「ステマVSホンマのマーケティング~メディア化戦略に必要なオープンイノベーションとは」第一部 2012年5月14日開催 イベント報告
- 掲載日:2012年6月15日(金)
【2012年度第3回月例セミナーレポート/第一部】
ステマVSホンマのマーケティング
メディア化戦略に必要なオープンイノベーションとは
企業のメディア化戦略で重要なのはオープンイノベーションである。このように語るのは、インフォバーンの小林氏。企業のメディア化戦略について語る小林氏は、特に重要なキーワードに対話と協創を挙げ、自社だけでなく、他の企業とも連携するオープンイノベーションが重要になると説明した。
2012年5月14日に行われた2012年度第3回月例セミナーは、「Webクリエーション・アウォード10周年記念セミナー」と題され、今年で10回目を迎える同アウォードを記念したセミナーとして開催された。第一部では第9回Web人貢献賞を受賞した株式会社インフォバーンの小林弘人氏が講演。第二部では、受賞者によるトークセッションが行われた。
第9回Web人貢献賞受賞の小林氏が勧める
企業のメディア化と次の課題
第9回Web人貢献賞受賞
株式会社インフォバーン
小林 弘人氏
「メディア化する企業、次の課題とスマートフォン向け新規事業」と題された講演で小林氏は、自身の著書である『メディア化する企業はなぜ強いのか?』を元に「オープンイノベーション」についての解説を始める。
オープンイノベーションとは、単一の企業だけでなく、他の企業や他の業態・業種と一緒にイノベーションを進めることだ。基本的には、トリプルメディアを統合的に運用していくことで、インバウンドにおいては「オウンドメディアを最終地点として、そこに人を呼び込むためにペイドメディアを使い、アーンドメディアとオウンドメディアを両義で考える」と小林氏は話す。一方、アウトバウンドでは、オウンドメディアとアーンドメディアで情報を発信し、あわよくば一般のメディアやペイドメディアで拾ってもらえるように考えているという。
「オウンドメディアを考えることは、アーンドメディアを考えることと同義。お金を使わないなかで、いかにペイドメディアの壁を乗り越えるかが課題となる」(小林氏)
企業メディアの統合戦略
メディアを形成するコンテンツには、次の4種類に大きく分けられると小林氏は話を続ける。
1. 記事配信
2. ゲーミフィケーション
3. 対話
4. コ・クリエーション(協創 )
1つ目の記事配信では、記事も各ターゲット別やLTV(Life Time Value:生涯価値)別に顧客を仕分けして作ることが重要だ。検索でたまたま引っかかって来訪してきた人のためのメディアや、ヘビーユーザーのためのメディアなど、LTV別にコンテンツを作ることができるという。
2つ目のゲーミフィケーションは、ゲームやポイントなどの短期的な施策となる。
3つ目の対話では、リアルとオンラインの両方で考える必要がある。小林氏は、自身の体験から、ある広告代理店からFacebookページを始めたが流行っていないので閉じたいと相談を受けたエピソードを話す。「Facebookページを流行の新しいチャネルや新しい看板と認識するのではなく、対話と捉えることが重要」と話す小林氏は、対話は一度始めたらやめることができず、流行らない理由は対話を行っていないからだと指摘する。オンラインだけでなく、リアルなイベントも含めた提案を行い、オンラインで集客してリアルでエンゲージメントを高めることが必要となるのだ。
4つ目のコ・クリエーション(協創)では、自社だけでコンテンツを作るのではなく、顧客や他の企業とともに作り上げるコンテンツがある。
続いて小林氏は、「テレビなどのマスメディアの影響力は大きく、A地点(認知)からB地点(興味)に多くのユーザーを瞬時に連れて行く」と話し、友人の書籍がテレビで紹介されたことで爆発的に売れたというエピソードを紹介する。しかし、B地点に来た多くのユーザーは、そのまま留まるわけではなく、次の興味にすぐ移ってしまう。
「せっかく宣伝費を使ってマスメディアを利用したのに、ユーザーが残ってくれないのではもったいない。残った人や残る人のデータも取れない」(小林氏)
このように話す小林氏は、マスメディアから連れて来た多くのユーザーを留まらせるためにB地点をメディア化させることが重要だとした。
エンゲージメントを永続させる努力はメディア的である
企業のメディア化戦略は
日本のユーザーと親和性が高い
次に小林氏はデロイトトーマツの2010年メディアデモクラシー調査を示した。米国、カナダ、ドイツ、フランスと比較しても日本はテレビを見ながらTwitterを利用している人が非常に多いという。
同資料から各国の行動因子からみる全体像を取り上げると、日本は広告受取のために個人情報を提供してもよいという率が高い。インターネット広告がわずらわしいと考えている人も低く、オンラインメディアの利用意向も高い。
さらに、最も影響力の強い広告媒体としてインターネットを挙げた人は日本が一番多く、米国の2倍以上にもなるという。一方で、世界と比べて日本はSNSを介した対人関係構築を重視する率が低くなっている。
小林氏は、「これらのデータを見れば、企業のメディア化戦略は、実は日本人と親和性が高いということがわかる」と説明する。「しかし、一方的な宣伝だけではメディアとは言えない」と話を続ける小林氏は、企業のメディア化は「アドボカシー(支援)・マーケティング」の1つであると解説する。
「自社メディアは主観であるため、アドボカシー・マーケティングのように顧客支援する立場が重要です。顧客を辟易させるのではなく、顧客のために情報を提供する。仮に他社の製品のほうがその顧客にとってよければ、それを伝える。そうしたことを貫けば、信頼が生まれているわけですから、ステルスマーケティングなどしなくても、自社の新しい商品サービスを堂々と伝えることができる」(小林氏)
小林氏は、一時的に損をしても、そこから生まれる信頼を利用して長期で得をすることが重要であることを示す。自社メディアは主観であるため、アドボカシー・マーケティングが重要となり、「顧客と目線を揃えて伝える・声を聞く・交わる」ことで相手にメリットがある情報を継続的に発信することで読者(顧客)を育てて、読者に支えてもらうことができるのだという。
また、アドボカシー・マーケティング以外にもソーシャルメディアで行っていかなければならないこととして小林氏は「事前期待のマネージメント」を挙げる。華美なイメージや美辞麗句で商品を紹介していると顧客が過度な期待をし、結果的に悪評を生む。一方で、身の丈に合った正直な顧客支援を行えば信頼を獲得でき、リピーターを増やすことができる、というものだ。サービスは提供することを発表したときから評価対象となるため、その時点から事前期待をマネージする必要があり、適切な事前期待を自社メディアで行うことが必要だという。
小林氏は適切ではない事前期待の例として、中古車サイトで写真にキラキラとしたスタンプをつけている例や、不動産サイトでの広角レンズを多用したマンションの写真などを挙げ、演出と営業の相違となっていると指摘。また、ある老舗の旅館は、キレイな写真をFacebookページに掲載していたが、実際とのギャップで宿泊客ががっかりしていることを知ったという。この旅館では現在、ホスピタリティの考えや旅の見所などの紹介をコンテンツの中心にしている。
これらを踏まえて小林氏は、「ステマVSホンマ」と話す。ステマはステルスマーケティングの略だが、ホンマは小林氏の造語で本音や本気のマーケティングを示し、ホンマで勝負することが重要だと話している。
「企業のメディア化はサービスの端緒かつ終端にある」と話す小林氏は、“モノを提供するサービス”は経験も情報も提供する必要があり、“経験を提供するサービス”は情報も提供する必要があり、“情報を提供するサービス”は経験も提供することがあると説明し、すべてのサービスは情報を提供する必要があると解説する。
サービスは情報を提供する必要がある
続けて小林氏は次のようにも話す。
「B2Bの企業は情報サイトやメディア化は必要ないと考えがちだが、B2Bの企業のほうが、専業者や詳しい知識のある人が検索するため、メディア化がしやすい。メディア化の障壁が下がった現在、すべての企業は直接その顧客とコミュニケーションして、長期にわたる関係構築が可能となっている」(小林氏)
前述の4つのコンテンツのなかでも対話と協創にフォーカスして解説する小林氏は、対話と協創にはオープンな場が必要だと話す。そして、オープンな場には次の4つの条件が必要だと説明する。
1. だれもが参加できること
2. リソース(集まった情報)が共有できること
3. 改良・修正できること
4. その過程が可視化されていること
これらを実現するためには、オープンイノベーションマネージメントツールが必要とされ、現在では「Spigit」「Brightidea」「Jive」などの多くのツールがあり、日本語化されているツールもあるため活用してほしいと小林氏は話し、コ・クリエーションの事例をいくつか紹介した。
一方、小林氏はオープンイノベーションには課題もあると話す。
「オープンイノベーションはメディア化できると思っている。プロセスを可視化・透明化しなければならないため、その透明化する手段をメディア化してお客様に楽しんでもらうことからスタートできると思う。これからは、オープンイノベーションの可視化が課題」(小林氏)
また、オープンイノベーションで社外に行く前に社内の風通しが悪いのでは意味がないため、部署間のインサイド・アウトと企業間のアウトサイド・インの2つの考え方でプロセスを可視化することは、メディアに向いていると示した。
最後に小林氏は、SoLoMo(Social、Location、Mobile)とアプリケーションプラットフォームを掛け合わせた新規事業として、新たに「デジモ」を立ち上げていることをデモで紹介し、アプリに留まらずプラットフォームとしてサービスを拡張していくと話し、第一部の講演を終了した。
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