Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2010年11月25日開催 Web広告研究会 11月月例セミナーレポート「企業モバイルサイトの現在とこれから」 モバイル、スマートフォンサイトへの投資効果はあるのか イベント報告

  • 掲載日:2010年12月15日(水)
  • 委員会・ワーキンググループ:カスタマーエクスペリエンス委員会

「企業モバイルサイトの現在とこれから」
モバイル、スマートフォンサイトへの投資効果はあるのか


スマートフォンやタブレット型端末などの新たなデバイスが登場するなか、企業は今後どのような対応を行う必要があるのだろうか。11月25日に開催された第7回 Web広告研究会月例セミナーは「企業モバイルサイトの現在とこれから」と題されたパネルディスカッションが行われ、Web広告研究会の代表幹事でもある株式会社ビービットの渡辺春樹氏をモデレーターとして、花王株式会社の本間充氏、株式会社Impress Watchの小川亨氏、サッポロビール株式会社の森勇一氏、株式会社日本ブランド戦略研究所の榛沢明浩氏、本田技研工業株式会社の深山寛泰氏をパネリストに迎え、モバイルサイトの各社の取り組みについて活発な議論が行われた。


コンシューマ向けを中心に進むモバイルサイト活用

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株式会社日本ブランド戦略研究所
榛沢 明浩氏


今回のパネルディスカッションでは、はじめにWeb広告研究会の調査委員会が2010年6月に行った「企業モバイルサイトのコンテンツ設置状況調査」について、榛沢氏から発表された。262社の企業に対して実施した、目視によるモバイルサイト設置状況調査によると、全体の78.2%がモバイルサイトを設置しており、「運輸・レジャー」「金融」の開設率が高く、開設率は2008年の第1回調査時よりも上昇しているという。また、PCサイトトップページにおいてモバイルサイトの告知を行っているのは、開設企業中56.1%で、「官公庁」「エネルギー素材」「仕事・教育」が9割以上告知を行っているとのこと。キャリア公式サイトへの対応状況は、ドコモが61.0%、auが48.8%、ソフトバンクが50.7%となり、特に「電子・電機」「自動車」「住宅関連」などでは公式サイトはドコモのみというケースが多いという。

コンテンツ設置数については、パナソニックのコンテンツ設置数が最も多く、日本テレビ、モスバーガーがそれに続く。全体としては、「趣味・娯楽」業界のようなコンシューマ向けビジネスを展開する企業のコンテンツ設置数が多いようだ。また、モバイルサイトを開設する企業の44.4%が、何らかの方法でアクセスをキャリア別に振り分けており、「電子・電気」「金融」「趣味・娯楽」などで特に多いという。

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Web広告研究会 代表幹事/株式会社ビービット
渡辺 春樹氏


これを受けて渡辺氏は「2年前よりもモバイルサイトが増えてきているが、期待したほど3キャリアへの対応を熱心にやっているという印象はない」とまとめ、各パネリストの企業でのモバイルサイトへの対応状況に話を振った。

商材ごとに異なるモバイルサイトのユーザー行動


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サッポロビール株式会社
森 勇一氏


サッポロビールでは、iモードが誕生した翌年の2000年にはiモード公式サイトを開設し、2003年には残り2キャリアの公式サイトを開設している。森氏は「当時は携帯電話でのWeb閲覧が難しく、キャリアのメニューに掲載されることが公式サイトを開設するメリットだった」と話した。また、1月の箱根駅伝に合わせてテレビCMでキャンペーンを行っているが、通常は57対1のPCとモバイルのアクセス比率が、箱根駅伝の際には17対1とモバイルの比率が非常に高くなるという。これは、「テレビを見ながらアクセスする場合は携帯電話を利用することが多いからではないか」と森氏は分析し、モバイルがテレビの受け皿となっていることを説明した。さらに、サッポロビールでは、来年からアルコールCMの自主規制が強化されるため、今後は自社メディアの重要性がさらに高まると予想しているという。

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本田技研工業株式会社
深山 寛泰氏


続いて、本田技研工業(以下、ホンダ)のモバイル対応を深山氏が発表。2001年にiモード公式サイトを開設し、2003年にはauの公式サイトを開設しているホンダは、現在はPCに比べて1/8くらいのアクセスがモバイルサイトにあるという。しかし、PCサイトの総PVの成長は鈍化しているのに対し、携帯サイトは非常に伸びており、モバイルサイトへのアクセスがPCの1/8であるにもかかわらず、カタログ請求が非常に多いということは特筆すべきだ。車種によってはモバイルサイト経由のカタログ請求数がPCサイトを上回る月もあり、年間を通してもPCに比べて約8割のカタログ請求数がモバイルにあるという。これについて深山氏は「若者や女性にモバイルユーザーが多いという傾向はあるが、全体として携帯電話からでもカタログ請求ができる環境が整ってきている」と分析した。

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花王株式会社
本間 充氏


「公式サイトではなく、非公式サイトでモバイルに対応してきた」という花王の本間氏は、「10年くらい前は女性誌に付けたサンプル請求ハガキを利用していたが、2003年くらいからハガキの応募がなくなり、携帯電話に乗り出した」と、ハガキ応募よりも携帯電話を活用する方が消費者にとって便利になったことが背景にあると話した。新製品のサンプリングを行うモバイルサイトを3年ほど続けた後、2007年頃からサイト構造を再構築したとう本間氏は、公式サイトにしなかった理由として「公式メニューが充実してきていたため新規に登録しても上に表示されない」「他社を見ても公式だからアクセスが多いわけではない」「将来的にモバイルの検索サイトが充実してくるはず」という3つの理由があったという。

また、本間氏は、PCが1週間や月単位でみると平均的にアクセスを集めているのに比べ、モバイルのアクセスは瞬発力がある一方で減衰が早いことを明かし、同じコンテンツを扱っているPCサイトとモバイルサイトのアクセスを比較してみると、ピークの立ち方が連動していないことも明らかにした。また、家事系のコンテンツを求める主婦層は携帯電話に触れる時間が少なく、若い女性向けのコンテンツはモバイルのアクセスが多いなど、ターゲットによって傾向が大きく異なることや、携帯電話でも動画コンテンツがよく閲覧されていて、髪型のHow Toなどの動画を若い女性が見る場合は携帯電話を使う、といった分析が示された。さらに本間氏は「モバイルサイトは、アクセス数は少ないものの、ターゲットをきちんと考えてコンテンツを作れば、よいコミュニケーションができるはず。しかし、実はPCほどの爆発力がない部分もあることが今後の悩み」とまとめた。


携帯電話は若者のラストメディアに

花王のモバイルサイト対応を見て小川氏は「特に10代から20代の女性のPC利用は減っており、携帯電話で完結している人が多い。動画もストレスなく見られるようになって、簡単でパーソナルなツールとして携帯電話が受け入れられている。PCのように起動に時間を取られず、秘匿性の高いコンテンツも見やすい」と話した。

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株式会社Impress Watch
小川 亨氏


また、本間氏は「22時にドラマを見終わった後、アクセスが増える。7月の月例セミナーでの調査にもあったが、女子高校生は携帯電話を1日中手離さない。ベッドに持ち込むラストメディアが昔は雑誌であったのに対し、今は携帯電話になっている」と話した。

一方で、小川氏が「日本全体のマジョリティとして、PCサイトは出社直後の9時頃と昼休みにピークがあり、後は深夜0時に向かって上がっていって0時を過ぎると減少する傾向があるが、携帯電話ではどうか」と話し、花王のモバイルサイトには昼のピークがないことに話を向けると、本間氏は「日中はメールなどのプライベートなコミュニケーションで時間が取られていて、若い女性は企業サイトを見ていない。夜もメールなどのコミュニケーションが続くが、昼に比べて相手の返信が遅れるので、待ち時間に髪型の動画などを探しているのではないか」と分析した。一方で、自動車に興味がある男性サラリーマンなどが利用しているホンダのモバイルサイトには、昼のピークが存在するという。

また、本間氏はPCとモバイルの検索キーワードの比較にも触れ、「モバイルでも企業名や製品名でのアクセスがあるが、PCが知的好奇心をドリブンとしているのに対し、携帯電話は欲求がそのままドリブンとなっているような印象がある。やりたいことをそのまま言葉にして検索するため、“浴衣 髪型”や“結婚式 髪型”で来る人も多い。また、PCでは“鍋 洗い方”で検索してくるところを、携帯では“鍋の汚れ取りたい”とか“鍋焦がした”といったメールの会話の延長線上での直接的なワードで検索してくる傾向がある」と話した。

PCと携帯電話を使い分けるユーザーの傾向

セミナーの後半では、まず榛沢氏から日本ブランド戦略研究所が行ったモバイルサイトの価値ランキング「Mobile Equity 2010」の調査結果が発表された。これによると、アクセス率ランキングのトップの業種は外食で、日本マクドナルドのアクセスが飛び抜けて高く数値を大きく引き上げており、パナソニックや日本コカ・コーラがそれに続くという。しかし、いずれもPCサイトに比べればアクセス率は低いものとなっているようだ。また、アクセス頻度はモバイルでの株取引が多いSBI証券がトップとなり、日本コカ・コーラと日本マクドナルドがそれに続き、外食、食品・飲料系に強みがあるようだ。アクセス頻度に関しては、いずれの企業もPCサイトよりもモバイルサイトのほうが高く、活性化されたユーザーが多いことがうかがえる会社もあったという。

これらの調査に対しては「業種や扱う商材によってアクセス率やアクセス頻度には大きな差が出るはず」という意見が出るなか、「クラブパナソニックやコカ・コーラパークのようなモバイル向けのサービスがあれば評価も上がるが、コンテンツだけ出しているのでは評価は上がらない」という意見も出てきた。

また、今回の調査は、全体の約7割を構成するモバイルとPCを併用しているユーザーを対象に行われているが、モバイルサイトへの「アクセスきっかけ」として「企業のPCサイトを見て」が1位となり、サイト閲覧時の行動の1位が「PCサイトで詳細を調べた」となっていることも興味深い。PCからモバイルへ行き、モバイルからPCに戻っているともいえるこの傾向に対して渡辺氏は、「併用しているユーザーが対象なので、シチュエーションに合わせて使う端末を選び、詳細な情報がほしいときにはPCに戻ってきているのではないか」と分析した。それに対して榛沢氏は、アクセス目的が「商品情報」に次いで「お得情報」や「新着情報」が高いことをあげ、「新たな情報などは携帯電話でアクセスして、詳細な情報が必要な場合はPCなどを使うという使い分けができているのではないか」と話した。

この調査を受けて渡辺氏は「商品情報などに関してはモバイルサイトを見ていただけているが、一部の業種を除いて商品購入のきっかけにはなりづらいという印象」とまとめた。


スマートフォン対応サイトへの投資は動向を見守る必要がある

続いて、スマートフォンへの対応について話が移る。すでに順次スマートフォン対応のページを増やしているホンダの状況について深山氏は「iPhone、iPod、Android端末からのアクセス数は急増している」と話した。現状でホンダのページはトップページと各カテゴリのトップページまでがiPhoneに最適化されており、それ以降のコンテンツはPCサイトのままであるというが、これについて深山氏は「PVを見ると、実際のコンテンツのページが見られていない」と話し、「最適化されていないPCサイトをiPhoneで見るのは文字が小さすぎて見づらいため、全体をiPhoneなどのスマートフォンに対応させる必要がある」と話した。

iPhoneとAndroidのページを分ける必要があるかについて小川氏は、「Impress Watchではユーザーエージェントで振り分けているが、iPhoneとAndroidはオペレーションも画面サイズも似ているので、現状ではデザインを分ける必要はないと思う。これまでの携帯電話のようにボタンで操作するのではなく、フィンガーオペレーションを意識したデザインにすればよい。ただし、iPhoneに比べてAndroidには自由度があるので、今後さまざまな物が出てくる可能性がある。将来的には、分ける必要が出てくるかもしれないし、市場のマジョリティを判断していく必要がある」と話した。

一方で、2008年8月のiPhone発売直後の9月から試験的にiPhone対応サイトを公開していた花王では、「最初の3か月はアクセスが急増したが、その後は伸びていない」と本間氏が話すように、物珍しさからiPhone対応のサイトを探して開くことで満足しているケースもあるようだ。普及し始めたばかりのスマートフォンへの対応は、投資対効果を考慮すると、今後のユーザーの使い分けの傾向などを見ながら、じっくり考えていく必要もありそうだ。

これまでの3キャリアの携帯電話からスマートフォンまで、多岐に渡る話題で議論が盛り上がり、時間が足りなくなったが、最後に渡辺氏は「スマートフォンが中心となっていく期待のあるなかで、従来の携帯電話へどの程度の投資を行っていくのかが課題。少なくとも、スマートフォンはPCに近いオペレーションとなるため、それほどサイトを専用化する必要はないとも言えるが、今後のAndroidの発展も見ていく必要がある。まだまだスマートフォンのユーザーは少ないため、対応をどうしたらよいかという結論はやってみて調べるしかない。しかし、確実に言えるのは、トリプルスクリーンを同時に使っていく時代は間違いなく来るということ。それにどう対応していくかを今後も考えていかなければならない。従来の携帯電話向けのサイトへの投資はあまり進めず、スマートフォンの今後の動向を見つつ、スマートフォン向けのサイトへの投資は慎重に見極める必要があるということになると思う」と話し、パネルディスカッションをまとめた。