Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2011年6月28日開催 Web広告研究会セミナーレポート 東日本大震災に企業はどのように対応していったのか、各社アンケート調査、対応状況からWebサイトの役割を考える(2) イベント報告

  • 掲載日:2011年7月27日(水)

【2011年度 第4回月例セミナーレポート 第二部】




続いて第二部では、第一部に登壇したベネッセコーポレーションの松本氏に加えて、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の増井達巳氏が参加し、ソフトバンクモバイルの高橋宏祐氏を司会としてパネルディスカッションが開始された。まず、高橋氏が他の2人に向けて「震災後の対応は終わったかどうか」を聞いていく。

ソフトバンクモバイル株式会社
高橋 宏祐氏


キヤノンマーケティングジャパン株式会社
増井 達巳氏

増井氏は「落ち着いたとは思うが、まだ継続中で特設サイトも続いている。事業継続計画(BCP)の見直しも行い、先週そのBCPを基に新たな戦略を立てたところ。節電モードも含めてケアが必要」と答えている。松本氏は「細かな作業はあるが、一時期に比べれば、震災対応の仕事量は少なくなってきている。終わったとは思ってないが、子供の心のケアなどは継続して行わなければならない。できることはまだまだある」と話した。また、質問した高橋氏も「通信キャリア各社の災害伝言板が今月末(6月30日)で終了することでキャリアとしては1つの節目にはなるが、基本的にはまだまだ震災対応は継続中と思っている」と話し、3者とも震災対応は継続中であることを示した。

「事前準備などは有効であったか」という質問に対して、増井氏は「BCPやワークフローは新型インフルエンザと首都圏直下型地震を想定しており、発動されなかった。しかし、基本的にはBCPに基づいた行動はとれた」としている。ただし、「出社できない社員がいて対策本部が召集できず、節電の問題が起こるなど、想定していなかった問題が多く、個人の意思決定に基づくところが大きかった」とも振り返っている。

一方、松本氏は「私自身BCPという言葉自体を震災前は知らなかったくらいで、事前のリスク対応を経営層が行っていることは知っていたが、具体的にどう行動すべきかは一社員まで降りてくるものではなかった。ほとんどが現場対応であったが、高いモラルを持って頑張ろうという意識があり、普段よりも良いチームワークで意思決定していたことが嬉しかった」と話した。これに対して高橋氏は、「最後は人であり、準備があっても人が使いこなせなければ意味がない」とまとめている。

サイトマネジメント委員会各社の取り組みについての全体的な動向としては、3月11日の地震直後はメルマガ停止措置やCM停止などが行われ、バナーや出稿雑誌、プロモーションに気を遣いながら対応していき、4月1日からCMや新聞広告などを順次再開していったという。その中で特徴的だったのは、味の素の節電レシピやサントリーの復旧応援広告であったと高橋氏は語る。味の素の節電レシピに関しては、来場していた棗田眞次郎氏から「当初は既存のレシピから選んで節電レシピとして公開していたが、その後は専用のレシピを作っている」という話も明らかにされた。

企業らしさを映した各社の震災対応

有事対応の事前準備状況は、思った以上に各社で準備が行われており、キヤノンMJ、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、日本ユニシス、NEC、富士ゼロックスではすでにBCPが準備されていたという。中でもキヤノンMJでは、大手町、沖縄、サンノゼにWebセンター(サーバー)の分散化が行われている。これについて増井氏は「全社の取り組みに先駆けてWebチームは2年前くらいからBCPに取り組み、その一環としてWebセンターも分散化した」と答えている。

Webサイトでの対応では、数社の例を見せながら、お見舞い文が前面に押し出されていることが示された。また、前述のサントリーや味の素などの前向きな取り組みも紹介されている。

メールマガジンに関しては、ほぼすべての企業が震災後の配信を停止し、4月以降に再開している。その他の意見としては、出社できないなどの状況の中でCMSが緊急時に必要になるのではないかといったものも紹介された。

広告、イベント、キャンペーンなどの対応は、やはり各社で自粛やイベント中止が相次いでいたようだ。高橋氏も、ソフトバンクモバイルの対応について、「しばらくCMは自粛し、完全に再開したのは6月。現在流れているCMは震災前に制作し終わっていたが、派手なので震災時の社会情勢に合わないと判断して自粛していた」と話した。

事業分野に応じた貢献については、関係省庁や自治体からの要請で水を緊急出荷したサントリーや、避難所にパーティションを提供したコクヨ、緊急支援告知に関わる委託作業を無償で行った制作会社のミツエーリンクスなど各社の支援対応が発表された。特にコクヨは、支援活動は行ってもあえてPRは行わないポリシーであるという。

これらの対応状況を見て増井氏は「メルマガ自粛などの共通する部分はあるが、各社がかなり違った対応をしていることも感じた。こういった“企業らしさ”をうまく表現するには、Webの役割は非常に大きいと思う。弊社でも事業側からはさまざまな支援案が出てきたが、企業視点の支援ばかりが目立つと嫌味になるため、優先順位を付けなければならない。被災地で何が優先的に必要とされるかを考え、企業らしさと被災地への配慮をうまく伝えられた企業が評価されていると思う」と話した。

一方、松本氏は「震災時はインターネットの担当者がいつも以上に迅速な対応を求められ、非常に厳しかったと思う。インターネットを使いお客様とコミュニケーションを取るということが、改めてクローズアップされたのを感じた」と語った。

被災地の視点に立って自発的に行動できるかがカギ

続いて、ベネッセコーポレーションとキヤノンMJの対応について発表が行われた。まず、ベネッセコーポレーションの震災の影響について松本氏は、全国への教材配布の物流が滞ってしまったこと、CMやDM自粛による進級進学時期の営業活動への打撃があったことを話した。また、グループ会社では外国人教師の帰国や生徒の参加減による英会話教室の一時閉鎖、高齢者向けホームの損壊があったという。

主な被災地向け支援に関しては、自己申告で被災された方の進研ゼミなどの受講料を半年間無料にしたことや、ベネッセ募金を設立し、事務所に募金箱を設置したり会員サイトのポイントを募金にしたりするなどして、5月末日までに募金7,937万9,618円を6団体に寄付したことを明かしている。また、教材、文具、ベビー用品の被災地への配布も継続的に行い、同社のキャラクターである“しまじろう”の被災地訪問、ニューヨークの美術館に子供達のメッセージや被災地の写真の展示を行うなどの活動を行っているという。

Webを使った支援では、専門家に監修のもとで、非常時の子育て情報の掲載などを行い、3月中には開始できたという。また、教材の届かない方に向けて教材(約5,000ページ)を電子化し、無償提供した。全国の中学生からのメッセージやイラストの公開なども行っている。

こうした活動について松本氏は、「ベネッセは家族を大事にすることが本業の企業なので、今後も被災地支援活動を積極的に行っていきたい」と話し、同社の震災対応の発表を終えた。

キヤノンMJの増井氏は、まず「BCPが発動したときに絶対に止めてはいけないのは自社のWebサイトだ」という同社の経営者の発言を引用し、会社の事業が継続していることを迅速かつ的確に伝えられることが非常時のWebサイトの役割であることを強調した。前述のように、同社ではWebセンターの分散化が行われており、サーバーが停止した場合は、自動的に他のセンターにDNSが切り替わるように対策がされている。

震災直後は、「各事業所の被災状況の確認や、従業員家族の安否確認に追われ、被災地向けの対応は翌日から、土日にかけて情報発信していった」と話す増井氏は、お見舞い文をキービジュアルの上部にし、増加する情報に対応して特設サイトを作ってリンクを張ったなどの対応を説明し、ゴールデンウイーク後はお見舞い文をキービジュアルの下に移し、文面も徐々に変化させていることを明かした。また、特設サイトなどで出す情報も、「義援金での支援や無償ソフトの提供などを会社や事業側からアピールしたいという要望もあったが、被災地が今求めている情報は、どのような支援や物資を受けられるかということだと判断し、提供する情報のレベルをWebチームで整理していった」と話した。

現在、キヤノンMJでは震災情報に含まれていた節電コンテンツをプロダクトごとに分けて掲載している。また、サーバー増強やインフラ強化も今後予定しているという。今回の震災対応に関して増井氏は、「Web部門で自発的に行動できたことが大きい。たとえば、お見舞い文の掲載指示や状況に応じた内容変更について、こうした方がいいのではないかという声は聞こえてきたが、対策本部や事業部から直接の指示はなかったため、Web部門で自発的に行った。特設ページの開設、メルマガの停止や再開などについては各部門からWeb部門に相談されていた」と話した。

また、増井氏は、被災地と首都圏では情報ソースが異なり、被災地と企業のコミュニケーション部門の温度差があるため、災害対応は被災者の感情の機微を敏感に感じる必要があることも指摘している。今回の対応で増井氏は、震災対応だけでなく、平常時でも生活者の視点で情報発信することが重要であることにあらためて気づかされたという。

さらにキヤノンMJでは、今回の想定外を次回の想定内にできるように、震災直後からの対応履歴を細かく時系列で記録している。これについて増井氏は、「どのような変更を行ったかはCMSの履歴を見ればわかるが、どの事業部からどのような要請があったかなど、思考のプロセスを記録しておくことが重要で、BCPなどのルールにフィードバックすれば次回の判断が早くなる」と説明している。加えて増井氏は、従業員が自発的に震災対応した例としてディズニーランドの震災対応を紹介し、「想定外のことが起きたときには行動基準と権限委譲が非常に重要で、BCPの内容を見直していきたい」と話した。

2社の発表後は、3者のディスカッションや質疑応答などでさまざまな意見が交わされ、まだ継続中である被災地対応をどうしていくのか、今後の非常時の対応について貴重な意見が交わされていった。

最後に高橋氏からは、Webだけの情報発信でいいのかという問いかけのもと、ソフトバンクモバイルで行った被災地視察レポートも発表された。震災当時の現地では電気が通っておらず、Webの情報収集などされていない状況であったため、被災地域の人々が手にできる最適な形で支援策を伝えるべく、ラジオ、地方新聞や避難所掲示板での情報発信を始めたことなどが発表された。