「デザインでモノが持つ本質的な価値を具現化する、地方発の未来をつくるデザインとは?」2014年10月3日開催 第7回東北セミナー 第1部 イベント報告
- 掲載日:2014年12月1日(月)
東北のいまの復興(ボランティア)とこれからの復興(セミナー)を通じた支援を続けるWeb広告研究会の東北セミボラ。10月3日開催の第7回東北セミナーのオープニングでは、「デザインは地域社会を救う! 地方発の未来をつくるデザインとは?」と題し、山形からボブ アカオニデザイン事業部の小板橋基希氏、大阪から乾陽亮設計事務所の乾陽亮氏を招き、ワンパクの阿部淳也氏をモデレータとしてトークセッションが行われた。
株式会社ボブ
アカオニデザイン事業部
代表取締役社長
小板橋 基希氏
乾陽亮設計事務所
代表
乾 陽亮氏
株式会社ワンパク
代表取締役
東日本大震災・被災地支援プロジェクト プロジェクトメンバー
阿部 淳也氏
モノの持つ本質的な価値をデザインする
小板橋氏が山形の大学卒業後に開設し、山形を拠点に活動するアカオニデザインは、2014年で設立12年目を迎える。現在、グラフィックデザインを中心にしながら、派生する形でWebデザインも手がけている。起業するときには、デザインには広告という表現がつきまとうため、消費される短期的なデザインではなく、次の3つのことを目指したという。それは、「本質の見える、ウソのないデザイン」「使い捨てでない、継続性のあるデザイン」「新しい価値観を作る、未来につながるデザイン」だ。
アカオニデザインで手がけた農家「森の家」のデザイン。山形県産の米や里芋のパッケージをリデザインするだけでなく、観光資源となる芋祭などの企画も行う。
企業が「儲かるか楽できる」デザイン
乾氏は、オブジェクトデザインやロゴデザインなどを手がける乾陽亮設計事務所を2003年に立ち上げ、「20年を作るデザイン」を意識してデザインを作り続けてきたという。地元、大阪の伝統品などのデザインを手がけるなかで、「企業が社会貢献することが誇りとなり、それが直接顧客メリットにならなければならない」と考え、それがブランディングとなり、デザインにつながるように見せていくことを心がけるようになったと、乾氏は説明する。
企業がデザインを頼むのはメリットがあるからで、そのメリットは率直に言って「儲けるか楽できるか」と表現する乾氏は、5年~20年後の形を見据えてデザインしていけば方向性が見えていく、と考えながらデザインを続けている。
乾氏が、伝統工芸である堺打刃物のブランド認知のためにデザインした「森本刃物製作所」の紙切包丁。今、商品を売るためではなく、料理包丁に興味のない人にも感心を持ってもらい、将来の売り上げにつなげることを目的にしている。
作り手の気持ち、意図をデザインに落とし込む
「お二人のデザインは、形を作って収めたり、キレイなものを作るだけに留まらず、モノの本質の価値を表に出していこうとしているのを感じる」と話す阿部氏は、最初のテーマとして「お二人にとってのデザインとは」を掲げる。
乾氏は、「社会的要因や生産的要因といった、さまざまな要因を取りまとめて目的を達成するための計画である」という、自らが尊敬するデザイナー、チャールズ・イームズ氏の言葉を引用し、「デザインとは、美しいことも目的を達成するための要因や手段の1つで、目的に到達するまでの計画が重要」だと話す。
一方、小板橋氏は「自分の場合はデザインに近くないクライアントが多いなかで、目立つから金色や赤がいいとよく言われるが、デザインのイニシアチブを取ることもデザイナーの役割だと思う。作り手であるクライアントの気持ちを具現化することで、デザインの根本を共感してもらえる。フォントやグラフィックなどの表層的なものではないと思っている」と答えている。
「地方でデザインの仕事をするうえでのスタンスや進め方」について話題が移ると、小板橋氏はデザイナーの意図をすべて伝えられることが望ましいと述べる。
「代理店を通さずに直に依頼してくるお客様が多いので、デザイナーの意図を100%お客さまに伝えることができ、あまり理不尽な直しがない。なるべく多くのコミュニケーションすることが大事。地方でデザインを使いたいクライアントは、地方やさらに小さいコミュニティからモノや情報を発信していきたいという人が多いので、クライアントだけのセンスや感性で広報やデザインにかかわり過ぎると、デザイナーが意図する方向に進まなくなるので、しっかりと話をするようにしている」(小板橋氏)
また乾氏は、まず相談から始まり、クライアントの意図をしっかりと理解したうえで、すべての要望を聞くという。
「自分も代理店経由ではなく直の仕事がほとんど。デザインの相談から請けて、話し合って方針を決めている。小板橋さんと違うのは、クライアントの要望はフォントの好みまで100%聞くようにしていること。形に対しての責任は自分にあるが、ここを目立たせたいとか、可愛くしたいといった要望には言葉にはなってなくても何らかの意図があるはずなので、すべての話を聞いていこうと考えている」(乾氏)
人付き合いのなかから仕事が生まれる
「地方で仕事をどうやって作っているのか」という質問に対して乾氏は、大阪の銘菓である「粟おこし」のデザインを手がけたときのエピソードを披露する。
原材料の米を自社で炊き出しするところから製造している製菓会社の粟おこしが好きだったという乾氏は、直接連絡して店に遊びに行き、話し込んでいるうちにパッケージデザインを手がけることになったという。「基本的にファンでなければデザインはできない」と乾氏は話す。また、伝統工芸の刃物のPRを行った経緯も、「おもしろそうだ」と現場見学をしているときに、製造工程の写真がほしいという話になり、人を紹介するという話から仕事につながっていることを明かしてくれた。
また小板橋氏は、「地方には若手デザイナーがいないので、仕事は来る。お客様の紹介で来てくれたり、商品のパッケージを見て依頼してくれる人もいるので。営業などは行っていない」と話している。
「地方でデザインの仕事をする上でのポイント」について乾氏と小板橋氏は、次のように述べる。
「京都で仕事をすることが多いが、京都は少しクセが強い。返事が曖昧だったり、なかなか進まなかったりすることが多いが、それを無理やり東京や大阪のやり方に当てはめようとするとうまくいかない」(乾氏)
「個人事業主では、社長がOKを出しても、実は奥さんが実権を握っていて、後でひっくり返されることがある。普段は1案しか出さないが、奥さん対策で2案出すこともある」(小板橋氏)
また、1案しか出さない理由について小板橋氏は、「競合他社がいないクライアントが多く、本質や根本の価値がブレていなければ複数の案を出す必要はない。案を分散させるよりも、最も考えなければならないところに注力している」と話している。
阿部氏や乾氏も、しっかりと話し合っていれば、複数の案を出す必要はないと考えているようだ。
地方でのデザインとお金の考え方
続いて、大阪にも進出している阿部氏が「やはり大阪は、デザインに対する考え方やお金に対する感覚が東京都は違うと感じている」と話し、「人材やお金について」に話が移り、乾氏と小板橋氏はそれぞれ次のように話す。
「クライアントの知り合いにデザイン関係の人がいるということはめったにない。職人さんと話すことが多いが、その日当と同じくらいの人日でギャラを請求するようにして、同じ金額感にするようにしている。デザインの費用対効果ということを非常に気にしていて、クライアントが最長でも5年でペイできて、以降は儲けとならなければならないと考えている」(乾氏)
「会社としてやっているので、ある一定の基準はあるが、ある程度破綻しない範囲の言い値でやっているのが現状。予算が低い場合は、行う範囲やページ数などを減らしたり、パッケージのコストを節約したりして対応している。納品時に請求を出すようにしているので、前請求は行っていない。見積を出さないこともあるが、地元の小さな町でお互いの信用関係でなりたっているので問題は発生していない」(小板橋氏)
山形県の「オーロラコーヒー」の商品パッケージは、コストを抑えるために銘柄をマジックで色分けするように工夫されている。
人材に関しては、小板橋氏が「山形の美術大学を卒業した人が、地元に残って活躍する場が増えている」と話すように、山形、大阪ともに現地出身の若手デザイナーが増えており、交流も行われているようだ。
未来をつくるデザインの力
最後のテーマは「地方にデザインは必要か、未来をつくる力はあるか」というもの。阿部氏は、講演のまとめとして二人に尋ねた。
「あまり山形に根付いているとか、山形だけという考えはないが、ここ10年の仕事で、デザインによって文化的な豊かさが得られていると感じている。地方はやることが限られているなかで、デザインによってモノを知って選択肢が増えていくというのは、若い人たちにとっては面白いと思う。また、若い人は少し前の文化をおもしろいと感じるので、世代間の交流も生まれると思う」(小板橋氏)
「未来に目標を達成するための計画を立てることが必要だと思っている。たとえば、伝統工芸系の仕事に携わることが多いのですが、伝統工芸は右肩下がりと言われている。しかしなくなることはないと思う。やはりどうやって生き残る側に入るか、どういう状態で続けていたいかを目標に置き、計画することが重要。そうやって社会に貢献し続けるモノが生き残ってほしいという願いを持ってデザインを行っている」(乾氏)
第7回東北セミナー 第2部レポート
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