Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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2011年11月22日開催 Web広告研究会セミナーレポート 「第三者配信で見えるビュースルーデータが広告プランニングを変える 最先端のアドテクノロジーで広告主、代理店、媒体社は何を得られるのか」(1) イベント報告

  • 掲載日:2011年12月19日(月)

【2011年度 第7回月例セミナーレポート(1)】

第三者配信で見えるビュースルーデータが広告プランニングを変える
最先端のアドテクノロジーで広告主、代理店、媒体社は何を得られるのか


Web広告研究会2011年度11月月例セミナーのテーマは「アドテクノロジー」。第三者配信などの新たなテクノロジー導入が注目されているなか、米国の現状や日本の現状を把握し、第三者配信を使った最新の事例が紹介されるなど、Web広告の将来を考えるためのセミナーが行われた。第一部では「最新アドテクノロジーの紹介」をFringe81の田中弦氏と花王株式会社の本間充氏が、第二部では「広告主から見たアドテクノロジー」を日本電気株式会社の朝火英樹氏と楽天株式会社の友澤大輔氏が担当し、国内ではまだ手探り状態の第三者配信を中心にアドテクノロジーの今後について説明が行われた。

第三者配信によって、すべてが通信でつながることの意味


第一部では、第三者配信アドサーバーを開発するFringe81の田中氏が最新のアドテクノロジーについて紹介し、広告主の立場から花王の本間氏が質問するという形でセミナーが行われた。

 
Fringe81
代表取締役
田中 弦氏

まず田中氏は、「ここ1年で急激に進化してきたアドテクノロジーが、日本の広告主にどのような影響を与えるかについて話すことが本日のテーマの1つ」と説明し、「本日のテーマである第三者配信アドサーバーが本格化することで、どんな指標が手に入れられ、どのように活用できるかについてもお話したい」と語る。そのうえで田中氏は、今回のセミナーの結論として、以下の2つの点がアドテクノロジーの進化によってもたらされるようになってきたと明かす。

・ディスプレイ広告から発生した検索キーワード計測により、消費者の態度変容がわかるようになる
・アトリビューションの考え方を取り入れることにより、今までの接触手段ごと(媒体ごとの評価)から、複数の接触手段の組み合わせによる評価に変わる。

 
花王株式会社
Web作成部
Web技術Group Leader
本間 充氏

現状のインターネット広告配信では、広告主や広告代理店は媒体社ごとにメールで入稿を行うのが一般的だ。広告の効果測定はバナーなどがクリックされ、通信が発生した時点ではじめて可能になり、誰にどう見せたかのコントロールは媒体社が行うもので、広告主はコントロールできなかった。こうした状況について本間氏は、「これは旧来からの雑誌やテレビCMの入稿方式と変わりがなく、チェックなどの作業を代理店に任せることになるため、広告主と代理店との間で伝達面のトラブルも発生しやすい」と話す。また、田中氏は「媒体社がオペレーションを引き受けるケースが多いとも言える」と述べた。

 
現状のインターネット広告配信では、広告主はクリック後のユーザー行動しか効果測定できない。

一方、2011年に入り第三者配信を利用するようになったことで、今後のモデルは次のような図になる。

 
広告配信のすべてが通信でつながる時代へ

このモデルの大きな特徴は、すべてのデータがつながるようになったことだ。まず、Googleなども始めているオンライン広告枠取引システム「アドエクスチェンジ」によって、「アドネットワーク」が通信でつながるようになっている。さらに、アドエクスチェンジの情報を「DSP(Demand Side Platform ※1)」で活用することができ、DSPのオーディエンスデータなどを第三者配信アドサーバーと連携させて、誰にどんな広告を見せるかというコントロールを広告主側が行えるようになる。
※1 DSPとは、複数のアドエクスチェンジに対して入札やキャンペーン管理を行えるプラットフォーム。広告主側で広告在庫の買い付け、広告配信、オーディエンスのターゲティングなどを一括で行う。媒体社側のシステムはSSP(Supply Side Platform)と呼ばれる。

第三者配信を利用する場合、広告主は第三者配信サーバーへと広告を入稿し、第三者配信を通じて媒体社の純広告やアドネットワーク、DSPなどに一括して配信する。これまでは媒体社を通じて広告配信を行っていたが、第三者配信が一括して広告を管理することで、広告配信された時点でCookieを付与してユーザー(ブラウザ)を識別できるようになる。そのため、広告にユーザーがどのように触れたかを可視化することが可能になるというわけだ。

 
広告主は第三者配信を通じて広告を一括配信でき、広告クリック以外のユーザー行動の効果測定が可能になる

田中氏は、「第三者配信では、リアルタイムにオペレーションを行い、データを取ることが可能になる。その反面、従来は媒体社が行っていた作業を広告主または代理店が行わなければならないため、そのあたりのバランスも考えることが重要。理想の道具とか、魔法の道具というわけではない」と注意を促す。それに対して本間氏も「労力と効果を天秤にかけないと、労力をかけすぎて効果があまり出ないという可能性も出てくる」と話し、田中氏も「中途半端にテスト導入するのではなく、導入するならしっかりとした効果がでるように本格的に取り組む必要がある」と答えている。

国内において第三者配信エンジンを提供しているのは、Fringe81の「iogous*mark」、mediamindの「mediamind」、Googleの「DoubleClick for Advertisers」の3つが代表的なものとなる。田中氏は、「世界的には35社くらいが第三者配信エンジンを提供しており、アジア・太平洋地域では7社くらいではないか。今後、提供者は増えてくることが予測される」と話す。

データを細かく分析することで
ディスプレイ広告のあり方が大きく変わる


続いて田中氏は、これまでの消費者行動プロセスとブランド認知について、例を交えながら話を進める。たとえば、SNSでディスプレイ広告を、クチコミサイトでタイアップ広告(記事広告)を展開している場合は、ディスプレイ広告とタイアップ広告の代理店レポートは個々に出され、検索の計測も別データとなる。消費者はAISASのように“横に動きながら態度変容やブランド認知を進めている”のに対し、広告主はプロセスごとの“縦のデータ”しか取得できない。つまり、特定のユーザーがSNSのディスプレイ広告でAttention(注目)し、クチコミサイトでInterest(興味)が引き出され、Search(検索)で広告主サイトに行き着いたという横の動き(メディアをまたがったユーザー行動)を確認することができないのだ。それぞれのプロセスでどのような行動が取られ、ブランド認知が行われていったかを推察する術がなかったのがこれまでの広告配信システムだと言える。

一方、第三者配信では前述で説明したように、ディスプレイ広告のバナー画像が配信された時点からブラウザを識別できる。タイアップ広告でもタグを配信でき、ユーザーが広告主サイトを訪問する前にどんな広告に接触していたのかを、広告主はアクセスログから特定できる。たとえば、クリックの発生しない、タイアップ広告を見た人だけの検索キーワードを調べるといったことが可能となる。第三者配信アドサーバーで一元的に広告配信が行われ、すべてのプロセスのデータが第三者配信アドサーバーに集約されるため、横の動きも解析できるようになるのだ。広告をクリックしたユーザーだけでなく、見たり触れたりしただけ(ビュースルー)のユーザー情報を取得できるのも第三者配信の大きな特徴だ。

次に田中氏は、Fringe81の第三者配信で実施した案件を事例として示した。バナークリック数5万に対し、検索誘導数はその6倍の30万であったという同案件では、5,000万のバナー表示があったことから、多くのユーザーのブランド認知をバナー広告によって高め、検索サイトからの誘導へとつなげられたと予測できる。これらの検索誘導のなかには、あいまいなキーワードで検索している場合や、ブランド名などの指名買いキーワードで検索してくる場合があるため、これらを分析することでバナーの認知効果を調べることも可能だ。

広告主としては、広告クリック経由で発生するコンバージョンだけを見るのではなく、ブランド認知を高めるようなコピーとなるようにバナーのクリエイティブを調整し、指名買いキーワードでの検索を増やすことが重要となってくる。「後で検索されるような印象や記憶に残るバナーを作ることも大切。これまでは自然検索と思われていたもののなかには、実はバナーが由来で検索が発生していることを第三者配信で確認できる」と田中氏は話す。

Fringe81では、第三者配信で1,000万ブラウザ、1,000コンバージョンのデータを使って経路分析を行っており、田中氏はその結果も公開した。1,000コンバージョンパスを次の図のように5つに分類すると、バナー広告を見たときにはクリックしなかったが、その後別ルートからコンバージョンしたCとDがともに40%程度と多く、Eが15%、バナー広告をクリックしたAとBは合計しても全体の4%にしかならなかったという。

 
第三者配信の経路分析で明らかになった5つのコンバージョンパス

従来のインターネット広告配信では、バナー広告クリックが発生するAやBの数値しか取得できなかった。しかし、実際にはバナーをクリックしなかったが、後になって検索してきたり、他の比較サイトやポータルなどを経由してコンバージョンに至ったケースが非常に多いため、これまではインプレッションや検索に対して別々に行ってきた施策を組み合わせて考える必要があると田中氏は指摘する。本間氏も「これまで我々はディスプレイ広告のCTRが低かったため、SEMなどにシフトしてきた。しかし、もう一度ディスプレイ広告を見直して、SEMなどと組み合わせて考える必要がある」と話す。

また、田中氏は第三者配信を使うことで、媒体評価が変わることも示した。これまではクリック数あたりの獲得単価としてCPAを計算し、CPAが高い媒体は低く評価されてきた。しかし、第三者配信によって前述のように検索や他のサイトを経由したアクセスがわかるようになると、広告クリックによるCPAだけでなく、すべてのアクセスを「態度変容ポイント」として加算し、それらも含めたトータルなCPA(TCPA)を算出できるようになる。これによって、今まで低く評価されていた媒体はブランド認知効果が強く、実は最もコンバージョンに貢献していた、ということがわかるようになるのだ。

 
第三者配信によって従来の媒体評価は完全に変わる

最高のゴールを生むための
アトリビューションによるチームビルディング


田中氏は、ディスプレイ広告のクリック、ビューからの検索、ビューから他サイトを経由したアクセスをまとめて特定の媒体からのアクセスとして合計して態度変容ポイントとしており、「態度変容は、クリックだけでなく複数の接触手段の最適なコンビネーションから生まれる」と説明する。ユーザーは、ディスプレイ広告を何度も見たり、何度も検索したり、比較サイトで検討しながらコンバージョンに至るため、複数手段のコンビネーションが必要となるのだ。

そのうえで田中氏は、アトリビューションをサッカーチームに例えて説明する。つまり、態度変容を巻き起こすにはチームビルディングを行う「監督」が必要で、パスを出せる「パサー」の媒体とゴール(結果)を出せる「クローザー」の媒体の最適な組み合わせを考え、最強のチームを作ることが理想となる。パサーの媒体ばかりを起用しても結果が出せず、クローザーの媒体ばかりでも効率が悪いと田中氏は言い、第三者配信でデータを取っていけば、媒体の役割を見極めることができ、役割分担と得意分野別にフォーメーションを組みなおすことができるという。

これには、リターゲティングやコンバージョンパスを分析し、状況や業種、競合の有無なども加味しながら戦略を立てていく必要がある。田中氏は、1回あたり数千万ブラウザ分のコンバージョンパスを自動分類することによって、パスごとのシェアがわかり、どの組み合わせを最適化すべきか(クリック、サーチ、他サイトのどれを重視するか)がわかると説明する。また、ブラウザ単位でコンバージョンに至る経過を把握できるので、顧客の生の行動がわかり、他にどんなサイトを経由しているのか、迷ったキーワードは何か、決め手のキーワードは何かということがわかるという。多くのデータが取れるため、検索やクリックできちんと類型化していくことが重要で、これらの分析をもとに施策の意志決定がしやすくなる。

さらに、ディスプレイ広告のクリエイティブについても、もう一度考え直す必要があると田中氏は話す。これまでは、クリックさせるためにさまざまな印象的なコピーを使ってきたが、前述のようにそれらのキーワードをもとに検索を行うユーザーも多いため、適切なキーワードを選ばないと、競合サイトへ送客してしまうことになりかねない。特に比較されやすい業種の場合は、どのキーワードで検索してほしいかを考え、想起サーチワードを計測し、リスティングやSEOで待ち受けることが重要となる。

発生するキーワードを知ることで、リスティング広告の最適化も行えると田中氏は続け、「これまで自然検索だと思っていたものの多くはバナーや他の広告由来である可能性が高く、これらをしっかり分析する必要がある。また、媒体やクリエイティブによってサーチパフォーマンスの最適化を行うには、やはりPDCAサイクルを作って継続的に改善を行う必要がある」と説明した。

 
ビュースルー時代のPDCAサイクルのつくりかた

最後に田中氏は、ビュースルー時代の広告配信について「アトリビューションマネジメントや広告効果測定には、第三者配信によって取れるようになったビューデータが何よりも重要だ。そのビューデータの80%には、まだまだ効果改善の余地があり、特にビュースルーサーチのコンバージョンに注目して、ユーザーの心の動きを知ることが大事だ」と話し、「Fringe81は手作りでやっていて、開発は早いのでぜひ問い合わせしてほしい」と、第一部の講演を終えた。
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