Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「広告主が語るビッグデータ活用の本音 ~先進企業に見る現状と課題~」 
2012年2月29日開催 第25回Web広告研究会フォーラムレポート(2)  イベント報告

  • 掲載日:2012年4月3日(火)

第二部は、広告主(利用側)の視点でビッグデータを考察するため、株式会社電通コンサルティングの及川直彦氏をモデレータに、日本航空株式会社(JAL)の渋谷直正氏、株式会社リクルートの小川卓氏、花王株式会社の本間充氏をパネリストに向かえ、「広告主が考える今年のマーケティング注力テーマは?」を題材にパネルディスカッションが行われた。


ビッグデータを料理する3社の取り組み

及川 直彦 氏
株式会社電通コンサルティング
ディレクター 代表取締役社長
及川 直彦 氏


最初に及川氏は「ビッグデータに対して広告主の皆様がどのようにCookingしているのかを聞き、近い悩みやもっと先の悩みも聞いていきたい」と話す。続いて、及川氏はビッグデータをコンサルティングで使われる「空」「雨」「傘」のフレームワークで説明。また、ビッグデータの取り組みを5段階に分けて説明した。


ビッグデータ議論における「空」「雨」「傘」



「ビッグデータ」への取り組みの段階



日本航空株式会社
Web販売部1to1マーケティンググループ
渋谷 直正氏

続いて、パネリストの3名が現段階でのビッグデータへの取り組みを話していく。渋谷氏は「JALは着手が終わり、探索に取り組んで発見を行いたいと考えている段階。現在は、Webのアクセスログデータ、購買履歴のデータ、属性情報などの連携によりWeb上で最適な提案ができるようにしている。これまで我々はBtoBのビジネスが多く、BtoCの部分が弱かったが、例えばお客さま向けの国内線航空券の場合Web販売比率が70%と高くなってくる中で、お客様をより深く知る必要が出てきた。どのような人が何人来ているのか、どのページを見ているのかを知るためにビッグデータを分析するようになり、そのための組織を2010年12月に設立した」と話した。



株式会社リクルート
住宅カンパニー SUUMOネット推進室
小川 卓氏

不動産・住宅情報サイトのSUUMOを担当している小川氏は、「我々は、発見から実践に向かった段階で、集客に課題があってビッグデータを使っていこうと考えた」と、ディスプレイ広告の効果を評価するために、アクセスログと媒体社が持つデータを活用し、広告予算の最適化も考えていることを明かす。実際には期初に需要予測を行い、期中にアトリビューション分析を行って広告ポートフォリオを最適化しているが、「ここまでくるのに9ヶ月かかっており、1億円近くの予算を使っている。意外とシンプルなところで苦労しているので、そういった話を伝えたい」と小川氏は話した。



花王株式会社
Web作成部 Web技術 Group Leader
本間 充 氏

本間氏は「自分でビッグデータを宣言(WAB宣言)しておいて心苦しいが、花王はまだまだ」と話す。「花王のWebサイトは、直接販売やサービス提供をしているわけではないので、あまり意識はしていなかった。Webサイトのためにアクセスログ分析は行うが、他のマーケティングデータを組み合わせて分析することは継続的にはやっていない。着手と探索を繰り返している状態。とはいえ、どのメディアがどれくらいコミュニケーションしているかをまとめたいというニーズは高まっていて、社内のビッグデータの整理をやり始めている。現状はお客様相談センター、POS、Webなどの組織ごとにデータが分かれており、横断的に見ることはできていない」と本間氏は現状を説明した。


ツールを使い分析できる人材が必要になる


各社の状況が説明された後は、ビッグデータ活用プロジェクト立ち上げの苦労などに話が移る。「まずビッグデータと言われても、何をやっていいかがわからないと途方にくれると思う」と渋谷氏は話す。「無理に全部やろうとする必要はない。何億件もの規模でやると、時間ばかりかかって1日に1つの知見も得られないということになりがち。自分は、たとえば100万件のサンプル分析評価で十分と考えていている。これまでのやり方と変わらないと言われそうだが、従来のデータの中から選ばれた既存のレコードからの100万件と何億レコードもある中から選ばれたの100万件では、同じ100万件でも粒度の細かさや質が異なる。こう考えれば、最初のハードルはずいぶん低くなると思うし、将来的にはそこから拡げていけばよい」と渋谷氏はアドバイスする。

また、渋谷氏は「最初は感覚で“あたり”をつけて選んで行くこと分析していくことが大切。データマイニングのツールを使えばすべてできるわけではなく、有力な仮説を自分たちで作らなければならない。その仮説を作るためにビッグデータを使うのだから、細かいことをやる必要はなく、感覚でやってみて再度仮説を立てていくというプロセスが重要だと思う」とも説明した。

一方、「渋谷さんの話は、我々と2割くらい一緒で8割くらいが異なる」と言う小川氏は、「我々には広告の最適化という明確なゴールはあったが、仮説がなかった。そこで、分析方法のモデルを作ってどこに重みを置くかなどを決めている。苦労したのは、きちんとデータを集めるところで、データが間違っていたら違う結果が出てしまう。たとえば、SEOにかける予算を決めるときに、キーワード単位で“賃貸”というワードにどのくらいの予算をかけるかという計算はものすごくしづらい。リスティングやバナーでも使っており、バナーをまとめてディスカウントしたり、数ヶ月契約などもあるので、それをすべて処理するのは時間がかかる。ある程度は割り切り、金額の調整がやりやすいところから分析後のイメージを考えて進めている」と話した。

また、「渋谷さんの言うようにツールですべてができるのではなく、コストはツールよりも人にかかる。データを使ってマイニングできる人、ビッグデータを分析する仕組みを作れる人が重要で、仮説よりは打てそうなところに絞り込んで分析を行ってきた。たとえば、SEOのコストは考えず、バナーやリスティングのコストに注力するようにしている。人を集めて、データをキレイにし、分析に行くまでのフェーズに3ヶ月から半年かかったのが現状」とも話した。


全社横断的な活用には組織改革が必要 データ分析者は社内に置くのが理想



続いて、話は人材や組織体制の話に移る。JALでは、新規に立ち上げたビッグデータ分析の部署は、Web販売の部署に属しており「チケット航空券やツアー商品商品券を販売するための分析」という意識をもっている。また、5名のメンバーで分析を行っているが、これまで分析は他の仕事を兼務しながらやらざるを得なかった状態から、専門部署で専任のメンバーとなったことは大きな違いがあるという。

組織論として「全社的にやることは難しいか」と及川氏に話を振られた本間氏は、「全社的には相当難しい」と答える。「経営幹部の間で、何がミッションであるかが明解になっていればよいが、多くの広告主はWebサイトでマーケティングしているが、経営指標となる目標値が設計されていない場合が多い。経営指標への貢献がハッキリしないのに、分析だけやるという話では、分析のための人材も拡充しにくい」と本間氏は説明する。Webで直接サービスの提供や商品の販売を行わない場合は、体制作りも難しくなるのだろう。

また、本間氏は「マーケティングの人たちは、Webのデータを見せて商品のニーズが高まっていることを示すと理解してくれる。しかし、予測を行うためにモデルを作って示すと、過去の経験則とは違うという話や、数字やデータが信頼できるのかという話になり、頓挫したり、反映されなかったりすることも多い。もちろん、マーケッターの感覚的なものや過去の経験則などは重要で、あながち外れたものではない。しかし、今後ビッグデータを分析して仮説やモデルを立てても、それをきちんと説明できなければ活かされないだろう」とも話した。

小川氏や渋谷氏も同様の意見で、データを活用するためにモデルや仮説、統計を現場に伝えるときには、「何がどうなって、そうなるのか」をしっかりと伝えることが重要だと確認しあっている。また、経営者などにデータを見せるときのテクニックなどの細かな話題にも話は及ぶ。

ここで少し話は戻り、渋谷氏のように最初は少ないデータから始めるのか、小川氏のように先にモデルを作るのかについて、本間氏は「自分はその両方ともアリだと思うが、どちらにするかはデータ分析する人の資質によると思う。先にモデルが頭に浮かぶ人と、データを触ってから考える人がいて、そのどちらがよいというわけではない。データの分析を頼むときには、その人が先に絵が浮かぶか、先に数字を見るのかを最初に判断し、データ分析者と向かい合わなければならない」と意見を出す。

データ分析者を社内に置くか、委託するかということについては「自分は、社内に置かなければならないと考えている。マーケティングは、会社のDNAを如実に反映している活動となっており、そのDNAは不文律となっている場合が多い。その不文律を外部の人に伝えるのは結構難しいので、会社のDNAがわかった人がやったほうが近道だと思う。しかし、社内にデータ分析者を作るというのは組織論的にハードルが高く、かなりチャレンジングではある」と本間氏は話した。それに対し、渋谷氏は「我々が部署を作ったというのは、まさに社内に分析者を置きたいと考えたからだ」と話し、小川氏も「社内に分析者を置きたいと考えている。分析を自社のためにやる立場と、他者に提供する立場では、考え方や考える量が少し変わってくると思う。パートナーもすごく懸命に分析してくれるが、それを施策に落とし込むのは社内の人間なので、お互いに踏み込みが足りなくなるケースも出てくる」と話した。


ビッグデータという魔法を使いこなし より大きなマーケティング領域へ



最後に今後について聞かれた渋谷氏は、「組織的にWeb販売部に属しているため、まだWebの世界だけで活動している。我々は、お客様に近く、ワークアラウンドしやすい業界だと思っている。空港や飛行機内などのタッチポイントで、お客様に最適なものをおすすめできる可能性をかなり秘めている業界であるため、まだ先の話になるかもしれないが、Webで得た知見をリアルに還元して、お客様に最高のサービスを提供していきたい」と話した。

小川氏は、ビッグデータに対して思うことをまとめる。「ビッグデータは魔法のようなもの。第一部でも話が出たが、数年前には考えられなかった速度で1秒間にものすごい量のデータを処理できるようになった。しかし、魔法といっても使えば自動的に出てくるものではなく、魔法を使う人の技術や能力が求められる。魔法をどこでどう使うのかが非常に重要で、魔法を考えながら使える人、魔法を使えば何でもできると思ってない人を募集している。データを使って楽しい気づきを発見して活用できれば、カスタマーの皆様によりよい体験を提供できるようになる。このようにデータを有効に使える人を見つけながら、一緒にやっていきたい」

本間氏は、「Cooking Big DataをWAB宣言とした背景には、WebマーケッターやWeb領域にかかわる人の守備範囲がかなり広くなる可能性を秘めていると考えたから。今日登壇したJALは、O2Oマーケティングのために会員属性を使おうとし、リクルートは昔からオフィシャルサイトでユーザーIDを使ったユーザー分析を行っている。この2社がデータ分析することは、リアリティがあって普通だと思われるが、花王もソーシャルリスニングや自社データを集積すると、これまでにないデータ分析が可能になるということも事実。また、インターネット上のクラウドを使えば、安価に計算ができるようになってきている。小川さんは魔法使いになりたい人を募集していたが、魔法使いになれるポテンシャル持っているのなら魔法の勉強をしてみないか、というのが自分のこの1年間のテーマ。この魔法っていいよね、と思われれば、その魔法使いはWeb以外のリアルな領域などにも呼び出されるはず。Webの領域でいろいろと確立したうえで、もっと大きなマーケティング領域の業務に発揮してほしいし、自分もそうなりたいと思う」と話した。

最後に、及川氏は「Webを基点として、ビッグデータという魔法を手堅く使っていらっしゃる方の話を聞けて、非常に勉強になった」と、第二部をまとめた。終了後は、質疑応答が行われ、個人情報の問題などの具体的な質問が行われるなど、ビッグデータへの関心が非常に高いことがうかがえるディスカッションが終了間際まで行われた。

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