「今さら聞けない宣伝部長と今さら言えないWeb担当者、資生堂の宣伝部長と花王のWeb担当者が対談」2013年2月22日開催 WABフォーラムレポート(2) イベント報告
- 掲載日:2013年4月3日(水)
今さら聞けない宣伝部長と今さら言えないWeb担当者、資生堂の宣伝部長と花王のWeb担当者が対談
宣伝部長とWeb担当者が歩み寄り、組織化して仕事を進めていくには、どのような取り組みが必要になるのか。第27回WABフォーラムの第二部では、日本アドバタイザーズ協会(以下、JAA)常任理事の石川浩之と、Web広告研究会(以下、WAB)の本間充によるディスカッションが行われた。
メディアのマネジメントに長けてきた宣伝部長
JAAの雑誌委員会委員長を務める石川は、資生堂の国内化粧品事業部事業企画部コミュニケーション戦略室長であり、WAB代表幹事の本間は、花王のデジタルコミュニケーションセンター企画室長でもある。第一線にいる宣伝部長とWeb担当者、2人が対談することによって、Web担当者が宣伝部長とどのように話をしていけばよいかが話し合われた。
株式会社資生堂
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 常任理事
石川 浩之
花王株式会社
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会 代表幹事
本間 充
まず石川は、第一部の鹿毛氏の講演を振り返って、「非常に貴重な話を聞けた。話を聞いているうちに大貫卓也氏とイメージがかぶってきた」と話す。資生堂の「TSUBAKI」のCMを手がけたCMディレクターの大貫氏は、ワンシーンにも徹底的にこだわり妥協しなかったが、鹿毛氏も企画を立てるためにアイデアを広げ、すべてを見渡したうえで“コレしかない”というものを見つけているから強いCMを作れる、「手に入る材料だけで作るCMはそこまでのパワーを持てない。“何を伝えたいか”という思いがあんなに強い人がいるのか、と感じながら第一部を聞いていた」と石川は話す。
一方、本間は「鹿毛さんは、クリエイティブマインドが非常に高い。通常、企業の宣伝部長は、クリエイティブよりもメディア選択論に向かっていると思う」と話を向け、それに対して石川は次のように答える。
「JAAの各委員会のメンバーは各社の宣伝部長。広告会社、テレビ局、雑誌社とどう向かい合うのか、日本民間放送連盟や日本雑誌協会などメディアがらみの話が多くなる。とはいえ、広告を活性化させるには表現やメッセージの話をしなければならないと思う」(石川)
ad:tech New Yorkのスピーカーにクリエイティブマインドの高い人が多いことや、米国のCMOの約1/3がクリエイティブ出身であるのに対し、日本の宣伝部長はメディア側のマネジメントに長けた人が多いと話す本間は、「どうしたら鹿毛さんのように、クリエイティブもメディア選択も自分でやれるような人になれるのだろうかと考えてしまった」と第一部の感想を漏らす。石川も、ある広告賞の審査員を務めたときに「2012年のテレビCMはノスタルジックなものが多いという印象があった」と感じたことを明かし、次のように述べている。
「震災後の日本に勢いを与えるようなCMをやりたいと考えても、鹿毛さんの言うように一歩出過ぎると企業ブランドを傷つけるような猛烈な反発が返ってくる。それを考えると、居心地のよい表現になってしまうのが今の状況。そこを踏み出すために、組織やミッションをどうしたらよいのか、難しい課題を抱えている」(石川)
今さら聞けない宣伝部長と、今さら言えないWeb担当者
続いて、宣伝部長や宣伝統括の役員が集まるJAAでどのような活動や議論が行われているのか、デジタルマーケティング側の人間との交流があるのかという話題に移っていく。
「JAAに入って最もよかったことは、同じような立場の人と知り合いになれること。たとえば、震災後のACのCMから通常のCMに戻すタイミングを決めるときにも、同じ立場の他社の人と話ができ、自分の判断に対して自信を持てたことがあった。また、JAAとメディア側の業界団体との間には主張の食い違いもあるが、これらの意見の違いを、一歩一歩でも解決に向かわせられる場があることは非常によいことだと思う」(石川)
WABがそうであるように、同じ立場の人が交流し、議論を交わせることがJAAの役割と利点だと石川は話す。そうしたなか、JAAでもWebへ目が向き始めているという。
「さまざまな活動テーマや課題を抱えるJAAでは、Webの話はなかなか議論できていないのが現状。ただし、WABが元気に活動していることは知っているし、電通の調査にも出ていたように、デジタルマーケティングに非常に大きな金額が投じられていることは認識している。これまでは若い人に任せていたが、これからは自分たちも参加してちゃんとやっていこうという動きはかなり出てきている」(石川)
宣伝部長側がWebを気にし始めているとしても、Web担当者側とは温度差があるのではないかという話題に移ると、石川は「宣伝部長や宣伝統括の役員にとってWebの話しがわかりにくいのは、Webの初歩の初歩を教えてもらっておらず、系統的に把握するのが難しいからだと思う」と話した。さらに以前、初歩の初歩の講座に行き、「ユニークユーザー数って何? クッキーというものがある」というところから教わり、やっとどういう仕組みのなかで情報が行き交うのかが見えてきた、と経験を語った。
続けて本間は、「自分たちも、上が知らなくてもこちらでやっておけばよいとしてきた弊害が出てきている」と話す。宣伝部長側は今さら聞けず、Web担当者側は今さら言えない状況になっているというのだ。
「自分の会社を見ても、ごく基本的な用語を理解して話している人は意外に少ないと感じる。遷移するとどうなるとか、送客の効果はどうなるかなど、流れている情報を聞きかじりながら話せるが、基礎がなければ新しいものを生み出すことはできないだろう」(石川)
一方で本間は、「では、WABのメンバーでGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)を理解して話せる人がどれだけいるのかは疑問だ。宣伝部長とWeb担当者、双方ともに共通言語が少ないことが壁を作っていると思うが、JAAではそのような議論が出ているのだろうか」とたずねる。石川は、「具体的に突っ込んだ議論をしたことはないが、この1年で状況は変わってきている。常任理事会で活動方針を議論するなかでも、JAA全体の活動のなかでも、WABの活動を大きく位置づけて、新しい広告活動のエネルギーにしなければならないという話が出ている。まだビジョンを描ききれていないが、課題としての認識は非常に高まっている」と答えている。
これを受けて本間は、これまでWABは、JAAの下部組織でありながらきちんとした報告を行ってこなかったと振り返る。「JAAとWABで情報共有を行うことが今後の課題。WABでは、昨年あたりから活動やセミナーのお知らせをなるべく届けるようにしている。同じような情報共有の課題は、企業でもあるのではないか」と話す本間は、ある雑誌の広告を出すときに情報が共有されず、紙面とWeb広告を別々の部署で企画していたような失敗が実際にあったことを明かす。
石川も自社のケースを取り上げ「ホームページを立ち上げるのは早かったが、その後のデジタルへの対応は遅れており、社内にデジタルの担当者がバラバラに分散している状態だった。独自に部署間で情報交換会を行い、Webに載せる美容情報作りを一緒にやっていこうという動きを作っているが、デジタルの場合は組織と仕事の組み立てが難しいと感じている」と話している。
そのうえで石川は、「今後はデジタルコミュニケーションがさまざまなところに広がっていく。人が集まる組織とは異なるレイヤーで、デジタル上でつながったネットワークが社内にできていくのではないだろうか。どこかの一部門がデジタルコミュニケーションすべてを仕切ることはできなくなってくると思う」と説明し、本間も次のように意見を述べる。
「それも1つのアイデアだと思う。Web専門で詳しいのに、社内のWeb化や社内SNS構築ができていない人も多い。組織融合したり、組織を再構成するには半年から1年くらいの期間がかかってしまうが、社内でSNSを作って組織の壁を取り払うことなどが必要な時期になってきている」(本間)
仕組みや組織に頼りすぎると、一部の顧客がないがしろにされる
コミュニケーション戦略室長である石川に対して、本間はクロスメディアを行うデジタルのメンバーに対して、他のメディアの人とのコミュニケーションの取り方や言葉の使い方のアドバイスはあるのか、と話を向ける。これに対して石川は、「共通言語で話すべきだ」と説明する。
「そもそもデジタル以前に、広告の仕事自体が専門用語を乱発し、一般の人が入りづらい雰囲気がある。デジタルのメンバーもその歩調に乗ってしまっている気がするので、なるべくわかりやすい言葉で、一般の人にもわかるように説明しなければならないとよく話している。本当に企画を通したいのなら、わかる言葉で企画書を書かないと通らない」(石川)
また、「仕組みがきちんとすればするほど、最後にお客様がないがしろにされてしまうことがある」とも石川は述べている。
デジタルの世界ではCRMなどで顧客の動きをコントロールしようとしているが、そこでは顧客が商品を手にして喜ぶ顔は見えない。デジタル化されたコミュニケーションの仕組みに乗せられて、最後に商品を買わされる顧客の顔しか見えないと言う石川は、「どのようなビジネスでも、顧客が最後に“満足する”という流れのなかで、自分たちがどのような影響を与えられるのかという感覚を忘れてはいけない」と話す。
わかりやすい言葉を使うということに対して本間は、「数学の世界では、小学校2年生にわかるように書けば論文を通すことができるという言葉がある。また、デジタルの人はCPAやCTRなどの3文字の言葉を作りすぎる。昔からテレビでいわれている、見やすい画面と絵を構築をするというものと同じように、わかりやすい言葉を使わなければ、他からのアドバイスももらえない」と話す。
デジタルの強みを話す一方で、「デジタルの仕組みにを使いすぎて、お客様がないがしろにされるようなことも起きる」と話す本間に対して、石川は次のように答えている。
「一生懸命やればやるほど、お客様をないがしろにしてしまうことは多い。たとえば、お客様にさまざまなサービスメニューを用意し、あと3万円で年間購入金額を達成してサービスが受けられるといったお勧めを行う。仕組みとしてはよくできているが、実はその3万円分を買わなかったお客様をないがしろにしてしまうことになる。これでは、自分たちの顧客管理システムに乗る人だけを相手にして、乗らない人は知らないと言っていることになってしまう。組織や仕組みを作るときに、そこでケアされない人を作り出していることを意識しておかなければならないと思う」(石川)
一方で、「ブランドということを考えれば、その評価はブランドを使っていない人も含めて作られている」と石川は話を続ける。「たとえば、“ライカのカメラはすごい”と言っている人のなかには、ライカを使っていない人も多い。そのようななかで、ライカを持っていない人はライカを評価できないということをやると、失敗する。自らを振り返っても、同じような失敗は行ってきている」と話す石川の言葉に対し、本間は「相当な広い視点を持って何をするのかが重要ということと、細分化された自分たちの共通言語ではなく、一般的な用語で話すということが重要なポイント」だとまとめている。
顧客ニーズや満足度を理解していれば、宣伝部長とWeb担当に共通認識が生まれる
ここで、石川が本間に対して、花王およびWABでの役割と、何を目指しているかについてたずねる。
「自社では、現在の宣伝部の縦割りでバケツリレーとなっている体制を変えたいと思っている。本当はデジタルだけをやっているのは一番嫌で、デジタルでやってわかったことをコマーシャルに活かしたい。ソーシャルリスニングしたことをWebだけに戻すのではなく、テレビや店頭の広告などにも活かすためのパスを作っていこうと考えている。それをやるには既存の仕組みを変えなければならないが、それをやれるタイミングが来ているのではないか」(本間)
社内のクリエイタ―と広告の買い付けを行うメンバーが、同じフロアにいない現状も変えていきたいと話す本間は、「宣伝部員は、デスクワークが仕事ではなく、お客様に伝えることが仕事。この伝えるということをもっと広く考えられるように宣伝部のミッションを変えなければならない」と話す。本間は、とあるイベントで宣伝部員が顔を出していなかったことを例にあげ、顧客と顔を合わせて反応を確かめるチャンスを失っていることや、イベントのブースを買い付けたことで仕事が終わったと考えているのではないかと指摘し、「マーケティング担当者を、もっとお客様に近づけるようにすることが自分のミッション」だと語った。
一方、WAB宣言に関しては「WAB宣言で宣伝部長を出したのは、宣伝部長と喧嘩したいわけではない」と本間は話す。「宣言で言っておけば、WABのメンバーから近づくときに話を聞いてくれる宣伝部長が増えるのではないかと考えた。そのときに、一緒にやりましょう、とメンバーに言ってほしいし、融合する必要がある」とする一方で、「デジタルに興味があるかと聞かれれば、その質問自身に興味はない。最も自分が興味を持っているのは、お客様」とも話している。
「お客様に興味を持たなければならないという認識が共通していれば、どんな仕事をしている人たちでも1つのプロジェクトでまとまれる」と話す石川に対し、本間は「日本では流通がきめ細かいサービスを行ってくれるので、メーカーが販売の現場に出て行く必要がない。しかし、本来メーカーはお客様が喜んでいる顔を見たくて商品やサービスを作っているはずなのに、店に商品を並べるだけで終わってしまっている」と話す。
また、鹿毛氏の書籍に書かれていたエピソードとして、エステーがスポンサーとなったミュージカルの劇場では、エステーの社員が顧客をもてなしているという話も話題となった。「メーカーの社員が実際に自分たちのお客様と直接会える場が増えれば、広告やコミュニケーションはもっと進化すると思う」と本間は話している。
宣伝とデジタル側のメンバーとのコミュニケーションについて石川は、「WABやad:techでさまざまな人と出会うことができ、さまざまな話をしているが、すぐに話が進む場合と進まない場合がある」と語る。たとえば、口紅によって女性の気持ちがどう変わるのか、メガネをかけるときのアイメークのテクニックは、といった話題に食いつく人とは仕事を一緒にできるのだと石川は説明する。つまり、そのような話に食いつく人は、前述のように顧客に興味を持っている人であり、顧客ニーズや顧客満足に興味を持つ人であれば会話がスムーズに運ぶというのだ。
この話を受けて本間は、最終的なコミュニケーションのゴールを理解することが重要だと説明する。
「Webは技術先行型で、さまざまな技術が出てくる。しかし、その技術が優秀かどうかを社内で議論するのではなく、技術を使ってお客様とどうコミュニケーションするのかが一番のポイント。本当は、その議論ができるように技術を翻訳して伝える作業を我々のほうが行わなければならないのではないか。WABのメンバーと話していても技術の話になりがちだが、その技術が本当にお客様のためになっているかを我々なりに考える必要がある」(本間)
データとエモーショナルな感覚を融合させる
続いて本間は、宣伝に対する考え方は会社によって異なり、そのポリシーをデジタル側がきちんと理解する必要があると説明する。WABのメンバーも、フォーラムの後に会社に戻ったら宣伝部長と宣伝に対する考え方について議論する必要があるとした本間は、石川に対してJAAや資生堂でそのような議論が行われているかをたずねる。
石川は、「会社のポリシーは全社に行き渡ってしみこんでいると思うが、JAAや業界ではそのような議論はまだ起きていない」と答え、「資生堂としては、これまでの考え方とデジタルの考え方の両方がほしいと考えている」と話を続ける。たとえば、デジタルの専門家が持つ効率性を追求する姿勢と、データには現れない美しさを追求する姿勢、この両方を活かしたクリエイティブを考えているが、実際にはまだ実現していないという。
まだ方式や方法がないため、どちらかに偏ったクリエイティブになりがちなことを石川が明かすと、本間も「データからクリエイティブに反映させたり、クリエイティブからデータを読み取ったりする必要があるはずだが、その議論はまだ行われていない」と話す。
また、石川は「顧客が商品を購入して使いきり、廃棄するまでの間には、購入したときの情報だけでは足りないはずだ」と提言する。「使い方の情報もどんどん更新されていくべきだし、分別廃棄の問題についても含めなければならない。商品に寄り添うようにデジタル情報が付いてきて、はじめて顧客価値を生み出す商品となるのではないか」と石川は話す。
データとクリエイティブの融合の話に戻った本間は、「昔、メークアップアーティストの人から女性はメークするからきれいになるのではなく、メークした自分に自身を持つからきれいになると言われたことを思い出す」と話を続ける。メークの科学的データだけではなく、メークによる感情がデータを増幅させていると考え、このようなことは科学的にわからなくても経験はしていると理解したというのだ。
「このようなエモーショナルな部分に踏み込んだ話は、以前から宣伝をやってきた人との話には出てくるが、デジタルのほうではあまり話されていないと思う」と話す本間は、「そろそろ会社のさまざまな部署やメディアの人たちと融合して話す必要が出てきていると思う。自分としては、お客様と会うことを重視したいので、お客様と会えるさまざまな部署からコミュニケーションのヒントをもらうため、イベントや活動になるべく顔を出していきたい。今日はその元年として、WAB宣言を行い、石川さんからもさまざまなヒントをもらうことができた」とディスカッションをまとめている。
セッションの最後では、20分近く質疑応答が行われ、資生堂と花王、各社の宣伝に対する考え方に対してより深い質問が行われた。また、顧客の顔が見えるECをどのように行うかや、これまでデジタルマーケティングを社内で牽引してきた担当者として、後任を育成する必要があることなど、多くの議論が行われた
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