「スマホ活用企業によるパネルディスカッション 」
2011年12月13日開催 Web広告研究会セミナー:「スマートフォンをマーケティングに活用するため~データと事例から、ユーザー像と活用ポイントを探る~」にレポート
イベント報告
- 掲載日:2012年1月17日(火)
5社のスマートフォンへの取り組みから見る
最適なスマートフォン戦略とは
第二部では、引き続き電通の森氏がモデレーターとなり、Webサイトのスマートフォン対応を進めてコミュニケーションを行っている広告主側の企業から2名、スマートフォンに対応したサービスを行っている企業から3名をパネリストとして迎え、「スマホ活用企業によるパネルディスカッション」が開始された。それぞれの挨拶の後、5つの企業のスマートフォン活用についての説明が行われた。
スマートフォンユーザーの コンテキストを考えた対応が必要
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コミュニケーション本部ウェブマネジメントセンター
増井 達巳氏
キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の増井達巳は、「これまでのWeb戦略は自社メディアが中心だったが、生活者とのエンゲージメントを考えると、今後はデバイス対応やソーシャル対応を進めていかなければならない」と話す。canon.jpサイトでは、従来から満たすべき3つの価値要素「機会」「保証」「共感」を常にストーリーとして組み込んでいるが、特に「機会」と「保証」に対してはスマートフォンへの対応が必須になるとしている。
スマートフォンでも見やすいPCサイト作りに取り組んでいるキヤノンMJでは、画面サイズサイズや文字の最適化はもちろん、HTML5やCSS3などの最新技術を取り入れた。また、閲覧率が低く手間がかかるフィーチャーフォン対応のサイトの作成をやめ、複数デバイスのコンテンツを1つの管理システム上で管理し、製品情報やお知らせ情報のデータ定義を正規化して、PCサイトからの情報を自動検出させることで、スマートフォンの対応とタイムリーな情報発信を目指している。
デジタルカメラIXY 600Fの女性向けのキャンペーンでは、スマートフォンサイトのみでキャンペーンを行い、PCサイトを訪れたユーザーもスマートフォンサイトに誘導するようにしているという新たな試みも行っている。
最後に増井氏は、「今後は、スマートフォンを先に考えてPCサイトをデザインすることが重要で、利用シーンや情報の有用性などが生活者のコンテキストに反映されたWebにする必要がある」と話している。
本田技研工業株式会社
日本営業本部 営業開発室 商品ブランドブロック
深山 寛泰氏
本田技研工業(以下、ホンダ)の深山寛泰氏は、「以前はiPhone向けにトップページを最適化していたが、まだPC用のままであった各製品情報ページに行くと離脱するユーザーが多く、きちんとコンテンツを見てもらえなかった」と話し、逆に言えばきちんとカスタマイズすればコンテンツを見てもらえると説明する。そこで、コンテンツ自体をスマートフォンで見やすく、適した表現方法で提供するように2011年初頭から取り組んだホンダは、従来のフィーチャーフォン向けのコンテンツをスマートフォン向け最適化ASPによって提供するようにしている。その結果、最適化前はフィーチャーフォンと同等だったスマートフォンのPV数は、最適化後は閲覧数が急増して66%増となったという。また、動画配信サービスを利用し、1つの動画から各デバイス用に最適化した動画を配信するようにした。
最後に深山氏は、同社のサイトへのアクセス状況からフィーチャーフォンよりもスマートフォンユーザーが積極的に動画コンテンツを閲覧しているデータを明らかにして、動画をデバイス別に最適化することの重要性も示し、同社のマルチデバイスへの取り組みを説明した。また、iPadなどのタブレットに対しては、PCサイトをそのまま見せてもPVが変わらないため、特別な対応はしていないという。
スマートフォン対応、アプリ展開を行う
サービス事業者のスマートフォン活用
株式会社リクルート
住宅カンパニー SUUMOネット推進室 カスタマー集客・サービス設計開発G
カスタマー集客施策TM 兼 デバイス戦略推進ユニット
青木 和大氏
リクルートで住宅情報のSUUMOを運営している青木和大氏は、「米国では、リビングでテレビ、PC、iPhone、iPadを同時に使うことが当たり前となっており、日本でも数年後は同じ状態になることが予測されるため、それに対してどのようなメディアを出すかを考えなければならない」と話し、これらのマルチデバイスを組み合わせることでアクション率とブランドエンゲージメントを引き上げることができると説明する。
SUUMOでは、iOS、Android、Windows Phoneにアプリを提供し、スマートフォン対応のサイトを用意している。これらのアプリは100万ダウンロードを達成し、ドコモのdメニューにもコンテンツの提供を開始していることも特筆すべきだ。これらのマルチデバイス展開を実現するために、SUUMOでは汎用的に利用できるAPIを構築し、汎用データを各デバイスに提供することで開発スピードを上げている。
また、各デバイスのカスタマーデータをクラウド上の1つのデータベースでまとめることですばやく集計・分析するようにし、レコメンドなどに再利用していることも明かした。
株式会社ゆめみ
ソーシャルアプリ事業部
君塚 賢一氏
ゆめみの君塚賢一氏は、これまでモバイルシステムの開発・企画・コンサルティングを行ってきた同社が2010年からソーシャルアプリ事業部を立ち上げ、自社サービスとしてアプリを提供するようになった経緯から説明を行った。
「my Town(マイタウン)」というiPhoneアプリは、位置情報を活用し、O2O(オンライン・トゥー・オフライン)をキーワードに、スマートフォンでアプリを利用したユーザーが実際に店舗などに足を運ぶ「行動支援」を目的に開発し、2011年11月1日にリリースした。米国アプリのローカライズではなく、カルチャライズしたものだという。my Townは、GPSで出かけた先でチェックインして建物を獲得し、自分だけの街を作っていく位置情報連動ゲームで、さらにその実際の店舗や企業へ足を運ぶことを目的にしていると君塚氏は説明している。
楽天株式会社
編成部 モバイル戦略課
筈井 昌美氏
楽天の筈井昌美氏は、「楽天自体のスマートフォン化が遅れているなか、モバイル戦略課を立ち上げ、楽天グループ横串でスマートフォンを推進している」と話す。楽天のグローバル・スマートフォン戦略では、まずWeb最適化とアプリ開発で必要となるサービスすべてのスマートフォン化を推進し、次にスマートフォン関連の最新テクノロジーを調査して、収集・集約・導入し、グローバルにおける戦略的スマートフォン推進の拡大を狙っていくという。
また、楽天ゲートウェイ構想として、すべてのサービスを1つのAndroidアプリとして統合し、携帯メーカーやキャリアと連携してプリインストールさせて、デバイスの出荷時点から顧客接点を創造することを考えている。さらに、楽天エコシステム(楽天経済圏)との連動で、楽天スーパーポイントなどを利用してグループ内の他のサービスもクロスユース(回遊)させ、顧客の利便性、マーチャントの売り上げ増、楽天の売り上げ増という3者WINの構造を実現させようとしているという。
広告コミュニケーションとしての利用と
サービス事業としての利用の違い
各社のスマートフォンへの取り組みが説明された後は、質問に各社が○×で答える形でディスカッションが行われた。最初の質問、「スマートフォンの普及により企業のモバイル戦略は変化しているか?」に対して、ホンダの深山氏は「×」と回答し、他の4社は「○」と回答している。
楽天の筈井氏は、「スマートフォンの登場で顧客に最適なUIを提供すること、アプリケーションの開発を行うことで最適なサービスを提供すること、プリインストールによる利便性を提供することなどの施策を行っており、フィーチャーフォンとはアプローチが異なっている」ことを戦略の変化の理由としてあげている。また、キヤノンMJの増井氏は「フィーチャーフォンの時代はモバイルサイトがあればよいという発想で、コンテキストを意識していなかったためあまり成功しなかった。写真を楽しむというコンテキストでは、スマートフォンはデジカメとの親和性があるし、コンテンツ管理をしっかりやればPCサイトとスマートフォンの両方を効率的に制作できるので大きく戦略が変わった」と話す。
一方で「×」と答えたホンダの深山氏は、「極論」と前置きしながらも「ブランドサイトとして製品を購買させるプロセスの1つのツールであると捉えれば、PCもフィーチャーフォンもスマートフォンも大きく戦略が変わることはない。もちろん、戦術としては親和性の高いUIを作ってどのようにコンタクトポイントを作ってコミュニケーションするかということは変化する」と説明した。また、PCに比べてスマートフォンとフィーチャーフォンの閲覧時間帯は非常に似ており、同じモバイル機器として午前中にもピークがあることが似ており、こうした点も大きく戦略を変えるものではない理由として挙げられた。
スマートフォンの普及によって
モバイルのユーザー層は変化したか
続けて、「スマートフォンの普及でモバイルのユーザー層は変化したか?」という質問に対しては、広告主側のキヤノンMJとホンダが「×」と答えるなか、サービス事業側の3社が「○」と答え、立場によって回答が分かれた。
ゆめみの君塚氏は「画面が大きくなったことで友人に見せ合うという行為が自然と行われていることが予想されるので、ぱっと見の印象を重要視している。数字的なものは大きく変わったとは言えないが、嗜好性は変わっているのではないかと思う」と話す。リクルートの青木氏は「ユーザー層の変化はもちろん、フィーチャーフォンとスマートフォンではできることがまったく異なり、スマートフォンにはレベルの高いものが求められると思う。そこに対してユーザー層を捉えながらどのようなサービスを提供するかを考える必要がある」と説明する。また、「年齢層が上がっているという実感があるか」という森氏の質問にも、グループアンケートでも年齢層の上昇を実感したことを明かした。
スマートフォンのビジネス活用に
スマホアプリの提供は必要になるか
「スマートフォンをビジネスとして活用する場合にはアプリを作ったほうがよいか?」という質問に対しても、広告主側の2社が「×」、サービス事業側の3社が「○」と答える結果になった。
ゆめみの君塚氏は開発に携わる立場から、「制作面では非常にハードルが高いが、認知してもらうという意味ではApp Storeの存在は侮れない。お勧めなどに登録されるとダウンロード数が加速度的に増え、その後ランキングにも残ってダウンロード数は増えつつけることもある。ランキングから落ちたとしても広告施策の選択肢が広く、リワード広告やアドネットワークが使える」とアプリ活用のメリットを説明する。また、楽天の筈井氏は「スマートフォンが伸びた理由の1つはアプリケーションの存在が大きい。ネイティブアプリか、HTML5を使ったハイブリットアプリかといった議論もあるが、最新版の楽天ゲートウェイアプリでは、フロントは利便性を重視してHTML5で作成し、バックエンドは動作速度を重視してネイティブアプリで開発している。今後は、HTML5も進化してネイティブアプリに負けないような動作速度になると考えられるので注目していきたい」と話した。
一方で「×」と答えたホンダの深山氏は、「オウンドメディアである企業サイトの対応としては×を出した。もちろん、キャンペーンでの利用や、HTML5ではできない表現、通信が届かないところでのコンテンツの提供といった意味では、アプリを利用できると思う。全体のバジェットを考え、アプリありきではなく、その前にHTML5やWebアプリでできることはないかという意識で見ている」と話す。キヤノンMJの増井氏は「印刷用のアプリやSNS的な機能を持ったアプリはすでにリリースしている。しかし、ブランドサイトとしてはブラウザベースでスマートフォン対応している。アプリの人気は持続性がなく、人気を維持するためにはコストを投資して更新頻度を上げ、製品リリース頻度も上げなければならない。ブランドマーケティングではWebのほうが開発効率もよく、安定していると思う」と話す。
森氏は「事業としてサービスを提供しているならコンタクトや使い勝手、動作の速さでアプリが重要となるが、コミュニケーションの効率化や複数のコンテンツをマルチデバイスで展開する場合は比較的Webという方向性になるという印象を受けた」とアプリの必要性に関する質問をまとめた。
スマートフォンとソーシャルメディアの親和性は高い
森氏は、最後の質問を自身の気になる点として「ビジネスにおいて、ソーシャルメディアとスマートフォンの親和性を感じるか?」という質問を行い、これに対して全員が「○」と回答した。
ゆめみの君塚氏は「我々はiPhoneだけで展開しているが、年齢層の高い方でもTwitterという言葉を知っていて、アカウントも高い確率で持っている。アプリをTwitterと連携させても、ハードルを感じることなく取り組んでもらえるので広がりを感じる」と話す。
いくつかの質問のなかで、各社の業種業態、戦略による違いは見られたものの、ソーシャルとスマートフォンの親和性に関しては、すべての企業が感じているとのことで、戦略に活かす必要がある課題となっているようだ。最後に、各社の今の課題と今後の戦略がそれぞれ発表され、森氏は「スマートフォンのユーザー数や扱う情報量が増え、モバイルのビジネス活用が重要となってきた。今後1~2年でスマートフォンのシェアが上がってくれば、ますますトレンドとなるのは間違いない。今後もWeb広告委員会のモバイル委員会で情報を出していきたい」と話し、パネルディスカッションを終えた。