2011年11月22日開催 Web広告研究会セミナーレポート 「第三者配信で見えるビュースルーデータが広告プランニングを変える 最先端のアドテクノロジーで広告主、代理店、媒体社は何を得られるのか」(2) イベント報告
- 掲載日:2011年12月19日(月)
【2011年度 第7回月例セミナーレポート(2)】
アドテク日米事情と、実践者が語る第三者配信の効果と課題
続いて、第二部ではNECの朝火氏と楽天の友澤氏が「第三者配信」と大きく書かれたTシャツを着て登場。「我々は別に(第三者配信の導入を強いる)圧力団体ではありません」と友澤氏が話し、会場の笑いを集めた。
楽天株式会社
グローバルマーケティングオフィス
友澤 大輔氏
第二部の「広告主から見たアドテクノロジー」には、「Buzzに踊らされないために」というサブタイトルが付けられている。これについて友澤氏は、「第三者配信やDSPなどの言葉が出てきているが、その一部はBuzzとなっているため、どのように正確に理解するかを話したい。また、11月6日から開催されたad:tech New York 2011の話や日本との状況の違い、広告主のマーケティングの成熟度によって最適なテクノロジーが異なるといった話もしていきたい」と話し、まず友澤氏から第三者配信を中心としたアドテクノロジーの現状についてのプレゼンが発表される。
最初に「Gartner Hype Cycle」と「Rogers Technology Adoption Curve」を重ね合わせて示した友澤氏は、テクノロジーは、過度な期待が盛り上がった後、ネガティブな話でいったん急速に衰退し、その後成熟を迎える傾向があることを説明する。次の図は、米国において、どのようなアドテクノロジーがBuzzとなって期待されているのか、また成熟期に入っているアドテクノロジーは何かを示したものだ。
米国では第三者配信は成熟期に入っている
友澤氏は、米国ではDSPなどは成熟期に入りかけており、第三者配信に関しても10年以上前から行われており、第三者配信を使うことはもう当たり前のこととなっていると、日米では状況が異なることを説明する。また、「ビッグデータやO2O(オンライン・ツー・オフライン)関連、ゲーミングなどといった技術は非常に話題になっているため日本にも情報が入ってくるが、米国でも過度の期待と言われている技術であるので、冷静に捉える必要がある。しかし、これらの新しい技術を先に押えられれば先行利得となるのも事実。米国でも広告主がいかに新しいアドテクノロジーを使ってコミュニケーションしていくかが話題となっている」と話す。
ad:tech New Yorkに参加した友澤氏は、米国のアドテクノロジーは技術基盤が整い、成熟期に入っていると話す。米国でオーディエンスターゲティングやDSPは、1~2週間で始められるスピード感があるが、日本では交渉や選定などを行う必要があるので1ヶ月でも短いというのだ。日本で技術基盤を整えるのが今後の課題で、米国では「Real(time、place、person)」「Consumer Relation」「Rich(contents、context、media)」の3つの「R」がキーワードとなっていることを友澤氏は示した。
そのなかで、「Real(time、place、person)」に関しては、次のようなテクノロジーが使われているという。
Realの3要素。米国では改善を前提としてキャンペーンが設計されるという
Consumer Relationに関しては、指標が進化しているという点が注目される。これまでのように、「Impression」「Click」「Lead」「Conversion」といった点(Purchase)で指標を取るのではなく、「Post」「Fun」「Share」「Repeat」といった面(Engagement)で指標を取ることが重要だと友澤氏は話す。
さらに、「Rich(contents、context、media)」に関しては、次のようなテクノロジーが使われていることを友澤氏は示している。
Richの3要素。日本ではあまり話題にならないHTML5なども含まれる
日本のアドテクノロジーは過渡期
第三者配信を使いこなすには広告主のレベルアップが必要
一方で、日本ではまだ第三者配信が注目され始めた段階で、友澤氏は個人的意見としながらも未だほとんどのアドテクノロジーが過度な期待に集中している状態だと言う。第三者配信は話題としては面白く、ベンチャーも参入しやすい状態だが、過度のピークにあるため、正しく使い、そのような広告主がどうやって使えばよいかを理解しなければ一気に衰退する危険性があるというのだ。そのためには、広告代理店がBuzzに振り回されることなく理解して、広告主に説明できるようにしなければならない。
日本のアドテクノロジーの多くは過渡期にある
デジタル広告技術は、「どの面に」「どのクリエイティブで」「誰に」という3つの組み合わせを最適化・細分化して最小のコストで最大の効果を生むことが目的となっている。しかし、事前に詳細に物事を決めてから始めるのではなく、いち早く始めて、すぐに改善できるような体制を技術でフォローするような形にすることが重要だ。そのほうがキャンペーンを開始してからの手間はかかるが、確実な効果が得られると友澤氏は言う。また、これまでは、何を効果指標とするのかを広告主がしっかりと決めていなかったことも問題だと指摘する。一方、第三者配信を利用すれば、従来にはない指標が取れるようになるため、細かな改善を行いながら、最適化することが可能だ。
アドテクノロジーを使うことで、細かな最適化が可能に
デジタル広告技術のあり方を次の図のようにReach×FrequencyとTargetのそれぞれで4つのレベルに区分した友澤氏は、各レベルが上がるほど企画の関与に広告主が関わっていかなければならないと説明する。また、それらのレベルに合わせたアドテクノロジーと手法を4つのステージに分類化した図も示した。
アドテクノロジーを使いこなすほど、広告主の関与度は上がっていく
最高レベルでは、広告主が経験に基づき独自の指標で最適化を行う
デジタル広告技術の発展によって、広告施策の可能性は大きく広がりつつあるが、過渡のピークとも言える現状では課題も多い。3~4年前から第三者配信に取り組んできた友澤氏は、第三者配信には「いい点」と「課題」があり、これを理解したうえで進めていく必要があると説明する。たとえば、自社で配信管理やターゲティングができるということは、今まで代理店や媒体社に任せていた配信設定や、ターゲティングに関わるプランニングを自社で行う必要がある。また、実施しながら改善できることはメリットでもあるが、複数のクリエイティブを制作するコスト、最適化を行えるかどうか、といったことも課題だ。
そもそも、どのような第三者配信を選択すればいいのかも課題の1つだ。特に、海外のものを選択する場合は、APIの説明やマニュアルが英語である場合が多いことも考えなくてはならない。
第三者配信を選ぶためのポイント
ここで友澤氏は、なぜ第三者配信が日本で進まないのか、という話題に移っていく。「現状では、広告主は1セッションの期間で評価してCPCやCPAで計測を行い、ボリュームを求めているが、媒体社は第三者配信でさまざまなデータと取るとサーチより効果が出ずに媒体価値が下がると考える傾向にある」と友澤氏は説明する。その結果、媒体社は第三者配信を利用せず、そのためデータが取れずに正しい評価ができない。広告主もバナー広告に合った指標がわからずに施策全体の評価ができなくなり、1セッションの期間で評価せざるを得ない、という悪循環が繰り返されているというのだ。
こうした悪循環を改善するためには、広告主が長期間で指標を見て、コストやコンバージョンではないポイントで計測することを覚悟する必要がある。そのうえで、友澤氏は広告主、代理店、媒体社の3者がどのような考え方で第三者配信を行えばよいかについて示した。
第三者配信を利用する際に、関係者が考えるべきこと
最後に友澤氏は、広告主が第三者配信にどう向き合えばよいかを説明する。まず、いきなりオーディエンスターゲティングやDSPなど、日本では環境が整っていない高度な技術を使うのではなく、自社のレベルや環境に合わせた導入やテストを行うことが重要だ。また、中長期的な視点でデジタル広告の指標を考えなおすことも必要だという。そのうえで、少ない予算でとりあえずやってみる、という考え方が必要で、先に始めるということで先行利得が得られ、ボリュームは出なくても改善によって効果が変わるため、改善や運用のノウハウがわかるという利点も得られると説明した。「このような新たなチャレンジをいち早く行ったのがNECなので、朝火さんに事例を紹介していただく」と話した友澤氏は、朝火氏にプレゼンをバトンタッチした。
いち早くスモールスタートで
第三者配信を試行したNECの事例
日本電気株式会社
CRM本部
戦略グループ マネージャー
朝火 英樹氏
NECでは、2011年11月10日から11日に東京国際フォーラムで開催したイベント「NEC C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2011」のプロモーションで第三者配信を導入した。「スモールスタートで始めることが我々のポリシー」と話す朝火氏は、第三者配信を利用するにあたり、広告枠の購入方法はなるべく変えずに、純広告の買い付けフローに第三者配信(メディアマインド)を組み込む形で、約1ヵ月間のプロモーション期間で試していことを説明した。
イベントには数万人が来場しており、集客プロモーション施策による事前登録は全体の約40%で、そのほとんどは自社メディアからの登録となっており、Web広告からの登録は1.4%に過ぎなかったと朝火氏は説明する。Web広告に対して、「自社媒体との重なりや自然流入などとの関連性を見極めて、今後の検討課題としたい」と考えたのが第三者配信を試してみた理由の1つだ。また、広告接触者の分析・可視化や、リアルタイムのA/Bテストを行い、媒体横断での掲載管理を行うことも第三者配信の試行活用の目的であったと、朝火氏は話す。具体的には、ビュースルーコンバージョンの可視化、フリークエンシー(広告接触頻度)との相関性、メディア重複率の可視化、バナークリエイティブによるコンバージョンの差異なども、今回の試行で見ていったという。
ビュースルーコンバージョンの可視化が目的の1つ
プロモーションはイベントの集客期間にあわせたもので、期間も短く十分なボリュームでデータを取れたとは言えない状況ではあったが、ビュースルーコンバージョンの可視化では、ポストクリックコンバージョン(バナーをクリックしたことによるコンバージョン)に対して約7.5倍のポストインプレッションコンバージョン(バナーを見たことによるコンバージョン)が発生していたという。また、媒体によっては、10倍以上のポストインプレッションコンバージョンが発生したところもあったようだ。「これまでは、この媒体ではこれだけしかクリックされていなかったのかと考えていたが、ユーザーがそのバナーに接触したことによってコンバージョンがどれだけ発生しているかというデータは、今後非常に重要になる」と朝火氏は話す。
続いて、フリークエンシーが10回を超えると広告クリック率やコンバージョン率が下がると言われているが、NECの試行では大きな変化が見られなかったという。これについて朝火氏は「計測対象メディアに自社メディアが含まれているため、このような結果になったのかもしれない。外部媒体のみを計測した場合とは結果が異なったことが予想される。このデータは、自社メディアのトップページに大きくバナーを掲載した場合に、コンバージョン率がどれだけ下がったらクリエイティブを変えるかといった、しきい値作りに今後役立てていきたい」と説明する。これに関しては、来場している媒体社や代理店からもさまざまな意見が寄せられ、意見交換が行われていたため、期間やボリュームを変えて試行錯誤する必要もありそうだ。
メディア重複率の可視化では、複数のサイトで広告に接触したユーザーがほとんどいないという結果になり、朝火氏は「重複率が少ないというのは、予想していた結果とは異なる」と話す。これに関しても、「期間やボリュームが少ないのが原因かもしれないため、もう少し検討したい。重複率がもっと明確になれば、メディアプランニングなどの参考になるので、今後も検討したい」と朝火氏は説明した。
バナークリエイティブによるコンバージョンの差異では、3つのクリエイティブで自動最適化を実施した。接触回数が少なかったため、リターゲティング展開は実施されていない。最も効果があったクリエイティブは、NECが高性能リチウムイオン電池を提供している自動車の写真が載っており、「もしかしたら、自動車が当たるキャンペーンだと勘違いされたのが原因かもしれない」と朝火氏は苦笑しながら説明している。
「今回はスポット的に試行したが、我々も初めてのことだったので、作業工数やフローなどの運用体制を検討する必要がある」と朝火氏は今回の施策を振り返り、今後通常運用する場合に備えた運用体制作りが重要となることを示した。また、朝火氏は「実施期間をもっと長期化してリターゲティングや重複率の可視化なども実践していきたい」と話し、「今回は純広告だったが、リスティング広告やDSPなども組み合わせて活用し、計測対象メディアを拡大していきたい」と今後の展開についてもまとめ、第二部の講演を終えた。