Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2010年10月26日開催 Web広告研究会 10月月例セミナーレポート 「2010カンヌ国際広告祭に見る コミュニケーション・デザインのグローバル潮流」 イベント報告

  • 掲載日:2010年12月2日(木)

「2010カンヌ国際広告祭に見る コミュニケーション・デザインのグローバル潮流」
スタンダード化するソーシャルメディア
リスクを恐れずに変化へと踏み出す


10月26日に開催された第6回Web広告研究会月例セミナーは、「2010カンヌ国際広告祭に見る コミュニケーションデザインのグローバル潮流」というタイトルでパネルディスカッションを開催。昨年のカンヌ国際広告祭(以下、カンヌ広告祭)の審査員を務めた株式会社ドリルの原野守弘氏、今年Cyber部門の審査員を務めた株式会社電通の岸勇希氏、15年間カンヌ広告祭をウォッチしてきた株式会社葵プロモーションの北村久美子氏を迎え、Web広告研究会グローバル・ブランディング委員会 委員長の次田寿生氏をモデレータとし、カンヌ広告祭の作品からどのように世界の広告が変化しているかが話し合われた。

技術、トレンドが均一化する広告の世界

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パナソニック株式会社/Web広告研究会グローバル・ブランディング委員会委員長
次田 寿生氏

セミナーは、モデレータの次田氏が「昨年や今年から、コミュニケーションの潮流が変わってきた。そのような時代において、グローバルで勝っていくためのヒントを見つけてみたい」と挨拶した後、岸氏のプレゼンテーションから開始された。


「どの作品が受賞したかということよりも、何がおもしろかったのかを話し、今の潮流を学べるかを話したい」と前置きした岸氏は、まず今年のカンヌ広告祭のCyber部門では、「Real and Realtime Interactive」というリアルやリアルタイムのコミュニケーションを意識した作品が増えたことを特徴として挙げ、続いて「Using Social Media」「High Quality Craft」という流れを示し、合計3つの潮流があることを話した。特に、Using Social Mediaについて岸氏は「FacebookやTwitterを使っていない作品はないと言っても過言ではないくらい、グローバルではソーシャルメディアが当たり前のように使われている」と感想を話した。また、「一昨年前までは日本や米国、北欧などがテクノロジーや表現力に強みがあったが、世界中でiPhoneやFacebook、Twitter、ARが使われており、世界が均一化していたのが今年の傾向」と話し、その背景の1つとしてUsing Social Mediaの流れがあると分析した。

High Quality Craftについては、クオリティの高いブランデットエンターテインメントの作品が多く、有名映画監督を使った作品も多かったという。映像だけではなく、ゲームやイベントなどの幅広いブランデットエンターテインメントのコンテンツが多かったことも今年のカンヌ広告祭の特徴だ。

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株式会社電通
コミュニケーションデザインセンター
岸 勇希氏


岸氏の注目した作品として、はじめに世界最大の家電量販店、BEST BUY社の「Twelpforce」というTwitterを使ったキャンペーンが紹介された。TwitterとHelpを合わせた「Twelp」という造語で従業員を「Twelpforce」とブランディングし、Twitterを窓口として顧客から技術的な相談を受け、各従業員が競ってアドバイスを返して顧客の決断を手助けするというものだ。これによって、BEST BUY社は企業の社会貢献ランキングを25位に引き上げ、コールセンターのクレームを20%引き下げたという。

カンヌ広告際では、Twelpforceに対してTwitterを使って会社の仕組みを変えただけであり、これを広告といっていいのかという議論も交わされたというが、岸氏は「今年のカンヌを最も象徴するような作品」だと説明し、「Twitterを使って企業と世の中の向き合い方を変え、コミュニケーションのあり方を変えた優れた事例」だと評価。顧客の課題に対して正面から向き合い、ソリューションとしてベストバリューを提案しているこの作品をグランプリにしたカンヌ広告祭を評価した。

続いて、「TwitterやFacebookのユーザーからの言葉をどうやってビジュアライズしてアウトプットするかという課題をよく表した作品」として、ブラジルのガン患者専門病院が行った「DONATE WORDS」という作品を紹介。Twitterで「#donatewords」というハッシュタグでガン患者に励ましのメッセージを送ると、待合室のモニターにメッセージが表示され、ガン患者のリハビリにも効果があるというものだ。「ソーシャルメディアで言葉が垂れ流されるなか、流れている言葉を使って誰かを元気にできるという素晴らしい作品。ソーシャルメディアがビジネス的に利用され、消費者の声を聞くという部分に注目されているが、本質的な言葉の力に向き合って表現している」と岸氏は話した。


ソーシャルメディアへ身を投じる時代へ

続いて紹介された米国の広告代理店「BooneOakley」の事例は傑作で、自社サイトをすべてYouTube上で構成しているものだ。岸氏は「ソーシャルメディアをどう使うかを考えるのではなく、ソーシャルメディアにどう身を投じるかが次のトレンド」と話し、「自社サイトをソーシャルメディア上に置いてしまうという発想が素晴らしい」と評した。

岸氏が最後に紹介したのは、ブラジルの環境団体が仕掛けた節水キャンペーン「PEE IN THE SHOWER」。「環境問題で、“してはダメ”というメッセージではなく、“シャワーでおしっこしていい”というアイデアが素敵だ」と評する岸氏は、「カンヌ全体がいい意味でアイデア重視に変わってきている。もちろん、表現やクラフトが素晴らしいことも審査の対象になるが、骨太の強いアイデアで世の中を動かしていくという傾向があると感じた」と話した。

また、「技術やトレンドが世界で均一化されていくなか、グローバルなコミュニケーションツールとして使われているFacebookが、日本ではあまり使われていないのがマイナス要因」だと、世界ではFacebookが公共のインフラのように使われている状況を伝え、熟知していなければ企画を仕掛けられないだろうと話した。さらに「Webコンテンツの成熟が高かった一方で、フィルムに元気を感じなかったが、これはCMだけでなく、どのように能動的に人が動けば、コンテンツを楽しんだ延長線上でブランドを好きになるのかを考えていく潮流が戻ってきているからだと思う。さらに、賞のための賞ではなく、結果を出しているかどうかも試されてきている。一方で各カテゴリにクラフト部門が新設されたが、結果を別にして表現が美しい作品などを分けることで、逆にクライアントファーストで結果を出してコミュニケーションを取る作品に焦点をあてていこう、というカンヌからのメッセージだと思う」と、今年のカンヌ広告祭の傾向をまとめた。


消費者は「モノを買う」と同時に
「世の中のためになるというストーリー」を欲している


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株式会社葵プロモーション
北村 久美子氏


続いてプレゼンを開始した北村氏は、今年のカンヌ広告祭の印象は岸氏と同じであることを前置きしたうえで、やはり「Using Earned Media(=Using Social Media)」と「Preminum Quality Craft」がキーワードになると説明した。そのうえで「Using Earned Media」を活用した事例が紹介された。

はじめに紹介されたのは、Integrated部門とCyber部門のグランプリを受賞したナイキの「LIVE STRONG CHALKBOT」だ。ナイキの「LIVE STRONG CHALKBOT」は、ツール・ド・フランスで7回優勝したランス・アームストロング選手がガン患者であることを公表し、97年にガン患者のための財団「LIVE STRONG FOUNDATION」を設立してイエローバンドのキャンペーンを展開しているが、2009年からナイキが支援する形でさまざまなキャンペーンが行われているもの。

今回はそのなかでも、「It’s about you. 癌はあなたの問題です」というキャッチフレーズのもと、ランス選手が復活するツール・ド・フランスの試合において、身近な癌患者の人へ応援メッセージを募ろうという「CHALAKBOT」というキャンペーンがグランプリを受賞している。これは、コンピュータ制御のチョーク描画システム(CHALKBOT)を搭載したトラックを使って、ツール・ド・フランス開催中の路上にメールやTwitterで送ったメッセージが描かれるというもので、3万6,000ものメッセージが集まり、コース上の13ヶ所に5,400のメッセージが描かれたという(http://www.canneslions.com/lions/lightbox.cfm?sub_channel_id=280)。北村氏は「キャンペーンを成功させるために、今まで広告主や広告会社は、Film制作やWeb制作の領域での、決まり切った役割の有能なスペシャリストをネットワークしておけば良い時代だったが、これからはそれだけではすまない。今回のCHALKBOTは良い例で、このキャンペーンの成功の影には、デジタルとフィジカルとを結ぶテクノロジーの集団Deep Local社の存在がある。カーネギー・メロン大学出身のスタッフ中心に開発された、このDeep Local社のCHALKBOTロボットがなければ、実現しなかったキャンペーンと言えるだろう」と語った。

続いて紹介されたのは、Promo&Activation部門とPR部門のグランプリを受賞したスポーツ飲料のゲータレードの「Replay」というキャンペーンで、1993年に引き分けた高校アメリカンフットボール、イーストン高校とフィリップスバーグの試合を15年後に当時と同じメンバーで再戦させるという企画だ。純粋なスポーツ体験として取り組み、90日間の選手のトレーニングや試合をゲータレードがフルサポートし、その様子をWeb上で公開している(http://www.youtube.com/whatsg#p/u/46/X6plaMT0bGE)。その結果、試合のチケットはわずか90分で完売し、ニュースの波及効果はメディア換算すると341万5,225ドル相当、試合開催地域でのゲータレードの売り上げは63%増加したという。

また、Earned Mediaをうまく活用し、かつPremium Quality Craftなキャンペーンの例としてFilm部門のグランプリを受賞したオールドスパイスの「The Man Your Man Could Smell Like」を紹介。一部のCGを除いて1ショットで撮られたことが話題となったCMで、スポット広告価格が高額で有名なスーパーボールで流されたものだが、Facebookでファンを獲得。続編はCMを使わずにYouTubeの「Old Spiceチャンネル」やFacebook、自社ページで公開している。「多くのメディア費を使わずに、人気作品をつなげてユーザーとコミュニケーションを取っているのはうまい仕組み。自社メディアを充実させることよりも、ソーシャルメディアをいかに利用するかが重要で、ソーシャルメディアを使うことがあたり前になってきている」と北村氏は話した。

そのほかにも北村氏は、Premium Quality Craftの例として、月面着陸したアポロ11号の打ち上げから帰還までの102時間をそのままの時間軸で体験できる「WE CHOOSE THE MOON」、クリックすることで人が動かせて“動きやすい服”を演出したWRANGLER EUROPEの「SPRING/SUMMER COLLECTION」、手書きフォントが作成できるパイロットの「HANDWRITING」、Film Craft部門のグランプリを受賞したフィリップスの「The Gift」なども紹介した。「特にThe Giftは、フィリップスの最高品質のテレビと、リドリー・スコット・アソシエーツ(RSA)という組み合わせが、大変うまくいっている。Webで見ることのできるRSAの5人の監督の作品は、映画の本編と同等の映像クオリティであることはもちろんのこと、まったく同じダイアローグを使って異なるストーリーの作品を制作する面白い仕掛けもあり、Premium Quality Craftを最大限に生かして成功したキャンペーンになっている」と語った。

また、最後に北村氏は「カンヌ広告祭を見て、プロダクションもイノベーションを起こそうとしているのだと感じた。プロダクションからR/GA社のようにDigital Agencyへと変貌を遂げるところや、STINKのようにSTINK Digitalを設立してフィルムとインタラクティブ作品の両車輪で事業を展開するところ。また、FilmakaのようにAwardを設立してクリエーターを1万2千人も登録させ、案件に応じて最適な演出家を提供するところなど、その進化の形は様々で、Production in DangerからProduction in Innovationへ変わっていくことを期待したい」と話し、「人がモノを買わなくなった時代では、単純にモノを売るのではなく、そのモノを買うことによって、人が幸せになったり、世の中のためになっていると思わせるようなストーリーを仕立てないと、人はアクションを起こさない。企業は、“モノ”と同時に“自分以外の人も幸せにしているというストーリー”を売って行かなくては成り立たないと感じた」と感想をまとめた。


問題解決の視点をもつイノベーション代理店へ

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株式会社ドリル
原野 守弘氏

最後に登壇した原野氏は、“イノベーション代理店”として自身が経験した事例を紹介し、「広告することだけでなく、製品やサービスの企画そのものまで入り込んで広告しなくても使いたい物を作ることが重要」と話す。続いて、カンヌ広告祭に触れると、まず「グランプリ13作品のなかで、広告はたった3作品。それ以外はプラットフォームやPR、デザインが受賞している。これは、米国の広告会社DDB(Doyle Dane Bernbach)社の時代から50年以上続いた分業体制が破綻してきたことを意味する。情報があふれてマーケットや消費者が複雑化している中で、TwelpforceのようなプラットフォームやR/GA社が行った“NIKE+”のような商品そのものを開発するといった新しいコミュニケーションに移行してきている」と話した。そのようななかで台頭してきているエージェンシーの1つとして、R/GA社を例にあげ、同社の自社告知ビデオを紹介(http://www.rga.com/about/featured/what-we-do-in-11-minutes)。デジタル時代のエージェンシーというコンセプトを持つ彼らが、どのような戦略を立てているかを示していった。

また、R/GA社が「Copy+ArtからStory+Systemへ」と示しているのをあげ、「物を売るためには物語が必要で、人が“なるほど”と思う物語を実現するにはシステムが必要となってくる。これからは、物語や仮説を立ててそれを実現するためのシステムや仕組みを作る人と向き合うことでイノベーションが起きるというのがR/GA社の考え方」と原野氏は説明した。

続いて原野氏は、今年から新設されたフィルム・クラフト部門に触れ、「広告を評価していくと仕組み論のようになってしまうが、いい映像を作ることも重要とされているために作られた部門」と話し、グランプリを獲得したフィリップスの「Parallel Lines」を紹介した。同社が発売した21:9の超ワイドテレビのキャンペーンとして、Webで公開されたこの映像に対して原野氏は「大きな意味で言えば広告ではない。デモンストレーションに発想が近く、ユーザーが何を体験できるかを示すもの。ユーザーがほしがっているものと企業が提供できる価値として、映画なみの映像を提供するという新しいやり方」と評した。

最後に原野氏は、現在の広告業界について「新しい分業システムを探っていくことと、クリエイティブの競争と同時に経営の競争であることを認識することが重要。広告会社がブランドと消費者を結ぶプラットフォームを作る出す役割になってきているなかで、全体を設計するのか、優れたモジュールを作り出すのか選択を迫られている」とまとめた。


コミュニケーションが経営に直結してきている


セミナーの後半は、4名でディスカッションが行われた。「効率のために組織を細分化するのはわかるが、その結果ミッションがブレークダウンしてしまっている。1人ひとりが課題発見者でミッションコンプリーターであることをカンヌ広告祭は教えてくれている。R/GA社が示しているのも、組織論ではなく、組織と現場をつなぐミッションにもう一度きちんと向き合うための1人ひとりに根付くマインド設定が実は重要なのだと思う。傘がほしいというクライアントに傘を出すのではなく、“雨にぬれない”ことが目的だと読み取って最適な提案ができるようにならなければならない」と岸氏が話すと、新たな技術の本質を見ずに名前だけが先行してしまう、という話題に移っていく。“ソーシャルメディアをどう使うか”ではなく、“何を作るか”の議論が重要で、広告主となる企業は、リスクを恐れずにしっかりと向き合う覚悟がある代理店とともに、経営判断に直結したコミュニケーションデザインを行い、依頼や発注を任せるようにすれば広告主も代理店も変わっていくことができる、といったことなどが話し合われた。

また、世界の技術やトレンドが均一化し、先進性や技術力で勝負できないなか、日本のコミュニケーションの強みはどこに出てくるのか、という次田氏の問いかけに対して、原野氏は「実は、まだインターネットがない時代から日本では“リザーブ友の会”や“モルツ球団”といったプラットフォームを作ってきている。2000年代からMBA経営でROIなどを気にするようになってから変わってきたが、力自体は持っているはず。少しだけお互いにリスクの話をするのをやめてみれば、新たなプラットフォームを作れるはず」と話した。

最後に次田氏は「潮目が変わっているなかで、組織も個人も変わっていかなければならない。パートナーも変わっていくなかで、一緒に面白い仕事をやっていきたいし、聴講に来てくださった方々もそれぞれの立場で変わらなきゃと思っていただければ」とまとめて、パネルディスカッションを終了させた。