Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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『カンヌをデジタルネイティブ視点で分析、2014年を象徴する「Massive」「Update」「Experiment」とは』2014年8月26日開催 月例セミナー(2) イベント報告

  • 掲載日:2014年11月17日(月)

カンヌをデジタルネイティブ視点で分析、2014年を象徴する「Massive」「Update」「Experiment」とは

Web広告研究会の月例セミナー「3つの視点によるカンヌ報告会 ~普遍視点・デジタルネイティブ視点・プロデュース視点」第二部は、デジタルネイティブ視点をテーマにSIXのインタラクティブプランナー&デザイナーである灰色ハイジ氏が講演。サイバー部門とモバイル部門を視察したなかから、3つの切り口で注目作品を紹介した。

Web・モバイルは生活インフラとして成熟


株式会社SIX
インタラクティブプランナー&デザイナー
灰色 ハイジ氏

灰色氏の所属するSIXは、次世代型クリエイティブエージェンシーとして、2013年6月に博報堂が設立した組織だ。もともと、博報堂アイ・スタジオのデザイナーだったという灰色氏は、現在デザイナーからプランナーに転身し、7対3の割合で仕事をしていると自己紹介した。

仕事柄、主にサイバー部門とモバイル部門の作品をチェックしてきたという灰色氏は、2014年カンヌの傾向を次のように述べる。

「滞在中ずっと思ったのが、すべてはコンテンツなんだということ。
Webやモバイル自体は生活インフラとして成熟していて、目新しさはなくなっている。テクノロジー自体でWowというものは、今回のカンヌではあまりなかった。
結局、何に向けて発信されているかより、そこにどんなコンテンツがあるのかということでしか、ユーザーは心を動かされないのではないか。自分がユーザー視点で見たときの感想としても、今年はそれが大きかった。
ただ、これはどのカテゴリでも同じ。どんなメディアもでてきた当初は新しくて引きつけられるけど、慣れてきたときに何をするかというのは普通のことだと思う」

テクノロジー自体が注目されることが少なくなってきたと述べる灰色氏は、第一部で紹介された作品とは別に、サイバー/モバイル部門のなかで特に気になった作品を3つの切り口で紹介していった。

Massive:膨大な量が新しい体験を生みだす

1つ目のキーワードは、膨大な量がこれまでにない体験を生みだすという「Massive」。

Pharrell Williams - Happy


まず灰色氏は、「24hoursofhappy.com」の事例を紹介した。24hoursofhappy.comは、世界初となる24時間のミュージックビデオ「24 Hours of Happy」のWebプロモーション施策だ。

「24時間分の映像が撮ってあって、自分が訪れた時刻からビデオが始まる。言葉にすると、“ふーん”という感じなんですが、これだけ膨大な量の映像を撮影、編集して載せている。その量に圧倒される」

また、いろいろな人がムービーのパロディを作ってWebにアップしており、「最近はユーザーも一消費者として、何か発信したいという感情がある」のだという。

Like a Rolling Stone


同様のMassiveの事例として、ボブ・ディランのアルバムプロモーション施策も紹介された。ヒットソング「Like a Rolling Stone」のプロモーション映像が複数チャンネル分制作されており、ユーザーが好きなタイミングでチャンネルを切り替えても、必ず登場人物がリップシンクするようになっている。

また、灰色氏はユーザーの動画視聴体験が変化していることを話した。

「ユーザーとして動画を見るのが当たり前になっている。しかも映画ではなくて、10分単位の動画をたくさん見るという体験に慣れているので、すぐスイッチとかができないと、ユーザーは飽きてしまう。動画はよく見ているけれど、短時間の細切れの映像を見ているという体験が、最近の感覚としてある」

こうしたユーザーの動画視聴体験の変化にあわせ、ユーザーに見てもらえる動画の時間も変わってきているという。

「私もYouTubeで総時間を見て、長いのは見るのを諦めることがある。制作でもそれは気にしていて、実際にYouTubeの最適化をするときには、長い動画を編集してパート分けした方が見られたりする。記事の続きを読むのと一緒の感覚。
おもしろいのが、シーンごとに分けると、再生回数からどのポイントがおもしろいかがわかること。作り手的にも、見る側にも、長いときにはここだけ押さえればよい、ということがわかりやすい」

Update:見慣れたツールを生まれ変わらせる

2つ目の「Update」というキーワードは、見慣れたツールや慣れ親しんだインターフェースをアップデートし、新しい体験を生みだすというもの。

Speaking Exchange


まず紹介されたのは、ブラジルの英会話教室と、米国のリタイアメントコミュニティを「Googleハングアウト」でつないだ、英会話スクールの事例だ。ネイティブスピーカーから英語を習いたいという生徒と、だれかと話したいという高齢者の欲求を、Googleハングアウトという見慣れたツールを使ってつないでいる。

「英語を学びたい生徒と、老後生活のなかでだれかと話したいという思いをもつ高齢者の方々をつないでいる。だれかと話したいという欲求をつないだということが大きい。(通信)英会話という見慣れたものをだれとつなぐのか。相手側に話したいという欲求があるので、先生然としていなくて、生徒と先生の関係ではできないコミュニケーション。絵づらを見るだけでもグッとくる」

Google Night Walk


2つ目は、Googleマップのストリートビューを使って、フランスのマルセイユの街を散歩できるという「Google Night Walk(https://nightwalk.withgoogle.com/en/home)」の事例だ。通常のストリートビューよりも高画質になっており、観光ガイドやスポット紹介のムービーなども付いている。

「インターフェース自体はすでに私たちが見慣れたもので、それをアップデートしてあげるような体験はいいと思う。先ほどの英会話もそうですが、私は見慣れているもので新しい体験ができるというのが好きなので、この2つの事例はそういった意味でもよかった」

Experiment:実験的であること

3つ目のキーワードは「Experiment」。第一部の須田氏の事例紹介でもあったが、実験的であるということが、今年のカンヌのキーワードとしてあるという。

Sat-JF14


たとえば、元レッド・ホット・チリ・ペッパーズのギタリスト、ジョン・フルシアンテのアルバム「Enclosure」のプロモーション(モバイル部門)が挙げられる。アルバムの発売に合わせてアルバムを乗せたロケットを打ち上げ、ユーザーが連動アプリで衛星軌道上のアルバムを追いかけると、頭上に来たときにだけ楽曲を先行ダウンロードできるという仕組みだ。ロケットを打ち上げなくても、アプリの仕組みとして実現できるが、実際に打ち上げたところがポイントだという。

Universal Typeface Experiment


もう1つの事例は、世界で1000億本を売ったBICのボールペンが公開したキャンペーンサイト「Universal Typeface(http://theuniversaltypeface.com/)」。タッチデバイスによって手書き文字を投稿できるサイトで、蓄積した手書き文字をマージして手書きフォントを作るというものだ。

「いろいろな人の手書き文字がマージされて、究極的に普通な手書きフォントを作るというキャンペーン(集合知のフォント)。手書き文字は、年齢、利き手、性別、国などでソートできる。たとえば、国ごとに文字の特性があることが見えてくる。
今年のサイバーは、映像ものというか、エンターテインメント的なコンテンツが圧倒していたが、個人的にはこうした事例はサイバーらしいと思う。やはり実験的であるということは、この分野において大事だと思う」

未来のクリエイティブのアイデア

最後に灰色氏は、毎年クリエイティブエージエンシーのAKQAが主催する学生コンペ「Future Lions」で発表された作品をいくつか紹介した。コンペのテーマは、「5年前には不可能だった方法でブランドとターゲットを結びつける」というもの。ルールや制約はなく、手法やブランドも問わないという。

「よく会社のメンバーとカンヌの何に嫉妬したかを話すんですが、毎年このFuture Lionsで出てくるものが良くて挙げてしまう。アイデアのコンセプトムービーですが、受賞したのはどれもすごい完成度で、どれも本当にありそうなもの。選ばれた5作品のなかでもよかった3つを紹介したい」

HEARt ME


1つ目のアイデアは、ウェアラブルTシャツを使って子供の不穏な心臓の動きを感知し、親のスマートフォンに送信するというアイデア。危機を察知するだけでなく、心拍数のデータを研究目的に応用する使い方もできる。

Google Gesture


2つ目は、手話の内容を筋肉の動きから検知し、Google翻訳につなげて変換するというアイデア。この1~2年で筋肉の動きを検知するガジェットが実際に発表されているが、実際にあってもおかしくないアイデアだと、灰色氏は述べる。

Donate BY UPDATE


3つ目は、U2のボノが設立したHIV支援団体(RED)をもとにしたプロモーション。Appleやコカ・コーラなど、世界のブランドがパートナーとなって作る赤い製品を買って寄付するのではなく、アプリをダウンロードし、12月1日の世界エイズデーにアップデートすると寄付できるというもの。すでにApple製品を持っている人が、赤いiPhoneやiPadを必要するか、という疑問から生まれた。

「実際にやるとすると、どうやってアプリを認知してダウンロードしてもらうかのか気になると思う。実際にどうやるのかという疑問もあるが、アイデアとして、アップデートで実際に寄付ができたとしたら、それはスマートな解決法だと思った」

ネット時代のキーワード

サイバー部門とモバイル部門を「Massive」「Update」「Experiment」という3つのキーワードで振り返った灰色氏は、2014年カンヌで感じたことを、次のようにまとめた。

「膨大な量をやりきること。ユーザーが見慣れているインターフェースを使いながら、その使い方を少しアップデートしてあげること。そして実験的であるといったことが、今年のサイバー、モバイル部門を見ていて個人的に思ったキーワード。これはサイバーそのもので、ネット自体のキーワードだと思う。そういう意味では、須田さんも言っていたように原点、普遍的なものが評価されているところがあるのではないか」