Web広告研究会第二回東北セミボラレポートpart3(全3回)「ソーシャルメディアのROIは十分か~無印良品とスターバックスが明かす活用の裏側と展望~」 イベント報告
- 掲載日:2012年5月18日(金)
ソーシャルメディアのROIは十分か
無印良品とスターバックスが明かす活用の裏側と展望
東北セミボラ最後の講演となった第三部では、良品計画とスターバックスコーヒージャパンのソーシャルメディア担当者が登壇。両社ではどのようにソーシャルメディアを運用し顧客と対話しているのか、ビジネス成果はあるのかなど、対談で取り組みを明かしていった。
東北セミボラ最後の講演となった第三部では、「ソーシャルメディアコミュニケーションの実際 担当者の本音」と題し、株式会社良品計画 Web事業部 コミュニティ担当の風間公太氏と、スターバックスコーヒージャパン株式会社 マーケティング本部 WEB・CRMチーム チームマネージャーの長見明氏がソーシャルメディアのコミュニケーションについて対談。急遽参加となった株式会社ツルカメ代表取締役社長 UXディレクターの森田雄氏が合いの手とTwitterからの質問を拾う係として登壇した。
無印良品とスターバックスでは
ソーシャルメディアをどのように活用しているか
スターバックスコーヒージャパン株式会社
マーケティング本部
Web・CRMチーム
チームマネージャー
長見 明氏
長見氏は、まず「今日は店舗誘導などの話ではなく、ソーシャルメディアをやっていての実感や本音について話し合いたい」と説明する。
良品計画、スターバックスコーヒージャパン(以下、スターバックス)ともにFacebook、Twitter、mixiを運用しており、良品計画は40名、スターバックスは7名のデジタル関係のスタッフがいる。ただし、両社ともソーシャルメディアの担当は1名が兼務で行っているという。
株式会社良品計画
Web事業部 コミュニティ担当
風間 公太氏
ソーシャルメディアを始めたキッカケについて風間氏は、「ソーシャルメディアだから使い始めたというよりは、課題解決の1つの手法として2009年10月にTwitterから始めた。無印良品では7,000ほどのアイテムを販売しているが、これだけの商品数があると、チラシやCM、メールマガなどの既存のメディアで紹介できる商品が限られるので、他のメディアで商品を紹介したいと考えた」と話す。それに対して長見氏は、「2009年だとTwitterが登場して間もない頃だと思うが、上司の反応はどうだったのか」と質問すると、風間氏は「すぐにやろうという話になった。まだ炎上などの話も少なかったし、社内に説明してもわからないだろうから、まず始めようという感じだった」と話す。
一方、長見氏は「2010年頃からTwitterなどをやっていないとキャンペーンを展開しづらいとは感じていた。上司からは予算を付けるといわれていたが、予算よりも人がほしいと要求していて、実際に人が配置できるようになって始めたのは震災直後の2011年3月16日。また、東北から北関東に約100店舗あり、社員の連絡は取れたものの、アルバイトとの連絡が取りづらかったこともキッカケの1つ。震災直後の月曜から取り掛かって、水曜には運用を始め、4月にはFacebookも始めた」と説明し、マーケティングよりも必要に迫られて開始したことを明かす。
株式会社ツルカメ
代表取締役社長
UXディレクター
森田 雄氏
続いて、「ソーシャル(メディア)をやって、実際にスタッフのコストがまかなえているのか、儲けが出ているのかというのは気になるところ」と森田氏は質問する。
風間氏は、「ストレートに言えば儲かる。ソーシャルの結果が出ないという話や、プロモーションよりもエンゲージメントが大事という話はよく聞くが、我々のような小売業は商品を販売することが重要なので、エンゲージメント率などには頼らない。そのような数字を上司や社内に示しても理解されないと思うし、我々の場合は売上という数字で結果を出そうとしている」と話す。良品計画では、ソーシャルで紹介した商品は、前日比で約1.5~3倍売れているという。
「ソーシャルでは、あえて他のメディアでは露出していないような商品や店舗で見つけにくい商品を紹介している。たとえば、一昨年はあまり知られていなかったスマートフォンなどを操作できるタッチパネル手袋を紹介したら、大きな話題になり、全国で品切れとなった。店頭でもよく見ないと気づきにくいが、ソーシャルで紹介することで気づいてもらえた。また、デジタルガジェット系はソーシャルと相性が良い。ただ、儲かるとは言っても、ベッドやソファなどの高単価な商品を紹介しても売上は伸びず、数百円から2,000~3,000円のものが売れる」(風間氏)
長見氏から「紹介する商品の選定はどうしているのか」と聞かれると、風間氏は「自分の独断で選んでいる。最近は、ソーシャルで話題となるような商品が自然とわかるようになってきた」と話す。また、紹介のヒット率を聞かれた風間氏は、「3割打者くらいにはなりたいと思いつつ、結果的にはたまに代打満塁ホームランが打てれば十分といった気持ち」だと答えている。また、売れ筋の商品を紹介しても、他のメディアでも紹介されているので、ソーシャルでの効果測定が難しいため、ロングテールやニッチな商品の売上アップに利用しているという。良品計画では、ECサイトも運営しており、風間氏も当初はECへの流入を狙っていたというが、意外にも実店舗集客の重要なチャネルとなっていることも明かされた。
一方、長見氏は「あまり儲かるという実感はない」と話す。「我々は、ソーシャルメディアの滞在時間の長さに注目して運用している。最近はマーケティングコミュニケーションをやっても、ラジオや雑誌などにパワーを感じられず、Webかテレビしか接触メディアがない状態。一方で、SEOをやりきっている会社はサイトへのトラフィックが減っていて、ソーシャルに接触時間を取られているという話も聞く。今、ソーシャルの利用者が増えてきている段階でやっておかなければ、後からでは追いかけるのが難しい。儲かりはしないが、メディアへの投資コストとしてはコントロールできていると思う」と話した。
エンゲージメントを気にせず
接客の延長だと思い活用していく
続いて話題はソーシャルメディアのROIに移っていく。風間氏は、「コストを数値化しているわけではないが、自分1人の担当で1日1時間の人的コスト以外はかかっていない。ROIは非常に良いと考えている」と話す。また、「アカウント運用には極力コストをかけていない。運用している実感としてコストをかければかけるほど費用対効果が下がると感じている。その反面、ソーシャルとの連携やサイトのソーシャル化に力を入れ始めている」と説明している。
風間氏によれば、2011年末から2012年初めにソーシャルと連携し、1万人にカレーの無料クーポン配布キャンペーン「MUJI 福 CURRY スゴロク」を行ったところ、2週間で3万人が200万回プレイ、延べ9,700人が来店し当初想定の2倍の売上があったという。「大きな結果が出たことでソーシャルの新しい可能性を感じることができた。最も多く双六をプレイした人は1,700回くらいプレイしており、時間にすると計15時間くらいプレイしてくれたことになる。売上が伸びたという結果もよかったが、ソーシャルと連携することによって長い接触時間を獲得できたことに一番の価値があると思う。これまでは、ECのコンバージョンなどを追いかけていたが、ソーシャルメディアが一般的になり、普段の生活の中で、いかにして我々との接点を設けていくかをCRM的な視点で重視している」と風間氏は説明する。
ここで、米国のスターバックスがTwitterでのキャンペーンを行っていることに関して会場から質問があり、日本では同様のキャンペーンを行う予定はないと答える長見氏に対して、森田氏は「ソーシャルメディアの面で米国本社からの縛りといったものはないのか」と質問する。
長見氏は「ないと思ってよいと思う」と答える。「小売業は輸入しづらい業種で、ローカルの考えやお客様を見ないと成功しない。スターバックスが日本に根付いたのは、日本のマーケットやお客様を見て、現地の人間がすばやく決定できたから。ソーシャルメディアのガイドラインはあるが、お客様を見るとか、発信にアウトソースを使わない、といったものしかなく、自分も同じ考えであるため、強要された気はしていない。接客業であるため、アウトソースを使って発信することは考えていなかった」と長見氏は説明を続ける。良品計画は、日本から海外に展開する企業だが、風間氏も「日本と同じような手法を使って海外で結果が出るわけではない」と同意する。
次に長見氏は「ソーシャルメディアと小売業は相性がいいと思う」と話題を変える。TwitterやFacebookで上位にランキングされている企業は小売業やサービス業が多く、相性の良さがランキングに表れているというのだ。それに対して風間氏は「我々は毎日実店舗でお客様とFace to Faceで顔を合わせているので、ソーシャルメディアだからといって特別に考える必要はないと思う。難しいガイドラインより、店舗スタッフがお客様と接しているスタイルそのままに、ソーシャルメディア上でも立ち振る舞えばよい。ソーシャルメディアは新しいものなので、どうしても違うものと捉えがちだが、企業対お客様という点ではなんら変わりがない。その視点さえ外さなければ、大きな問題は起こらないはず」と答える。
一方、長見氏は「自分も風間さんと同じようにエンゲージメントよりも接客と考えているが、単価の高い商品を売っている家電メーカーなどはエンゲージメントを非常に気にすると聞いたことがある。しかし、よくよく話を聞くと、単価の高い物は購買決定までに時間がかかり、その間にホームページで商品を調べたり、Twitterで質問したりすることを考えているようなので、結局は接客をしているのだと思う。したがって、あまり情報発信やエンゲージメントといった言葉を使わずに、接客をどうするかと考えてお客様と会話していけばいいと考えている」とも話す。
お客様の声はソーシャルでなくても聞ける
ポジティブな意見が現場のモチベーション
ここで森田氏は、Twitterからの質問を風間氏と長見氏に投げかける。1つ目は、「1人での運用はコストもかからずROIも高いと思うが、企業としての継続性を考えるとチーム運用も必要ではないのか」というもの。
長見氏は「継続性はもちろん考えていて、さまざまな人が発信できるのがベストだと思っている。しかし、すべてのWeb担当がすぐに同じクオリティで応対できるかどうかは難しい。もう少し組織力を付けるまでに時間がかかると思っている。接客と考えれば、難しいスキルではないが、それを組織として溜め込んでいくのには時間がかかる」と話す。
一方、現在1人でソーシャル対応を運用している風間氏は「継続性はまさに必要だと考えている。自分から他の人に担当が変わるときに何を重要視するかといえば、発信する内容ではなく、サービスレベルだけは落とさないように担保すること。たとえば、Twitterでは何か質問が来たら100%返すようにしているが、担当者が変わったからといって返信がなくならないように考えている」と説明する。
続いての質問は、スターバックスに向けたもので、「マーケティングの視点でソーシャルメディアがいけるかも、と思うことはあったか」というもの。これに対して長見氏は、「ソーシャルメディアでいける、と思ったことはない」と答えたうえで、「ソーシャルメディアで話題となっているものは、リアルでも話題となっている。EC専業で先日も新商品の発表がソーシャルでバズっていたが、リアルでも大きな話題となっているので、ソーシャルメディアだけでいけると思うことはない」と説明する。また、「風間さんの事例を考えれば、眠っているいいネタを発信すると話題になるように、ネタの感性や人の話題に上るにはどうすればいいかという本質的なところの視点が問われるのがソーシャルメディア」とも話す。
次の質問は、「ソーシャルの積極活用がテーマの中心となっているが、リスニング(傾聴)についての取り組みは?」というものだ。風間氏は「リスニングなどは行ってはいるが、そこから何かのアクションを起こすということはまだできていない。我々は元々、お客様の声を聞く文化がある企業で、ソーシャルメディアを始める前からWebでお客様の声を聞いて商品開発するなどを行ってきた。ソーシャルメディアだから特別に何かするという考えはあまりないのかもしれない」と答える。
長見氏は、「モニタリングは行っているが、レスポンスはできていない。早いスピードでファン数が増えているので、すべてレスポンスするには何人居ても足りないことが予想される。ダイレクトにメッセージが来たものにはお答えし、重要なものには返事をしているが、接客を考えたときに返事を出さないほうがいい場合もあり、その判断が難しいと思う」と話す。
また、「傾聴やお客様の声を聞いてマーケティングに活かすというのは、どの企業でも命題だと思う。我々のような小売店は、実店舗でヒアリングができていて、それが本部に上がってくるのが理想的。米国では、My Starbucks Ideaというサイトでサービスの改善に対する意見を募っており、それが担当者に振り分けられ、どんなに忙しくても検討しなければならない。ソーシャルメディアで傾聴の仕組みを持っているかどうかよりも、ユーザーの声をきちんとビジネスにつなげようという文化が浸透しているかどうかのほうが重要だと思っている」とも長見氏は答えている。
続けて風間氏は「傾聴という話が出ると、企業に対する疑問や解決という話になるが、ソーシャルメディアだから特殊な声があるわけではないと思う。むしろ、他のメディアよりも感謝や賛辞の声が多いのがソーシャルメディア。これらの声は、たとえばお客様対応窓口などにはなかなか届かなかった声で、商品開発担当者などに届けると、非常に喜んでモチベーションも上がる。これは、ソーシャルメディアを始めて非常に価値があると感じたことの1つ」と話す。長見氏も、現場のモチベーションアップにソーシャルメディアが役立っていることを明かしてくれた。
企業規模が小さくても
ソーシャルに限らずWebをやるべき
ここで、良品計画とスターバックスに個別の質問がそれぞれ紹介される。良品計画には、「英語圏でのソーシャル展開の予定はあるか」というもので、風間氏は「英語圏に限らず、世界に向けたものとして英語のFacebookページも運用して発信している。Facebookを始めた理由の1つは、グローバルでのコミュニケーションを取りたいと考えたこと。ただし、認知や理解は日本とそれ以外の国では大きく違う。日本以外でもアジアと欧州と米国では違うため、日本と同じようなものに育てていくためには、よりローカルな情報を盛り込むなどの違う視点での戦略が必要と考えている」と答えている。
また、スターバックスに対しては「My Starbucks Ideaを日本でも行うことは可能か」という質問が出され、長見氏は「いつかは日本でもやりたいと思っている。そのためには、タイミングや組織体制を整える必要がある。しかし、米国と日本では事業規模で10倍以上の差があり、日本ではお客様の声が本部まで届いているので、どうしてもやらなければならないという状態ではない。店舗にはご意見を書いてもらう用紙があり、社内でもじっくりとそれらを見ている」と話す。
実際は講演のために多くのテーマが用意されていたが、話が盛り上がったため、長見氏から最後のテーマ「もしも、売り上げ50億円の会社に転職したら…」が提示される。このテーマについて長見氏は、「10~20人規模の会社なら、社長がソーシャルをやるという形になると思うので、もう少し大きな規模の中小で会社ぐるみでソーシャルをやるべきかどうか、我々がそこに転職したらどうするかを話してみたい」と説明する。
風間氏は「やらない選択肢はないと思う。ソーシャルメディアに限らず、今ではその会社のホームページがFacebookでも十分と思うし、第二部で出てきたWebサービスなども大いに活用できると思う。お金をかけずにWebを運用できる時代になっていることは確か。ただし、業態によってはソーシャルメディアに向き不向きがあるので、やっていく中でどれくらいのウェイトをかけていくかを調整していく必要がある。また、規模が小さいほど、ソーシャルメディアでこちらからお客様に歩み寄っていけるので、それによって新規顧客を開拓していく可能性もあると思う」と話す。
長見氏は、「BtoBの企業でも、開発窓口や営業がスマートフォンで対話するのにソーシャルメディアが使える。発信面だけでなく、お客様との会話にも使えると思う。また、炎上が起こったとしても、対応次第では大きな広告活動や認知につながり、ビジネスチャンスにもなると思うので、安価に始めてみたほうがよいと思う」と説明した。
最後のテーマだけでも話は尽きなかったが、時間が来てしまったため、森田氏は「この後の懇親会にお二人も参加されるので、質問をしたい人は直接お願いしたい」と話し、東北セミボラの全プログラムを終えた。
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