「何が変った? スマートフォン急増によるネットとモバイル」第一部
2012年3月27日開催
イベント報告
- 掲載日:2012年5月1日(火)
【2012年度第1回月例セミナーレポート】
スマートフォンの大衆化で変化するモバイルユーザー像
企業が取るべき最善の対応を模索する
Web広告研究会の2012年度第1回月例セミナーが3月27日に行われた。今回のテーマは、「何が変った? スマートフォン急増によるネットとモバイル」。第一部では「モバイルユーザーは今」として、Web広告研究会モバイル委員会と株式会社ディーツーコミュニケーションズ、 一般社団法人オープンモバイルコンソーシアムの調査結果が発表された。第二部では、「スマホ時代のネットとモバイル対応」というお題でパネルディスカッ ションが行われ、スマートフォンを含むモバイル対応がどのように行われているのかが明かされた。
スマートフォンユーザーという
大きなカテゴリで捉えるべきではない
Web広告研究会
モバイル委員会委員長
森 直樹氏
最初に登壇したWeb広告研究会モバイル委員会委員長の森直樹氏は、Web広告研究会が行ったスマートフォンユーザーに対するフォーカスグループインタビューの結果を発表した。ライトユーザーを対象に行った今 回の調査では、「ネットや広告業界と距離があり、スマートフォン利用履歴の浅い男性社会人と女性社会人」にインタビューを実施したという。そのため、男性 はスマートフォン利用歴1年未満、女性も半年から1年未満の人が対象となった。
今回の調査では、大きく分けて、男性が中心の情報収集重視型と女性が中心のコミュニケーション重視型の2つのグループがあったという。
情報重視型は、スマートフォンをPCと同じように扱い、PCを使えないシーンの代替ツールとして利用している。また、スマートフォン購入後もPCによるネット利用時間は変わらず、スマートフォン分が利用時間に追加されていることも1つの特徴だ。さらに、この情報重視型は、主に関心ごとや趣味で必要な情報を収集するプライベート派と、主にビジネスで必要な情報を収集するビジネス派の2つに分けられる。
男性中心の情報重視型ユーザーは、プライベート派とビジネス派に分けられる
これらの結果について森氏は、「ビジネス派に向けてWebで情報を提供しているBtoBの会社で、これまでフィーチャーフォン(従来の携帯電話)には対応していなかった会社は、これからはスマートフォンに対応しなければ接触機会を逃してしまう可能性が出てきた」と説明する。フィーチャーフォンで情報収集をあまりしていなかった、M1層やM2層がスマートフォンを持つことによってモバイルでのネット利用を行うようになってきたからだ。
一方、コミュニケーション重視型の女性は、周りがスマートフォンを買っ ているからスマートフォンに乗り換えたという意見が多く、機能面より情緒的な理由でスマートフォンを利用していることが明らかとなった。利用動向として は、主に友人とのコミュニケーションツールとして使われており、スマートフォン用のツールが多いTwitterなどは、フィーチャーフォン時代よりも利用時間が長くなっているという。森氏も「スマートフォン向けにUIが最適化されているTwitterの利用が増えていることから、コミュニケーションサービスがスマートフォンの普及によって変わっていく可能性を示唆するような意見が出ていた」と話す。また、情報収集型とは異なり、PCの利用時間が減少し、スマートフォンの利用時間が増加していることも明かした。
コミュニケーション重視型の女性は、情報収集型の男性と比較し機能的なリテラシは低いが、利用シーンが男性に比べて幅広いため、スマートフォン利用歴が長くなって機能を覚えていけば、男性よりも女性の方が広く活用するようになるだろうと森氏は分析した。
今回の調査によって、「スマートフォンを携帯の延長と考える派とPCの代替と考える派に分けられる」と話す森氏は、PC代替派は、PCの機能が実現できないことにネガティブで、ブラウジングや検索に注視していると分析する。また、モバイルネット利用が急拡大しており、前述のように、特にフィーチャーフォン時代にネットを利用していなかった男性層もスマートフォンで利用するようになってきているという。
ソーシャルメディアについては、携帯の延長派では利用するデバイスの中心がスマートフォンになり、PC代替派ではPCがない環境での利用を増やすキッカケとなっていることが明かされた。メディア接触に関しては、テレビ視聴への影響はなく、スマートフォンを片手にテレビを見ることが日常化していること、動画視聴と写真撮影の利用機会が圧倒的に増えていることが示された。
最後に森氏は、「スマートフォンユーザーというカテゴライズはもうナンセンスで、スマートフォンユーザーの中にいくつかのカテゴリがあり、今後はそこを見ていかなければならない」とまとめ、続く発表にマイクを預けた。
一般層への普及が始まることで
モバイルユーザーの行動が変わる
一般社団法人オープンモバイルコンソーシアム
(サントリーホールディングス株式会社
広報部 デジタルコミュニケーション開発部)
君野 太郎氏
株式会社ディーツーコミュニケーションズ
営業推進本部 本部長
細川 敦史氏
続いて、オープンモバイルコンソーシアム(以下、OMC)の君野太郎氏と、ディーツーコミュニケーションズ(以下、D2C)の細川敦史氏がスマートフォンの普及状況とユーザー動向について説明を始めた。
スマートフォン市場については、スマートフォンの出荷台数は2011年に2,000万台を超えており、2012年には3,113万台にまで拡大すると予測したレポートを、IDC Japanが3月26日に発表している。細川氏は、2012年3月のMM総研「スマートフォン市場規模の推移・予測」の資料から、2014年度にはスマートフォンとフィーチャーフォンの契約台数比率がおよそ半々になることを示しつつ、MM総研の予測は発表のたびに上方修正されており、日本のスマートフォン市場が急速に拡大し、今後さらに早まる可能性があることを説明した。
日本のスマートフォン市場は急速に拡大
出典:MM総研「スマートフォン市場規模の推移・予測(12年3月)」
一方で、D2Cが行ったネット調査では現在のスマートフォンユーザーの比率を約26%としており、実質20%で2,400万台程度ではないかと推定している。一般的に商品などの普及の壁(溝=キャズム)となるのは、16%と言われているが、スマートフォンはそのキャズムをすでに飛び越えて おり、昨年末に先進層の利用から大衆層(マジョリティ層)に普及が広がっていると細川氏は説明する。したがって、スマートフォンでビジネスを仕掛ける側 も、先進層から大衆層へマーケットが変わってきていることを捉える必要があり、市場変化に合わせた戦略の変更が重要となってくる。
その変化の1つがOSのシェアだ。2011年1月までは全体の52%がiOSで、37%がAndroid(その他11%)だったものが、2012年2月にはiOSが37%で、Androidが59%(その他4%)と、Android端末が急速に浸透している。各キャリアはAndroid端末のラインナップを拡充しており、フィーチャーフォンも含めた全ラインナップの6~7割がスマートフォンとなっているのが現状だと細川氏は説明した。
また、女性ユーザーが拡大していることも変化の1つだ。スマートフォンが話題や流行になり、周囲に促される形で女性がスマートフォンに切り替えてきているため、性年齢属性から見てもスマートフォンは一部の限られた人のものではなくなってきている。D2Cでは、この1年でスマートフォンの女性ユーザーが600万人から700万人は増えていると試算している。
女性スマートフォンユーザーの拡大続く
他の人の様子を見てから商品の購買を決めるフォロワー層も、33.9%(2011年7月)から42.7%(2012年2月)へと増えてきており、このような行動特性が大きく変わることによって、スマートフォンの普及が後押しされていると細川氏は説明した。
一方で、スマートフォンのユーザー層については、これまで年収が多く暮らしに余裕がある層が購入していたのに対して、現在はそれ以外のユーザー層へと拡大したため、年収の平均値は低下してきており、D2Cの調査でも行うたびに平均年収額が低下していることが明かされた。また、スマートフォンのアプリやネット利用は、2011年7月と2011年10月の調査を比較すると上昇しているが、2011年10月と2012年2月の調査比較では、ほぼ維持の傾向となっており、このことからもネットに対してアクティブ度が高い人以外もユーザーとなり、普及が拡大していることが伺えると説明した。
アプリとネット利用の合計時間は、PCによるネット利用やテレビの利用時間に近づいていることも明かされた。検索の利用頻度も同様に2011年10月と2012年2月では伸びておらず、1日3~4回の検索が行われており、上昇傾向から安定傾向となっているようだ。一方で、総検索回数を試算すると増加傾向にあるという。
「スマートフォンを使うようになって外出先でのネット利用頻度は?」という質問に対しては、サイト閲覧が増えたと約74%が、検索が増えたと約63%のユーザーが答えており、スマートフォンによってネットの利用が活発になり、積極的な情報収集が行われていることが示された。これは、企業と生活者のコンタクトポイントとしてスマートファンが重要になることを裏付けるデータだと細川氏は説明した。
ネットショッピングの利用頻度や
ソーシャルメディアへの投稿が増加
スマートフォン利用後のインターネットショッピングの頻度についても23%が増えたとしており、ネットでの購買活動が促進される可能性がある。自宅内でもPCの代わりにスマートフォンで購入している層が存在することも明かされた。
スマートフォンを使うようになり、ソーシャルメディアへの書き込みが増えたかについては、約40%が増えたと回答。スマートフォンによってUIやユーザービリティが向上し、ソーシャルメディアが活性化していることが伺える。主要ポータルサイトやSNSの利用率と利用頻度もフィーチャーフォンと比較して高くなっている。
主要ポータルサイト、SNSサイトの利用率・利用頻度
最後に細川氏は「大衆層やフォロワー層が増えてくることによって、行動 特性が大きく変わり、我々がビジネスを行う市場にいる人たちがスマートフォンを持ち出している状況となっている。企業も市場変化に合わせて、戦略や対応を 考える必要が出ているのではないか。昨年から今年にかけて大きな変化が来ているため、それを予見して自社のサービスに落とし込み、戦略を考えることが成功 の分かれ道になる」と調査結果についてまとめた。
続いて、君野氏は3月27日に発表されたOMCのプレスリリース「スマートフォンの普及によりインターネット利用頻度が増加傾向 ―シーン別の利用頻度の増減から見えるインターネット利用の変化―」を紹介した。
OMCでは、主に自宅内であることが想定されるシーンでのインターネット閲覧頻度の増加傾向について注目し、「朝の身支度の最中」「家事をしている時」が顕著に増加し、食事中の利用も増加していることから、スマートフォンによって、PCからインターネット利用しにくいシーンでの情報閲覧がしやすくなっていることを明かしている。また、従来PCでの積極的なインターネット利用が想定されていた「自宅でゆっくり過ごす」シーンにおいてPCの利用が減り、スマートフォンが代わりに使われていることも調査結果でわかったという。
こうした状況を背景に、君野氏は「現在はスマートフォンの普及が拡大しているが、将来的にはタブレット端末の普及が進み、状況に合わせて自由にデバイスを選んでネットを楽しむことが予想される。OMCでは引き続きモバイルデバイス環境によるユーザー実態をウォッチしていきたいと思う」と話し、第一部を終えた。
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