ソーシャルメディア導入を加速させる虎の巻、「ソーシャルメディアアカウントスターターキット」2014年5月26日開催月例セミナーレポート イベント報告
- 掲載日:2014年7月16日(水)
企業がソーシャルメディアを導入する際に必要な企画書や提案書など、担当者向けの“虎の巻”―― Web広告研究会の5月月例セミナーでは、ソーシャルメディア委員会が会員社のヒアリングをもとに作成したスターターキットが紹介された。あわせて、実際にソーシャルメディア運用担当者が、企業公式アカウントの運用実態をパネルディスカッションで明かした。
現場担当者が作り上げたスターターキット
Web広告研究会のソーシャルメディア委員会では、2014年2月から4月にかけて、ソーシャルメディアアカウント運営ガイド「ソーシャルメディアアカウントスターターキット」を作成した。
スターターキットは、企業で実際にソーシャルメディアを運用する担当者の経験をもとに、企業公式アカウントの立ち上げ時に必要と考えられるドキュメントやサンプル資料などをまとめたもので、Web広告研究会のサイトからダウンロードできる。
ソーシャルメディアアカウントスターターキット
・スターターキットdocument2014
・コミュニティガイドライン
・ソーシャルメディアアカウント利用申請書
・想定問答集
・対応基準表
・投稿カレンダー
株式会社電通レイザーフィッシュ
田中 準也氏
「Web広告研究会として、ソーシャルメディアアカウントをこれから開設しようと思っている人も活用できる、担当者向けの“虎の巻”のようなものを発表してみようと考えた。すでに企業の公式アカウントを開設している人も、初心に戻って自分たちのアカウントに足りないかもしれない部分を見つけたり、課題解決に役立ててほしい」(田中氏)
スターターキットの作成は、Web広告研究会会員社にアンケートを取り、アカウント開設・運営にあたって、どのような企画書やマニュアル、ガイドラインを使っているのか調査することから始められた。その後、ソーシャルメディア委員会や分科会でテーマの洗い出しを行い、ディスカッションを繰り返しながら作成されている。これらのディスカッションで明らかになった課題については、第二部のパネルディスカッションで紹介していきたいと田中氏は説明する。
株式会社コムニコ
芹沢 美稀氏
ソーシャルメディアの運営支援を行うコムニコの芹沢氏は、「ソーシャルメディア委員会でまず何をやろうかとなったときに、ぜひスターターキットを作りたいとお願いした」と、自ら作成を提案したと話す。コムニコで提供するFacebook運営ガイドのeBook「担当者のためのFacebookスタートアップガイド」の反響が大きいことも提案理由の1つだという。
「企業のソーシャルメディアのご担当者様に役立つさまざまなコンテンツを提供しているなかで、いまだにスタートアップガイドのダウンロード数が最も多い。さまざまな企業がソーシャルメディアのアカウントを開設しているが、まだ始めていないブランドや企業も多くあり、実際に運営を始めた担当者も悩みを抱えていると感じている。この機会に、Web広告研究会でスターターキットを作って、みなさんと共有したいと思った」(芹沢氏)
スターターキットでは、導入時や運営時などのシチュエーションに応じて必要なドキュメントが示され、利用申請書や想定問答集、対応基準表などのひな形も提供されている。
「このガイドで説明されているドキュメントのすべてが必要だというわけではない。また、業種業態によって必要なドキュメントや文体、言い回しが異なると思うので、必要に応じて変えて活用してほしい」(田中氏)
また、芹沢氏は最後に「公式アカウントの開設を検討している企業は、このようなガイドを参考に必要なドキュメントをそろえてほしい。すでに運営している企業も、これまで足りていなかったドキュメントがこのガイドで見つかるかもしれない。第二部では、実際にソーシャルメディアアカウントを運営しているパネルディスカッションを行いたいと思う」と話した。
先進企業のソーシャルメディア活用状況
第二部講演では、河原塚 徹氏(ソニー銀行)をモデレーターに、板橋 万里子氏(花王)、吉場 麻紀氏(UCCホールディングス)、西尾 祐美子氏(味の素)、中村 俊之氏(コニカミノルタ)、井上 慎也氏(アドビシステムズ)の5名をパネリストに迎えたディスカッションが行われた。
モデレーター
ソニー銀行株式会社
河原塚 徹氏
花王株式会社
板橋 万里子氏
UCCホールディングス株式会社
吉場 麻紀氏
味の素株式会社
西尾 祐美子氏
コニカミノルタ株式会社
中村 俊之氏
アドビシステムズ株式会社
井上 慎也氏
まず河原塚氏は、「ソーシャルメディアアカウントを開設した時期によって難しさが変わるので、各社の開始時期を教えてほしい」と話し、各社の運用状況をまとめていく。
花王のソーシャルメディア活用
・ B2Cコミュニケーション
・ 2010年ごろ、キャンペーンのためにヘルシアのTwitterアカウントを開設
・ 2012年6月、初めてのFacebookアカウントとしてサクセスで開設
・ 2013年4月、花王コーポレートとしてのFacebookアカウントを開設
UCCホールディングスのソーシャルメディア活用
・ B2Cコミュニケーション
・ 2010年1月、上島珈琲店のTwitterアカウント開設。その後、Facebookアカウントも開設
・ 2013年、UCC Coffee AcademyのFacebookアカウントを開設
味の素のソーシャルメディア活用
・ B2Cコミュニケーション
・ 2014年4月、Facebookアカウントを開設
コニカミノルタのソーシャルメディア活用
・ B2Bコミュニケーション
・ 2011年、コニカミノルタプラザのTwitter/Facebookアカウントを開設
・ その後、企業アカウント、プラネタリウム及びランナー応援する「コニカミノルタ ランニングプロジェクト」のアカウントなどを開設
アドビ システムズのソーシャルメディア活用
・ B2C/B2Bコミュニケーション
・ 2010年ごろから、さまざまなアカウントを開設
B2C/B2B企業それぞれの立ち上げ課題
続いて、河原塚氏は各企業がソーシャルメディアアカウントを立ち上げたときの苦労話について尋ねていく。
コニカミノルタの中村氏は、コーポレートアカウントを立ち上げる際、日常的な会話が行われるソーシャルメディアの中で、B2B企業の商品が表示されてどの程度の効果があるのかが課題だったと話す。しかし、企業ブランドの活動においてソーシャルメディアは1つのツールになると判断し、周囲の賛同を得ながら立ち上げた。製品情報をアピールするのではなく、ブランドメッセージである「想いをカタチに」を体現することを重視しているという。
UCCの吉場氏は、リアル店舗(上島珈琲店、珈琲館など)を有する企業として、直接顧客とコミュニケーションできるメディアを使わない手はないと考え、Twitterアカウントを開設したと話す。ソーシャルメディア上で語られる、自社ブランドに関するコメントを関連部署でシェアすることにより、社内でソーシャルメディア活用の意識を高めていく努力も行っている。
花王の板橋氏は、ブランドごとにアカウントを作りたいという希望は多いが、ブランド担当者が活用の目的を明確にしたうえで、長期に渡りアカウント運用担当として、運用可能かを話さなくてはならないと説明する。コーポレートアカウントの運用についても広報部が積極的だったが、上層部の説得が必要であったため、他社のアカウント利用状況を一覧にしてプレゼンしていったという。
味の素の西尾氏は、広告、広報、情報システムなど、どの部門がソーシャルメディアを推進していくのかという点で、社内で立ち止まっていたが、この度、公式アカウントを作ったと説明する。元々、生活者向けニュースコンテンツを広告部が制作していたため、広告部と広報部が連携してアカウントを運用している。
アドビの井上氏は、テクノロジー企業であるため、グローバルでは、当初から個人や製品部がソーシャルメディアのアカウントを作っていたと話す。そのため、ソーシャルの専門部隊を作成して活用促進やガイドライン作成を行い、各アカウントの運用をサポートするように調整しているという。ただし、国内では、人的リソースも限られているため、必要に応じてアカウントを作っていると井上氏は説明する。
コンテンツを提供し続けるための工夫
続けてディスカッションの議題は、公式アカウントの運用とリソースに移る。
花王では、ブランドアカウントだけではコンテンツのリソースが潤沢ではないため、公式アカウントスターターキットにもある「投稿カレンダー」のようなものを作り、いつどのような話題を提供し、コミュニケーションするか、予定を決めて運用しているという。コーポレートアカウントでも、広報として月に一度編集会議を開き、コツコツと話題作りのためのコンテンツを集めているという。
コニカミノルタのコーポレートアカウントでは、関連部署が集まる会議などから話題を集めたり、アカウントのコンセプトに合ったコンテンツ作りに社内で協力してもらったりしているという。基本的には、ソーシャルメディアだけで完結するのではなく、協賛活動などブランディング活動すべてと連携したコンテンツ作りを目指している。また、コニカミノルタプラネタリウム「満天」と連動した企画である「想いをかなえるプラネタリウム」を行っているときに、サプライズで結婚式を行う企画があり、社内のイントラで協力者を募った経緯から社内の理解も得られるようになったことも明かされた。
UCCでは、基本的にコンテンツ作りは各事業担当者が行っており、期間限定メニューの開発秘話や各店舗の紹介などの話題が多いという。担当者のリソースが足りず、話題をタイムリーに発信出来ていないことが課題で、今後は編集会議や投稿カレンダーなども活用していきたいと考えているようだ。
味の素では、コンテンツはPC版コンテンツ向けの情報があるため問題がないが、どれだけ人的リソースや予算をかけるのかが課題になっている。公式アカウント立ち上げの際に、「増員や予算の増資がなければ、ブログなどのPCコンテンツを流用する」という運用方針を決めたため、現状は問題なく運用できているが、より良いものにするために人や予算をどのように増やすか悩んでいるという。
続けて、河原塚氏もアカウント作成時に運用体制のことをしっかり決めておくことは重要だと話す。運用を無理なく、しっかり続けていくためには、投稿カレンダーの作成や、各部署がどのようなコンテンツを出せるのかリストアップしておくことが有効だ。
B2C/B2Bの製品を扱うアドビでは、製品ごとにさまざまなハウツーやTIPS系のコンテンツがあるが、そういった情報だけではなく、カスタマーサポートに多く寄せられている質問など、多数の部署からコンテンツを集めているという。また、ソーシャルメディア担当者用のメーリングリストで情報を共有し、共通の話題や情報の交換を行うなど、社内コラボレーションを行い情報発信するようにしている。
ソーシャルメディアのKPIと炎上対策
KPIや目標についての話題に移ると、中村氏はKPIとして人の気持ちがどれだけ動いたのか、「質と量」を測っていると説明する。具体的には、「リーチ」「インプレッション」「いいね!」「シェア」「コメント」「エンゲージメント」などを測っているという。
また、年に一度Facebookのファンと非フェイスブックファンに対して同じ項目のアンケートを行い、比較から期待した評価を得られているのか、ファンになってからの期間で回答内容に違いがあるかを見ていると中村氏は説明する。これらの分析結果は、各部門で共有したり、経営陣へ報告したりするために使われている。
続いて、河原塚氏は炎上などのソーシャルメディアリスクや社内研修について質問する。
実店舗を持つUCCでは、店舗スタッフは入れ替わりが激しいため個別の教育は難しいが、店長にソーシャルメディアに対する注意事項を理解してもらい、スタッフを教育できるようにしているという。また、社員に対しては、新入社員研修の際に人事担当から「ソーシャルメディア利用に対する心構え」を説明するプログラムを設けている。ソーシャルメディア担当者には、社内の基準書の中の「運用チェックシート」の回答を義務付け、担当者としての適性を確認するようにしている。
ソーシャルメディア空間の出来事を察知
一方で、個人のアカウントに対してどれだけ管理するかというのは各企業の課題となっている。従業員・役員が危うい発言をした場合は、どのような規定で判断するのか、政治・宗教・人種などの意見が分かれるような発言への対応など、各社の悩みは尽きない。
では、これらのリスクに対して各社は、どのように検知し、どのように対処しているのだろうか。
板橋氏は、花王では3段階のアラートシステムに基づいて対処していると話す。アラートシステムでは、企業、製品、社員(個人)、ブランドなどの文脈でグループ分けを行い、各話題が閾値を超えるとメールで通知される。まず、ソーシャルメディア空間での出来事をシステムでいち早く察知し、そのうえで具体的な対応策を各部署と検討する形だ。
花王が設ける3段階のアラートシステム
1. 至急対応するために関係者を集めて対策本部を作る
2. 関係者に話題になっていることを知らせる
3. 静観するのか、すぐに対応するのか、各部署が段階を分けて対処
公式のTwitterアカウントを始めたばかりのころ、炎上があったというUCCの吉場氏も、ブランド名や社名、想定するキーワードで検知できるシステムを導入していると話す。それらが公式アカウントにかかわる場合は、エスカレーションできるような体制となっており、アカウントのないブランドの場合は、社内の緊急メールアカウントから通知が行われ、関係者に報告されるようになっている。
また中村氏は、コニカミノルタでは、Twitterの検索画面を社内の大型モニタに映し、担当者が目視でチェックできるようにしていると話す。
アドビは、モニタリングなどもできるソーシャルメディアマーケティング向けのソリューションを自社で提供していることもあり、製品名など各種キーワードをモニタリングしている。また問題が発覚した際のエスカレーションや、どう会社として対応するか、などのガイドラインが決められており、会社としての公式コメントが発表されるまでは、個人として発言しないようにするなど徹底していると井上氏は説明する。
ソーシャルメディア運用に適した人材
続いて、ソーシャルメディア担当者の育成や適した人材について話題が移る。
吉場氏は、UCCでは公式アカウントを立ち上げる企画書のなかで、そのアカウントで発言する担当者の人物像(ペルソナ)を設定し、担当者が変わっても投稿の方針がぶれないようにしているという。たとえば、「店舗側ではなく企画側のスタッフ」「上島珈琲店が大好き」「20代半ば」などが決められている。吉場氏は、顧客との距離ができないような言葉遣いで、店舗のカウンターのなかではなく、フロアの同じ席にいる雰囲気を大事にしていると述べる。
また、ネガティブなことばかりでなく、Twitterのメンションで良い評価を受けたり、店舗に行かなければ聞けない生の声が聞けるなど喜びも多いと話す吉場氏は、「美味しかった」といった声に対して素直に「私も(そのメニューが)大好きです」と答えられるような、店舗や自社ブランドを愛している人材が適していると説明する。
中村氏は、公式アカウント運用全般のキーワードとして「おすそ分け」を掲げる。ソーシャルメディアにかかわる担当者は、他の人よりも情報を得る機会が多く、興味がある人にそれを積極的に届けられるかが重要だという。また、閲覧者に対しても押し付けではなく、気持ちをおすそ分けするようなスタンスで運用するように心がけていると中村氏は話す。
板橋氏は、人材としてはお客様相談センターや広告作成など、顧客とのコミュニケーション経験のある人が望ましいが、ブランド担当者などが担当を希望する場合は、eラーニングで、ソーシャルメディアのルールなどをしっかり理解してから担当してもらっていると説明する。
運用のモチベーションを高める喜び
次にポジティブな事例や、ソーシャルメディアの担当者になってよかったと思える部分は何か、と河原塚氏は話を展開する。
吉場氏は、「喜びもお叱りの声も含め、現場のスタッフがどのような接客を行っているかがソーシャルを通じてわかり、公式アカウントを持つ意味は大きい」と話す。一例として、ドリンクの上の生クリームが溶けているとメンションをもらった事例を示し、そのようなユーザーにしっかりとお詫びすると、次にきちんとドリンクを提供できたときにも報告してくれるなど、お客様に教育していただいていると話す。そのほか、メンションで蛍光灯が切れていることを指摘されて、慌てて店舗に連絡して交換したこともあるという。
また、新メニューの反応や評価も聞くことができるのも魅力だ。メニューの開発担当者などは、今後の開発に役立つ声を直接聞くことができると、非常に喜んでいるという。後からアンケートを取るのではなく、飲んだ瞬間の反応が聞けることに意味があると、吉場氏は話す。
中村氏も、普段聞けない企業の評価を聞けることが喜びだと話す。コニカミノルタでは、子どもたちの夢をカタチにする「dream printer」という企画を2013年に行い、プロモーション動画を公開しているが、「動画を通じて企業のファンになった、感動した」というコメントは非常に励みになったといい、ソーシャルメディアならではの効果だという。
同様に、花王でも嬉しい言葉や泣けてくるようなコメントをもらうと話す板橋氏は、これから始める人はネガティブなことを心配すると思うが、ポジティブなことのほうが多いと説明する。
西尾氏も、リアクションをもらえることは非常に嬉しいことだと述べる。顧客に近いところで仕事ができることは、社内でも貴重な存在で、ソーシャルメディアだからこその気づきがあり、そのような仕事ができることは幸せなことだと話している。
最後に河原塚氏は、「米国では電話よりもソーシャルメディアのアクティブサポートのコスト効率が良いとされている。日本で今後どうなるかわからないが、今回参加したメンバーでも最長の経験値が4年、ソーシャルメディアはまだまだ企業にとってさまざまな可能性があると思う。今後も委員会の活動を通じて情報を共有していきたい」と話し、パネルディスカッションを終えた。
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