Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2011年10月25日開催 Web広告研究会セミナーレポート カンヌ国際「クリエイティビティ」祭から見えてくる新しいコミュニケーションの潮流(1) イベント報告

  • 掲載日:2011年11月30日(水)

【2011年度 第6回月例セミナーレポート 第一部】

カンヌ国際「クリエイティビティ」際から見えてくる新しいコミュニケーションの潮流

2011年度第6回となるWeb広告研究会の10月月例セミナーでは、20116月に開催された「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル2011」(以下、カンヌライオンズ)の分析とレポートが昨年の月例セミナーと同様に行われた。第一部では、カンヌライオンズのウォッチ歴15年以上でセミナーにも積極的に出席している株式会社葵プロモーションの北村久美子氏による全体の報告が行われ、第二部ではサイバー部門の審査員を務めたPARTYの中村洋基氏と、アウトドア部門の審査員を務めた株式会社ドリルの細川直哉氏が、それぞれの部門についての解説を行った。

ソリューションからソーシャルの時代へシフトした2011

株式会社葵プロモーション
上席執行役員
チーフ・ビジョナリー・オフィサー
第二プロダクションディビジョン
副本部長
北村久美子氏

1954年から開催され、2011年で58回目を数えるカンヌライオンズは「広告祭」という名称から「広告」(Advertising)が取れ、「クリエイティビティ・フェスティバル」として、13部門のコンペティション、57のセミナー、20のワークショップが行われている。

今年の応募数は28,828作品と過去最高で、参加者数も約9,500人と歴代2位の大規模なものとなったカンヌライオンズ。全体の印象を北村氏は「アジアの出品が非常に増え、南米やロシア、中東の出品も増えている。グランプリの分布としては、本来は欧州で始まったアワードなので、当初欧州の受賞が多かったが、ここ数年は半数が米国、1/4が欧州、1/4がアジア・オセアニアというようになっている」と話す。今年は、中国や韓国がグランプリを獲り、欧州のなかでも東欧のルーマニアが受賞するなどの変化があったことも明かしている。

今年から新たに「クリエイティブ・エフェクティブネス」部門が追加されて13部門になったカンヌライオンズだが、「13部門もあって何が違うのかと聞かれるが、どの部門でもデジタルやソーシャルメディアを使ったメディアニュートラルなキャンペーンが多く、部門間の境がなくなったと思う。あえて部門の違いを示すなら、審査する人のプロフェッショナリズムが大きく違う」と北村氏は話す。たとえば、サイバー部門の審査委員長は米国デジタルエージェンシーのR/GA社のニック・ロウ氏が務め、審査員もデジタル・エージェンシーの面々が務めているというのだ。同様に、PR部門の審査員は、PR会社の社長やCEOが、また、メディア部門の審査員は、メディア会社の社長やCEOが務めている。

 1954年から1992年まで1つの部門しかなかったカンヌライオンズは、1992年からアウトドア&プレス部門が創設され、1998年にサイバー部門が創設されてからは次々と部門が創設されるようになった」と歴史を振り返る北村氏は、1998年から2003年を「Ideaの時代」、2004年から2010年をアイデアだけでなく問題を解決できる「Solutionの時代」と位置づけ、2011年からは次のフェーズに入っていることを示し「一言で言えばSocialの時代で、世の中のためになる広告を作る時代になってきている」と話す。

また、優れた広告やコミュニケーションを生み出している広告主を表彰する「Advertiser of the Year」にも触れ、今年受賞したIKEAは、ローカルで各々異なるエージェンシーと付き合いながら、グローバルをターゲットにし、統制のとれたディレクションで世界中にIKEAというブランドを知らしめた点が高く評価されているという。IKEAは、1991年に初めて入賞して以来、50以上のライオンを受賞しており、「小さな家具企業が世界に出て行くためには、クリエイティビティやコミュニケーションがいかに大事かを示す受賞だったと思う」と北村氏は感想を述べた。


11
のキーワードから探る2011年のカンヌライオンズ

続いて北村氏は、2011年のカンヌライオンズを11のキーワードで分析した。
キーワードのセレクトにあたっては、DirectoryのPatrick Collisterはじめ、国内外のメディアや知見者の間で既に発表されている今年のカンヌ分析も参考にしているという。

1つ目のキーワードは「META IDEA」で、「カンヌはこれまで成果の発表の場とされてきたが、現在はMETA IDEAの場であることを実感し、この場所で刺激しあい、話をして、次に何をするかを考えている」と北村氏は話す。その一例として、Facebook副社長のキャロリン・エバーソン氏の「Social by Design」というセミナーを紹介。同セミナーでは、Sharing、Connecting、Motivating、Community BuildingなどがFacebookのフォーマットによって可能になったことが示され、数々のFacebook上での成功事例が示されたという。また、Facebookの新たなサービスである「Sponsored Stories」や「Facebook-studio.com」についても説明が行われた。特に、このサービスの開始で、Facebookのオンライン収入が18億ドルから40億ドルにまで増加するのではないかと予想されている「Sponsored Stories」では、Starbucksの事例が。また、「Facebook-studio.com」では、American ExpressのSmall Business Saturdayの事例などが紹介された。

さらに、Kraft Foodsのセミナーで作家のマルコム・グラッドウェル氏が話した「テクノロジーの競争では、なぜ3番手の人が1番となるのだろうか?」という言葉を紹介し、ソーシャルメディアにおける、Friendster, My Space, Facebookの事例。また、Appleが開発した画期的なポインティング・デバイスの「マウス」の事例などが紹介された。「最初に思いつかなかったからといってあきらめずに、テクノロジーの世界では辛抱強くビジネスになるようにやっていくことが重要」と北村氏は説明した。

2つ目のキーワードは「NEW SCOPE 新しい領域へ!」というもので、「誰もが自分の領域以上のさまざまなことをやってみたいと考える世の中だと思う」と話す北村氏は、57のセミナーのなかでも人気の高い「The Cannes Debate」セミナーを紹介する。WPP社のマーチン・ソレル会長をモデレーターにし、News Corporation社のジェームス・マードック氏とDreamWorks社 のジェフリー・カッツェンバーグ氏をスピーカーに招いた同セミナーでは、彼らが考える新しい領域や膨らませたい新ビジネスについての討論が行われた。その なかでは、「タブレットがおそらく最もパワフルでインパクトのあるデバイスになるだろう」という話が出ており、教育産業への進出にも注目していたという。 さらに北村氏は、サイバー部門でゴールドを獲得したVIV MagazineiPad用のモーション広告を紹介。大きなエージェントがこの広告を手がけたのではなく、1人のアレックス・ヘンリー氏というフォトグラファーが制作したことを明かしている。

3つ目のキーワードは「TECHNOLOGY」で、「エンゲージメントしていくための革新的なツールとして、技術はどう進化したのか」という話題に移っていく。その一例として、iPhoneアプリやFacebookアプリとして展開された「HEINEKEN STARPLAYER」や、iPhoneアプリでスノーボードを教える「Nokia x Burton: Push Snowboarding」などが紹介された。これらについて北村氏は、「消費者が興味を持っていることと、商品とを結び付けるために技術をどう活かしていくのか、というのが今年の大きなテーマとなっていたと思う」と感想を述べた。

4つ目のキーワードは「CO-CREATION」。典型的な例としてFoot Lockerの「Sneakerpedia」を挙げ、スニーカー好きが集まる一大プラットフォームとなったことを北村氏は示している。また、セミナーにおける例として、ブラジルのフィアット社が紹介した「Fiat Mio」プロジェクトも紹介。消費者が望む「理想の未来の車」を作るというプロジェクトで、消費者の要望を、Facebookなどを使って収集。ファクトリー・ブログやFacebookを使って、完全にプロセスを可視化した状態で、消費者と自動車会社とが一体となって、オープン・ソースで新しい車が開発された事例を紹介した。

5つ目のキーワードは「NEW EXPERIENCE」で、テクノロジーの進化が従来ある概念を超えてしまった事例が紹介される。Googleの新しいブラウザGoogle Chromeのプロモーションとして開発された、Arcade Fireのミュージック・ビデオ「The Wilderness Downtown」は、単なるミュージック・ビデオではなく、Chromeの技術によって、「自分事化ミュージック・ビデオ」という全く新しい体験 のジャンルを確立している。自分の住所を入力することで、Google EarthとGoogle Street Viewの映像が立ち上がり、自分だけのミュージック・ビデオが再生される。オリジナルの歌詞と連動して、あたかも自分の家に帰っていくような映像となるという。また、ブランドとミュージックビデオの新しいコラボレーションとして、ベッドのプロモーションとして作られた6つの映像が、そのまま音楽のプロモーションビデオにもなった、「IKEA Lullabies」なども紹介された。6つのそれぞれ異なるベッドを使って、6人のアーティストが別々の子守唄を歌い、6つのプロモーションビデオが作成された。さらに、ミュージシャンで実業家としても有名なファレル・ウィリアムス氏が「Digitas & Vevo」セミナーで「これからは、CDセールスに注力して本質的なことが見えていないレーベルではなく、ブランドと組んでいきたい」と話したことも紹介された。


今年のカンヌライオンズはGoogle
イヤーと言ってもよい

6つ目のキーワードは「NATIONALISM」で、北村氏は「今年は国を動かすようなキャンペーンがあった」と説明。一例としてまず、ルーマニアのチョコレート「ROM」が長年ルーマニア国旗をパッケージにしていたのをアメリカ国旗のパッケージに変更したところ、愛国精神を逆なでして注目を浴び、売上アップにつながったキャンペーン「American Rom」を紹介した。また、5つのメディアと6つのクライアントが一緒になってストライキをやめて働くことを喚起したチュニジアのキャンペーン「June 16th 2014」を紹介。中東圏の発展「アラブの春」の一例として、エジプトのElephant Cairoというエージェンシーを紹介し、「中東に進出したい企業は、“Dubai Lynx”という中東・アフリカ地域の広告祭が毎年3月にあるので注目してほしい」と北村氏は話した。

7つ目のキーワードは「REAL LIFEREAL TIME」。「経済が落ち込んでいるなかで、面白いプロモーションばかりやっていられないというムードも2011年のカンヌライオンズにはあった」と話す北村氏は、メディアニュートラルなキャンペーンで、パイオニア精神をもう一度応援しようという「Levi's TO WORK」を紹介。また、エミネムが出演したクライスラーの「BORN OF FIRE」は、単なるタレント広告ではなく、デトロイト出身のエミネムが「デトロイトはまだ死んでいない」と応援する広告で、不況であることを実感したリアルライフの広告が多く見受けられたという。また、リアルタイムな広告として気温が下がるとビールが安価になるバドワイザーの「Bud Ice Cold Index」や、ツイート数によって商品が値下げとなるユニクロの「LUCKY COUNTER」なども紹介された。

8つ目のキーワードは「CONNECTED EXPERIENCE」で、北村氏は「ネットワーク化された消費者」テーマにしたセミナーが非常に多かった」と説明する。なかでもコカ・コーラの「Liquid and Linked Mystique」セミナーは非常に人気で、「消費者自身が発信者となってブランドに関して、会話やコンテンツを広めて行く「リキッド」な世の中においては、「リンクド(つなげていくこと)」に関して、マスメディアのみならず、インターネットやソーシャルメディアを組み合わせた、個別の深い知識が必要になる。」と述べられたという。また、カンヌで初めて開催されたTEDセミナーでは、「The Meaning of the Connected Experience」というタイトルで、アンプラグドとプラグドの状態では、人々の行動や気持ちが大きく違うという考察がなされていた。

9つ目のキーワードは「NEW LEADERSHIP」で、実業家のマーサ・スチュワート氏のセミナー「Beyond Mad Men: Toward Gender Balance in Creative Roles」でこれからの時代のリーダーシップについて話し合われたことを紹介。なかでも北村氏は、パネリストとして参加したジョンソン&ジョンソン社の副社長キンバリー・カドレツ氏が「これからは、ヒエラルキーの構造のなかでリーダーシップを取るだけでなく、マルチにネットワーク化された社会のなかでさまざまな人たちとボーダレスにいつでも話せることが重要で、これができなければリーダーシップを取れない」と話したことが印象的だったという。北村氏は、「理想的なリーダー像」のスライドを示しながら、「現在は、経営者に案を持って行って、経営者が決裁してくれないとモノが動かないとあきらめがちな部分がある。しかし、こういったボーダーレスなリーダーが増えていけば、物事のスピードが速くなるのではないか。ソーシャルグラフという言葉がもてはやされているが、1人の人間でもさまざまな世界とつながっていることを念頭に置いて、ネットワークを使って話ができている人がリーダーシップを取れるのだと強く感じた」と話している。


北村氏が示した理想的なリーダー像

また、IKEAの「HOMEMADE IS BEST」というオーブンのキャンペーンは、スマートフォンアプリを使って「健康的でおいしいものを食べながら運動をしていこう」と応援しているものだ。北村氏は、「これまでは、料理をする女性とスポーツ好きの女性は別のカテゴリに分けられていたが、前述のリーダーシップの話と同様に、さまざまな人とボーダーレスに接するなかで磨かれた、マーケティングのセンスがあってこそ実現できたすばらしい事例だと思う」と評している。

10個目のキーワードは「PRO BONO」。この言葉は、各分野の専門家が職業上持っている知識やスキル、経験を活力として社会貢献するボランティア活動のことを指すが、その一番の例として北村氏は、公共広告グランプリを獲得したオーストラリアの障害者支援NPO団体の「See The Person」を紹介した。暗がりのなかにあるステージが次第に明るくなってくると、すばらしい演奏をしているミュージシャンが障害者であることが徐々に明らかになるというもので、レディオヘッドが無償で楽曲を提供し、Tov Bellingがビデオの演出をし、ミュージックビデオとしてもクオリティの高いものとなっている。これについて北村氏は、「何もかもが無料ではビジネスにはならないと思うが、ジャンルによっては人の気持ちを動かして共感を得ることができる、それを示唆する良い例だと思う」と話している。

また、スウェーデンの家電メーカーElectrolux社の「VAC FROM THE SEA」は、不法投棄の現状とリサイクルの大切さを訴えたキャンペーンで、海に流れたゴミを集めて掃除機にしようというプロジェクトが行われている。社長、デザイナー、営業など全社一丸となったプロジェクトで、1億7,500万人ととエンゲージでき、社会貢献できただけでなく、売上も300%アップ、グリーン・レンジ・レベニューの一部はプラスチックの研究団体に寄付されたという。北村氏は、「プロジェクトのスタートが、モノを売らんがなではなく、何か世の中のためになろうという精神が実を結んだ良い例だと思う」と説明している。

最後の11個目のキーワードを「GOOGLE」とした北村氏は、「今年のカンヌライオンズは、Googleイヤーだと言ってもよく、受賞作もメディアマン・オブ・ザ・イヤーも、セミナー内容もGoogleのものが多かった」と話す。また、R/GAのセミナー「What's Next」を紹介し、Googleのビジネスのインテグレーションのように、商品を単に売るだけでなく、商品とサービス、商品とコミュニケーションというように「商品」と「サービス」とをテレコ状態で同心円状に開発していくことが、Googleのビジネスを継続的に進化させている鍵になっていると説明。(同心円の中で、Google,、Gmail、Google Maps、Google Blogger、YouTube、Google Docs、Android、Google Walletなどが展開。)又、アップルやアマゾンも同じビジネスモデルを持っていることを示した。

さらに、Google Chromeのプロモーションにおいても、プロが制作した「CHROME FAST」や「CHROME FASTBALL」のような高品質な広告もあれば、音楽やアーティストとコラボレーションした前述の「The Wilderness Downtown」のようなプロモーション、消費者とコラボレーションした「DEMO SLAM」などがあり、これらがすべてあることでサービスを広めていけるということを説明し、第一部の講演を終了した。

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