Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

「ネット動画広告の現状と将来性を、広告主・メディア・代理店の3者で考える2時間のパネルディスカッション」2014年7月29日開催 月例セミナー(1) イベント報告

  • 掲載日:2014年9月26日(金)

Web広告研究会7月月例セミナーのテーマは、「ネット動画広告は今のままで発展するのか?動画広告の価値を広告主視点で考える120分」。ネット動画について2時間のパネルディスカッションが行われ、ネット動画の活用法や将来性について議論が交わされた。

 
ソニーマーケティング株式会社
コミュニケーション戦略部
担当部長
渡辺 智秋氏


サントリーホールディングス株式会社
広報部
デジタルコミュニケーション開発部
課長代理
若林 純氏


 



全日本空輸株式会社
マーケティング室
マーケットコミュニケーション部
西村 健氏


株式会社資生堂
国内化粧品事業部
コミュニケーション統括
部長
小出 誠氏


ライオン株式会社
宣伝部デジタルコミュニケーション推進室
副主任
中村 大亮氏





株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
総合コミュニケーションデザインセンター
センター長
内田 哲也氏 


ヤフー株式会社 MSカンパニー
ビデオ広告営業責任者

株式会社GyaO
取締役
半田 英智氏


グーグル株式会社
ブランドソリューション エキスパート
中村 全信氏




動画広告の効果を広告主はどう実感しているのか

パネルディスカッションは、渡辺智秋氏(ソニーマーケティング)と若林純氏(サントリーホールディングス)をモデレーターに、西村健氏(全日本空輸)、小出誠氏(資生堂)、中村大亮氏(ライオン)、内田哲也氏(博報堂DYメディアパートナーズ)、半田英智氏(ヤフー)、中村全信氏(グーグル)がパネリストとなって議論された。

「今日の月例会には、広告主、制作会社、メディア、プラットフォームなど、さまざま方が参加しているため、『動画広告』とひとことで言っても捉え方が変わると思い、整理してみた」と、前置きし、広告主から見た動画広告の関係図を使い、動画広告にはさまざまなものがあり幅が広いことを示した。その上で「今日の話は企業側が発信するコンテンツに限ったものにしたい」と渡辺氏は説明。



 次に渡辺氏は、トラディショナルメディアではわからなかった動画の効果を、広告主はどのように実感しているのか、社内にどうやって説明しているのか、パネリストに問いかけた。

小出氏(資生堂)
基本的に動画では、長期のブランド訴求のコミュニケーションを中心に行っている。動画使用の主流はこれまで、テレビか店頭のモニタだったが、現在では自社メディアで流したりSNSで拡散されて自社以外のプラットフォームでも流れるなど、多様なシーンで活用されるようになってきている。
広告主としては、媒体料を払わずにターゲットとコミュニケーションできるという期待があるものの、実感としては、残念ながら多くの場合期待ほどには拡散しないという印象がある。
社内の説得に関しては、マーケッターのなかでまだ動画広告自体があまり話題になっていないという状況。その背景としてプリロールがイメージされ、他のコンテンツを見に来た人に無理やり広告を見せるのはよくない、という考えがマーケティング部門の担当者にあり、動画広告への抵抗感から積極的に取り組んでいない。

中村氏(グーグル)
抵抗感があるという小出氏の話は我々も理解している。以前は強制視聴型のみだったが、動画再生から5秒後に広告をスキップできるTrueviewというフォーマットを用意することで、視聴者が広告を見るかどうか選択できるようになった。
YouTubeでは、その他にもさまざまな動画広告フォーマットを用意しており、 また、Googleディスプレイネットワークでディスプレイ広告をマウスオーバして2秒経ったらエキスパンドするなどして動画広告が流れるエンゲージメント広告も用意しており、強制的でない動画広告表示ができるようになっている。

西村氏(全日本空輸)
自社サイトやYouTubeの公式サイトにさまざまな動画を置いてあり、ブランディング目的のものや、機内書類の書き方などのハウツー動画などがある。貨物便にお客様を乗せて格安で航空券を提供する「ANAギャラクシーフライト」(2014年8月で終了)を始めているが、これらのサービスはテレビCMを出すほどではないため、短く深く訴求するために動画広告を出したのが、動画広告を出すキッカケとなっている。
指標は航空券の売れ行きとなるが、動画広告を打ち出した後は好調な売れ行きとなった。海外でANAを知ってもらおうというブランディングの動画広告は、評価の時間軸を長くし、指名検索の増加や半年に一度の認知度調査で判断したい。動画の目的によって、効果や評価は変わってくると考えている。再生回数は1つの指標だが、それだけで判断するのは難しいと思う。

中村氏(ライオン)
新商品やキャンペーン告知をDSPやグーグルのTrueView動画広告を使って行い、ハウツーなどのサポートや広報の動画配信にロングテールで取り組んでいる。最近は、ハウツー動画に力を入れ、トイレタリーなどの生活情報を積極的に配信している。
たとえば、「デンタルフロス(歯間ブラシ)」の使い方などは、文字で説明するよりも動画のほうがわかりやすく、記事とともに動画も掲載するようにしている。再生回数を稼ぐというよりも、生活情報で課題を持つお客様の解決策として動画を見直している。
新製品告知とハウツー動画では目的が違うため、KPIの設定や見ている数字がまったく異なる。社内に対しては、ハウツー系であれば、文字よりもわかりやすいことを説明し、広告系はテレビではなく静止画広告と比較して説明することが多い。
評価は、キャンペーンなどは再生回数や認知度調査で測り、テレビでリーチできなかったところにどれだけリーチしているかを見ることもある。ハウツー動画は、再生回数よりも、しっかり最後まで見られて、お客様の課題解決に役立てられているかを重視している。

動画広告の価値をどのように測るか

続くテーマは動画広告の効果指標について。動画の効果指標としては、再生回数や視聴率、視聴時間や再生完了率などがあるが、広告主はどのように考えて運用しているのか。メディア、広告主、代理店それぞれの視点から語られた。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
GyaOではどのような提案を行い、広告主から効果指標として、どのような数値が求められているのか。

半田氏(ヤフー)
プラットフォームのYouTubeに対して、Yahoo!はメディア的な役割が強く、広告主の要望に対してYahoo!のすべてのパーツを使って、「見せたい」と「見られたい」の両側を考えながら解決している。
動画に関しては、いかに数多く見せるかが中心で、多く見せたい場合は純広スポット的な提案で解決している。見られたいという点では、制作ディレクションから入って、Yahoo!映像トピックスにどのように取り上げられるかという課題解決を行う。
広告主からは、アトリビューションの数字をどれだけ追いかけられるか、最適フリークエンシーはどれくらいか、テレビとの配分をどのようにすればよいか、といった質問が多いと思う。これらの質問に対して、明確な成功事例を作っていかなければならないと思っているが、企業の求めるものは均等ではないので、広告主ごとにPDCAを回しながら作っていきたいと思っている。

中村氏(グーグル)
テレビCMとの配分は数多く質問されるが、半田氏のいうように、ターゲットなどのさまざまな要素が付加されるため、これがベストな配分と言うことはできない。我々としては、その最適解を見つけるために、たとえばインテージと共同で「i-SSP(インテージシングルソースパネル)」というモデルで、オンライン広告によって、どれだけのブランドリフトやブランド利用意向の変化が起きたのかを分析し、次回のキャンペーン施策などに活かそうとしている。

リーチで圧倒するテレビCMに対するネット動画の価値

渡辺氏(ソニーマーケティング)
大規模に投下しているテレビCMに対し、ネット動画でインクリメンタルリーチが望めるのかは疑問がある。たとえば、テレビCMで3,000万世帯に広告がリーチしているのに、動画が30万回再生されました、ということに意味があると考えていいのか。

小出氏(資生堂)
実際にそういった話はある。テレビCMはリーチや規模感の桁が違う。一方で、ターゲットが絞り込まれた予算の少ないブランドでは、マーケッターが動画広告への興味を持つケースもある。

内田氏(博報堂DYメディアパートナーズ)
メディアミックスの効果は、古くから広告主とともにさまざまな形で検証してきた。マーケッターとともに、メディアの組み合わせのキャンペーントレースに数多く挑戦し、それぞれのKPIを毎回決めている。そのなかで、現在の最も有効な仮説の1つは、動画広告はF1/M1層においてインクリメンタルリーチを早期に上げる効果があることだと思う。

渡辺氏(ソニーマーケティング)
テレビCMが実施できないときに動画広告が有効だということはわかるが、テレビCMが実施できる場合の動画広告のコンビネーションの効果はどうか。

半田氏(ヤフー)
テレビCMを出している場合は、動画広告の価値は深さにあると思う。さまざまなデータが出てきているが、テレビCMへのフリークエンシーが2回のユーザーと、テレビCMと動画広告に1回ずつ接触したユーザーでは、後者のほうが認知度や、その後の商品理解や購買意欲のスコアが高くなる結果となっている。

中村氏(ライオン)
動画広告をテレビCMでリーチできないところの補完とするのか、15秒では伝えきれない部分を見せたいのかなど、どのような目的で出稿するかによってやり方が変わってくると思う。動画広告の得意とするところは、半田さんの仰る通り、コミュニケーションをより深くするところだと思う。ただし、その強みをどのように使うのか、セオリーはまだない。

若林氏(サントリーホールディングス)
社内のブランドマネジャーなどからは、「何回見られたのか。何人が見ているのか」などと聞かれることが多い。
テレビCMと動画広告は、目的に合わせ使い分けるべきで、メディア特性も違う。若い人に見てもらいたいブランドであれば「メディアプランニングの1つとして、若年層の閲覧が多い動画広告を活用してみてはどうか」と提案することもある。
また、テレビCMを放映すると、その反響がネットのアクセスとなり返ってくることがあるので、ランディング先としてWeb上に動画が無いというのはもったいないと思う。我々も、これまでコンテンツは自社のホームページにだけ出していたが、2013年11月にYouTubeの公式チャネルを立ち上げたところ、以前に比べ4~5倍ぐらいの再生がある。詳しい分析はまだだが、動画広告が入ることで、サイトを回遊してもらえるため、副次的に他の動画が閲覧される動きがある。このように他の動画も見られる機会や接点が増えたことはよいと思う。

企画やメディアプランはだれが立てていくのか

渡辺氏(ソニーマーケティング)
テレビCMを打てないブランドなどで、雑誌などと組み合わせて動画広告を出すという話が小出氏さん(資生堂)からあったが、そのような提案は代理店から出てくるのか、自社で考えるのか。

小出氏(資生堂)
ケースバイケースである。ただ、ここ何年かは代理店主導で提案が出てきたケースが多かったが、部門の編成などを変えていくなかで我々のほうから出していけるような体制にしていこうとしている最中である。

西村氏(全日本空輸)
我々も、大きなキャンペーンなどでは、当然代理店の手を借りる必要はあるが、その手前でマスをどうするか、デジタルでどうするかという議論を重ね、こうしたいというところまで作り上げて、最後の微調整で代理店と話し合うところまで成長してきたと思う。
大きなキャンペーンでない場合は、Webの動画広告が主力になりつつあることも感じている。

中村氏(ライオン)
Webを推進するリソースが不足していたが、ようやく2013年7月にデジタルコミュニケーション推進室ができた。これまでのテレビCMのクリエイティブ・出稿が決まってから、ホームページやWebのメディアプランニングを行っていた体制から、一緒に考える風土ができてきている。

内田氏(博報堂DYメディアパートナーズ)
ただ広告枠を買いたいのであればエージェンシーは必要ないと思う。10年前からマーケティングが大きく変化し、広告主やマーケッターの構造も変わってきているなか、より高い志でこのようなマーケティングに挑戦したいということを考えて、固有の競争環境に合ったプランニングを行ってもらったほうがよいと思う。

中村氏(グーグル)
我々としても、これまでどのようなメディアプランがうまくいったかを聞かれることが多いので、共有できるケースやデータを参考にしていただいて役立ててほしいと思う。

半田氏(ヤフー)
メディアプランに関わって、そのなかのパーツを担うのが我々なので、トータルのメディアプランニングには介在していないとは思う。動画をどうやったらより多く、効率的に見てもらえるのかという部分に関しては、映像制作の部分からご一緒させていただいて、クリエイティブのあり方といった部分に関しては、これまでよりも深く入り込むようになってきたと思う。

2014年7月29日月例セミナーレポート(2)

(C)2014 Web Advertising Bureau. All rights reserved. 
※このコンテンツを利用して直接の対価を得るのでなければ自由に利用いただいてかまいません。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。