Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「社会貢献を企業利益につなげるエンゲージメントマーケティング構想とは?」2014年10月3日開催 第7回東北セミナー 第3部 イベント報告

  • 掲載日:2014年12月17日(水)

メンバーズ代表取締役の剣持氏が、「私自身がいつも考えていて行動のもとにしていることや、経営方針に取り入れている内容を話したいと思う」と語った、東北セミナー第三部。剣持氏は、Webやデジタルにとどまることなく、幅広い視点で会場へと問題提起を行う。社会貢献が企業の利益につながるという、エンゲージメントマーケティング構想とは。

限界が来ている資本主義のなかで何ができるか


株式会社メンバーズ
代表取締役 兼 社長執行役員
剣持 忠氏

剣持氏は、「私自身がいつも考えていて行動のもとにしていることや、経営方針に取り入れている内容を話したいと思う。講演という固い内容ではなく、日ごろ考えていることをみなさんの問題提起や投げかけとしてお話ししたい」と述べ、2100年には平均気温が6.4度上がるという地球温暖化の問題を挙げ、経済優先の社会で豊かさの概念を変え、物を大量消費する考え方を改めなければならないと訴える。

また、水野和夫氏著の『資本主義の終焉と歴史の危機』を内容が納得できる本として紹介し、資本主義は終わってほしくないが限界に来ており、金融余剰が実物経済をはるかに上回って、行き過ぎた状態になっていることを示す。こういった状態に目を背けずに、自分の事業で少しでも解決できるために何ができるのか、自社の社員と共有していきたいと剣持氏は常々考えているという。

続いて剣持氏は、自動車メーカーのボルボの話題を示し、2020年までに新しいボルボ車が関わる死亡者や重傷者をゼロにするという目標を立てていることを紹介する。ゼロにすることは難しいが、そのような目標を立ててセーフティテクノロジーを開発していく姿勢に感銘を受けた剣持氏は、自らもボルボの自動車を購入したという。

「ボルボの車を買って乗ってみて、より安全運転するようになったことに気づいた。僕のせいで2020年までにゼロにするという目標がダメになったら残念という気持ちが芽生え、ボルボがゼロにするだけじゃなく、我々がゼロにするんだということに気づいた」(剣持氏)

剣持氏は、ボルボのユーザーが事故をゼロにするための目標に協力して向かっていくことにマーケティングの深さを感じたといい、このような会社を増やしたいと考えたという。

このような例は、経済を回しながら自社の社会貢献を実現する好例だ。また、セーフティテクノロジーの開発コストばかりかけていては、企業は立ち行かなくなるが、ボルボはこのようなビジョンを示して実行することによって、2010年から2013年までの3年間で売上を2倍に伸ばしている。

企業の社会貢献が利益につながることを考える

日本のGDPの6割が個人消費で、その額は285兆円になると話題を変えた剣持氏は、このお金の使い道を変えると何かが変わるのではないか、と話す。

消費者庁が発表する「平成26年度版 消費者白書」(第3章-第2節 消費者行動・意識の状況)では、社会貢献につながるものを意識的に選択する人の割合が59.2%となっているが、これが3分の2以上になれば、もっと社会は変わるというのだ。

1円でも安いものを求める人に対してメーカーが商品を安く提供できるように努力しているのと同じように、社会貢献につながるものを求める人が多ければ、メーカーも社会貢献につながる物を作るようになる。消費行動は、メーカーに対する意思表明で信任投票となるのだ。「社会貢献=かっこいいといった若者の意識変容をマーケッターである我々が行えないかと思っている」と剣持氏は話す。

ヤラカス館SoooooS.カンパニーが行った「社会的意識・行動に関する調査」でも、商品の社会的取り組みが購入検討につながるという人は5割を超えている。そのなかで重要なのは情報発信だ。社会性のある商品の購入意欲があっても買っていない理由としては、「どれが社会性のある商品化わからない」「買える場所がない」「取り組みの実態が見えない」といった意見が多く、「我々、Web制作会社やマーケティングの力で解決できる課題」と剣持氏は話す。また調査では、企業が行う社会的取り組みの積極的な情報発信について、3分の2の消費者が希望している。

メンバーズが行った調査でも、好きな会社の理由として「商品が好きだから」(67.4%)に次いで、「企業の姿勢や理念に共感するから」(35.6%)と回答している。では、そのような企業の姿勢や理念をどこから得るかといえば、やはりWebサイトやSNSが多く、商品が好きと答えた人よりも、理念に共感している人の方がWebサイトやSNSをよく見ている結果になったという。

「これまで話したことをつなぎ合わせると、企業が社会的貢献を考えることで利益につながるという事例が増えるのではないか。オウンドメディアやSNSを通じてもっと生活者と共有し、生活者の態度が変わることによって企業側の経営方針がさらに変わるというサイクルが回っていけば、数年後にはよい世の中になっていくと考えている」(剣持氏)


WebサイトやSNSを通じてエンゲージメントを築く

これらの考え方は、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創出)という視点やマーケティング 3.0という概念でまとめられ、リン・トゥイストの著書『ソウル・オブ・マネー』でも生活者の視点で語られていると剣持氏は紹介し、「利益を得ることも大事だが、次の世代に向けて持続可能な社会の足場を作っていくことも大事で、利益と持続可能な社会を両立させるように考えていきたい」と話す。

Web担当者やマーケッターが変えられる社会

マスマーケティングがネットの普及によってペイドメディア中心のWebマーケティングへと移り変わり、SNSの普及によってオウンドメディアマーケティングが到来していることを説明する剣持氏は、「同じようにマーケティングのあり方も、大量消費から社会性のある商品のための情報発信にシフトしていけるのではないか」という考えを示す。


マーケティング業界のパラダイムシフト

『宣伝会議』(2014年2月号)による2014年に向けて注目しているマーケティング施策の調査で、オウンドメディアマーケティング、コンテンツマーケティング、スマートフォン向けサイトの最適化が高く、CRMやDMPへの関心も高い。メンバーズでは、今後20年を見据えたミッションを「MEMBERSHIPでマーケティングを変え、心豊かな社会を創る」に変えており、MEMBERSHIPを「自発的貢献意欲を持って組織・活動に参加すること」と位置付けている。

「メンバーズを創業してから19年でインターネットは非常に便利なものとなった。インターネットの可能性はまだまだあると思っていて、便利の次に行くこと、豊かさの概念を変えられないかと考えている。我々だけでできることではないが、少しでもキッカケとなったり、1%でも貢献できれば働くやりがいがあると思う」(剣持氏)

このミッションを実現するために、メンバーズでは企業と生活者の間のエンゲージメントを創出する、「エンゲージメントマーケティングセンター(EMC)」の確立を目指している。数十名体制のWebサイトの大規模な運用代行をB2C企業に提供する「Webマネジメントセンター」と、ソーシャルメディアマーケティングを統合することで、EMCというサービスに昇華させることがメンバーズの狙いだ。

エンゲージメントマーケティングセンターの確立に向けた活動

また、経済価値と社会貢献を同時実現する経営手法を広めるため、CSV事例を数多く創っていくこともメンバーズでは考えている。そのため、メンバーズ子会社のエンゲージメント・ファートは、「CSV Innovation Meeting 2014」を定期的に開催し、企業のCSV活動を促進し、実践事例の創出を目指して社会貢献によって会社の利益が増えることを考えていくという。

これらの活動のなかでエンゲージメント指数を作り、「エンゲージメント指数が高ければ利益貢献度が高い」といった調査結果を示すことで、CSV活動の予算を取りやすくなり、長期的な視点の話や持続可能な社会の話などの生活者が共感できる話を、もっと企業が語れるようになることも狙っていく。

もちろん、顧客企業にCSVを勧めるだけでなく、メンバーズ自身もCSVに取り組んでいる。震災復興支援で効用を創出するため、仙台に「ウェブガーデン仙台」を設立したり、女性の活躍支援や労働時間の改革をしたりするなど、さまざまな取り組みを行っている。

最後に剣持氏は、講演の内容を少しでも多くの人と共有したいと願っていると、次のように語った。

「環境問題や日本の負債を考えると、経済と持続社会をリンクさせることをWebやマーケッターの視点で考え、今日できることを繰返して行っていかなければならないと思う。余暇だけでなく、仕事上でこれらの活動ができる人をもっと増やしたいと思うし、自分ももっとさまざまな人から刺激を受けたいと考えている」(剣持氏)

第7回東北セミナー 第1部レポート

第7回東北セミナー 第2部レポート

第7回東北セミナー 第4部レポート

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