Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「先端企業から学ぶAR最新事例と現状~活用には実現性と必然性が重要~」第一部 6月25日開催月例セミナー イベント報告

  • 掲載日:2012年7月26日(木)

【2012年度第4回月例セミナーレポート/第一部】
先端企業から学ぶAR最新事例と現状
活用には実現性と必然性が重要


企業におけるAR(拡張現実)の活用方法や効果は、生活者のメディア接触のイマとはどのようなものか。ARビジネスのナレッジワークスとコンセプトによる最新事例、調査データ「メディア定点調査2012」による生活者のメディア接触から、さまざまな事例やデータが明かされた。

さまざまな技術とデバイスで用途が広がるAR
ゼロではなく付加から始める「+AR」のススメ

Web広告研究会の2012年度第4回月例セミナーが6月25日に開催された。第一部では、ナレッジワークス ソリューション開発事業 マネージャー 亀山悦治氏と、コンセプト 代表取締役社長 森川和正氏がARへの取り組みと最新事例についてデモを交えて発表した。第二部では、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長 吉田弘氏が、「メディア定点調査2012」をもとに、生活者のメディア接触が現在どのように行われているか発表した。

第一部では、まずナレッジワークスの亀山氏が「ARの現状と拡張事例」をテーマに講演した。特徴的だったのは、ARのデモを行うために、亀山氏がスライドなどをすべてiPhoneで操作していたことだ。

 
ナレッジワークス株式会社
ソリューション開発事業
マネージャー
亀山 悦治氏

「仕事でも趣味でもARに関わっている」と話す亀山氏は、「4~5年前からARは注目されていたが、ここ2~3年で爆発的に利用されるようになってきた」と話し、スマートフォンなどのデバイスやクラウドなどのプラットフォームの整備がARを加速させていると説明する。また、さまざまなデバイスを使ってARが実現されていること、ARを実現する手法や、テクノロジーとプラットフォームにもさまざまなものがあることを明かした。

ARを実現する手法

また、ARの用途が広がっていると亀山氏は解説する。具体的には、次のような利用シーンに広がっているという。

・絵本、教科書、図鑑
・雑誌、カタログ、チラシ、マニュアル
・商品プロモーション
・グリーティングカード、名刺
・展示会、イベント、デジタルサイネージ
・観光ガイド、工場見学、博物館、美術館
・什器設置、家具配置、アパレルなどのシミュレーション
・医療技術、工場現場、機器操作などの操作支援
・リアルな場所やモノを関連させたゲーム

ここで、亀山氏は実際に家具などの配置シミュレーションのデモを見せながら説明を続ける。ARで表示させた家具などは、その中身を表示させたり、説明のための文字情報を付加させたりできる。また、クリックしてSNSで共有したり、Webサイトへ誘導したりするなど、商品の購買につなげるような行動を比較的容易に行うことができる。「ただ単にARを出すだけでなく、サイトやSNSへ誘導してどのようにコンバージョンさせるかが重要」と話す亀山氏。AR制作のコストも、2~3年前に比べると導入しやすいものとなってきているようだ。

ARの効果について、亀山氏はARソフトウェア開発のZUGARA社の資料を元に説明を続ける。ZUGARA社が英国アパレル企業のBanana Flameで手がけたバーチャル試着の事例では、40%以上の人が詳細ページを表示し、さらに80%近くの人がARを体験し50%の人がカートへ追加しているという。

また、英国の玩具メーカーのHidden社の事例では、100人の親に印刷された玩具の写真を見せた場合とARで玩具を体験させた場合の購買率を比較しており、印刷された写真(2Dのカタログ)の購買率45%に対し、ARの購買率は74%と、ARの効果が高いことが示されている。購買金額についても、印刷された写真の5.99ポンドに対し、ARでは7.99ポンドと高くなっており、ARを体験することで実際の購買意欲が上がっていることを示している。

「ARはギミック的な要素と言われているが、驚きや目新しさを提供するだけでなく、顧客との接点の強化や情報の可視化、よりよい体験価値の顧客への提供などが行える新しいインターフェイスだと私は思っている」と話す亀山氏。2012年からARの技術は飛躍的に普及しており、すでに特別な技術ではなく、個人でも無料でARを作成でき、企業も安価かつ迅速に導入できるようになっていると説明した。

そのうえで亀山氏は、ARをそのまま使うのではなく、何かにARを付加させる「+AR」という考え方が取り組みやすいのではないか、と提案する。ARのためのARを作るのではなく、少しずつ使っていって、効果を見ながら導入している企業も増えてきているという。

その例の1つとして、亀山氏は、英国オートノミー社が開発したARプラットフォーム「Aurasma(オーラズマ)」を利用したアプリ「mue Alive(ミューアライブ)」を使った紙メディアを活用したARのデモを行う。mue Aliveは、画像認識型のARプラットフォームで、利用者は開発などを行わなくても設定するだけで利用できる。また、オフラインからオンラインへと誘導するビジュアルブラウジングARであり、画像をキッカケにインタラクティブなコンテンツを表示してのWebブラウジングまでを可能にしている。

2011年6月の発表以来、Aurasmaは世界80カ国で利用され、2012年2月時点で300万以上のダウンロードを記録し、世界で4,000以上の企業が利用しているという。

日本でも多くの企業がAurasmaを利用しているが、亀山氏はその中から毎日新聞社のアプリをデモで見せ、新聞紙面の記事写真などが自然に動画に変化する様子などを示している。また、日本HPの広告からアイドルのメッセージを見ることができる「雑誌+AR」の事例や、チラシやカタログから動画再生やWebサイトへの誘導を行う「チラシ+AR」や「カタログ+AR」の事例、イベント会場などで場所限定や日時限定のキャンペーンを行う「イベント+AR」の事例、コミックからビデオ視聴や3D表示を行う「コミック+AR」の事例など、さまざまな「+AR」の事例も示した。

ARの有効活用には
クリエイティブディレクターが不可欠

続いて登壇したのは、ARの技術開発やソリューション提供を行うコンセプトの森川氏だ。森川氏は、亀山氏同様に同社のARへの取り組みとARの現状について解説する。

株式会社コンセプト
代表取締役社長
森川 和正氏

「以前、ARは位置情報連動(LBS:Location Based Service)型が話題となっていたが、最近はあまり話題になっていない。その一方で、海外では電通のiButterflyの知名度は高い」と話す森川氏。また、画像認識型ARとしては、KDDIとトータルイマージョンがARの日常化を目指す新ブランド「SATCH」を立ち上げており、半導体企業やGoogleなどもARへの積極的な動きが見られる。これらの動向を見て森川氏は、個人的な意見としながらも、「メディアとしてのARというより、技術としてのARの可能性追求は継続して関心が高い状況にある」と説明した。

そのような状況のなかで、ARに興味を持つ企業は増えていると感じている森川氏だが、ARを利用すれば興味関心を引けるとは限らず、実現性や必然性をしっかり考える必要があると説く。「特にiPhoneアプリの審査が厳しくなっており、アプリとしての必然性やコンテンツに対するクオリティが強く求められている」と話す森川氏は、ARを利用するからこその面白さや魅力訴求、必然性が重要だと強調する。ARを使うことによってどのようなリターンを得られかなど、ARを利用する確固とした理由付けが求められているのだ。

また、AR技術を利用するのはスマートフォンだけでなく、さまざまなプラットフォームがあり、それぞれビジネスモデルやニーズが違ってくると森川氏は説明する。たとえば、コンセプトのARエンジンにはiOSやAndroid向けのSDKが提供されているが、それらのSDKを使って自分たちでいちからアプリ開発を行わなくても、ゲーム開発エンジンのUnity3DやCocosのプラグインを使うこともできるという。その他、任天堂3DSや放送用のAR環境も提供されている。

ARのトリガーについては、GPSや加速度センサーやジャイロセンサーなどのセンサー系のほか、画像認識などがあるが、その制度はデバイスの進化とともに向上しており、トリガーの組み合わせで複合的な認識も行えるようになっていると森川氏は話を続ける。デバイスの進化によって、表現の幅が広がってきているのがARの現状だ。

そのなかで、森川氏は自身の3年間のARビジネスの経験から、ARに成功する例と失敗する例を以下の図のように分けて示した。


AR利用における成功例と失敗例

そのうえで、森川氏は個人的な意見としてARの将来性とポイントを3つ挙げている。「美術館・ショールーム、店頭などで利用できるパッケージ」「クリエイティブとの融合において高度な展開を期待するソリューション」「SCAN ITのような表現テンプレートが充実しているプラットフォーム」に将来性を感じると話す森川氏は、今後はクリエイティブディレクターの存在がより重要になると話す。ARは単なるシステム開発ではなく、表現やアートが必要で、それらをコンテンツと融合させるためにもクリエイティブに対するコントロールが重要となってくるというのだ。

また、ARの活用にあたっては品質管理が重要になってくる。特にAndroidのカメラは共通仕様ではなく、ハードウェアとしてメーカー独自の仕様となっているため、端末ごとの品質のバラつきやクセが大きい。グローバルで販売されている端末であっても国によって仕様が異なる場合もあるため、テストが非常に重要だと森川氏は説く。

最後にコンセプトのAR実績について話した森川氏は、ショールームで等身大の人が壁から飛び出して会社説明を行う事例や、図鑑の3D表示でのAR活用、雑誌と連動させたARの事例などをデモで見せ、第一部を終了した。


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