Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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第一回東北セミナーレポート(4)「共感!ソーシャルを巻き込むバスキュールの先進クリエイティブ」 イベント報告

  • 掲載日:2011年12月19日(月)

ソーシャルでユーザーを巻き込み共感を得る
バスキュールの最先端事例を公開


仙台セミナー最後の第四部講演は、株式会社バスキュールの田中謙一郎氏と馬場鑑平氏による、「共感!ソーシャルを巻き込むバスキュールの先進クリエイティブ」だ。同社が取り組んだ、先進的なソーシャルメディアを活用したクリエイティブの事例が紹介された。


友人とのつながりの中で共感を生み
通常の5倍の売上も果たしたNIKEiD FRIEND STUDIO


始めに「ソーシャルを活用して実際に成功した事例を2つ紹介したい。ソーシャルの企画が具体的にどのようなプロセスで組み立てられ、どのような結果が生まれたのかを伝えたい」と話す田中氏は、1つ目の事例としてバスキュール号として手がけた「NIKEiD FRIEND STUDIO」を紹介した。

株式会社バスキュール 田中 謙一郎氏
株式会社バスキュール
田中 謙一郎氏

「NIKEiD FRIEND STUDIO」の最大のミッションは、NIKE製品のオーダーメイドサービス「NIKEiD」をmixiのなかで広げるために、ターゲットとなる10~20代の多くが利用しているソーシャルメディアのなかで多くの人がNIKEiDを体験し、カスタマイズを楽しんでもらいたいということだった。また、若年層へのNIKEiDの認知理解の向上をブランドメッセージがブレない形で実現することもミッションの1つとなる。

さらに、「バスキュール号とミクシィとしては、本格的なソーシャルバナーの成功事例を作ることもミッションとなっていた」と田中氏は話す。このプロジェクトに対しては、何を大切にしないといけないのか、誰に何を伝えたいのかをまず考えたという。「ソーシャルバナーの存在意義を考えれば、一部の人にしか興味を持ってもらえないものにしてはならず、これまでの広告では振り向いてもらえなかった多くの人々に体験してもらえるものを作ることが重要だと考えた」と田中氏は話を続ける。

アプローチとしては、多くのカスタマイズができるNIKEiDをそのままソーシャルに持ってくるのではなく、誰でも簡単にカスタマイズできるように簡易版にすることにした。また、mixiで友人とシェアしたくなるように、バナーのデザインもブランドの世界観を保ち、通常のNIKEで利用されるシンプルなバナーのなかに友人の名前のアニメーションが登場するようにしたという。


「NIKEiD FRIEND STUDIO」。カスタマイズしたシューズがソーシャルバナーとして友人のmixiマイページに表示される

「NIKEiD FRIEND STUDIO」では、3週間で213万ユニークユーザーがキャンペーンに参加し、通常のバナーと比較してソーシャルバナーのCTRはPCで11倍、モバイルで16倍となった。またキャンペーン参加者の8割が友人のバナーなどから流入し、91万6,000足のシューズが作られたという。キャンペーン期間中に生成されたソーシャルバナーは50万パターン以上に上る。

このキャンペーンが成功した理由の1つは、見る人のソーシャルグラフに対応してそれぞれ異なる内容の広告を配信できる仕組みを作ることによって、「自分の友達が広告に出ている!」と驚いてもらえたことだと田中氏は説明する。それに加えて、NIKEのブランド力があることで、安心してソーシャル上で話題にできたことも要因の1つだ。ソーシャルのキャンペーン企画においては、「人とつながっていたい、人に認められたい、かまってほしいという気持ちをみんな持っていてソーシャルを使っているのだから、その感情にうまく入り込んでいくことが大事」と田中氏は話す。

また、キャンペーンの画面から「今すぐほしい人はこちら」というリンクを付けることで、デザインを引き継いでそのままNIKEiDで購入できる仕組みを作り、自分で購入するだけでなく、友達へのプレゼントとして購入できるようにした結果、キャンペーン期間中の対象商品の売上は5倍になり、これは世界でもトップレベルのキャンペーン成果だったという。田中氏は、「結果的にソーシャルバナーの成功事例だけでなく、ソーシャルコマースの成功事例にもなったことが驚きだった。ソーシャルへの期待値も上がり、実際に物が売れるところまでいけたことは自分たちの自信にもなっている。今後もこのような挑戦を続けたいと思う」と田中氏は話し、「NIKEiD FRIEND STUDIO」の説明を終えた。



夢の実現を追い求めてチームが一丸で成功させた
GALAXY S II Space Balloon Project

株式会社バスキュール 馬場 鑑平 氏
株式会社バスキュール
馬場 鑑平氏

続いて、馬場氏がバスキュールとして手がけ、2011年7月15日~17日に行われた「Space Balloon Project」の説明を始める。サムスン電子のスマートフォン「GALAXY S II」の発売キャンペーンとして行われた同プロジェクトは、サムスン電子が日本市場で「GALAXY」というブランドを押し出していきたいという目的があった。そこで考えられたゴールは、評判を得ているスペックの高さを押し出すのではなく、スペックだけでスマートフォンを選択しない人たちにもリーチさせ、GALAXYというブランドのファンになってもらうことだった。また、世界のトップブランドにふさわしい、世界レベルのブランディング施策を行う必要があることも感じたという。

そのためには、GALAXYをリスペクトできて、持っていることが誇らしく思えるようにする必要がある。また、リスペクトを掘り下げて、誰も到達していない先進的なテクノロジーやまったく新しいコミュニケーションのあり方に対して頑張ってチャレンジし続けているブランドというコンセプトを作り、「BEYOND POSSIBILITY」というメッセージを打ち立てている。

「デジタルメディアを利用してこのような施策を行うのであれば、一方的にかっこいいCMを流すだけでなく、ユーザー自身が体験できるようなものをソーシャルならできるのではないかと考えた」と馬場氏は話す。“ユーザーと一緒にチャレンジし続けるブランド”というイメージで「みんなの声を、宇宙へ。」というアイデアが生まれたという。きっかけは、「GALAXYなら宇宙」という、実に単純なものだった。


「Space Balloon Project」はGALAXY S IIを宇宙へ飛ばし、リアルタイム中継する壮大なプロジェクト

では、これが本当にできるのか、というのが次の課題となる。最初はバルーンを打ち上げればよいと単純に考えていたものが、具体的に考えると法律的な問題や地理的な問題からネバダ砂漠まで行く必要があり、衛星中継車の用意や無線のシステムの構築などの課題も出てきたのだ。理論的にはこれらの課題をつぶしていけば実現可能となるが、さまざまなデバイスが絡み合うため、実際にバルーンを飛ばして検証する必要がある。しかし、検証には大きなコストがかかるため、プロジェクトにGOサインがでないと最終的なフィージビリティ(実現可能性)は判断できないということになった。

プロジェクトでは、クライアントであるサムスンや広告代理店との間で「それだけのリスクを犯す価値があるのか」ということが問題となったが、馬場氏は「僕らは絶対にこれをやりたいと思っていた」と話す。もちろん、単純に面白そうだからという思いはあったが、「企画した我々が成功したらすばらしいものになるとドキドキしているということは、絶対にユーザーも同じ想いを持ってくれるという確信があった」と、馬場氏は当時の思いを語る。それは、GALAXYにとって絶対にやる価値のあるプロジェクトとなるはずだと伝え、多くのリスクに対してはすべての回避策を用意して、絶対に成功させると話して関係者を説得していったという。

走り出したら止めることのできないプロジェクトになったことによって、結果的にクライアント、広告代理店、プロダクションの3者は運命共同体となったという馬場氏は「多くの人がさまざまな物を背負って、お互いを信頼しながらしっかりとアウトプットまで行え、これまでに体験したことのないプロジェクトとなった」と振り返る。


ソーシャルで作るべきものは
人と人とを共感で結び付ける装置

多くの課題を乗り越えながら実現へと至った「Space Balloon Project」。ライブイベントは期間が短いため、それまでの盛り上がりを高めるために2011年6月23日からイベント前日の7月14日までティザーサイトを開設。当日に自分のメッセージが表示されるかどうかユーザーに期待してもらうために、メッセージの募集も行った。また、SNSと相性が良い7組のアーティストに書き下ろしの曲を提供してもらい、彼ら自身もプロジェクトメンバーとして自らのアカウントでイベントについて語ってもらうことを目指したという。

プロジェクト公式Twitterアカウントを開設し、プロジェクトの進行状況をアナウンスしていったものの、当初はフォロー数が伸びなかったことも明かされた。そこで急遽バルーン上でGALAXYを持つ「宇宙飛行士くん」がツイートし、星占いも行うというフレンドリーなキャラ設定を設けたところ、宇宙飛行士くんがプロジェクトの顔となることで応援される対象が明確となり、フォロー数は順調に伸びていったという。宇宙飛行士くんは、プロジェクト後にノベルティグッズとして充電スタンドになるほどの人気だ。

また、実際のところ、ティザー期にはメッセージが予想以上に集まらなかったという。「できるだけ本番で何が起こるかを想像しやすくしたつもりだったが、中身が誰もわからない初めての試みのイベントの場合、ユーザーの期待を募らせるのは難しい」と馬場氏は話す。打ち上げ1週間前には、手ごたえを感じる数のメッセージ投稿が行われるようになったが、それまではサイト構成を調整し続けていたという。

当日は、準備の段階から映像をライブ配信し始め、スタッフの視点で見ることができるようにして臨場感を高めている。また、3日間の打ち上げのなかで細かな変更も行い、宇宙飛行士くんがしゃべるような形で吹き出しを作って表示させることで、観る人が応援する対象が誰なのか、何に注目すればよいのかを明確にしていった。

同様に、プロジェクト側は「美しい映像をユーザーに届ける」というのが至上命題だったが、Twitterを見ているとユーザーの関心事は「バルーンが3万メートルまでいけるか」にあることに2日目の終わりに気づいたと馬場氏は言う。そのため、3日目は3万メートルへのチャレンジに文脈を変えてユーザーに語りかけるようにしている。


ユーザーの声を受け、プロジェクトは3万メートルへのチャレンジへ

さらに、最終日の最後のバルーンは、計器の異常で実際に3万メートルまで上ったかわからない状態でチャレンジが終了してしまったため、馬場氏を含むプロジェクトの面々はこのままでは終われない状態だったという。「すでに5時間近く中継を続け、日本時間で深夜になっていたため、ユーザーがついてきてくれるかがわからなかった。そこで、ユーザーに『もう一度だけ3万メートルにチャレンジさせてくれないか』とお願いしたところ、それからのツイート数は前2日間をはるかに超えるものになった」と馬場氏は話す。その結果、3日間に約7万7,800件のツイートが寄せられた。また、Ustreamのユニーク視聴者数は3日間で38万人以上になっている。

本番中のユーザーとのコミュニケーションが予想以上に深く、強かったと感じたプロジェクトチームは、このコンテンツはユーザーと一緒に作り上げたものと思うようになったという。その結果、当初の設計では美しいHD映像だけをアーカイブとして残す予定だったが、Space Balloon Projectのサイトにすべてのアーカイブを残し、映像と同期してすべてのツイートが表示されるようにしている。

「素朴なアイデアをこれだけ突き詰められたことは、作り手として本当にうれしいことだったと思う。最終的に、“この星の想いをつなぐ”というコピーができ生まれ、この言葉が違和感のないところまでいけたことが本当にうれしい」と馬場氏はプロジェクトの感想をまとめている。

馬場氏は、この2つのプロジェクトを通じて、“ソーシャルで作るべきもの”は“人と人とを共感で結び付ける装置”だと説明する。その共感は2つあり、1つ目はすでに確立されているリアルグラフ上の仲間同士で共感できる「mixi Xmas」や「NIKEiD FRIEND STUDIO」のような装置。2つ目は誰もが共感できる「Space Balloon Project」のような大きな乗り物や物語だ。「我々はこの2つの分野でまだまだやれることが数多くあると感じている。今後も、これらに挑戦していきたい」と馬場氏は話し、ソーシャルでの先進的な成功事例の紹介を終えた。


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