2011年10月25日開催 Web広告研究会セミナーレポート カンヌ国際「クリエイティビティ」祭から見えてくる新しいコミュニケーションの潮流(2) イベント報告
- 掲載日:2011年11月30日(水)
【2011年度 第6回月例セミナーレポート(2)】
Craft(カッコいいこと)はサイバーの前提条件
Real-TimeでBeyond Adであることが重要
PARTY
クリエイティブディレクター(Cyber Lions 2011審査員)
中村洋基氏
続いて登壇した中村氏は、自らも審査員を務めたサイバー部門の概要を説明した後、今年の傾向を「Real-Time」「Beyond Ad」「Craft」の3つのキーワードで説明し始めた。
「Real-Time」では、はじめに昨年のフィルムグランプリを獲得した「OLD SPICE」の続編となるキャンペーン、「OLD SPICE RESPONSE CAMPAIGN」を例に挙げた。FacebookやTwitterからの質問に対して、リアルタイムに動画撮影を行い答えることで大成功を収めたこのキャンペーンの概要動画を見せながら中村氏は、「この成功を受けて、これまでリアルタイムにならなかった映像をリアルタイムに返すということが1つの潮流となっていった」と話す。同様に、Twitterでつぶやいたらすぐに映像で返すSkittles(フルーツキャンディ)の「SUPER MEGA RAINBOW UPDATER」や、つぶやきを24時間以内にCM化していくKraft Foods社の「MAC & CHEESE TV」、第一部でも紹介された「UNIQLO LUCKY COUNTER」なども紹介された。「インタラクティブの手法の一種だと思うが、自分の行動が即時的に返ってくるものや時間軸を共有するものが非常に目立っていた」と分析する中村氏は、「今までリアルタイムでなかったものがリアルタイムになったらどうなるか、と考えて広告を作っていくのは面白いと感じた」と話す。
「Beyond Ad」については、「脱広告で、今年のカンヌライオンズから“Advertizing”という名前がなくなっているのと関係しているかもしれない。しかし、サイバー部門では昔からソーシャルの力が強く、アドバタイジングを信じていない。たとえば、バナー広告のエントリー数は多くても賞は獲れていない。Beyond Adは、サイバー部門では元々からあった考え方だと思う」と説明する。
そのなかでも中村氏が注目したのが、ハイネケンの「HEINEKEN STAR PLAYER」だ。iPhoneアプリやFacebookアプリとして提供されているもので、欧州チャンピオンズリーグの試合内容をリアルタイムに予想していくことで、アプリ利用者に得点が加算されていくというもの。これについて中村氏は、「非常にすばらしいと思って自分はグランプリに推していた。サッカー中継をただ単に見るという受身の行動から、能動的な体験に変えている。また、サッカー中継をテレビで流していてもPCやiPhoneのFacebook画面ばかり見てサッカーに集中していない視聴者を逆手に取ったキャンペーンだとも言える」と話す。
続いて、YouTubeへの動画投稿を増やそうという目的で行われた「LIFE IN A DAY」というプロモーションを紹介。ユーザーの日常を動画にしてYouTubeにアップすれば、リドリー・スコット監督がまとめて1本の映画にするというプロモーションで、「YouTubeへの動画投稿を増やそうという目的で行われた「LIFE IN A DAY」というプロモーションを紹介。ユーザーの日常を動画にしてYouTubeにアップすれば、リドリー・スコット監督がまとめて1本の映画にするというプロモーションで、「YouTubeへの動画投稿を増やすプロモーション、という枠を超えたアイデアになり、脱広告を果たせている」と中村氏は評している。
WWFがドイツで行った「SAVE AS WWF」は、PDFと同様なWWFというフォーマットを作り、印刷はできないようにしたもの。単にフォーマットを作っただけでなく企業に向けて配布し、資料をPDFでもWWFでもダウンロードできるようにすることで、企業の環境対策へのアピールにもなり、WWFの活動のプロモーションの役割も果たすというわけだ。
また、NOKIA社のスマートフォンに提供された「OWNVOICE」は、自分の子供や好きな人の声をカーナビの音声に使えるようにするソフトウェアで「広告っぽいつまらないものではなく、「こんなことできたらいいな」を提供することで広告となっている例」と中村氏は話す。さらに、ドミノピザが展開した「SHOW US YOUR PIZZA)」は、配達されたピザの写真をユーザーにアップしてもらうもので、見本写真とかけ離れたピザの写真には、投稿主にCEOが謝罪するというもの。「単なるフォト共有コンテンツかと思ったら、企業広告になっている。これまでよりも1つ上のコミュニケーションを行おうとしている」と中村氏は話す。
中村氏は、「Beyond Adは、単なる広告ではなく、新しいサービスやツールとして人の役に立ち、一過性ではないサービスを提供している」とまとめる。また、「かつての商品を伝えることを第一にした広告はBoringと言われ、サイバー部門ではショートリストにすら残らない。一見面白くないものをどうやって振り向かせるかを考え、独りよがりでないソーシャルインサイトやヒューマンインサイトが重要。広告主やエージェントの立場ではなく、個人として面白いと思えるものをつかむことが必要だ」と説明している。「ここ数年で選択可能な情報量は大幅に増えているが、消費できる情報量は少ししか増えておらず、その差は約8倍になっている」と中村氏は説明する。つまり、「とんでもなく面白く、とんでもなくぶち切れているものが評価され、サイバー部門の審査員は広告っぽくつまらないものから逸脱してチャレンジしているものを評価している」というわけだ。
最後に「Craft」ついて、中村氏は「簡単に言えばカッコいいということ」と説明する。まず中村氏はNTTドコモの携帯「TOUCH WOOD」のプロモーション「XYLOPHONE」(森の木琴)を紹介。続いて、第一部でも紹介された「THE WILDERNESS DOWNTOWN」も紹介し、「Arcade Fireのミュージックビデオであると同時にGoogle Chromeのプロモーションでもあり、Craftとしても十分面白い。技術としても、HTML5とWebGLをいち早く使っている。実際に自分の住んでいる住所を入れると面白い」と中村氏は話す。また、「UNIQLO LUCKY LINE」を紹介しながら、「Craftには日本のものが多く、やはり技術的にはすばらしいものを持っていると思う」と中村氏は説明する。UNIQLO LUCKY LINEは、海外の各店舗のローンチのキャンペーンでも必ず成功しているといい、「地域や文化を越えたフォーマットとして機能しているのはすばらしい。TwitterやFacebookでつぶやくと行列に並べるというだけのものだが、並んでいる状態を非同期の時間軸で共有できる。行列で待つことはストレスフルなものだが、エンターテインメントに昇華している点が評価されている」と中村氏は話した。
日本のバンドSOURのミュージックビデオ「映し鏡」も「THE WILDERNESS DOWNTOWN」と同様にHTML5を使い、TwitterやFacebook、Webカメラと連携したインタラクティブなコンテンツだ。「映し鏡は新しいスタイルのミュージックビデオで、ソーシャルの使いこなしという点ではTHE WILDERNESS DOWNTOWNよりも上をいっていると思う。しかし、スポンサーであるGoogleが見えずに単に新しいミュージックビデオに見えてしまうため、ブロンズにとどまった。しかし、テクノロジーとしては甲乙つけがたく高度なことをやっている」と中村氏は解説する。
「国によってCraftのあり方はさまざまだが、日本が一番Craftの中身がバラエティに富んでいて、非常に高く評価されている」と話す中村氏は、「過去にないほどの絵、アニメーション、音があり、これらは常に評価されている。一方、斬新なアイデアでも、Craftがよくなければブロンズどまり。日本は良いものと悪いものが極端で、全体のレベルとしては低いがCraftワークとしてはポテンシャルが高く、ときどきすばらしいものが登場する」とCraftをまとめている。
また、3つのキーワード以外の補足として、中村氏は「スウェーデンに注目したい」と話す。サイバー部門のショートリストは米国が最も多いが、2番目にスウェーデンが多く、今年は28作品がショートリストに含まれていたという。「ソーシャルなどの面白いテクノロジーが出てきてから注目されてきたのがスウェーデン。彼らはすごいチャレンジを行っていて、優れたアイデアのリファレンスがある」と中村氏は話し、ローヴァー社の「GET AWAY IN STOCKHOLM」、PAUSE社の「THE HUMAN JUKEBOX」、Skittlesの「Skittles Touch: CAT」などのユニークなキャンペーンを紹介した。
最後のまとめとして中村氏は、「サイバー部門ではCraftが基本装備で、今年はReal-TimeとBeyond Adに注目が集まっていた」と話す。「今までできなかったことがソーシャルメディアでできるようになってきたが、それは今年の1つの方向性であって、大事なことは既存の広告やコミュニケーションをブレイクスルーしてチャレンジを怠らないものが受賞しているということ」と中村氏は続け、「我々代理店は、日本がサイバー部門に強く、今年は多くの賞を獲れたと喜んでいてはダメ。それは、一部の天才的なCraftを作れる人が獲っているだけ。日本は、コミュニケーションという面ではかなり保守的で後進国だと思うので、もっともっと面白いものに挑戦しなければならないと思う」と話し、最後に「エージェンシーは前提を覆すアイデアを。広告主は独りよがりではないインサイトを」というキーワードを示して、サイバー部門の解説を終えた。
広告を超えた新しい価値創造へ
アウトドアで消費者とともに作り上げる広告の未来
株式会社ドリル
エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター(Outdoor Lions 2011審査員)
細川直哉氏
アウトドア部門を解説するために登壇した細川氏は、はじめに中村氏が紹介した「GET AWAY IN STOCKHOLM」に触れ、「スマートフォンアプリを使うだけで、サイバーとアウトドアは高い親和性で結ばれ、その2つでキャンペーンを行えるという好例だと思う」と話し、「アウトドアの意味が非常に広がってきて、どんどん大きくなってきていることを今年のカンヌライオンズでは強く感じた」と感想を述べた。
「Outdoor、主流へ」というスライドを示した細川氏は、アイデアあふれる作品が最も多く集まっているのはアウトドア部門だったと振り返る。「今年のカンヌライオンズは、前半に行ったサイバーやアウトドア、プロモーションの授賞式のほうが面白く、大きく盛り上がった。インタラクティブメディアにどんどん流れが来ていることを体で感じた」と話す細川氏は、授賞式の最終日がプロモーション、アウトドア、サイバー、チタニウムなどの消費者参加型のカテゴリとなるのも近いのではないか、と予測する。また、13部門の応募総数が約2万8,000なのに対し、アウトドア部門の応募数が4,500作品であることからも、アウトドアが世界的に伸びていると説明した。
アウトドア部門は「アンビエント部門」と「ビルボード&ストリート+ポスター部門」の2つに分かれているが、今年のグランプリはアンビエント部門から満場一致で決定している。審査員全員がアンビエント部門にすばらしい作品が集中していると認識していたという。これについて細川氏は、「ソーシャルメディアの台頭によって消費者は見ているだけのaudienceから情報を発信するactorになってきた。消費者は同じ舞台に上がり、一緒にキャンペーンを作り、どうやって話題を広めていくかという存在になってきている。actorとして消費者をリスペクトして、彼らにどのような面白い役割を与えるか、演じやすい環境を作るかが重要で、それに成功している作品がGOLD以上を獲得している」と説明する。
続いて細川氏は、グランプリを受賞したマイクロソフトのbingのキャンペーン「Decode Jay-Z with Bing」を紹介。細川氏は、「マイクロソフトというデジタルの最大手が選んだキャンペーンのメディアがアウトドアというのが面白い。なおかつ、アウトドアと自分たちのWebサービスを結びつけることで、世界的なキャンペーンを作れることも証明し、アウトドア広告の未来や次のコミュニケーションを示しているという点が評価されている」と説明する。
また、GOLD獲得作品として「The Coca Cola Friendship Machine」を紹介。肩車して友達と協力しないと買えない巨大な自動販売機を使ったキャンペーンで、「グランプリを獲ってもよいと思ったくらい個人的にも好きな作品。単にコーラを売るだけでなく、友情を深めることができるというように、広告のさらに上をいきブランドの価値を高めている。また、その結果コーラを2倍売ることができるという、とても良いソリューションだと思う」と細川氏は話した。
続いて、日本国内でも話題となった九州新幹線の「祝!九州キャンペーン」が「日本の作品がアウトドア部門でゴールドを獲得することは非常に珍しい」と紹介された。「九州に新幹線が開通するというCMが九州を1つにしただけでなく、震災直後ということもあり、広告コミュニケーションが国を1つにすることもでき、国民に勇気を与えたということが評価されている。すばらしいアクティビティだと評価され、広告コミュニケーションに係る審査員自身が広告でもっとすばらしいことができると気づかされた」と解説する細川氏は、最終的にグランプリ候補に残り、16人の審査員中6人がグランプリに推していたことも明かした。
さらに、クリスマスにゲリラ兵を家に帰そうとコロンビアで行われた「Ministerio de Defensa Nacional - Operation Christmas」や、ヒースロー空港に降り立った人を歌で迎え入れるT-Mobileの「Welcome Back」というキャンペーンも紹介された。「GOLD以上を獲得した作品に共通しているのは、社会に何を与えることができるかというテーマ」と話す細川氏は、今回の審査員全員の間で「商品を売ることやブランド価値を高めるという広告本来の存在意義を超えたものを評価しよう。人々を幸せにしたり、社会をよりよいものにする広告、超えた新しい価値創造に挑戦しているものを評価しよう。そういう空気があった」と明かす。そのベースにあるのは、ソーシャルメディアの台頭によって、本当にユーザーとともに新しいコミュニケーションを作っていける時代が来たということであり、「リアルな体験という面があるアウトドアというメディアだからこそできることがあり、デジタルと融合して消費者とともに作っていくことで広告の未来を示すことができるという気概が、アウトドア部門の全審査員にあった」という。
最後に細川氏は、「アウトドアとソーシャルの組み合わせで、我々コミュニケーションに携わる人間は、もっとすごいことができるのではないか」と訴える。「物を売ったり、ブランドの価値を高めたりするだけでなく、もっともっと社会や人々に影響を与えることができるはず。そのためには消費者の力が必要だし、彼らを一緒に舞台を作っていくactorとしてリスペクトし演出のアイデアを出していかなければならない。それが、これからのコミュニケーションになるのではないかと今年のカンヌライオンズで強く感じた」と細川氏は話し、アウトドア部門の解説をまとめた。