Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「インターネットの事業化を最新スタートアップに学ぶ」2014年10月29日開催 月例セミナー イベント報告

  • 掲載日:2015年1月7日(水)

インターネットを活用し、新しいビジネスモデルや製品・サービスをスピーディに展開するスタートアップの活躍がめざましい。近年はスタートアップと大企業のコラボレーションも生まれている。Web広告研究会の10月月例セミナーでは、「インターネットの事業化を最新Startupに学ぶ」と題し、スタートアップ企業をゲストに、大企業との文化の違いや事業化のポイントを議論した。

日本発のグローバルスタートアップを生み出すInnovation Weekend


株式会社サンブリッジグローバルベンチャーズ
代表取締役社長
平石 郁生氏

第一部はサンブリッジグローバルベンチャーズの平石氏が登壇した。平石氏は、日本発のグローバルなスタートアップを生み出すことを目的とした「Innovation Weekend」の共同発起人として2011年からイベントを開催しており、2014年は海外3都市を含む5都市で開催、それぞれの優勝者と準優勝者のなかから今期のチャンピオンを決めるイベントを12月に行うと説明した。

『挫折のすすめ』という本も執筆している平石氏は、起業時の支援を行うシードアクセラレーター「500startups」のデイブ・マクルーア氏を講演に招いたとき、次のように演壇を叩きながら熱弁していた言葉を紹介する。

「日本人にとって失敗は再起不能や死に近いイメージがあるかもしれないが、シリコンバレーでは失敗は日常茶飯事で、失敗をオープンにしてシェアし、そこからどうやって学ぶかという文化になっている。日本も、そのように変わってほしい」(デイブ・マクルーア氏)

石川氏も同様に、失敗を恐れずに学んでほしいと考えているという。

言語の壁を越え、グローバルのカルチャーを体験する

Innovation Weekendでは、2014年を除く過去3年間で、まだベンチャーキャピタルの投資を受けていないシード/アーリーステージのスタートアップから有望な会社を103社発掘し、ピッチコンテストを行って資金調達につながる機会を提供している。そのうちの約60%が、何らかの形でメディアに紹介され、25%が資金調達に成功しているという。

Innovation Weekendに参加したスタートアップのなかには、M&AによってEXIT(投資・資金回収)した会社や、10億以上の多額の資金調達に成功した会社もあり、第一回で優勝したPeatixのようにグローバル展開に挑戦している企業もある。しかし、Peatixに続くグローバルチャレンジを行うスタートアップがまだ出てきておらず、日本全体を見てもその数は少ない。

グローバル展開について、言語やカルチャーの問題が大きいと話す平石氏は、どうやってこれらの課題を解決するかを考え、雰囲気やカルチャーに慣れるために、海外のスタートアップや投資家を日本に招き、交流を促進することで、グローバルな経験を擬似的に日本のスタートアップに提供しようと取り組んでいる。前述のInnovation Weekendもその活動の1つであり、2014年はInnovation Weekend自体のグローバル化に挑戦。東京と大阪に加え、ボストン、シンガポール、ロンドンで開催している。

90年代から大きく変化したスタートアップの構造

ここ数年の日本のスタートアップのトレンドに話を移した平石氏は、90年代の後半に平石氏が起業した時代に比べ、同じインターネット関連のスタートアップでも、その構造がまったく違っていると話す。

クラウドベースでビジネスを行えるため、インフラのコストや期間のハードルが低く、すぐに起業でき、尚且つ、有望なスタートアップであれば、創業後2〜3年の会社であっても、10数億円〜20億円規模の資金調達が可能になっている。また、2000年前後にネットビジネスを創業し成功した人が、新たなビジネスで起業する(シリアル・アントレプレナー)ことも増えてきている。同様に、一時は盛り上がったものの、その壁の大きさに低迷していたシリコンバレーへチャレンジする起業家が増えてきていることを、平石氏は感じているという。

平石氏は最後に、自分の感覚値と前置きしながら、最近注目しているスタートアップの分野・傾向として次の5つを挙げる。
・FinTech(金融および会計とテクノロジー)
      freee、マネーフォワード、コイニー
・Commerce
      STORES.jp、BASE、Sumally、ごちクル、メルカリ
・EduTech(教育とテクノロジー)
      schoo、RareJob、Quipper
・ソーシャル&クラウド&キュレーション
      SmartNews、Gunosy、Antenna、NewsPicks、Peatix、Retty、クラウドワークス、Gengo
・ハードウェア
      Moff、Ring、SCHAFT

上記のような注目されるスタートアップを例示した平石氏は、現在のスタートアップシーンは非常に盛り上がってはいるが、日本での大きな課題の1つは大企業とスタートアップの連携が足りないことだと訴える。米国のアクセラレーターのなかには、メンターと呼ばれる起業やビジネスのノウハウを教えたり、アドバイスを行う人たちのなかに、大企業のメンバーを入れているケースが見られるが、日本ではまだそうした取り組みは少ない。

「大企業はスタートアップの顧客でもあり、EXIT先としても重要な存在。地に足が着いていないときから大企業の人たちに見てもらって、どう成長するのか、どのようなカルチャーか、どのような機会とリスクがあるのかを理解してもらう必要がある。日本もこのような動きがあれば、スタートアップもかなり加速するのではないかと思う」(平石氏)

大企業とスタートアップの接点を作り、お互いにWin-Winの関係になれるような取り組みを一緒にやってほしいと、平石氏は最後に呼びかけた。

企業がスタートアップから大いに学び、付き合うために必要なこととは

Web広告研究会代表幹事
本間 充氏 

株式会社サンブリッジグローバルベンチャーズ
代表取締役社長
平石 郁生氏 

第二部は、引き続き平石氏と、本間氏とのトークセッションが行われた。まず、本間氏は、政府により「産業の新陳代謝とベンチャーの加速」が2014年6月に閣議決定され、「日本再興戦略 改訂版2014」でもスタートアップ支援の強化が盛り込まれていることを説明し、スタートアップへの期待が高まっていることを説明する。

これまで大企業は、自社だけで製品・サービスを開発してきたが、スタートアップと組んで製品開発を行うことも多くなり、ローソンなどはシリコンバレーに店舗を出して、現地のスタートアップとサービス開発などを直接交渉するケースも出てきているという。一方で、スタートアップや個人発信でイノベーションが起きているにもかかわらず、多くの大企業が資本をかけて実験室やプラントを持ち続けていることに、大きなギャップが出ていると本間氏は話す。

スタートアップのほとんどがインターネットをうまく活用していると話す本間氏は、IT企業を除く企業の多くは、インターネットを使った広告は行うが、インターネットを使った事業を考えることは少ないとも説明する。また、スタートアップは同じ業種であっても横連携して情報交換を活発に行っているのに対し、大企業は同じ業種の会社とコミュニケーションを取りづらい雰囲気があることも問題視しているという。

これらが大企業でイノベーションを起こしにくい要因となっているのではないかと説明した本間氏は、平石氏に大企業とつながることができているスタートアップは少ないのかと問いかける。

「日本のケースは詳しくないが、(グローバルでは)B2Bのスタートアップであれば、企業が顧客なので付き合いは生まれている」と平石氏が応えるのに対し、本間氏は、「日本の企業の多くは、大企業とスタートアップに何か関係があるのか、といった感覚だと思う」と話す。

また、海外のスタートアップと積極的に関わるために、ローソンのようにシリコンバレーに出ていく企業が少ないことも問題だと本間氏は指摘する。

P&Gが家電メーカーと共同開発した室内衣類ケアの「SWASH」。洗剤のブランド企業だけでは、こうした製品は生まれてこなかったと本間氏は一例として示した。

大企業と異なるスタートアップのカルチャー

大企業とスタートアップによるイノベーションが生まれてくるなか、Innovation Weekendなどのコミュニティはアクティビティが高く、その数も増えてきている。平石氏は、テレビ局などもスタートアップへ目を向けるようになっている一方、日本ではプレイヤーとなるスタートアップがまだ少ないのではないかと話す。

米国では、ネットバブルの崩壊によって、I.T.系の企業を解雇された優秀な人材が新たなスタートアップを生み出すようになったが、日本では法的環境や社会環境によって人材の流動性が生まれていないことが課題になっていると平石氏は説明する。

また、多くのスタートアップは、インターネットをプラットフォームとしてビジネスを展開しており、収益率が高くなっていると平石氏は指摘する。たとえば、フリーマーケットアプリのメルカリは、インターネットとスマートフォンで売買が完結しており、流通への投資を行う必要がない。

さらに、ピクトケーキという食用プリンターでケーキ上部に写真やイラストなどを印刷するサービスは、実家が老舗の宅配ケーキの代表が運営しており、冷凍ケーキの在庫を使うことでケーキの製造過程を省いて、印刷と配送だけでビジネスを成立させていると本間氏は説明する。ケーキの在庫と、買いたい人をマッチングするシンプルな構造だ。

最初から最後までのすべての工程を自社でやることがカスタマーサービスと考えている大企業とスタートアップでは、ビジネスやカルチャーが違うという本間氏は、「こういったスタイルのビジネスもあるということを理解して、何を行うかというフェーズにきていることを感じる」と話す。

進化するインターネットの力を活かす

数年前は、インターネット上のサービスを“マッシュアップ”することが流行っていたが、現在はリアルの物を自分達の目的に合わせて調達してマッシュアップしていると話す平石氏は、ITやネットワークが発展してきたことが、90年代後半のネットビジネスと構造的に大きく変わってきていると話し、本間氏はそれらの進化をパワーとして活かしていない企業が多いと指摘する。未だにコールセンターや総務系の業務はデジタル化されておらず、インターネット上の会計サービスなども活用されていないというのだ。

「インターネットを使った新しいビジネスプロセスや産業の創り方も含めて議論していけば、日本の経済はもっとよくなる。スタートアップと大企業の人種は少し違うが、うまく付き合う方法を考えることで、もっとさまざまな人が活躍でき、経済的にも元気になれると個人的には考えている」(本間氏)

また、平石氏は「デジタル化できる事業はすべて、時間の問題でインターネット上に載ってくる」と、次のように話した。

「インターネットのことを、まだ通信や回線という概念で考えている人がいるとしたら、それは間違いだ。デジタル化できるものはすべてネットビジネスになってくる。例えば、不動産情報サイトは街の不動産屋さんをインターネットに載せたもので、ネットビジネスか不動産ビジネスかの定義は難しい。デジタル化できるものは、時間の問題ですべてネット上のビジネスに置き換わる。既存の大企業のビジネスで何がデジタル化でき、何がネット上に載せることができるかを考えれば、インフラコストを抑えてさまざまな変化が起こせると思う」(平石氏)


「Peatix」「ナイトレイ」が明かすスタートアップ成功の裏側

月例セミナーの第3部と第4部は、Innovation Weekendで優勝したスタートアップをゲストに、どのようなビジョンで事業を展開し、スケールしていったのか。スタートアップならではの強みを活かした事業化の背景が、サービスと合わせて紹介された。

だれもがイベント主催者になれる「Peatix」


Innovation Weekend Kick-off(第一回)優勝
Orinoco Peatix株式会社(親会社は、米国法人のPeatix Inc.)
取締役/Co-founder
藤田 祐司氏

第3部では、第一回Innovation Weekend kick-offで優勝したOrinoco Peatix社の藤田氏が登壇した。

同社が運営する「Peatix」は、ソーシャルメディアと連携し、だれもが簡単にイベントを主催して管理できるサービス。Peatixの特徴のひとつは、イベント主催者は、会社や組織としてではなく、同じ業界・職種や、共通の趣味・関心を持つ人が集まり、有志・ボランティアによって運営されている”コミュニティ”が多いことだ。主催者・参加者によるイベントへの関与度が非常に高く、積極的に情報発信を行っていることから、他社のチケット販社と比較して、ソーシャルメディアからの流入が多い。また、参加者向けのアプリを充実させており、利用デバイスの50%超はスマートフォン・モバイル経由というのも特徴的だ。

2011年5月の立ち上げから、イベント動員人数は延べ80万人、3万回以上のイベントが開催されている。開催されるイベントは、3名の草の根的ワークショップから3万人の音楽フェスまで多種多様だ。繰り返し利用しているイベントも多く、大きな話題となったイベントもPeatixを利用しているという。

また、Peatixはすでにグローバルでも成果を上げている。シリコンバレーの先進的なEtsyやPreziといったスタートアップはコミュニティやイベントをマーケティングに積極的に活用しており、ワークショップイベントなどを開催しているという。

従来のイベントビジネスは、大型興行が中心で、イベントを開催するために、「システム利用料」「販売手数料」「参加者の発券手数料」などの費用が発生しており、一般の人がイベントを開催してチケットを販売することは難しいと説明する藤田氏は、Peatixでは登録料やチケット発券手数料などを無料とし、チケットの決済処理費用は「2.9%+70円/注文」と、ほぼ原価に近いレベルまで引き下げた。

これによって多くのコミュニティがイベントを主催できるようになり、Peatixがイベントプラットホームとして認知されてきたと藤田氏は話す。一つひとつのイベントの規模が小さく、利幅も小さいため、従来の仕組みを持つ大企業が手を出しにくい領域だが、小回りが効き、テクノロジーによってスケールするスタートアップとしてやる価値がある、という。

チケットの決済処理費用での大きな利益が見込めない代わりに、ビジネスの柱として急成長しているのは、Peatixがイベント・メディアとなることで実現できた広告モデルだ。特定のイベントに集まる人やコミュニティに向けて、商品やサービスの認知・体験を促す「Peatixオファーズ」というサービスを展開していると、藤田氏は説明する。従来のイベント協賛とは異なり、3万のイベント主催者のデータベースから商品やサービスに合ったイベントをマッチングし、コンテキストに沿った自然な流れのプロモーションを、デジタルを活用したクーポンなどでシームレスに行えるというのだ。

例えば、ハイヤー配車サービスのUBERとのキャンペーンでは、
「平日昼間に、代官山・青山エリアで開催されている主婦向けイベントの参加者全員に、”イベントの帰りは高級ハイヤーで”」
とメールやアプリを通じて無料クーポンを配布したことで、成長は見込めるがアプローチするのが難しかったユーザー層に対し、高い確率でサービス利用体験につなげることができたとのこと。

ハイヤー配車サービスのUBERとのキャンペーン。イベントの帰りにサービスを体験してもらおうという試みだ。

最後に藤田氏は、「サービスの導入期にフィードバックを収集したり、ターゲットを絞り込んでオーガニックなクチコミを起こしたり、体験や利用シーンをコンテンツ化したい場合などにPeatixオファーズは利用できるので、興味がある人は声をかけてほしい」と話した。

ロケーションビッグデータが生み出すビジネス


2013年Innovation Weekend Oct優勝
株式会社ナイトレイ
代表取締役
石川 豊氏

第4部に登壇した石川氏が代表取締役を務めるナイトレイは、SNSで発信される情報を位置情報と組み合わせて解析することに特化した企業だ。

2011年に起業した同社は、スマートフォンの普及によってロケーションデータ(地域・店舗データ、評判・クチコミ・写真、行動履歴)が増えていることに注目し、B2B/B2Cを問わず、スタートアップとしてチャンスがあると考えたという。ロケーションデータを使ったビジネスには国内外に問わずさまざまなものがあり、注目されている分野でもある。

ナイトレイでは、世界中の施設・場所に関わる“今”のデータを超高速に整理してデータベース(DB)化し続けることによって、事業者・消費者の双方に対して新しい情報を提供することをビジョンとする。

ネット上のアプリやSNSのデータをリアルタイムデータ収集し、公開情報などとともに解析することで、ユーザーや施設の属性を含めた独自のデータベースを構築、その情報をもとにソリューション開発や商品化、サービス開発、アプリ開発を行っている。2011年11年以降に収集されたデータは6,000万件、140万の施設、78万のIDを含むデータベースを活用しているという。

SNSを解析してロケーションデータベースを構築

ロケーションデータの主な利用ニーズとして、石川氏は次の4つを紹介した。
1. 施設解析データ
      地図、ナビゲーション、観光コンテンツ
2. エリア集計データ
      マーケティング、アドテクノロジー
3. プローブ(人の流れ)
      エリアマーケティング、調査
4. クチコミ・感情データ
      危機検知、エリア分析

たとえば、災害や危機などの特定事象のリアルタイム検知ツールとしての活用、エリア流動データの分析、観光施設の人気調査などの利用例があるという。

ナイトレイの主な事例を紹介した石川氏は、スタートアップの強みについて話す。大企業と比べて、経営資源となるヒト、モノ、カネ、情報が少ないなかで、開発力、スピード、情熱・実行力で勝負する必要があり、これらがスタートアップの強みとなる部分だと石川氏は述べる。環境が整っていなくても、情熱を持ってやりたいことを遂げたいという思いがスタートアップにはあると話す石川氏は、コミュニケーションスピードを重視し、トライ&エラーを繰返しながらビジョンを共有しながら開発していると話す。

また、テクノロジー系のスタートアップはプロダクトアウトやマーケットインが弱くなりがちだが、どのようなニーズがあるかを考え、他者とパートナーシップを取りながらビジネスを広げることを重視しているとし、講演を終えた。


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