・1日あたりの接触時間

続いて、東京のメディア接触時間を性年齢別にグラフ化し、20代男性のパソコンからのインターネット接続が非常に高く、総メディア接触時間351.4分に対して140.3分となっていることに注目。昨年の調査では、20代男性のパソコンの接触時間がテレビの接触時間を初めて超え、その差は2分ほどであったが、今年はテレビ110.1分に対してパソコンの接触時間が30分近く多くなり、その傾向が顕著になっているという。一方、女性は相対的にテレビへの接触時間が多いが、10代女性の携帯電話からの接触が100分を超えるなど、10代や20代の男女の携帯電話からの接触時間は増える傾向にある。

また、2006年から調査を重ねるごとに総メディア接触時間は徐々に減少する傾向にあったが、2009年から2010年にかけては増加しているという。これは、多チャンネル化やワンセグなどでテレビを視聴する機会が増えたことや、パソコンでの動画視聴が定着してきたこと、景気の悪化によって自宅でメディアを楽しむ時間が増えたことなどが原因と考えられる。

メディア接触時間・時系列変化 東京地区


デジタルかアナログかではなく、さまざまなメディアを取捨選択している

テレビやワンセグ、VOD(ビデオオンデマンド)などの放送系サービスの利用調査では、地上デジタル放送の普及によって新しいテレビを購入した結果、BSデジタル放送などの数値が上がっていることが示された。ワンセグ放送などの利用もこの1年で大幅に増加し、年代が若いほど利用率が高く、女性より男性の方が高い傾向にあるという。

パソコンからのネット系サービスの利用調査では、動画投稿閲覧サービスの利用経験者が60%を超え、この3年くらいの間に定着してきたことが示された。一方で業界的には盛り上がったポッドキャスティングや3Dバーチャルコミュニティなどのサービス利用率は低く、利用者に広くは受け入れられていないようだ。SNSの利用も伸びてきてはいるが未だ30%後半にとどまり、年齢別に見ると若年層が多く、話題にはなっているが年齢を問わず広く普及しているとは言い難い。今年から調査項目に入ったTwitterなどのミニブログの閲覧/作成は30%を超える利用率となり、男性の20代や女性の10代で特に利用率が高いという。

携帯電話からのネット系サービスの利用調査では、二次元バーコードや携帯クーポンなどのプロモーションに使えるサービスが50%前後の利用率に増えていることに注目。位置情報サービスの利用も40%を超えるため、今後は携帯電話利用者に対するプロモーションが実現可能となってきたと榊原氏は分析した。

これらの調査結果を受けて、榊原氏は「マスメディアに比べてパソコンや携帯電話の新しいメディアサービスは急速に利用が拡大する傾向にある。しかし、“皆があまねく接触するメディア”は必ずしも多くない。一方で、2010年は“巣ごもり型消費”や“パソコンでの動画視聴の定着”などで微増となっているが、総接触量は飽和状態にあり、これ以上増加することはないと思われる。また、急速に浸透したサービスのなかには、すでにブームが去ったものも散見できる」と分析をまとめた。

そのうえで、デジタル系のサービスは、もはや“新市場”ではなく、取捨選択の対象となる“普通のサービス”であると、榊原氏はいう。生活者側からすれば、デジタルかアナログかということは関係なく、数多くあるサービスの中から自分が必要なものだけを使うだけであって、デジタルが上向きでアナログが下向きという“ステレオタイプな環境”ではなくなってきているのだ。

短時間の接触でさまざまなメディアを駆使し
必要な情報を得る傾向に注目する必要がある


メディア定点調査2010では、さらに横断的な分析も行っている。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、パソコン、携帯電話という6種類のメディアについて、週平均1日あたりの視聴分数をもとに「似たような接触パターン」をする人を5つの「グループ(クラスター)」として分類するものだ。グループは次の図のように分けられたが、テレビを1日3時間以上視聴して新聞をほとんど読まず、携帯電話よりもパソコンからのネット接続が多いというグループはほとんど居なかったという。


クラスターの分類図



5つのクラスターの位置づけ
・クラスター1:テレビ&新聞を愛好し、デジタルにはあまり接点のない、在宅ゆとり層
・クラスター2:平均に近い属性で、各種サービスも平均的に利用しているが、接触量が少ないタイムコンシャス層
・クラスター3:テレビとネットが暮らしの中心で、携帯を駆使して情報をかき集める、情報飢餓層
・クラスター4:とにかくラジオ好きで、ネット接触は希薄な、ブルーカラー系のシニア層
・クラスター5:TVはあまり見ない、若手ビジネスマン中心の、PCネット&雑誌好き層


ここで注目したいのは、忙しくて各メディアを“つまみ食い”するクラスター2の存在だ。このグループは、都心や地方に関係なく40%以上を占め、微増ではあるが年々増加傾向にあるのだという。つまり、「アナログからデジタルへの一方的な移行」でも「デジタル中心型クラスターの膨張」でもなく、「特定のメディアに偏重しないニュートラルなオーディエンス」という新しいボリュームゾーンが生まれており、これらの“つまみ食い”を行うグループに対してどのようにメッセージを伝えていくのかを考えていかなければならない、と榊原氏は説く。榊原氏によれば、2008年の調査でこれらの傾向を「新時代型マス」の誕生と位置付け、「タイムコンシャス・マス」と名付けているのだという。


新時代型マスの特徴

2009年から2010年にかけては、前述のテレビの多様化とパソコンの動画視聴の定着によって、クラスター2の視聴は東京で若干減少したが、それでもメッセージやコンテンツを“より多く見せよう”という作戦は、すでに通用しなくなっていると榊原氏は説明した。“選んで観に行く”という層をどう掴むかが重要で、「接触量」を目標としたコミュニケーション活動は“ますます”機能しにくくなっているのだ。

最後に榊原氏は、対象者に密着して朝から夜までビデオを撮り続けた「密着ビデオ取材」の動画を上映した。メディアの“つまみ食い”をするクラスター2の顕著な例として、女子高校生の動画が紹介されたが、各メディアをこの世代がどのように使っているかが非常に理解でき、会場は感嘆の声や笑い声に包まれた。榊原氏は、キーワードとして“ひまつぶし”と“時間の有効活用”の2つを示したうえで、この女子高生が携帯電話のヘビーユーザーでありながら多様なメディアを同時に利用していることを示し、ユーザーが1つのメディアに集中しているとは限らないことを理解してほしいと榊原氏は説明した。また、140分以上パソコンに接触している例として20代男性ビジネスマンの動画も紹介された。

これらの調査の数値や動画を通して榊原氏は、「さまざまな便利なサービスが生まれているが、生活者はメディアを選ぶのではなく、見たいコンテンツをメディアのなかから選んでいくことに長け、見たいコンテンツを提供するメディアを探している。また、コンテンツをじっくり見て楽しむ以外に、すき間の時間を利用して情報に触れている“ひまつぶし”もあるので従来とは異なる広告アプローチも必要となってくる」と話した。現代において、生活者はアナログメディアを見なくなったわけではなく、見方が変わっていることがポイントであり、より多く見てもらうのではなく、情報を格納して話題を作り、オーディエンスに興味を持って情報を取りに来てもらうことも必要だと榊原氏は最後に話し、第一部を終えた。


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