Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「バズる動画を作るには突き抜けた考え方が必要、ブランドを守るか一線を越えるべきか」2014年7月29日開催 月例セミナー(2) イベント報告

  • 掲載日:2014年9月26日(金)

ネット動画の活用や将来について議論するWeb広告研究会の7月月例セミナー。後半では、バズる動画を作るための考え方、動画広告の企画や制作費、将来性などについて議論が交わされた。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
続いて、ネット動画広告の制作をどのように行っているのか、ネットにふさわしい企画・制作は行われているのか、拡散させるにはどうしたらよいのか、制作費をどのように考えるか、議論を行っていきたい。

中村氏(グーグル)
バズる動画をどうやって作るかという相談はよくいただくが、本当に難しく、タイミングや内容など、さまざまな要素がある。1つ言えることは、共有したいという欲求を刺激するような、共感や感動を呼ぶコンテンツを作ること。しかし、それを同じようなペースで繰り返すと、あざとい感が出てくるなどの問題が出てくるので、クリエイティブが難しいと日々感じている。
また、世界では何千万回再生されている動画があるのに、日本では何百万回がせいぜいなのかとよく聞かれるが、言語の問題が非常に大きい。日本語の動画コンテンツを世界の人たちが見る可能性は英語よりも圧倒的に低い。

半田氏(ヤフー)
我々は、Yahoo!のトップページに取り上げられる動画ディレクションの専門ではあると思う。もちろん、GyaOだからYahoo!に優先的に取り上げられるということはなく、公正中立が守られているなかで、どうすれば取り上げられるのか日夜取り組んでいる。
Yahoo!映像トピックスやトップページの編集部が気に入るには、どのような要素があればよいか、傾向を分析する事で、70%くらいの割合でヤフートップページの映像トピックス枠への掲載を成功させている。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
広告主としては、Yahoo!のトップページに取り上げるために何をやってもいいというわけではない。これ以上はできないというブランドアイデンティティと、クリエイティブのバランスはどのように考えているのか。

中村氏(ライオン)
一線を越えられずに中途半端なクリエイティブを作ってしまった過去がある。これを越えてしまうとブランド的にもよくない、という一歩手前で収めてしまい、最も中途半端な状態で世の中に出してしまった経験が何度もある。世の中でバズっている他社の動画広告を見ていると、我々はここまでできないと感じるし、そこまで日用品でやる必要があるのか疑問に思う。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
たとえば、資生堂では社内からバズらせてほしいというリクエストが出てくるのか。

小出氏(資生堂)
バズらせてくれというリクエストは非常に多いし、何の相談もなくマーケッターの企画書に書かれていて、本当にうまくいくのだろうかと懸念しているケースも多い。成功した他社の事例が頭にあって、同様に自分たちの作った動画も1千万回再生されることを夢見てしまいがちである。

西村氏(全日本空輸)
我々は、制作の方からおもしろいネタを持ってきてもらっても、なかなか実現できない最たる会社だと思う。ソーシャルも担当していて、LINEのスタンプなども作っているが、パイロットやCAに対する規定が多く、そこを突き抜けるのは難しい。拡散ということは、FacebookやLINEのファンを数多く獲得しているので考えられるが、バズる動画広告を作ることはリスクを負うことだと考えている。

社内のリクエストにどのように応じるべきか

渡辺氏(ソニーマーケティング)
広告主が拡散を求めているとして、何を拡散してほしいかは、企業やブランドの目的、立ち位置によって異なる。良い事例や失敗事例にはどのようなものがあるのだろうか。

半田氏(ヤフー)
広告主の目的に真摯に向き合って、動画を拡散させたいのか、ブランドの世界観を絶対に崩したくないのかという目的整理を丁寧に行わないと、何の目的も達成できないという過去の反省がある。営業が広告主の事業部の意思に引っ張られすぎると、強引に取り上げさせるために社内の編集と戦うことになり、制作したはいいが編集に取り上げられなかったり、それによって視聴数が伸びなかったりしたことはある。

中村氏(グーグル)
拡散が目的であれば、YouTubeでは広告メニューを使ってより多くのターゲットに視聴を促すことが可能だし、再生回数を伸ばすことも可能。しかし、その前に考えなければならないのは、動画コンテンツは何もしなければ埋もれてしまうということと、ただ拡散すればよいということではなく、動画ごとに役割や目標を与えることだ。
まず、YouTubeでは1分間に100時間分の動画が世界中からアップロードされ続けており、何もしなければ、チャンネルを作って動画を置いても拡散するはずがない。そのため、見せたい動画コンテンツがあるのなら、着火材として適切なターゲットに向かって広告することも必要不可欠になる。
また、ノウハウやデモ動画も人気のジャンルだが、たとえばヘアメイクの方法や、商品の使用方法がわからないなどの課題を抱えて答えを求めているユーザーが検索しても、適切な動画にたどりつけないかもしれない。その際に検索キーワードに連動させたTrueview InDisplay広告が有効になる。そしてこの場合は、ニーズがあって答えを探しているというユーザーなので、たとえ1回の動画再生であってもその価値は高く、リマーケティング機能を活用することで、購買などの次のアクションにつなげることもできる。つまり、この場合はただ拡散すればよいという動画ではないはずだ。
我々に制作機能はないが、企業にとって動画広告にどのような価値があるのかを一緒に考えて、YouTubeで活躍するクリエイターや動画広告の経験が豊富な制作会社とコラボレーションするようなことも最近は始めている。

テレビCM制作と同じ思考、コストで動画広告は作れない

渡辺氏(ソニーマーケティング)
クリエイティブを代理店や制作会社と話すときに、クオリティをどこにもって行くかが非常に重要となる。制作側がテレビCMと変わらないクオリティを念頭に話をするので、非常に高額な話だったり、ネット動画ならではのアイデアがなかったりする。クリエイティブスタッフの発想を変える必要があるなどの課題を感じたことはあるのだろうか。

小出氏(資生堂)
我々は、基本的にクリエイティブは内製で行っている。社内のクリエイティブディレクターにマーケット部門がオーダーを出すという形だが、どうしてもテレビCM的なテイストから抜け出せないということは感じる。半田さんから、見せたいのか、見られたいのか、という話があったが、どうしても見せたいという作りになってしまい、制作費もテレビCMレベルになってしまうこともある。

中村氏(ライオン)
ハウツー動画に数百万円もかけることはできないため、今後、数万円で作れないかと検討しているなかで、制作側とはなかなか折り合いが付かないことが多い。資生堂さんは内製とのことだが、我々は外に協力してもらわないと作れないので、非常に悩んでいる状況。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
テレビCMをやるほどの規模ではない動画を制作するときに、「クオリティ」「スピード」「コスト」をどうするかというのは課題となると思う。ANAの「ANAギャラクシーフライト」のキャンペーンのときは、どのような感じで作っていったのだろうか。

西村氏(全日本空輸)
ANAギャラクシーフライトの動画広告は、かなり安価に作っていただいた。上層部も動画=CMというイメージが強いので、見せに行ったときは「大丈夫か」と言われたが、「いやこんなものです。動くバナーのようなものです」と言い切った。ソーシャルや問い合わせをチェックしたが、ネガティブな声は出てきていない。目的は「沖縄の貨物便」「こんな早い時間」「超安い」という選択肢を知らせることで、ブランディングを毀損するような内容でもなかったため低コストで作っている。
反面、ブランディングのための動画は、非常にコストがかかっているのでクオリティやコスト感を厳しく見ている。その動画で何をしたいのか、何を知らせたいのか、という目的が大事だと思っている。

制作費と企画費に対する考え方

渡辺氏(ソニーマーケティング)
そもそも動画で何をしたいのか、そういったリクエストが広告主側からハッキリと出せていない可能性がある。それが出せないと、提案するクリエイティブ側も何をやったらいいのかわからず、手法論だけが先走っているのかもしれない。

内田氏(博報堂DYメディアパートナーズ)
販促などでは瞬発的なバイラルは得られるかもしれないが、オリエンテーションを一緒にやって、マーケッターの目的を絞っていき、納得感の出るプロセスを大事にしていかなければならないと思う。

若林氏(サントリーホールディングス)
忍者女子高生という動画がYouTubeで500万回を超えて再生されているが、社内の各部署でも、こうした今までとは少し違った取り組みも始まっている。
また、たとえば単にテレビだけWebだけ、ということではなくて、テレビCMでも、Webでしか見られないメイキング映像やタレントのコメントを出して、CMで興味を持った人が、Webで検索してYouTubeで見てもらい、ブランドのページに訪問してもらうといった統合的なコミュニケーションプランもできると思う。事前にコミュニケーション全体の流れを全体的に設計して、そのなかに動画をどのように位置づけていくかを考えることが大切になっていくと思う。

小出氏(資生堂)
クリエイティブディレクターは、一面ではテレビCMよりも難しいと話している。動画広告はアプローチや目的を詰めて、さまざまな方法論から絞り込んでいく必要がある。アイデアもこれまで以上に必要で、テレビCMより限られたコストのなかで難しい作業を行っていかないといけないものと認識しなければならない。

中村氏(ライオン)
我々も明確な基準があるわけではないので、ハウツー動画だったらこれくらいのコストでという希望価格になるが、適切かどうかは議論している最中。今後は、文字よりもわかりやすい動画でコミュニケーションを取っていきたいが、現在かかっているコストでは先に進めていくことが難しい。
ライオンとして生活情報を提供するという活動の一環なので、生活情報動画は個別のブランド予算ではない。一方で、DSPなどで流す動画広告は、制作費や枠の費用なども含めて静止画のバナーと比較すると、現時点では静止画のパフォーマンスが高く、ブランディングなどを抜きにした単純な効果だけを考えれば、静止画で十分なのではないかという感覚を持っている。


動画制作の適切な価値

内田氏(博報堂DYメディアパートナーズ)
動画広告で、撮影から編集、音入れまでの制作費を安くするという話はわかる。しかし、アイデアや見せ方といった企画費も安くするという流れになるのか、それとも今後重要になっていくのか、広告主はどう考えているのか。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
そこは非常に重要な問題だと思う。広告すること自体が目的ではなく、キャンペーンが成功するかどうかが重要。無形なアイデアにしっかりとお金を払うことは、しっかりやるべきだと個人的には思っている。ただし、本当に効果があったかということが重要で、良い企画なら多くの人に見てもらう、という両輪が回らないといけないと思う。

小出氏(資生堂)
個人的には、個別の制作費ではなく、トータルでどのような効果を得ることができたかが価値になると考えている。制作費単独で、とにかく安くしていけばいいというわけではない。

西村氏(全日本空輸)
動くバナーと思ってよいものもあれば、ブランディングに関わるものもあるので、目的とクオリティがあって、そこに対価がかかると思う。動画広告は、文字を入れ替えられたり、ボタンの位置を変えられたり、来年の同時期に使えるなど使い回しが効いたりするので、柔軟性が高く、利便性が高いということは感じている。

中村氏(ライオン)
良い企画であれば、多くの人に見てもらえるということを前提として、その効果を視聴回数で見るのか、ブランディングで見るのか、何らかの方法で可視化できれば、それに対して我々が対価を払うべきだとは思う。

「明日のネット動画広告」はどうなっていくのか

渡辺氏(ソニーマーケティング)
最後にネット動画広告が今後どうなっていけばよいか、ひと言ずついただきたい。

中村氏(ライオン)
今年に入って、セミナーなどで動画広告が語られているが、プラットフォームが先走っているところに個人的には懸念を感じている。そもそも、このDSPがすごくて大きくバズったという話は欧米も含めて聞いたことがない。
やはり、コンテンツが良かったり、共感を持たれたりするからバズるのであって、広告主側もしっかりと理解して、パートナーと議論しながらマーケットを作っていかないと厳しいという危機感を若干抱いている。

西村氏(全日本空輸)
今までできなかったことができるようになることは、広告主としてはうれしいし、選択肢が増えて良いことだと思う反面、しっかり使い分けなければならないとも感じている。しっかりと目的を持ってアウトプットを意識し、代理店との話し合いでも理論武装をしておかないと、ちぐはぐになってしまう恐れもあり、やらなくてもよいことを発注したりしてしまう。
何をさせたいか、静止画か動画か、動画なら自社サイトかプラットフォームかなど、しっかりと見極める判断力が広告主には求められていて、よくなった反面しっかりとやらなければならないと感じている。パートナーとは、ハイレベルでさまざまなことを仕掛けられれば、お互いWin-Winになれると、最近非常に感じている。

小出氏(資生堂)
純粋に動画広告は拡大していくと思う。最初にお話ししたが、コンテンツを見たい人に対して強制的に動画広告を見せるということに抵抗があったので、これまではあまり積極的ではなかったが、視聴者も次第に慣れていくものだと思っている。
なぜなら今年の春にプリロール広告について調査したが、40~50代は抵抗があったものの、10~20代は意外と平気だった。プリロールが流れている間はスマホを見たり、他のことをやったりしている人もいて、若い世代はそれなりの対応の仕方を身につけてきていた。他のメディアにおける「広告」の位置づけに近づいてきている。動画広告に対する嫌悪感を感じなくなってきていると思う。その感覚がマーケッターにも浸透していけば、普通に動画広告を使うようになると感じている。

内田氏(博報堂DYメディアパートナーズ)
オンラインビデオを使ったマーケティングの市場は、間違いなく伸びると思う。しかし、やり方として、安かろう悪かろうといったものが多数出てしまうような、切ないタッチポイントばかりではいけないと思う。もっと広告主やプラットフォームと一緒になって、新しい手法をやっていかなければならない。広告代理店も既存のモデルに不安を持っているので、プランナー、マーケッター、クリエイターはオンラインビデオを使ったマーケティングをどんどんやっていきたいと考えているし、挑戦していきたいと考えている。

半田氏(ヤフー)
2005年くらいから約10年近く動画ビジネスに関わってきているが、明日の動画広告はもっと大きくなると思っている。この9年間見てきて、動画広告のCTRやCPCがどうかという議論がなされてきたが、Web領域においてクリックパフォーマンスだけでなく、認知や態度変容というものを求める変化が起きていると思う。そのようなWeb領域における広告の役割の変化に対して、動画による訴求という手法は正しいと思っている。
Webの役割が大きく変化した今、今後ネット動画広告はどんどん発展していくだろう。そのなかで、動画のクリエイティブは見過ごせず、目的に合った最適なクリエイティブをどのように表現していくのかについて、我々は媒体社として数字を出し、PDCAをクライアントと回していきたいと思う。

中村氏(グーグル)
YouTubeに限らず、ユーザーはあらゆるプラットフォーム上で動画の視聴選択をしている。そのとき、広告が邪魔になるということは、邪魔な広告を作ってしまっているということだと思う。たとえ強制的に見せるものであっても、ユーザーに興味を持ってもらえるようなクリエイティブを作ることによって、動画広告の価値はさらに発展していく。その意味では、クリエイティブの重要性は、みなさんがお話ししているとおりだと思う。
効果測定が今年のYouTubeのキーになるといったが、動画広告を見た後にブランドの認知率や広告想起率の変化を測定する「ブランド認知調査」が日本でも試験的に提供されている。また、動画広告を見た後に関連する検索キーワードがGoogle検索でどれくらい変化したかを測定する仕組みが米国でリリースされており、日本でもリリースされる予定。このような効果測定の手法を進化させて行くことでクリエイティブの下支えを行い、アカウンタビリティを高める存在でありたいと思う。

若林氏(サントリーホールディングス)
ネットプロモーション委員会の立場からも、動画は広告も含めて発展してほしいし、そうなると思う。デバイスの進化とともに、ユーザーの見るディスプレイや視聴態度も変わってきて、今や布団の中で寝落ちするまで動画を見るというような、生活者の環境の変化も起きてきている。
また一例ではあるが、静止画バナーのA/Bテストのように、動画も今後はクリエイティブやコメントを何通りも差し変えて、効果検証や最適化をしていく、ということが本格的に議論されていくかもしれない。このように、これまでの動画の作り方と、Webでの最適な動画制作ノウハウは異なっていく部分があると思われる。
新たなトレンドなどは、広告主側だけでは分からないこともあると思うので、事業主や代理店、Web広告研究会の横のつながりで情報を共有し、自らも常にキャッチアップしていかなければならないと思う。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
動画広告そのものが、一過性の流れにならないようにすることが重要だと思う。アドテクノロジーやデジタル広告の流れは、ブームやバズになってしまうケースが多々ある。動画広告が一過性のブームにならないようするために、今日の話のなかでは、広告主側が「目的をどう設定するのか」「クリエイティブを作る体制をどうするのか」、代理店の立場として「全体のコミュニケーションのなかで動画広告をどのように位置づけていくのか」という話が重要だったと感じた。
一方で、個人的には動画でなくてもよいコミュニケーションもたくさんあると思う。長い動画ではなく、一発のコピーで伝えられたほうがよいに決まっていると広告マンとしては信じている。そのなかで、動画の必然性や果たせる役割をしっかり作っていかないと、動画広告はコストが高いということになってくるし、時間がない生活者も動画広告をスキップしてしまうと思う。動画の価値をどう作るかをちゃんと考えて、次の動画広告の発展につなげていきたい。

2014年7月31日月例セミナーレポート(1)

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