「Webグランプリ受賞9社に学ぶサイト制作・リニューアルの秘訣、第2回Webグランプリフォーラム」 2015年4月28日開催 Webグランプリフォーラムレポート(2) イベント報告
- 掲載日:2015年6月10日(水)
企業Webサイト運営する担当者が相互に互いのサイトを評価し、たたえ合う「第2回Webグランプリ」を受賞した各社が、リニューアルやコンテンツ制作の舞台裏を明かす、Webグランプリフォーラムが4月28日に開催された。各社がどのような取り組みを行い、企業サイトやプロモーションサイトを運営してきたのかが、今後の課題も含めて披露された。
訪日外国人のニーズを追求した6つのコンテンツで日本旅行の需要喚起を促進
プロモーションサイト賞 優秀賞
日本航空「JAL Guide to Japan」
http://www.ar.jal.com/world/en/guidetojapan/
日本航空株式会社
藤田 亘宏氏
JALの海外地区のホームページは、26地域12言語で展開されている訪日外国人向けのサイトで、月間ユニークユーザー数は100万人を超える。約10年ぶりにリニューアルした同サイトにおいて、旅の情報を提供しているのが、「JAL Guide to Japan」だ。
JAL Guide to Japanは、外国人が考える「日本のイメージ」=「JALのイメージ」と捉え、安心感と親近感を持ってもらえるようにし、なるべく商売っ気を抑えて、楽しんでもらうことを目的に制作していると藤田氏は説明する。
「もちろん日本に来るためにJALの航空券を買ってもらいたいということが目的だが、JALを知らなければホームページに来ることもなく、航空券を買っていただくこともできない。そのため、JALに乗ってほしい、JALを知ってほしい、の2つが目的となる」(藤田氏)
「JALに乗ってほしい」=「日本に来てほしい」となるため、JAL Guide to Japanでは、旅の基本情報やJALオリジナルのコンテンツなどを提供し、日本旅行への需要喚起とJALの認知度を高めるコンテンツを考えたという。
Guide to Japanを通じて日本旅行への需要喚起、JALの認知向上を図る
ニーズをヒアリングして作られた6つのコンテンツ
訪日外国人旅行者が年々増え、地方の多くの都市で訪日需要が高まっているなか、訪日外国人が知りたい情報は何か、JALでは、「公共交通・移動手段・地図」「両替・クレジット環境」「言語対応」「無料公衆無線LAN環境」などが必要だと考えた。
また、2014年の国別の訪日外国旅行者数を見ると、台湾、韓国、中国、香港の順で多く、この4か国で全体の65%以上になるため、アジアの旅行者を意識したコンテンツ作りが考えられた。
次にJALが考えたのは、日本で訪日外国人が何をしたいかということだ。現地に足を運び、海外支店を中心にヒアリングを行った藤田氏は、「見る」「食べる」「買う」「体験する」「遊ぶ」などについて、どのような興味があるかを調べ、サイト構成を決めたという。
6つの軸でサイトを構成。訪日外国人の興味関心は、日本人の海外旅行と同様、「見る」「食べる」「体験する」「遊ぶ」「買う」が中心だった
6つのコンテンツのうち、「ABOUT JAPAN」は、四季、食事、伝統・歴史、サブカルチャーなどをひと言で表すコーナーだ。
「観光情報」は、一覧だけではわかりづらいため、場所や日付、特定のテーマから探すことが可能で順次拡大している。また、各観光情報には「Suki」ボタンが設置されており、気に入ったユーザーが押した数が増えれば、一覧の写真が大きくなっていくという。
「How Tsu Japan」は、外国人に伝えたい日本のことを「通」として紹介するコーナーだ。「食」「乗」「泊」「技」「触」にカテゴリ分けし、日本の居酒屋でおなじみの「とりあえず生」の一言や、ラーメンの替え玉の注文方法、タクシーの止め方やマナーなど、楽しみながら読めるコンテンツとなっている。
「Travel Information」は、空港案内や都市部への乗換案内など、旅に役立つリンク集を用意し、旅で困ったときに役立つ情報を揃えた。
「おもてなし」は、オリジナルコンテンツとして、外国人の方にどのようなおもてなしをJALが行っているかを紹介するコーナーだ。各部署にインタビューを行うなどして作り込まれており、「JAL Staff Selection」では、JALの海外支店スタッフや地元CAが日本の魅力を紹介している。
「JAL Guide to Japanでは、日本を知ってもらい、なるべく多くの人に日本に来ていただき、できればJALに乗っていただきたいと考えて制作し、極力販売色を出さないようにした」(藤田氏)
リニューアル前後の成果を見ると、前年下期と比較してユニークユーザー数は2.5倍、PV数は6倍にまで増加している。また、地方自治体や訪日需要を取り込みたい企業からも声をかけられているといい、今後はコラボレーションなどにも力を入れていくという。
資生堂の美へのこだわりを追求しながら、オウンドメディアで顧客ロイヤルティを向上
企業サイト賞 優秀賞
資生堂「資生堂グループ企業情報サイト」
http://www.shiseidogroup.jp/
株式会社資生堂
木村 桃子氏
資生堂では、「資生堂グループ企業情報サイト」のほかにも、ECや美容情報、ビューティコンサルティングなどを行う「ワタシプラス」、各ブランドのサイト、ビューティやグルメ、恋愛などのコンテンツを提供する「Beauty & Co.」を運営している。
そのなかで、資生堂グループ企業情報サイトは、コーポレートコミュニケーションの一環と位置付けられており、オウンドメディア戦略として、強みを活かし、生活者にとって「共感する、役立つコンテンツ」をつくりストックしていくという考えのもとで運営されている。
オウンドメディアのKPIは、デジタル上のコミュニケーション総量を最大化することで、より多くの生活者にコンテンツに触れてもらう「接点の拡大」と、1人ひとりにより多くのコンテンツに触れてもらう「関係を深化」の2点がポイントになる。そして、資生堂という企業に対するロイヤルティ向上がKGIになるという。
木村氏は、「企業情報サイトを訪れるユーザーは何らかの目的がある」と話し、「知りたい情報を早く正確に伝えること」と「伝えたい情報に関心を持ってもらって刺さるように伝えること」の2点が重要だと説明する。資生堂に対して共感や「いいね!」を感じてもらうことで、企業価値の向上と事業への貢献を実現するのだ。
5つの課題をクリアする3つの施策
Webグランプリを受賞した「資生堂グループ企業情報サイト」がリニューアルしたのは2014年だが、それ以前、2013年には次のような課題があったという。
1. 目的への導線が弱い
2. アピールしたい情報が見られていない
3. 公式SNSとの連携が弱い
4. 運用負荷が高くスピーディーな更新が困難
5. 資生堂らしい「美」の欠如
たとえば、運用負荷の原因としては、PCサイトとスマートフォンサイトが別々にあり、さらに日本語、英語、中国語の3か国語に対応しなければならないことが挙げられる。
これらの課題を解決するため、リニューアルのポイントとして次の3つが考えられた。
1. 設計:ユーザーの目的、資生堂が伝えたいページへの「導線強化」
2. デザイン:資生堂グループの「美へのこだわりを具現化」
3. コンテンツ:資生堂グループの実体を伝える「内容強化」
「導線強化」について、リニューアル後のトップページでは、コンテンツごとに写真のパネルを用意して導線を強化し、YouTubeの公式チャンネルやFacebookの公式ページとも連携して最新の内容が見られるようにした。
コンテンツをパネル形式で掲載して導線を強化、レスポンシブWebデザインを採用し運用も効率化
運用の煩雑さを低減させるため、スペシャルコンテンツ以外はレスポンシブWebデザインを採用し、運用を一元化して効率化を図った。また、パネルに使用する画像は、PC、スマートフォン、各言語のサイトで共通化し、運用を効率化している。
「美へのこだわり」については、デザイナーやクリエイティブディレクターと話し合い、資生堂グループの表現する「女性像」をメインイメージとして掲出し、唐草をあしらった動く背景で美を表現したという。また、掲載画像のクオリティを統一することで、サイト全体の美の底上げを行うことにも注意した。
その他、サイト内回遊を促す導線として、ユーザーが関連コンテンツにスムーズに移動できるようにレコメンドエリアも設置された。
リニューアル後の効果については、接点拡大のためのKPIであるセッション数が117%と向上する一方、関係深化のためのPV数が92%と若干下がっており、今後の課題になっている。
また、ロイヤルティ向上の効果を見るために、資生堂ではNPS(Net Promoter Score)を調査しており、サイト非接触者と接触者のNPSを比較すると、サイトがロイヤルティ向上において一定の役割を果たしていることがわかったという。
「Webグランプリ審査員からは、使い勝手や美へのこだわりを評価いただいた」と話す木村氏は、一方で、メガドロップダウンの使い勝手が悪い、少し動作が重いといった意見ももらったと説明し、これまで考えていた課題と合致する部分でもあり、今後はユーザービリティの改善を行いたいと話した。
包丁のことならなんでもわかる! 家庭用包丁シェアNo.1の企業として正しい情報を伝える
プロモーションサイト賞 優秀賞
貝印「貝印包丁サイト」
http://www.kai-group.com/products/special/hocho/
貝印株式会社
小口 久美子氏
「貝印包丁サイト」は、包丁の使い方や選び方など、包丁に関する総合情報ポータルサイト。貝印は、家庭用包丁の国内シェア約4割を占めるNo.1メーカーだが、これまでの自社サイトは商品紹介のみで、包丁に関する情報が少なかったことが貝印包丁サイトを制作するキッカケになったと小口氏は説明する。
具体的には、販売するだけでなく、使う人の視点も考えるサイトにして、ユーザーが何を疑問と感じ、何を求めているかを改めて勉強したいと、コンテンツを考えていった。また、砥石で包丁を研ぐ人が減るなかで、メンテナンスの重要性や楽しさを伝えて、良い包丁を長く使ってほしいという想いから、コンセプトは「包丁を使う、すべての人に」に決められた。
貝印包丁サイトの制作では、包丁の基礎知識からメンテナンス情報までを集約するため、商品本部、お客様相談室、イベント運営部署企画会社、生産工場などのさまざまな組織との連携が必須となった。
また、内容を精査するためにユーザー調査や会員へのインタビューを行い、ユーザーがどのような情報を求めているのかを調べていったという。その調査内容を精査した結果、次の6つのコンテンツが候補として挙げられ、これらを集約したコンテンツが作られた。
調査からわかったユーザーが求める情報
・包丁の選び方がわからない
・使い方がわからない
・メンテナンス方法がわからない
・そもそもどうやって創るのか
・製品情報
・FAQ
6つのコンテンツに情報を集約
サイト制作で最も考慮されたのは「スマートフォンファースト」で、スマートフォンでしっかりとコンテンツを見られるようにデザインしていったと小口氏は説明する。
また、最も時間がかかったのは「正しい情報をまとめる」ことだった。107年の歴史がある貝印にはさまざまな情報があり、なかには間違った情報もあったため、正しい情報を知る人に会うために小口氏は社内を駆けずり回ったという。
サイトへの想い、熱意を込めて作られた貝印包丁サイト
こうして2014年8月にオープンした貝印包丁サイトは、「包丁」の検索ワードでトップに表示されるようになったほか、テレビの情報番組で紹介されたことでアクセス数が増え、メディア広告などを行わなくても、現在、月間PV数は8万4,000、訪問者数は5万4,000になっているという。
検索からの流入が多いという貝印包丁サイトでは、7~8ページの回遊後、自社ECや関連イベントへの誘導も成功しており、売上や集客にも貢献。自社オンラインストアの包丁売上は、以前と比較して2,500%向上したと小口氏は説明する。
今後は、「包丁を一生モノとして使い続けてほしい」という想いから、研いで使い続けられることを前提とした包丁を開発して展開していくという。また、小口氏は貝印包丁サイトへの想いを次のように語った。
「包丁に関するマニアックな知識が数多く入っていて、これだけの情報量が本当に必要なのかという声もあるが、毎日使う道具だからこそ、知って楽しんでいただ頂けたら嬉しい。情報を収集するためにはサイトへの想いや熱意を関連部署に伝えて、まず動くことが重要なのだと感じた」(小口氏)
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