Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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Cannes Lions 2013を読み解く6つのキーワード「ALWAYS ON」「AUTHENTIC」「FOR GOOD」「RELEVANT」「HACK」「LIQUID」 2013年10月22日開催 月例セミナーレポート(2) イベント報告

  • 掲載日:2014年1月17日(金)

Cannes Lions 2013を読み解く6つのキーワード「ALWAYS ON」「AUTHENTIC」「FOR GOOD」「RELEVANT」「HACK」「LIQUID」

三大広告祭の1つ「Cannes Lions 2013」のレポートからデジタルクリエイティブの潮流を学ぶ、Web広告研究会の10月月例セミナー。第三部講演では、カンヌウォッチャーの北村氏をモデレータに、北風氏と次田氏が登壇し、2013年のカンヌを象徴する6つのキーワードから傾向を読み解くディスカッションが行われた。キーワードは「ALWAYS ON」「AUTHENTIC」「FOR GOOD」「RELEVANT」「HACK」「LIQUID」の6つ。

ALWAYS ON:いつでもどこでもオンライン


株式会社AOI Pro.
執行役員
北村久美子氏

「本当は十個以上のキーワードを紹介したいが、今日は6つに絞ってお伝えしたい」という北村氏が始めに紹介したのは「ALWAYS ON」。

ALWAYS ONについては、まずニールセンのセミナーで示されたMillennials(ミレニアルズ:19~36歳)とBoomers(ブーマー:48~67歳)の行動規範を対比させたものが紹介され、Boomersがアポイントありきなのに対し、MillennialsはAlways Onだということが強調されていたと北村氏は話す。


ミレニアルズ世代とブーマー世代の比較

また、Twitterのデブ・ロイ氏が「メッセージの影響力=メディアの質量×社会的加速度」であることを示し、「コンテンツがよくても、みんなで加速度を増していかなければ力が出てこない」と話していることから、ALWAYS ONの世代であることを感じたという。

たとえば、ガムのトライデント社が音楽チャネルの「FUSE」とタイアップしたキャンペーンでは、Twitterを利用して、音楽業界のトレンドを番組内のランキングにし、そのテレビ番組の放送を2~3分の動画にしている。そして、Vine(Twitterの動画配信サービス)を利用して、ミュージシャンのフォロワーにメッセージを届けるエコサイクルのキャンペーンを見たときも、ALWAYS ONの世代を意識した手法だと感じた、と北村氏は話を続ける。

また、第一部で触れた片面液晶、片面電子リーダーの両面画面のロシア製スマートフォン「Yota Phone」のような商品も、マルチタスクに使いたいという若者ならではの需要に応えるものであり、「こうした需要があることもALWAYS ONだといえる」と話された。スーパーボウルの試合が停電した際に、リアルタイムでツイートしたオレオの事例も、ALWAYS ONを象徴する作品だという。

一方で、これらは今を象徴する作品ではあるが、この先も記憶に残るかどうかは疑問だと、北風氏が次のように話す。


株式会社博報堂
EBUエンゲージメントクリエイティブ局
エグゼクティブクリエイティブディレクター
北風 勝氏

「ALWAYS ONだからこそ、という事例は数多くあった。自分はOFFこそが大事だと思っていて、前述の英国新聞社INDEPENDENT(第二部参照)のように、OFFの人間にどれだけ刻み込めるかという勝負はまだあると思っている。ALWAYS ONは今のトレンドだが、もう1つ本質を見つけないと、10年後に覚えている作品にはならないと思う」(北風氏)

AUTHENTIC:信頼性

「AUTHENTIC」ついては、「Dumb Ways to Die」を手がけたクリエイティブ・ディレクターのジョン・メスコール氏が「マーケティングビジネスが真実をあぶり出して広めるビジネスにシフトしてきており、そのビジネスに一般の人が参加できるようにカルチャーやテクノロジーを提供することが重要」と話していたことが、北村氏から紹介された。

広告に最も大きな影響を及ぼしたテクノロジーの変化は、「メディアの民主化」によって有料メディアモデルが崩壊したことであり、文化的な側面では「信頼性」と「オープンネス」へと大きくシフトし、マーケティングビジネスは“真実をあぶり出して広めるビジネス”になっているというのだ。

また、AUTHENTICを象徴する偽りのない事例として、カナダのマクドナルドが食材や品質に対する不信感をぬぐうために行ったキャンペーン「Our Food. Your Questions」や、IBM研究所が開発した顕微鏡を使って撮影した、原子で作った世界最小のストップモーションアニメ「A Boy and His Atom」などが紹介された。


マクドナルドの「Our Food. Your Questions」は、サイバー他、多数の部門で受賞


ファクト(事実)を偽りのないプロモーションへとつなげたIBMの「A Boy and His Atom」


これらの手法について、同じブランド側の立場としてどのように感じるのか、次田氏は次のように感想を述べる。


パナソニック株式会社
ブランドコミュニケーション本部
コンテンツ企画センター
次田 寿生氏

「ブランディングの仕事をしているなかで、事実や真実の強さが信頼やブランドへの好感度を上げると思っている。コミュニケーション部隊で一時的なものを作っても、なかなか信頼してもらえない。IBMのように、社内のファクトをベースに、技術者たちと一緒に何らかのコミュニケーションを作っていくことが、力強いコミュニケーションを作る第一歩だと考えているし、そうした動きには非常に共感する。このように先端技術やCSR活動など、社内のファクトをコミュニケーションの場に引き出すかが課題」(次田氏)

FOR GOOD:人のため、世の中のため

「FOR GOOD」(人のため、世の中のため)では、ペルーのリマ国立工科大学(UTECが、学生募集のために作った巨大看板「Potable Water Generator」が紹介された。ただの看板ではなく、空気中の水分を集めて飲料水を作り出すもので、単に宣伝するだけでなく、水不足に悩み地元の力になりたいといった、社会貢献活動にもつなげている。

玩具メーカーMattel社の「Scrabble Wifi」キャンペーンは、パリの街にWi-Fi基地局を搭載した車を走らせ、単語並べ替えアプリをクリアすると無償で利用できるというもの。直接ゲームを買ってくださいと宣伝するのではなく、Wi-Fiを提供する(FOR GOOD)ので、ゲームをプレイしてくださいというものだ。

その他、米国プルデンシャル生命が老後の貯蓄ができないのは脳の仕組みが原因だと伝えるために、脳の仕組みを解き明かす実験や読み物、動画などが掲載されたサイト「The Challenge Lab」が事例として紹介された。

一方で、本当のSocial Goodを見極めなければならないと第二部で話した北風氏は、「本当のFOR GOODを見つけてほしい」と語る。

「今やCannes Lionsの応募はFOR GOODなものだらけ。Advertisingが名前から消えた後の方向性としてはよいが、本当にFOR GOODなことをしたかったら賞などに応募せず、街の掃除をしたほうがよいと思う。たとえば、ロスのマクドナルドは、店の周りだけでなく街中を掃除していて、1992年の暴動では襲撃から免れたという話を本で読んだことがあり、“Respectable Brand”が重要だと感じている。これこそが本当のFOR GOODだが、掃除していたことを賞には応募しない。Cannes LionsのFOR GOODはかなり怪しい」(北風氏)

RELEVANT:親近感がある(タイムリー)

北村氏は、「本当のRELEVANTは『The Oreo Blackout Tweet』や『OREO DAILY TWIST』だと思う」としながらも、Facebookアプリで、まるで自分が本当に旅行に行っているかのように自動的に投稿してくれる、ケープタウン観光局の「Send Your FB Profile to Cape Town」を紹介する。最終的には観光を促すために現地のワインが届いたり、旅行に行ったと勘違いした友人がシェアしたりするなどの巻き込みが生まれている。

親近感とともにタイムリーが表現された事例では、フィリピンのISPであるPLDT社の「Screen-Age Love Story」が紹介された。架空のラブストーリーを展開し、その進展に一般の人を巻き込んでいったキャンペーン。失恋の瞬間には一気に共感を集めたという。

De-De社が開発した「Thunderclap」は、クラウド・ツイーティングと呼ばれるサービス。自分と同じ意見の人を一定数集めたいといったときに、目標の人数にツイートしてくれ、決められた人数の賛同者が集まったときには、一斉に同じ内容のツイートが書き込まれる。

また、リワード広告の一種である「Kiip」は、世界のイノベーター50に選ばれたBrain Wong氏が開発して注目されている。ゲームクリアなどの達成感を感じた瞬間に広告を表示し、気分のいい、その瞬間をとらえようというサービスだ。

ただし、これらの事例もFOR GOODのように嘘くささがあるのではないか、とする北村氏に対して、北風氏が次のように答えている。

「RELEVANTは非常に大事なキーワードで、さまざまなキーワードと絡んでいる。審査員の間でもRELEVANTはよく使われていて、FOR GOODなものに対して、『それはブランドにRELEVANTなのか』という文脈で使われることが多い。また、ALWAYS ONだからこそ、ターゲットに対してタイムリーであり、RELEVANTでなければならないという意味でも重要で、AUTHENTICにも近い意味合いがある。
マスのコミュニケーションでは、時間的にもターゲット的にもRELEVANTにすることができなかった。デジタルの世界になって、想定ではなく、ある程度のターゲットを決めてプロセス型のビジネスをするときには、RELEVANTというキーワードは非常に重要となっている。RELEVANTの意味をよくつかまえて、考えてみるとよいと思う」(北風氏)

HACK:正しいことを大雑把にやる、テクノロジーを創造的にいじくる

ここでいう「HACK」とは、ブラックハットなクラッカーではなく、良い意味でのHACKを指す。カンヌでも多く叫ばれていたというHACKは、大規模プロジェクトに当てはめて使われることは少なく、日曜大工のように大雑把にやるイメージだと北村氏は話す。

HACKを代表する事例としては、Innovation Lionsのグランプリを獲得したオープンソースのプロ用のクリエイティブコーディングツール「Cinder」が紹介された。ビジュアルデザイナーやインタラクションデザイナーなどのプロの開発者向けツールであり、「グランプリを獲得したのは、クライアントにきちんと使われているから」だと、北村氏は説明した。

典型的なHACKの事例としては、中国のフォルクスワーゲンの行ったデザインコンテストが紹介された。2011年に始まった「国民の意見で作るクルマプロジェクト」には、3,000万人から26万のアイデアの応募があり、最終的に選ばれたデザインは、2013年の上海モーターショーで実車として披露された。結果、Weibo(中国版Twitter)では、トップ10の話題に入ったほか、売上の増加にもつながっているという。

また、国民的な「HACK」プロジェクトとして、スイスの銀行Credit Suisseがオフィシャルパートナーとして協賛した、イギリスのナショナル・ギャラリー「メタモフォシス:ティツィアーノ2012」展のために制作されたフィルムも紹介された。展示されたルネサンスの絵画をモチーフに作られた短編映画は、現在の様々なアーティストが参加した、まさに「カルチャー・オリンピアード」に相応しい、世界的「HACK」イベントだという。

LIQUID:液体的

最後のキーワードである「LIQUID」は、文字通り液体的という意味であり、たとえば、リキッドなコンテンツとは、「どんな時、どんなデバイスでも楽しめるコンテンツ」を意味し、リキッドなマーケティングは、「立ち止まらずどこかへ行ってしまう消費者を前提に考えること」だと北村氏は話す。

続けて「O2Oの進化の形として、まさに夢のようなLIQUIDプロモーション」だと北村氏が紹介したのは、スポーツカジュアルブランド「NEO」のデジタルサイネージを用いたプロモーション施策だ。

アディダスでは、デジタルサイネージをタッチしながら、モデルのポーズを変えたり、コーディネートを変えたりして楽しめる独自システムを開発。欲しい商品をショッピングバッグにドラッグ&ドロップし、PINやQRコードを利用してスマートフォンで即座に購入できるEC機能も搭載している。スマートフォンへのカート連動の動作はすべてHTML5で実装されており、テクノロジーを使って本当の意味でのウインドウショッピングを実現したもので、店舗が閉店した後でもウインドウショッピングを提供できる新しいO2Oの形としてとても興味深い。


デジタルサイネージを利用したアディダスのキャンペーン

イギリスの大手商業銀行RBS銀行(ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド)が行った「Get Cash」サービスも、LIQUIDな事例の1つ。Get Cashは、キャッシュカードを忘れたり、紛失したりしても、ケータイに送られてくる6桁の数字を打ち込めば10ポンドまでキャッシュディスペンサーで現金を引き出せるようにしたもので、合わせて、家族や友達への送金も簡単になる。サービスには、週に7000以上のリクエストがあり、200万人以上のユーザーが1月あたり26回以上ログインしている。

最後に紹介されたのは、欧州最大のスーパーマーケットチェーン「Auchan」のサステナビリティ・レポートの改善事例。レポートに使用されていた紙を最小化するだけでなく、既存チャンネルをアイデアのディストリビューションに使用することを課題として、顧客に渡したレシートをサステナビリティ・レポートに利用した。レシートのバーコードをアプリで読み取れば瞬時にレポートを見ることができ、アプリから「Auchan」の経営者へメッセージを送ることもできる。改善の結果、レポートに使う紙を99%削減し、消費者にとっても、「LIQUID」が非常に便利に働いた良い事例として紹介された。

2013年10月22日月例セミナーレポート(1)


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