「ネット動画80本以上のZ会が語る活用ポイント、広告主・制作会社・コンサルタントが動画広告の現状とこれからを考える」2013年7月22日開催 月例セミナーレポート(3) イベント報告
- 掲載日:2013年8月26日(月)
ネット動画80本以上のZ会が語る活用ポイント、広告主・制作会社・コンサルタントが動画広告の現状とこれからを考える
Web広告研究会の7月月例セミナー第三部では、サントリーホールディングスの若林純氏をモデレータに、モバーシャルの山下悟郎氏、Z会の伊豆蔵善史氏、日本インタラクティブ・マーケティングの真野英明氏をパネラーとして迎え、各社の動画広告の活用法などをテーマにディスカッションが行われた。
サントリーホールディングス株式会社
若林 純氏
モバーシャル株式会社
山下 悟郎氏
株式会社Z会
伊豆蔵 善史氏
日本インタラクティブ・マーケティング株式会社
真野 英明氏
広告主企業における動画活用のいま
パネルディスカッションは、若林氏の「企業や広告主がもっとデジタルの領域で動画を活用していくには、具体的にどのようなことをやっていけばよいかを紐解けるようなディスカッションにしたい」という挨拶から始まり、各社の動画活用が説明された。
まず、動画広告活用の例として、伊豆蔵氏がZ会の現状を説明する。Z会では、テレビCMのほか、Web上では公式サイトとYouTube公式チャンネルで動画を展開しており、第二部でも解説された「TrueView動画広告」も活用しているという。YouTube公式チャンネルでは、テレビCMをそのまま掲載しているほか、テレビCMのロングバージョンや合格発表の喜びの声や後輩へのメッセージなど、Web限定の動画も掲載している。
Z会が展開するテレビCMとWeb動画の目的や位置づけは、認知や入会獲得向上で大きく変わってはいない。また、テレビCMは獲得GRPのほか、アンケート回答の経年比較、SNSでの反応などが評価軸として使われているが、テレビCM出稿量と資料請求の増加に相関関係があり、手ごたえを感じていると伊豆蔵氏は説明する。
Web動画の評価軸は、動画再生回数、Web広告配信対象、TrueView動画広告のビュースルーCVなどが使われ、特に最近はビュースルーCVが増えているという。また、テレビCMで注目された秀才君が消費者によってSNSなど拡散された事例も紹介された。Z会では80本以上の動画をWebで活用しており、検索などで過去の動画が閲覧されるケースも多いという。
ディスカッションの最初のテーマは「動画を活用している企業の現状」。まず動画制作やコンテンツ制作の立場から、モバーシャルの山下氏がZ会の動画活用について感想を述べる。
「WebならではのコンテンツがYouTubeに掲載されている点がよい。テレビCMをWebに載せるのも動画の活用方法の1つだと思うが、やはり1回見た動画をまた見ようというモチベーションはなかなか起きない。もう1つよい点は、定期的にコンテンツを出していること。Web動画の活用にチャレンジしてみても、結局放置してしまって活用できていないケースも多い。コンテンツマーケーティングという観点からも、どんどん出していったほうがよい」(山下氏)
続けて、広告代理業やコンサルティングを行っている日本インタラクティブ・マーケティングの真野氏が「公式サイトとYouTubeに同じ動画が上がっているが、違いはあるのか」と問いかけると、伊豆蔵氏は次のように答える。
「公式サイトとYouTubeでクリエイティブは変えていない。しかし、企業によってはYouTubeを社内で閲覧できない環境もあり、我々のターゲットとなる父親や母親が会社でも動画を閲覧できるように配慮して公式サイトにも動画を上げている」(伊豆蔵氏)
デジタルならではの動画制作を行う事例の数々
2つ目のテーマは、「デジタルならではの動画クリエイティブの制作方法とは?」。ここではまず、真野氏がYouTube上で動画を展開しているいくつかの企業を紹介する。
トヨタ自動車のYouTube公式ページは、自社サイトのような作りになっており、テレビCMだけでなく製品である自動車やイベント、機能・技術などの動画を閲覧できるようになっている。企業のブランドチャンネルとして厚みのある例の1つだ。
トヨタ公式チャンネル
http://www.youtube.com/user/toyotajpchannel
同じトヨタグループの静岡トヨタでは、地域の販売員にインタビューしながら試乗する動画が掲載されており、テレビとは異なるバーチャルな試乗体験を地域の販売店で活用している事例だ。
シャープでは、事業部ごとに専用チャンネルを持っており、それぞれで事例や活用シーンなどを動画で紹介している(シャープビジネスソリューションSP、SHARPlcddisplayなど)。
シャープビジネスソリューションSP公式チャンネル
http://www.youtube.com/user/SHARPssp
富士急ハイランドは、絶叫マシンに乗っている映像や感動メッセージなどの独自のコンテンツを提供している点がユニークだ。ミサワホームでは、ユニークな動画を用意しており、営業社員が1分間で建売住宅のよさをアピールする動画などが掲載される。
富士急ハイランド公式チャンネル
http://www.youtube.com/user/fq229
ミサワホーム公式チャンネル
http://www.youtube.com/user/MISAWAhomesTV
これらの事例を示した真野氏は、「動画制作は高額なものだと思われがちだが、いろいろな使い方があることがわかる。動画は、気軽に映して編集できるという手軽さがあると思う」と話す。
動画コンテンツ制作に必要な3つの視点
若林氏は「テレビCMとは異なり、さまざまなやり方や動画の作り方がある。本人や顧客を動画に登場させることで説得力が生まれる場合もある」という感想を述べたうえで、山下氏に「デジタルならではの動画制作の特徴やノウハウはあるのか」と質問する。
それに対して山下氏は「テレビCMとは3つのわかりやすい違いがある」と答える。まず、Web動画はさまざまなデバイスで視聴が可能なので、見る場所が異なる。また、見るタイミングもテレビCMとは異なる。制限もWeb動画の方が緩く、決まった広告枠でなければ動画の長さも自由だ。
「まず、映像を作る目的とだれが見るのかをしっかり決めないと失敗しやすい。Buzzを狙ってかっこいい映像やおもしろい映像を狙いすぎて、コストが高くなって失敗するといったケースも多い」(山下氏)
また、音を消して視聴されるケースも多いので、文字を入れることや、高齢者が対象の場合は文字を大きくするといったこともディスカッションされた。
一方、真野氏はテレビCMの流用だけでなく、Web動画ならではの活用方法を模索するべきではないかと話す。
「大手企業のサイトに行くと、動画のほとんどがテレビCMである場合が多く、動画広告として出稿する場合もテレビCMのままの場合が多い。ただ、Web動画がターゲティングしやすいことを考えると、さまざまなバリエーションがあってもよいと感じる。第二部のGoogleのエンゲージメント広告に対応できるような動画広告を制作するのがよいのではないか」(真野氏)
また動画のコストについては、山下氏が「会社の規模にもよるが、テレビCMを出稿したことがある規模の会社で、ある程度のクオリティを担保するのなら、100万~500万円くらいの予算が多いと思う。ただし、10万円や20万~30万円といったケースもあるので、一概には言えない」と答える。テレビと比べると小さなコストで始められるが、機材やキャストによって制作費は大きく変わっていくという。
目的と視聴者を決めれば手軽にWeb動画を活用できる
3つ目のテーマは、「動画の評価方法をどうするか」。第二部でもKPIが重要だとされたが、テレビCMのGRPのような評価指標はWeb動画にはない。
伊豆蔵氏は、前半で説明したWeb動画の評価軸について、「最近、動画によってこんなに差が出るのかと感じたのは、TrueView動画広告のビュースルーCV。動画を見てすぐに、そのまま資料請求を行うことは少ないため、差が出やすいのだと思うが、今後もこの指標は追っていきたい」と説明する。
山下氏は「KPIは、会社やその目的によって異なると思うが、今までの経験から3つの指標が重要だと思う」と話し、「再生回数」「ページ内の視聴率(再生回数/動画掲載ページPV)」「ビュースルーレート(再生時間/動画の時間)」などは、基本的に見ておかなければならない指標だと話す。
これに対して若林氏は「ECなどの獲得系のサイトとブランディングサイトでは、違う指標が必要となるのではないか」と質問し、山下氏は次のように答える。
「獲得系のサイトとブランディングサイトでは目的が異なるので、我々も難しいと思っている。たとえば、テレビショッピングなどでは、構成がある程度決まっているのでコンバージョンの上げ方のロジックも確立しているが、Web動画ではまだ確立されておらず、我々も模索している。ただし、尺を1分半程度に収めて、どのような人に何を見せるかしっかりと理解するという基本ができていれば、獲得系やブランド系といったことは深く考えずに進められると個人的には思っている」(山下氏)
また、テレビとWebの視聴年齢層の違いについて山下氏は、「年齢の違いはあまり関係ない。流入経路がそれぞれ異なるので、そこは考慮する必要がある」と話した。全体の視聴年齢よりも、売りたい商品や見せたい動画のターゲットを明確にし、どこから流入しているのかを考えることが重要になるというのだ。
マーケティング全体でのKPIを定め、動画ならではの視聴環境を考慮
4つ目のテーマは、「これから企業が動画活用のために行うべきことは」というものだ。まず、真野氏が次のように話す。
「第一部や第二部でも言われてきたように、マーケティング全体のなかで動画をどのような位置づけで使っていくのかを決めたうえで、KPIを決めていくことが非常に重要。また、動画を理解してもらうためには、そのための素材を増やしていくことも重要になる。Web動画を活用するうえでは、社内の各部署がその素材をどのように増やし、出していくかを考える必要があるだろう」(真野氏)
一方で、真野氏は「もっと気軽に始められるのがWeb動画のよいところで、Web動画を自分たちのマーケティングのなかにもっと入れていって、気軽にテストしていくとよいと思う」とも語っているが、だからといって何でも作ればよいというものではなく、宣伝の基本は忘れずに、いいものをしっかり作るという考え方でWeb動画に挑戦していくことが重要だということも示している。
続けて山下氏は、クリエイティブの立場から次のように話す。
「動画制作は大変だと思われるかもしれないが、もっと気軽に始めてみていいと思う。ビデオカメラを買ってきてPCに詳しい人がちょっと編集すれば作れるものなので、バナーを作るくらいの感覚でまず始めてみるのがよい。また、競合他社や海外事例を見るときには、どのような目的でだれに対してメッセージを出しているのかを考えながら見ていくと、今後の活用のヒントになると思う」(山下氏)
また、動画広告をスキップされないように、5秒以内に視聴者の感情を高め、期待を持たせるような工夫をするといったこともディスカッションされた。
ディスカッションを通じた感想を求められた伊豆蔵氏は、「我々は成功事例が多いわけでも、先進的に動いているわけではないが、さまざまなことを学ばせてもらって、Webやテレビだけでなく、総合的に成果が上がっていくなかでWeb動画を活用していきたいと改めて感じた」と答える。
広告主、コンテンツ制作、コンサルティングそれぞれの立場から、企業の動画広告活用が模索されたディスカッション。講演の最後、若林氏はディスカッションで得た動画活用のポイントを次の3つにまとめ、セミナーを締めくくった。
「三部を通じて、Web動画はもっと身近に始められるのではないか、というのが1つのメッセージ。2つ目は、考えるよりも、やってから検証してみようということ。3つ目は見られやすい工夫。テレビCMではある程度見てもらえる前提で、内容を考えればいいかもしれないが、Web動画では見る人の態度や視聴するデバイスが違うことを意識し、それを前提として目的や成果指標を決めて挑戦してほしい」(若林氏)
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