『「Fab」が巻き起こすものづくりの新潮流、個人趣味から世界のマーケットへ』2013年4月5日開催 第四回東北セミナーレポート(1) イベント報告
- 掲載日:2013年5月23日(木)
「Fab」が巻き起こすものづくりの新潮流、個人趣味から世界のマーケットへ
東北のいまの復興(ボラ)とこれからの復興(セミ)のため、セミナーとボランティア活動を行う、「第四回東北セミボラ」が開催された。Web広告研究会が2011年から毎年春と秋に開催しているもので、2013年春は4月5日宮城県仙台市・せんだいメディアテークで開催。セミナー翌日には、福島県南相馬市と宮城県石巻市の二手に分かれて有志によるボランティア活動が行われた。
セミナー・ボランティアで被災地を支援
Web広告研究会
幹事
東日本大震災・被災地支援プロジェクト リーダー
次田 寿生
「Web業界で震災復興の手助けとなることができないかと始めた東北セミボラは、東京や大阪などの被災地以外で忘れがちになってる人たちに震災復興を考えてほしいという気持ちでやってきた。当初は不安も多かったが、長く続けられてうれしく思う。セミナーやボランティアの準備も、メンバーがそれぞれ“自分のこと”と捉えてがんばってくれていて、非常にいい活動になってきたと感じている。今後もボランティアやセミナーのアイデアをみなさんから出していただき、交流しながら活動を盛り上げていきたい」(次田寿生)
開会の挨拶では、Web広告研究会幹事 東日本大震災・被災地支援プロジェクトリーダーの次田寿生がこのように語り、第四回東北セミボラのセミナーが幕を開けた。
世界中に広がる次世代のものづくり“Fab”
第一部では、トリプルセブン・インタラクティブ 代表取締役の福田敏也氏が「Technology X ものづくり、その新潮流/FabCafe渋谷の取り組み」をテーマに講演し、ものづくりの現場で起きている変化について、福田氏が参画するFabcafeの活動や、世界で起こるFabのムーブメントを中心に紹介した。
株式会社トリプルセブン・インタラクティブ
代表取締役
福田 敏也氏
そもそも、Fabという言葉は、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのニール・ガーシェンフェルド教授が提唱した次世代のものづくりを示すもので、ハイテク機器と工作機械によって産業を興したり、個人がものを作れるようになったりすることを示すものだ。このFabは、日本だけでなく欧米でも潮流となっており、アジアでも広がりを見せていると言う福田氏は、以下のようなマップを示し、ものづくりの今の流れを説明する。
ものづくりの領域
縦軸に「PROJECTS」と「INFRASTRUCTURE」、横軸に「REPRODUCTIVE」と「GENERATIVE」が示されたこのマップにおいて、最も「GENERATIVE」に近い「FabLab」は世界中に100ヶ所以上展開されており、日本でも神奈川県・鎌倉、茨城県・つくば、東京・渋谷に関連施設がオープンしている。こうした活動は、FabLab Japan Networkでも紹介されている。
これらのFabLabは、「MITのニール教授の流れを汲んでいるもので、思想的あるいは社会運動的な流れとなっている」と福田氏は説明する。また、FabLabと近い領域にある「HACKER SPACE」は東京にもあり、技術を使って新しいものを作ることに挑戦するコミュニティで、「よりマニアに近く、プロジェクト型で世界的に活動している」と福田氏は言う。
「INFRASTRUCTURE」側に近い「TECH SHOPS」は、工作機械を使って何かをやりたい人たちが集まる場所で、米国では多くのショップが展開されている。「100K GARAGES」は、ガレージで工作を行う文化から生まれたもので、レーザーカッターや旋盤などのCNC(コンピュータ数値制御)ツールを使って金属加工などのものづくりが行われているものだ。
「こういったガレージで金属加工ができる人たちがハブとなったコミュニティが100K GARAGESで、クリエイティブな人やデザイン能力のある人とのマッチングが行われ、製品が作られている」(福田氏)
続いて福田氏は、これらのものづくりで利用されているハード(工作機械)について説明を始め、自身のMacの天板加工にも使った「レーザーカッター」、最近話題で安価(30万円程度)となってきた「3Dプリンタ」、服飾系で利用される「デジタルソーイングマシン」、高度な金属・木工加工ができる「CNCツール」などを写真で紹介し、これらが欧米のTECH SHOPSなどに置かれている基本的なツールであることを示した。
このような流れのなかで起きていることの例として、福田氏は、スケートボードにエンジンを付けた「Boosted Boards」の動画を紹介。これは、若者たちが自宅のハイテク工作機器で製作した電動スケートボードの「Boosted Boards」を、米国の個人投資家を集める「Kickstarter」というサイトに掲載し、1,110人の投資家から46万ドルの資金を調達して製品化を進めている事例だ。福田氏は、「日本でもKickstarterのような個人投資家を集めるサービスはスタートしており、ものづくりを趣味からプロダクトにしたり、稀有なプロダクトに投資したりするためのマッチングができるようになってきている」と説明する。
FabCafeは誰でもものづくりを楽しめるオープンな空間
続いて講演は、福田氏がトータルプロデュースし、2012年3月に東京・渋谷にオープンした、3Dプリンタなどでものづくりができるカフェ「FabCafe」の話を中心に進められていく。
FabCafeは、普通のおしゃれなカフェと変わらない外観と内装となっており、無線LANと各テーブルに設けられた電源を使ってPCで仕事をすることもできるスペースだ。一般のカフェと異なるのは、店の中央に大きなレーザーカッターが設置され、持ち込まれたデータによってさまざまな製作が行われている点だ。
FabLabとFabCafeの関係について福田氏は、「FabLabの活動はリスペクトしながら、活動としては独立した道を歩んでいる。今後も日本における新たなものづくり文化の発展のために協力できることは積極的に協力し合っていく予定」だと話す。
「これまでのMakers文脈では、ハッカー系のGEEK、ガレージ系DIYなどの濃い人たちがアクティブに活動していたが、普通の人が扉を叩いて入りづらく、入っても何をしていいかわからなくなっていた。カフェなら、ただ単にお茶を飲むだけでもいいし、オープンで開かれた入りやすい空間を作れる。専門知識を持っていない人でも何かが作れるような空間を提供することで、これまで来なかった人が集まれるようになり、いろんな人や組織とつながれるようになるのがFabCafeの目的。GEEKな人たちだけでなく、ファッションやグラフィックデザイン、建築の人たちとのつながり、プロジェクトによっては企業とのコラボレーションや共同開発を行えるオープンな場所として提供されている」(福田氏)
FabCafeではまず“何を作りたいか”という「idea」に対して、「software」を使って「data」化し、データをプロダクト化できる「hardware」を提供し、それらのプロダクトで「market」を形成し、マーケットを発展させるための「investment」を行うことを想定しているという。
FabCafeはideaから製品化、市場形成や発展までを支援していく
「FabCafeでは、ものづくりが趣味のような個人で完結するものではなく、何らかのマーケットを作り、より大きなマーケットにつなげることを試しながら行っていきたい」と話す福田氏は、第二店舗を台北に開くことや欧米への出店を考えていることも明かしている。
データが作られた国とは異なる国で製品を出力するといった、個人のものづくりが1つのマーケットとして世界中で横展開していくことを考えているようだ。
データと工作機器でさまざまな可能性が生まれる
「AppleのMacintoshが出てきてワクワクした時代から、PCによってデザイン領域が変わり、個人がさまざまなものをデータ化できるようになってきた。現在は、データ化されたものを2Dや映像としてしか出力できなかったのが、3Dで個人が出力できるようになってきている。製品というものも含めた立体物を作るという領域になってきている」と話す福田氏は、ものづくりの可能性について話を進める。
データやソフトウェアに対して、どのようなハードウェアを掛け合わせるかによって、さまざまなものが出来上がるという福田氏は、たとえば現在の3Dプリンタはプラスチックでしか出力できないが、今後数年間で食材や他の素材なども出力できるようになる可能性があり、ニーズに合わせてさまざまな目的を持ったハイテク工作機械が生まれていくだろうと話す。
また、掛け合わせの例として福田氏は、3D人体データと3Dプリンタを掛け合わせて自分の顔型を作り、チョコレートを流し込んでバレンタインに配った例に挙げる。また、デザインデータとレーザーカッターを掛け合わせて作ったTシャツなど、新たなファッションの事例も示した(FABで探る「あなたのファッション」の未来)。
その他にも、建築・デザインのノイズアーキテクツが手がけた作品が例として示された。
・360°Book
3Dデータとレーザーカッターを掛け合わせて作られた本
・MORPHING FURNITURE
モーフィングデータとレーザーカッターを掛け合わせて少しずつ形の異なる椅子を形成
・METI pavilion
ハニカムなどの連続性のアルゴリズムのデータにレーザーカッターを掛け合わせた建築物
デザインデータと工作機器の組み合わせから生まれた新しいファッション
立体的な本で物語を表現した360°Book
さらに福田氏は、江戸小紋のデザインとレーザーカッターによる「染め型紙」、木彫り技術の職人のデータとCNCツールによる「民芸品」、苺の3Dデータと食品用の3Dプリンタによる「新たな苺菓子」、人体データと3Dプリンタによる「人工臓器」など、さまざまなものづくりの可能性の広がりが予想されると話す。また、すでに一部は実現されており、柔軟に組み合わせることで意外なものを生み出せることを示し、地域固有の資産データとハイテク工作機械を使って新たな製品や産業が生まれ、地域振興や復興に役立てられる可能性もあると話した。
最後に福田氏は、未来のものづくりの可能性として、SF映画「スタートレック」で登場した分子データを元に物質を作り出すレプリケーターという装置を紹介する。宇宙船内で必要なものをその場で作り出し、使い終えた素材を分解して新たなものを作り出す、このレプリケーターのように限られた資源を有効利用する装置が生まれる可能性もあることを示し、新しいハードウェアやソフトウェアが実現する可能性やチャンスは大きいと話し、ものづくりの概念が変わることによって、生産や流通の概念、企業コミュニケーションのあり方など、さまざまな変化が起こることを示し講演をまとめた。
ものづくりの概念が変わることで、さまざまな変化が起こる
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