Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「Cannes Lions 2013の注目作品をカンヌウォッチャーと審査員が解説、デジタルクリエイティブの最新潮流」2013年10月22日開催 月例セミナーレポート(1) イベント報告

  • 掲載日:2014年1月17日(金)

Cannes Lions 2013の注目作品をカンヌウォッチャーと審査員が解説、デジタルクリエイティブの最新潮流

Web広告研究会の10月22日に開催した10月月例セミナーでは、2013年6月に開催された「Cannes Lions 2013」と9月に行われた「Spikes Asia 13」のCyber部門を中心に、デジタルクリエイティブの潮流を探る講演が行われた。カンヌウォッチャーとカンヌ審査員を務めた講師らが、長年の歴史を追いながら解説した。

広告祭からクリエイティブ祭へ、Cannes Lionsの歴史


パナソニック株式会社
ブランドコミュニケーション本部
コンテンツ企画センター
次田 寿生氏

セミナーの冒頭でマイクを握ったパナソニックの次田寿生氏は、時系列でCannes Lionsの歴史を紹介する。今年60周年を迎えるCannes Lionsは、1954年に第一回が開催され、元々は映画の前に上映される広告フィルムのフェスティバルであった。92年に「Press部門」、98年にインターネットの普及によって「Cyber部門」が新設された後は、毎年のように新たな部門が作られ、2013年は「Innovation部門」が新設され、急激に対象メディアが多様化している。

「Cyber以降に部門が急増しているので、インターネットが広告のクリエイティブを拡張させ、Cannes Lionsがそれに対応してきたとも言える」(次田氏)

また、3年前に「Advertising Festival」から「Festival of Creativity」に名前が変わったことも大きな流れの1つだ。Cannes Lionsが広告に縛られないことが示されたわけだが「今年のCannes Lionsは広告的な作品が少なかったと思う」と次田氏は話し、「時代によって進化し、変化しているCannes Lionsが、今年どのようになっているかを2人のスピーカーに解説してもらう」と述べた。

Cannes Lionsの歴史とSpikes Asiaの概要


株式会社AOI Pro.
執行役員
北村久美子氏

Cannes Lionsをレポートをするのは、長年カンヌを見続けてきた、日本一のCannes LionsウォッチャーことAOI Pro.の北村久美子氏。

北村氏は、Cannes Lionsの概要を説明し、アワード部門以外に120以上のセミナーがあり、ネットワーキングが盛んであること、世界三大広告祭である「Clio Awards」や「One Show」と比較して最も多くの応募数があることなどを示した。また、16のカテゴリがあり、国別応募作品数では米国に次いでブラジルが多く、日本は第9位となっているとした。

続いて北村氏は、2010年からの代表的な受賞作品を紹介していく。2010年の「Titanium & Integrated Lions」でグランプリを受賞した、家電量販店Best Buyが実施した「Twelpforce」は、Twitterを使って顧客対応アイデアを広げ、労働効率化、人材教育、広告営業などの経営基盤そのものの改善につながったもので、北村氏の周囲でもここ数年で一番好きな作品に挙げる人も多いという。また、がん撲滅運動のNike Livestrong Foundationの「Livestrong」も、ソーシャルとテクノロジーを融合させた初めての事例として紹介された。

2011年のMedia Lionsグランプリは、韓国のスーパーHomeplusの「Subway Virtual store」が受賞した。駅構内の壁一面に貼られた電子看板のQRコードを読み取ると、その場で商品を注文することができ、翌朝に商品が届くロジスティック革命として紹介された。また、Cyber LionsグランプリのGoogle Chrome「The Wilderness Downtown」やOld Spice「Response Campaign」なども話題の作品として紹介された。

2012年は、広告ではなくサービスを提供したNikeの「Nike+ FuelBand」、中小企業支援を行ったAmerican Expressの「Small Business」、国民全員を巻き込んだSwedish Instituteの「Curators of Sweden」などを北村氏は紹介し、「これらの最近の傾向を踏まえたうえで、2013に何が起こっていたかを今回のセミナーで見ていきたい」とした。

カンヌのカテゴリ遍歴から見えるクリエイティブの歴史

「Cannes Lionsのカテゴリ遍歴によってクリエイティビティの歴史が見えてくる」とする北村氏は、メディアとエンゲージされていた消費者が、「メディアが変わることで、メディアをどう効果的に扱うのか」と考えられた1999年にMedia Lionsが生まれたと話す。また、2005年にはメディアを超えたクリエイティビティのためのTitanium Lionsが生まれ、2013年にはクリエイティビティやソリューションにイノベーションを起こそうとするなかで、Innovation Lionsが生まれたという。そしてイノベーションの先には何があるのか、北村氏は次のように語る。

「Innovation Lionsのグランプリや入賞を果たした作品は、今後のInnovation LionsやCannes Lionsの進む方向性を示すものとして、大変面白いラインナップとなった。たとえば、オープンソースのC++ライブラリ『Cinder』は、傾向としてはARS ELECTORONICA(アルス・エレクトロニカ)的だし、脳波で動く『necomimi』はSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)的、ロシアのスマートフォン『Yota Phone』はCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でもお披露目されている。また惜しくもグランプリを逃した、審査委員長のDavid Drogaの会社De-Deが開発した、『ThunderClap』は、Ad-Tech(アドテック)的な感じもする。賞の在り方を規定すると言われている2年目が楽しみだ」(北村氏)

また、Cannes Lionsでは有名スピーカーによるセミナーも多数開催されるが、本年度はセミナーに変化が見られたことも大きな変化の1つだという。従来、セミナーは小規模会場をメインに行われてきたが、これまでアワードやスクリーニングがメインだった大規模会場でも開催されるようになってきたのだ。

さらに北村氏は、毎年9月に行われるアジアの広告祭「Spikes Asia」の概要も説明し、受賞作品・セミナーともにミニCannes Lions的なイベントであることや、アジア太平洋のなかではオーストラリアやニュージーランドが強いこと、会場にはエージェンシーのオープンオフィスが設置されていることなどが特徴だとした。

先進未来よりも今を見つめ出した2013年のCyber部門


株式会社博報堂
EBUエンゲージメントクリエイティブ局
エグゼクティブクリエイティブディレクター
北風 勝氏

第二部は、Cannes Lions 2013のCyber部門審査委員を務めた北風勝氏が登壇し、2013年の注目作品やCannes LionsとSpikes Asiaの傾向などについて解説された。

まず北風氏は、Cannes Lionsで印象に残っている作品として、1999年にFilm部門でグランプリを獲得した英国の新聞社INDEPENDENTの「The Independent, 'Litany'」を紹介する。

当時、この作品を見た北風氏は、「『買ってはいけない』という広告が成立し、世界ではNo.1として評価していることに驚き、忘れようと思っても忘れられない広告を作りたい」と考え始めたという。

また、1999年にはすでにCyber部門が開設されていたが、まだまだ盛り上がっていないという印象を受けたことも北風氏は明かした。しかし、その後の10数年の流れのなかで、メディアがデジタル化し、双方向のインタラクティブが実現され、Cannes Lions全体がデジタル化してきている。

こうした歴史のなかで最も大きなできごとは、第1部でも伝えられたように、2011年に「Cannes Lions International Advertising Festival」(カンヌ国際広告祭)から「Cannes Lions International Festival of Creativity」(カンヌライオンズ国際クリエイティビティ祭)に名称が変わり、「Advertising」という冠が外れ、「Creativity」という言葉が付けられたことだ。

「Creativityになった理由の1つは、デジタルやサイバーが大きくなりすぎて、広告を超えてしまったこと。広告クリエイティブから情報クリエイティブに変わってきているし、これから何をやればよいかがわからなくなってきた、ということでもある」(北風氏)

また、2013年のCannes Lionsでは、「これまではNowからFutureへの流れだったものが、逆行するようにFutureからNowへの流れとなってきた」と北風氏は説明する。たとえば、2012年Cyber部門のグランプリを獲得した「Nike+ Fuelband」は、未来のプラットフォームビジネスを示すものとして評価されたが、実際に使ってみるともの足りない部分があり、「今現在、役立つかといえば、そうでもない」と北風氏は話す。

しかし、2013年はテクノロジーが一段落し、未来ではなく、今役に立つものがトレンドとして現れているという。また、2013年のCyber部門の審査委員長であり、「Nike+ Fuelband」をプロデュースした世界的エージェンシーR/GA社のCEO、ボブ・グリーンバーグ氏は、「カラーテレビのように、将来どのようなイノベーションが起こっても変わらないようなアイデアを探そう」という審査方針を打ち出している。昨年のカンヌで先端的な未来を探していた人が、消えない「今」のアイデアを探そうというメッセージを出していたというのだ。

Cyber部門で注目の3作品

「グランプリに関しては、インターネットに情報があるので、詳しくは説明しない」と説明する北風氏は、グランプリの「Intel×TOSHIBA THE beauty INSIDE」「OREO DAILY TWIST」、金賞のメルボルン鉄道「Dumb Ways to Die」を簡単に紹介し、グランプリ以外で注目の作品を解説する。

Cyber部門で金賞を受賞したイギリスの生理用品ブランドBodyformの「Bodyform Responds :: The Truth」は、消費者からのクレームに対して動画でレスポンスした事例だ。北風氏は「クレームに対してスピードレスポンスを行うことでネット上で反響を呼び、マスの世界とはまったく違うことが起こっている。予算もかからず、1つの可能性を感じる事例」と評価する。

Cyber部門銀賞のMcCormick社の「FlavorPrint」は、調味料メーカーが提供するレシピサイトで、好みの味覚をデータ・グラフ化し、味からレシピを検索できるというもの。

「味覚という人間のアナログな感覚を、どこまでデジタルで表現できるかを意識してやろうとしている。これらをもっと意識してやれば、もっとさまざまなことができると思う。デザインもすばらしく、参考にしてWebデザインをもっと向上させてほしい」(北風氏)

Cyber部門銅賞の「The Oreo Blackout Tweet」は、アメフトのスーパーボウルの試合が停電で中断したときに、OREOが公式Twitterアカウントで「Power out? No problem」(停電だって? 問題ないさ)、「You can still dunk in the dark(暗闇でもオレオを牛乳に浸して食べることはできる)とツイートし、評判になったものだ。

これもスピードレスポンスが大きな効果を生んでおり、「ツイート1つで5億インプレッションのメディア露出効果を実現している。Bodyformと同じようにスピードが重要で、タイミングを捉えてコミュニケーションが取れればテレビとは異なる効果が生まれる」と北風氏は評する。

Spikes Asia 13で光った3つの作品

Cannes Lionsに続いて紹介されたのは、アジアの二大広告祭の1つで、アジア版カンヌともいわれる、Spikes Asia 13の事例だ。2013年の一番の特徴は、Cannes Lionsの部門グランプリを多数獲得したオーストラリアの「Dumb Ways to Die」が、Spikes Asia 13でもグランプリを軒並み獲得したことだという。カンヌのCyber部門では金賞にとどまったDumb Ways to Dieだが、カンヌの10分の1規模であるSpikes Asia 13では、圧倒的だったという。

その一方で、北風氏は「Dumb Ways to Dieも“小さくても光る作品”と言ってよい」と述べ、簡単なアニメーションの同作品は、「小さな予算で始められたプロジェクトで、YouTubeで探せばすぐ出てくるので、一度見ておいてほしい」と紹介した。

Spikes Asia 13でも、世の中の役に立つ「Social Good」な作品が多かったと話す北風氏は、続いてDIGITAL部門の「Public Service, Charity & Fund Raising」で金賞を受賞した「THE MOST POWERFUL ARM EVER INVENTED」を紹介する。これは、オーストラリアの筋ジストロフィー患者が政府への陳情書へのサイン代行するロボットアームを開発し、ソーシャルメディアなどでサインを呼びかけたものだ。「サインしたいという気持ちを呼び起こし、筋ジストロフィーの大変さを実感できるクレバーな作品」と北風氏は語る。

また、背景にある高度なテクノロジーを意識せずに楽しめる事例として、DIGITAL部門の「Games」で銀賞を受賞したオーストラリアお菓子Skittlesの「TELEKINIZE THE RAINBOW」も紹介された。顔認識技術やWebカメラ、Wi-Fiロボットといった技術を使いながら、PCの前にいる人の目の動きでSkittleの粒を動かすキャンペーンで、テクノロジーを前面に出すのではなく、シンプルな表現で楽しいところが評価されたという。

MOBILE部門の「Mobile Applications and other Downloadable Tools」で金賞を獲得した、シンガポールの通信事業者STARHUB MOBILEの「My Smart Eye」もSocial Goodな事例だ。視覚障碍者とボランティアを、携帯電話のテクノロジーとクラウドソーシングでつなぎ、視覚障碍者が撮った写真にボランティアがメッセージで答えると音声変換され、目の前の様子が伝わるというアプリだ。

「Social Goodで困っている人を助けるアプリなどが数多くエントリーされたなかで、ほとんどのものは有効なものではなかった。My Smart Eyeは非常にすばらしく、ボランティアも楽しく無理なく参加でき、今でもアクティブに活用されているアプリ」(北風氏)

Social Goodな作品が多数ノミネートされるなかで、「賞獲りのためのSocial Goodと、本当に意味があって今をよくするSocial Goodとを見極めなければならない」と北風氏は強調する。

最後に北風氏は、「これまでは先進未来を探していたが、ちょっといい明日を求めたグランプリがDumb Ways to Dieで、この傾向がCyberの世界で続いていくと思われる」と話し、第二部講演を終えた。

2013年10月22日月例セミナーレポート(2)


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