「IoT時代で変わるクリエイティブの発想と求められる人材」 2015年10月2日開催 第9回東北セミナー 第3部 イベント報告
- 掲載日:2015年12月16日(水)
モノのインターネット、IoTがスタートアップを中心にブームになりつつあるが、昨今は大企業、広告業界にまで広がり、大手企業と中小ベンチャーが組むことも珍しくない。「クリエイティブとIoT これからのCRに必要なキャリアって? 自分のつくりたいものをつくる」と題した講演では、ツルカメの森田雄氏がモデレーターとなり、PARTYの中村洋基氏とCerevoの岩佐琢磨氏が、IoT時代のクリエイティブや人材について議論を交わした。
左から、Cerevo 岩佐 琢磨氏、PARTY 中村 洋基氏、ツルカメ 森田 雄氏
IoT時代のクリエイティブトレンド
PARTY
クリエイティブ ディレクター
中村 洋基氏
全日本シーエム放送連盟の「ACC CM FESTIVAL」のインタラクティブ部門で審査員を務めた中村氏は、2015年の作品からは、一時期もてはやされていたスペシャルサイトが姿を消すなか、バイラル動画が増え、LINEを活用した年賀状などの新しいコミュニケーションの仕組みも増えてきたと説明する。
特にIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用した取り組みが活発になっており、フェンシングの動きを可視化する「Fencing Visualized」(スポーツビズ)、検索結果を体感できるアトラクション「トレンドコースター」(ヤフー)、歌詞が読めるスピーカー「LYRIC SPEAKER」(SIX)、将棋代指し専用ロボット「電王手くん/電王手さん」(デンソー)などの作品がノミネートされている。
「デジタルなモノづくりのプロトタイピングを通じて、世の中の課題を解決する手法が多くなった。これまでのスペシャルサイトのようなコーディングのスキルでは通用しなくなってきている」(中村氏)
このIoTという言葉は、最近よく見聞きするようになっているが、一般的には、さまざまなデバイスやセンサーがインターネットにつながることによって、多くの情報を収集して活用できることを指し、機械学習などでさまざまな予測分析を行えるようになると言われている。しかし、岩佐氏は、インターネットにつながるものは、デバイスやセンサーだけではないと話す。
株式会社Cerevo
代表取締役
岩佐 琢磨氏
たとえば、Cerevoが開発しているWi-Fi接続されたキースイッチ「Hackey」は、鍵を回すことで通信し、さまざまなWebサービスをコントロールする仕組みだ(10月28日に発売した)。この他にも、現実世界で何かのアクションを起こすような仕組みもIoTでは考えられると、岩佐氏は述べる。
鍵を回すことで、さまざまなアプリやWebサービスと連携するHackey
IoTの時代になって、これまでお金をかけなければ作れなかったモノが、安価に作れるようになってきていることも変化の1つだと中村氏は話す。
たとえば、低電力でデータのやり取りが行える「Bluetooth Low Energy(BLE)」は、多くのスマートフォンで使われている技術だ。これを活用すれば、最低限の命令を埋め込んだBLEチップを組み込み、演算はスマートフォンのアプリが担うといったことが可能になり、一から大がかりなモノづくりをする必要がなくなる。
また、モジュール型電子回路の「Arduino」や「LittleBits」のような、はんだ付けなどを行って基盤を製作する必要がない、簡単なプログラムでだれでもプロトタイピングできる仕組みも出てきている。これらを活用して、イベントで利用するような一点モノのコンテンツを安価に作ることができるようになっている。
これらは、スタートアップや小さな開発会社の利点となることが考えられるが、広告代理店がモノづくりやプロトタイプづくりを行うケースも増えているという。たとえば、2015年カンヌのAgency of the Yearでは、米国の広告代理店R/GAが1人勝ちの状態で、自転車用のナビツール「Hammerhead」が注目を集めていたという。
アプリで設定した目的地へ導くHammerhead
ニッチなハードウェアが世界で売れる
Cerevoは、国内のハードウェアスタートアップとして注目されている存在だ。Cerevoがオフィスを構える秋葉原にある「DMM.make AKIBA」も、岩佐氏自身がハードウェアスタートアップ業界を盛り上げるため、プロトタイプを作るための機材を揃えたモノづくりの拠点として、DMMと協力して立ち上げに関わっている。
DMM.make AKIBAは、専門機材を備えたハードウェアスタートアップによるハードウェアスタートアップのための施設
いくらスタートアップが盛り上がっているとはいえ、「家電は大手企業からしか出してないのではないか」という問いかけに対して、岩佐氏は2005年くらいから変化があり、大手以外の家電製品も量販店で売られるようになっていると話す。
この流れは今後も加速し、広告プロモーションと同様に、趣味嗜好の多様化に合わせた家電需要があると考えてCerevoを設立したと岩佐氏は述べる。
現在は、ECや物流システムの進化、インターネット活用によって、安価にプロトタイプを作ることが可能になり、実際にCerevoでは、スノーボードとセンサーを組み合わせた製品など、アイデアを付加価値として価格に反映させたニッチな製品を世界中で売ることを実現している。
スノーボードの走行を記録するSNOW-1
Cerevoの取引先は多国籍に富んでいる。現在はさらに拡大し、12月時点で42か国に向けて販売している
スタートアップとしてスピードで勝負するCerevoでは、1つの商品を量産化して出荷するまで6か月から1年ほど、複雑な商品は長くなるが、平均すると10か月ほどで出荷している。製品の量産は中国などで行っているが、数百や数千といった小ロットでも、90年代に比べるとかなり安価に量産できるようになり、最近は広告主や代理店からの「キャンペーンで何かモノを作れないか」といった相談が多くなっているという。
ハードウェアスタートアップがビジネスと人材に求めるもの
ここで中村氏は、組み込みなどのエンジニアなどの人材を確保するには、どうしたらよいかと問いかける。エンジニアは専門職だけに、人材不足で求人応募がこないように思えるが、さまざまな製品開発を行っている日本は、他の国に比べれば優れた組み込みエンジニアを確保しやすい環境にあるという。
「組み込みソフトのエンジニアは、Webディレクターよりも圧倒的に人口が多いが、安定した大企業のグループが囲い込んでいて、人の流動は比較的少ない。一方で、その大企業を出て行く人もいて、Cerevoでもほとんどのエンジニアが大手メーカーかその関連会社の出身だ。日本には、自動車、玩具、家電などさまざまなメーカーがあるため採用はしやすい」(岩佐氏)
最後に求める人材像をたずねられた岩佐氏は、他の業界の情報を簡単に取りやすくなっているなかで、他の業界にも興味を持って、ハードウェア業界以外の知識が豊富な人を求めると答える。Cerevoでは、製品のためのオウンドメディアを作り、ネット上で話題を作ってもらうために何をすべきなのかという戦略的なPRを考えながら、商品設計からソフトウェア開発を行うことが重要であるため、人に響くような製品を考えられる発想が重要になるのだという。
また、「プロモーション業界とハードウェアスタートアップ業界が、プロモーションづくりや人材交流で一緒になっていくと面白くなっていくのではないか」という中村氏に対して、岩佐氏は「広告業界が立ち上げたハードウェアスタートアップも見てみたい」と答え、ディスカッションを終えた。
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