Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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ブランディング広告はRTB経由が主流に、「NY Advertising Week 2012」で語られた最新オンライン広告市場 2012年10月23日開催 月例セミナーレポート(1) イベント報告

  • 掲載日:2012年12月5日(水)

ブランディング広告はRTB経由が主流に、「NY Advertising Week 2012」で語られた最新オンライン広告市場

企業のブランディング予算はオンラインへとシフトし、リアルタイム入札が主流になりつつある。米国最大の広告業界イベント「Advertising Week 2012」の参加報告から、オンラインブランディング広告発展の行方をAJ Advisersのアンディ・マイヤーズ氏が解説した。

オンラインブランディング広告の発展が今後の課題

WEB広告研究会の第6回月例セミナーは、第一部でAJ Advisers LLC日本支社代表のアンディ・マイヤーズ氏が米国の最新事情を、第二部では普千(上海)商務諮詢有限公司 董事総経理の宮田将士氏が中国の最新事情をそれぞれ解説する講演が行われた。最先端を行く米国とビジネスとして今後も目が離せない中国の“今”がわかる国際色豊かなセミナーとなった。

第一部では、「NY Advertising Week 2012からオンラインブランディング広告の発展を読み解く」をテーマに、2012年10月1日から4日までニューヨークで行われた米国最大の広告業界イベント「Advertising Week 2012」の現場報告をアンディ氏が行い、これからのオンラインブランディング広告がどのように発展していくのかを考察した。


AJ Advisers LLC日本支社
代表
Andy Meyers(アンディー マイヤーズ)氏

Advertising Weekは、ここ数年規模が大きくなってきているカンファレンスで、インターネット広告の業界団体である米国IAB(Internet Architecture Board)などのセミナーや複数のイベントが同時開催され、多くの企業イベントも開催されている。アンディ氏は「短期間で米国の広告の実情がわかる有益なイベント」と話し、ad:techよりも専門的な業界のリーダーがAdvertising Weekに集まってくると説明する。そのうえで、今回の講演は、「ブランディング広告」「ソーシャル広告」「コンバージェンス(収束)」3つのポイントについて解説することを示した。

・ブランディング広告:ユーザーが望んでいるものを提供しない限り、邪魔になるし、効果的ではない
・ソーシャル広告:代理店、ネットワーク、DSP、SSP、媒体などが効果測定データを提供しなければ、広告主(CMOなど)を説得できない。現在の業界最大の課題は、意味のあるデータ分析とリサーチにある
・コンバージェンス(収束):「PC→携帯→タブレット」「オンライン→オフライン」「マス→ソーシャル→ローカル」などの話

アンディ氏はまず、顧客にとって望ましい広告とは何かと話し、「データ広告」「ソーシャル広告」「状況認識広告(Situational Awareness広告、状況に応じてユーザーが望むコンテンツを提供する)」の3つに分けて最新の状況を説明する。

データ広告は、ユーザーが興味を持ち探している情報を提供するものであり、アンディ氏はGoogleを典型的な例として示す。検索エンジンでもあり、メディアでもあるGoogleは、ユーザーが探している情報に関連した広告を出すことができるからだ。

また、FourSquareを例に出し、サービス開始当初は自分でメディアを作りたい、参加したいと自己投稿して楽しむことが中心だったが、ユーザーが増えて膨大なメディアとしてデータが蓄積された後は、良い店を探すツールとして使用されていると説明する。このようにユーザーが情報を探しているときに、広告主が割引などを提供すると喜ばれ、集客を行うことが可能となる。

これらの広告が、パフォーマンス広告とブランディング広告のどちらになるかは微妙であるとアンディ氏は説明したうえで、実際にブランディング広告で注目されているAmerican ExpressがFourSquareのユーザーに対して自動的に割引を受けられるようにしたことを説明し、ユーザーの邪魔にならずにスムーズにブランディング広告を展開できていることを示した。

ソーシャル広告は、企業のブランディング戦略で重要となってきているが、ソーシャルの普及に従って、ブランドとユーザーの関係が友達同士のようになっていることを指摘する。Advertising Weekでは、ソーシャルでの好感度(Social Desirability)という言葉が使われ、Facebookのファンなどの自社に関心のあるユーザーとの接触は、会話形式で友達のように接することが話されていたという。

3つ目の状況認識広告についてアンディ氏は、ユーザーが読みたいコンテンツを広告として提供していると説明し、ファッション雑誌の広告や新聞の映画広告を例にあげ、ファッションや映画などに興味がある人が情報を得るためにコンテンツとして読む広告であると定義する。また、米国のスーパーボールで試合前後の1か月間掲出される一連の広告は大きな話題となるため、広告そのものがイベントになっていると説明。なおAdvertising Weekでは、Facebookでのローソンの「からあげクン半額券」キャンペーンが紹介され、50万人を店舗に動員した事例として高く評価されていたという。


ユーザーが読みたいコンテンツを広告にする状況認識広告

失敗事例と現状から見るリサーチの必要性

続いてアンディ氏は、リサーチの必要性について説明を始める。米国では、オンラインにブランディング広告を出すことが1つの課題となっており、徐々にブランディングの予算がオンラインにシフトしているという。その要因の1つは、代理店や媒体社のなかで、広告主にメディアの実績データを十分に伝えなくてはならないという認識が高くなってきたことだ、とアンディ氏は説明する。

1つの失敗例としてアンディ氏は、Facebookが新規株式公開(IPO)の直前にゼネラル・モーターズがFacebook広告の効果を疑問視し、Facebookの有料広告から1,000万ドルの予算を撤退させたことを示す。

※フェイスブック、上場を目前に2つの懸念材料GMの広告停止と消費者の低い評価(JBPress)

大手自動車会社の広告撤退がIPO直前に発表され、大きな打撃を受けたFaceboookは、緊急課題として広告価値を評価したデータを提供する必要が出てきた。メディアとしての価値を示す必要があるFacebookは、米国DataLogixと提携し、オンライン・オフライン効果測定リサーチを行うことをAdvertising Weekで発表しており、「Facebookがブランディングのリサーチの必要性を感じることで、メディアや代理店もリサーチに注目しなければならないという認識が出てきている」とアンディ氏は説明する。

また、リサーチについては、代理店のトレーディングデスクの役割が重要になるという。米国では、リアルタイムに広告枠を売買すること、いわゆるRTB (Real Time Bidding:リアルタイム入札)が主流となりつつあり、1媒体の広告枠を1か月買い切るのではなく、複数媒体の広告を株式と同じように機械的に売買できるインフラシステムが構築され、急激に普及し始めている。

2010年の米国ディスプレイ広告市場の売買は4%がRTBになっており、2012年は13%、2015年には約25%になると予想されている。実際に米国ではオンライン広告を媒体社から直接買うのではなく、リアルタイム市場で売買する方向へとシフトしているという。また、以前はパフォーマンスキャンペーンで利用されることが多かったが、最近ではブランディング広告でも多く利用されるようになっているようだ。

リアルタイム市場の拡大は、広告主が望むターゲットユーザーに対して広告を打てることが魅力となる。これまでは、ターゲットが集まりそうな媒体に広告を出していたが、ユーザーの行動を分析することで、ユーザーを性年齢などの具体的なデモグラフィックに基づいて絞込み、広告配信をリアルタイムにできるようになるのだ。トレーディングデスク(Agency Trading Desk)は、これらのオーディエンス情報やメディアを効率的にリアルタイムで売買する役割を持っている。

しかし、アンディ氏はトレーディングデスクの役割が広告の売買実行よりもリサーチにシフトしていると話す。リーチしたい特定のオーディエンスを集める方法を知っているのは、早くからオンラインデータの重要性を認識していたトレーディングデスクであるため、キャンペーンの最初の企画段階から関わる必要があるというのだ。

特に大手代理店はリサーチに力を入れており、トレーディングデスクの役割は、パフォーマンスデータをメディアプランニングに、オーディエンスデータを最適なクリエイティブプランニングに、効果計測やアトリビューション分析データをROIの説得材料に利用することにあるという。

コンバージェンスに対応するには何が必要か

続いてアンディ氏は、2012年のAdvertising Weekでは「コンバージェンス」という言葉が流行りで、ほぼすべてのイベントで使われていたと話し、そのなかでもWebブラウザの「NCSA Mosaic」や「Netscape Navigator」の開発者で有名なベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン氏の言葉が印象的だったと、氏の言葉を説明する。

「現在我々は、プラットフォーム(PC, モバイル、ビデオ)とメディア(マス、ソーシャル、ローカル)が収束(コンバージェンス)する転換期の真ん中にいる。多くのマーケターはこのクロスメディア、クロスプラットフォームの機会の活用をし損ねている。次の3年間に大きな変化が起こる。最高の製品は必ずしも最初に市場に入ったものではない。満足を遅らせる意思を持っておくことが必要だと考える。成功する会社は、ユーザーエクスペリエンスを正しく行い、有意義な規模を構築し、収益化を開始する」(マーク・アンドリーセン氏)

1つのキャンペーンですべてのプラットフォームをカバーし、すべてのメディアに同じメッセージを出すことが求められているなか、どのように統合するかが模索されているが、まだ解は出ていない。そのなかで、アップルが垂直統合システムを進めており、Advertising WeekではマイクロソフトもWindows 8やIE 10の発表のなかで垂直統合システムに注力していることを明かしたという。GoogleやAmazonなども注目したいところだが、具体的な方向性が見えていないのが現状だとアンディ氏は話す。

最後に、アンディ氏は企業がこれから生き残るためには、目標を高く設定することが重要だと、マーク・アンドリーセン氏とFacebook CEO マーク・ザッカーバーグ氏の言葉を引用しながら説明する。

「企業はリスクを取らなくなったときに成長が横ばいする。かけたリスクやチャンスの半分が当たればよいほうだ」(マーク・アンドリーセン氏)

「企業の失敗には2種類ある。目標を達成しないことと、達成したとしても目標設定がそもそも低すぎることだ」(Facebook CEO マーク・ザッカーバーグ氏)

2人の言葉に触れながら、アンディ氏は「米国のオンライン広告業界は、このような精神でチャレンジしている。日本のみなさんも同じ精神でチャレンジしてほしい」と話し、講演を締めくくった。

講演の残りの時間は、参加者との質疑応答に費やされた。垂直統合の方向性や現状、トレーディングデスクの日本での普及と課題、米国でのプライベートエクスチェンジの現状など、さまざまな話題について、Web広告研究会代表幹事の本間充も巻き込んで闊達な議論が行われた。また、最後はアンディ氏からAdvertising Week 2012のグッズがプレゼントされる抽選会が行われ、和気藹々とした雰囲気で第一部のセッションを終えた。


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