Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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Web広告研究会第二回東北セミボラレポートpart2(全3回) 「ソーシャルコマースは伸びつつある~プラットフォーム各社が語るWebサービスの選択」 イベント報告

  • 掲載日:2012年5月18日(金)

ソーシャルコマースは伸びつつある
プラットフォーム各社が語るWebサービスの選択

東北セミボラの第二部は、ECサービスやWebサイト構築のプラットフォーム企業が登壇。数あるWebプラットフォームの中から、企業はどのような視点でサービスを選択していけばいいのか、ソーシャルコマースなども含め、各社が議論を交わしていった。
東北セミボラの第二部は「すぐに役立つデジタルプラットフォームの今とこれから」と題し、モデレーターにネットイヤーグループ株式会社の倉重宜弘氏を迎えディスカッションを行った。パネリストには、株式会社paperboy&co.取締役 兼 EC事業本部長の河添理氏、株式会社アラタナ 代表取締役の濵渦伸次氏、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ SMB事業本部 事業本部長の高畑哲平氏が登壇し、各社のサービスへの取り組みなどを中心に議論された。


ネットイヤーグループ株式会社
Web広告研究会 東日本大震災・被災地支援プロジェクト
倉重 宜弘氏

ディスカッションは、倉重氏の「Webサービスが非常に数多く登場してきている中、ユニークで数多くのユーザーが利用しているサービスの会社に集まってもらった。これらのサービスをどのような目的で立ち上げたのか、また、ユーザー側はどのようにサービスを選んで利用していけばよいのかを聞いていきたい」という挨拶から始まり、各パネリストの自己紹介とサービスの紹介が行われた。

ECサイトを始めるための
最適な選択肢、必要な要素を考える

さまざまなWebサービスやレンタルサーバーを展開しているpaperboy&co.では、ショッピングカートシステムの「カラーミーショップ」を提供している。河添氏は、「ネットショップ(EC)を始めるにあたって知っておきたいこと」というスライドを示しながら、ネットショップの始め方と、サービスの選び方について解説を始める。


株式会社paperboy&co.
取締役 兼 EC事業本部長
河添 理氏

まず、河添氏は売りたい商品があることを前提に「ネットショップを始めるには、決済、配送、法律関係をクリアにして、システムを選ぶ必要がある」と話す。決済サービスは、まずは導入が容易な銀行振込の口座と商品代引を用意し、クレジットカードなど導入に時間がかかる他の決済方法は後で検討するべきだという。配送についても、現在自分が使っている配送会社でかまわないと河添氏は言う。また、法律関係については「特定商取引法に基づく表記」が必要で、「商品引渡し時期」「不良品の取り扱い」「返品時の送料の取扱」「返品可能な期限」を事前に決めて、ショップの住所、連絡先電話番号・メールアドレス、担当者氏名を明記しておくことが重要となる。
続いて、システム選びについて、河添氏は楽天市場やYahoo!ショッピングのような「モール型」、カラーミーショップのような「ASP型」、パッケージ製品をサーバーにインストールする「サーバー型」の3つのタイプに分類して解説を続ける。

ネットショップシステムのタイプごとの特徴

ネットショップの売上構成を「売上=アクセス人数×転換率(CVR)×受注単価」とした河添氏は、3つのタイプのシステムの特徴を示していく。
モール型は、「アクセス人数」である集客が容易な反面、競合が多く、広告掲載や価格を安くするなどの集客コストがかかる面もある。一方で、モールに一定の信頼感があるため「転換率」は高くなりやすい傾向にある。「受注単価」はセット販売や一定価格以上は送料無料などで高くするような努力が行われている。
ASP型の場合、「アクセス人数」はSEOやアフィリエイトなど自力で集客する必要があり、「転換率」には工夫が必要となる。「受注単価」に関してはモール型と同様だ。
サーバー型の場合、「アクセス人数」はASP型と同じだが、「転換率」はサイト作りに自由度が高く、UIや画面構成を変えるなどの工夫で高くできる。「受注単価」に関しては他の2つの型と同様だ。


ネットショップの売上構成

河添氏は「売上の出しやすさから言えば、モール型が最も条件が良いが、初期投資にかけられるコストや売上目標を考えてシステムを選ぶ必要がある」と話す。「自分のニーズに合ったものを選ぶことが重要。今日からでもすぐに始められることがネットショップの強みであるので、すぐにでも挑戦してみてほしい」とまとめた河添氏は、カラーミーショップを利用しているユーザーの事例なども示し、未経験者でも簡単に扱えて少ない資金で始められることをアピールした。
倉重氏から「被災地でも既存の流通ルートが失われたことから、ECを始めてみようと考える人が増えていると聞く。そのような人たちにアドバイスをしてほしい」と求められた河添氏は、「ネットショップのオーナーさんの話を伺うと、インターネットでは価格比較などの横比較が簡単なので、なかなか売上が上がらないと言われる。そこで、ネットショップは商品を売る棚だと考えるのではなく、商品をプレゼンテーションする場と考えて、商品に付加価値を付けるようにしてほしい。商品知識を豊富にしたり、用途提案をしてみたり、お客様が商品を受け取ったときに気持ちよくなれるような工夫をすることで、ショップのファンを増やしてほしい」と答えている。また、商品の梱包作業を手伝うサービスや、商品写真などを撮るための「ECフォト」というサービスがあることも紹介された。

宮崎からECサイトを支援
中小企業に向けたサービスを展開


株式会社アラタナ
代表取締役
濱渦 伸次 氏

濱渦氏が代表を務めるアラタナは、宮崎で起業してネットショップパッケージ「カゴラボ」やSaaS型レコメンドエンジン「楽レコ」などを提供しているECに特化した会社だ。オープンソースのECシステム「EC-CUBE」をベースにネットショップ制作を行っており、最近ではFacebookに対応したカートを国内で初めて開発したという。
濱渦氏は、会社紹介と自己紹介の後、バナー画像やHTMLページを簡単に作れる「SketchPage」というサービスのデモと説明を始める。自身もネットショップを作るときに四苦八苦してしまい、もっと楽しくやれないのかという思いで会社を立ち上げたという濱渦氏は「そもそもバナーを作れないという相談が多く、その課題解決のために作った。ネットショップの仕組みだけではなくて、ページを作るなどのリアルな支援をしたいと考えてツール開発を行っている」と話す。また、「我々は、だれでも楽しく簡単に構築できるネットショップを目指していている。SketchPageも元々は社内で使っていたツールのクオリティが高くなったので提供するようにした」とも話している。
「社内の業務効率化のために社内ツールを作っていたのか」という倉重氏の質問に濱渦氏は、「業務効率もあるが、社内にデザイナーが増えてきてクオリティにバラつきが出てきたため、一定上のクオリティを提供するためにツールを作った」と答えている。
また、濱渦氏はFacebookでショッピングを楽しめる「Social Gateway」も紹介している。「Facebookで物が売れるのかという質問をよく受けるが、実際は売れ“かけ”ている段階で、“これから”というのが正直なところ。通常のECサイトの約3倍のCVRがあり、Facebookユーザーも1,000万人を超えているため、これから売れ始めると思う」と話す濱渦氏。スマートフォンのFacebookアプリにも対応していることや、中小企業でもアプリを開発せずにスマートフォン経由の売上が見込まれることなども、Social Gatewayの追い風になるという。
倉重氏は濱鍋氏に「FacebookはAPIの改訂が頻繁に行われているが、Social Gatewayではどう対応していくのか」と質問する。濱渦氏は、「我々も仕様の変更には泣かされているが、そこはあきらめて対応するしかないと考えている。その部分がFacebookへの参入障壁にもなっていると思うが、仕様変更にも耐えられるような設計に徐々にしていって、今後は想定内の変更であればすぐに対応したい」と答えた。

最後に濱渦氏は、「宮崎と宮城は名前がよく似ていて間違えられることも多いが、東北や宮崎の地方から一緒に盛り上げていきたい」と話している。

すべての中小企業にWebサイトを
極力シンプルにした共同支援プロジェクト


株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
SMB事業本部
事業本部長
高畑 哲平 氏

KDDIウェブコミュニケーションズの高畑氏は、2009年に始めたGoogle、Jimdo、KDDI、中小機構、ITコーディネーター協会の共同プロジェクト「みんなのビジネスオンライン(みんビズ)」について説明する。高畑氏が「世の中の中小事業者、みんながWebサイトを持てたらもっとハッピーだと立ち上げたサービス」と説明するみんビズは、“だれでも簡単に15分でWebサイトを作れる”をコンセプトにした、SaaS型の中小企業向けWebサイト制作サービスだ。ECサイト構築にも対応する。

「国内企業の99.7%が中小企業なのに対し、その中でWebサイトを持っている企業が24%じかないというGoogleの調査もあるように、一般消費者のネットの利用率が高くリテラシーが上がっているのに中小企業からネットに出される情報が少ない」と話す高畑氏は、野村総合研究所が県別のWebサイト保有率と従業員1人あたりの売上の相関図を示し、「一概には言えないが、Webサイトを持っている率が高ければ高いほど、経済も上がるというのがみんなのビジネスオンラインの仮説となっている」と説明する。


県別企業サイトの保有率と従業員一人あたりの平均売上

続いて高畑氏は、中小企業がWebサイトを持てなかった理由の上位3位、「コストが高い」「知識・スキル」「時間・労力」が合計で87%にも上ることを示し、これらの課題解決のためにプロジェクトが立ち上がったことを明かした。「コストとスキルはないほうがいいと考え、初年度利用料は0円とし、翌年度から月額1,470円で提供している。また、サーバーやFTP、HTML、CSS、制作ソフトといったサイト制作の難しいスキルをすべて排除している」と高畑氏は話す。業種別のコンテンツも用意され、地域に対する支援も行われている。

また、「みんなのビジネスオンラインの登場でWeb制作会社がなくなるのではないか、と記事に書かれたこともあった。しかし、みんなのビジネスオンラインの対象ユーザーは、これまでWebサイトを持っていなかった企業。これまで数十万の案件があったが、どれもコストがかけられず、安くて労力がかかる案件で、一般のWeb制作会社では請けられないものだと思う。我々にとっては、まず機会を持ってもらうということが重要。Webサイトを作ることで、これまでの技術を使って新しい発想の商品を作ることで業績を伸ばす企業も増えてきている。なかには、プロの制作会社に依頼して解約するケースもある」と高畑氏は話す。ビジネスである以上、解約されてしまうのは悲しいことだが、中小企業がインターネット活用をキッカケに幸せになっていけば、プロジェクトとしては本望だという。

最後に高畑氏は「いろんな選択肢があると思うが、ファーストステップとしてみんなのビジネスオンラインが最適であるならば、使っていただきたい。1つの選択肢として、中小事業者にもっとネットが近くなり、事業と直結できればよい。一社でも多く、最初のスタートに立ってもらいたいと思う。我々は、最新の技術を追うのではなく、本当に必要なものは何なのかを見据えて、できるだけシンプルに提供したい」とまとめた。

倉重氏は「業種別のコンテンツまで揃えているのは便利だが、頼りすぎると同じ業種で似通ったページしか作れなくなるのではないか」と質問する。高畑氏は「それはこれからの課題。ツールだけでは解決できず、オフラインではITコーディネーターを中心に駆け込み寺のようなものを全国に展開している。他にも、拡充コンテンツ、オンラインヘルプ、ナレッジサイトといったものを作ってサポートすることも考えている」と答えている。

また、倉重氏は「Webサイトを持たない理由として敷居が高いということがあったが、隠れた理由としてWebサイトを持つことでビジネスがうまくいくということに懐疑的な人もいると思う」と話すと、高畑氏は「それをサービスでどこまで担保できるかはわからないが、一番の弊害として10年ほど前のWebの登場時期に、『Webを持てば儲かると言われてだまされた』という声はよく聞く。儲かるか儲からないかという話は、Webだけが本質ではない。商品力や価格付けなどの複合的なものがあることを理解してもらい、書籍やセミナーで啓蒙していかなければならない」と説明した。

プラットフォーマーに対抗するには
独自性や柔軟性、複合的なサービスが重要

3社の説明を終えた後は、まず倉重氏から「みなさんは間口の広いサービスを提供しているが、Facebookなどのプラットフォーマーが対抗馬となってくれば、一気に市場を持っていかれてしまう可能性があると思う。それに対してはどう対応していくのか」という共通の質問が投げかけられた。

河添氏は「レンタルサーバーから始まった企業であるため、プラットフォーマーの市場参入の脅威は常に危機感として感じている。我々は、ECフォトのような運用支援やカラメルという集客サービスも行っており、最終的にECで商品を購入するユーザーをつかむ取り組みを行うことで対応していきたい」と話す。

一方、濱渦氏は「FacebookがECに出てきたらあきらめて違うことをやる」と笑って話す。しかし、「もし、FacebookがECをやるなら、先にゲームでやっているはず。可能性としてはFacebook上で決済できる仕組みを作って、流通額の数%を狙ってくることは考えられると思う。Social GatewayはFacebookの外にシステムを作っているので、仮にFacebookをやめたとしても、Google+やmixiなどの複数のソーシャルに対応できるようになっている」と話している。

また、高畑氏は「我々は企業体としては河添さんのところとほぼ同じなので、同様に複合的なサービスで対応するしかない。ただ、究極的な話をすれば、WebというプラットフォームとSNSの戦いになると思うし、そこでWebが負けるのであればあきらめるしかない。戦える部分とことんは戦うし、ソーシャルと連携もするが、あくまでWebとともにやっていく」と話した。

会場からは、「スマートフォンやタブレットが普及し、高齢者や遠隔地、過疎地などをはじめ、被災地の仮設住宅などに向けたネットスーパーといったビジネスもあると思うが、それらの人にどうやって使ってもらえばよいか」という質問も出された。それに対し、濱渦氏は「我々はソーシャルコマースという言葉をよく使うが、Facebookで買い物ができると言っているわけではなく、年齢などの障壁をなくし、三河屋のように御用聞きができるようになることを言っている。スマートフォンやタブレットに対しても、どれだけおもてなしの心を持ってアプリを開発できるかが重要」と話す。

また、高畑氏は「我々がセミナーをやると、最前列には80代の方が座っていたりするほど高齢者の方が多い。どう対応するかを考えると“ツールで”と考えがちだが、“楽しい”という感情が生まれてきていることを忘れてはいけない。サービスによって、これまでできなかったことができるのが楽しいとか、孫の写真を見られるのが楽しいとか。また、会社をリタイヤし、自分よりもさらに高齢の方にWebサイトの作り方を教えて社会貢献できるのが楽しいという場合もある。人の生きがいがどこにあるのか、目を向けられないことは多いが、本質的にはテクノロジーではないと感じている」と説明した。

最後に倉重氏は、「今日の話を聞いて改めて実感したのは、震災の影響で産業が大ダメージを受けてしまった東北を底上げする起爆剤のベースがWebサービスであるということ。社会的意義があることを感じたし、利用する側もこのようなサービスに目を向けて、固定観念を拭い去って積極的に使っていくことが重要だと思う。我々もイチから作るという固定観念を捨てて、最適であるならWebサービスを提案していくべきだと痛感した。会場のみなさんも、今日ここで聞いたことを身の回りの人に広げて日本の経済活性化や被災地支援に少しでも役立ててほしい」と話し、第二部を終えた。


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