Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「目的なくしてDMP導入は成功しない、DMPの正しい認識と活用方法を学ぶ」2015年11月24日開催 月例セミナー 第1部 イベント報告

  • 掲載日:2016年2月15日(月)

オンラインとオフラインのデータを統合的に管理し、データドリブンマーケティングを効率的に進めようと、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を導入する企業が増えている。Web広告研究会の11月の月例セミナーは、「明日、役に立つDMPにするために。~今更聞けないDMPのあれこれと、導入運用のポイントについて~」と題し、第一部ではプラットフォーム事業を手がけるSupershipの小林氏が、DMPの基本や活用術、利用事例を解説した。

DMPの現状と普及の背景


Supership株式会社
広告事業本部 アドプラットフォーム事業部
DSP/DMP推進部 部長
小林 秀次氏

近年、普及が進むDMPは、なぜこれほどまでに話題になっているのか、その理由として小林氏は、環境の変化でデータの取得が容易になってきたことと、データドリブンマーケティングを実施するための仕組みが必要になってきたことを挙げる。

これまで、KKD(勘、経験、度胸)で決められることが多かったマーケティング施策だが、経験を裏付けるためにも、データドリブンな実行体制が求められており、DMPの重要性が増してきている。DMPによって、自社だけでなく外部のデータを活用した、さまざまな分析ができるようにもなっている。

DMPによって、社内外のデータを統合して分析する環境が整ってきている

実際にDMPはどの程度普及しているのか、小林氏はDIGIDAYで紹介された調査データ「DMPは、いかに普及しているのか? 5つのグラフが示す、ブランド&パブリッシャーの利用状況」を引用しながら、ブランド側がなぜDMPを実装したかを表した。

DMPの主な導入理由は、ターゲティング可能なオーディエンスセグメントを形成できること、ファーストパーティーデータの統合、無駄なメディアコストの削減などが上位に挙げられている。

DMP実装の主な理由トップ5(出典:ExchangeWire Research and Oracle report)
https://www.exchangewire.com/exchangewire-research-and-oracle-report/

また、導入するDMPは自社開発(24%)よりもサードパーティー製(76%)が多く、導入においては、費用対効果の判断や技術・経験の不足がDMP実装の妨げになっている。DMPの実装の時期については、半年以内が21%と最も多く、ブランド側の39%が1年以内の実装を考えていることも明らかになった。


DMP実装の妨げになったもの(出典:ExchangeWire Research and Oracle report)
https://www.exchangewire.com/exchangewire-research-and-oracle-report/


一方、ITRが実施したマーケティング管理市場調査では、DMPの市場規模感はそれほど大きくなく、成長はするが徐々に鈍化傾向になることが予想されている。


DMP市場規模推移および予測(出典:ITR Market View:マーケティング管理市場2015)
https://www.itr.co.jp/report/marketview/M15000200.html

DMPの種類と目的別の分類

小林氏はDMP普及の現状を整理したうえで、実際の導入ではどのような事業者がいるのか、それぞれのDMPの特徴はなにかを把握する必要があると説明する。

DMPには大きく2種類、「プライベートDMP」と「パブリックDMP」に分けられる。

・プライベートDMP
自社が保有しているさまざまな情報を格納して、外部のオーディエンス情報と掛け合わせながら、顧客とコミュニケーションを図る。

・パブリックDMP
外部の情報をもとにマーケット上のユーザーの傾向を把握し、そのデータを売り買いできる。

これらの各種のDMPでの代表的なプレイヤーを分類すると、次の図のようになる。


DMPの種類と事業者

どのようなDMPを利用すべきなのかは、その目的によって異なる。

たとえば、データを保管するだけなら「Treasure Data」や「Amazon Web Services」、広告配信接続なら「Yahoo! DMP」、第三者データ接続なら「Intimate Merger」、CRM活用なら「Adobe Audience Manager」、マーケティングオートメーションなら「Marketo」など、目的別にDMPを選定していく。


目的に応じたDMPの種類

DMP導入によって実現できること

実際にDMPを導入することで何が期待できるのか、小林氏は、社内外のさまざまなデータを収集してDMPに蓄積し、各種データの因果関係などを分析できるように加工・整形することで、コンテンツ制作やプランニング、商品開発、DM、店頭・コールセンターなどの業務に活用できると説明する。

ただし、現状ではWeb以外のデータを取り込むことが難しく、活用範囲がまだまだ少ないため、Webの施策での活用にとどまっていると小林氏は指摘する。


DMPの利用目的

データを活用した商品開発など、幅広い活用がDMPの本来の目的だと話を続ける小林氏は、まずDMPを何の目的で導入するかを決めることが重要だと指摘する。DMPを導入する前の失敗パターンとしては、「何の目的でDMPを入れるか」ではなく、「DMPで何ができるか」が主となっている場合があるためだ。失敗につながる例として、DMP導入の困った相談の例も示された。

・広告効果を上げるためにDMPを導入
前述のように広告施策をKKDに頼っていた場合、経験の裏付けとしてDMPを活用することはできるが、効果を上げる根拠は存在しない。広告効果を可視化するためのツールがDMPで、KKDにおける経験が正しいものであった場合は、DMPを導入しても広告効果は上がらない。

・自社のデータを活用したい
実際にどのようなデータを持っているかを把握しなければ、何に活かすかが具体的にならない。どのようなデータがあり、それを何に活かすかを明確化するべきだ。

・今あるデータを使いたい
前述の例と同じように、目標を決めてそれに貢献できるデータを加えることが重要になる。今あるデータが目標に合っているのか、社内外どちらのデータなのかによって選択するDMPも異なる。


これらの例を示した小林氏は、DMPでファーストパーティーデータの統合、広告のターゲティング、ユーザーインサイトの取得、費用対効果の最適化、マルチチャネルマーケティングを実行できるが、これらは導入の目的ではなく手段でしかないことを強調する。

最終的な目的は企業の利益であり、そのために自社のサービスを利用してくれる顧客を知り、1人ひとりと向き合うことなのだ。そのうえで、「戦略(資産データの整理・集約・活用)が正しく整った上での戦術(広告運用やコミュニケーションアクション)を実現すること」が、DMP導入の目的になる。

DMP導入の成功事例

続いて小林氏は、DMPの成功事例をいくつか紹介する。

ブレインパッドが手がけたゴルフダイジェスト・オンラインの事例は、ターゲティング配信によって成果を上げている。これまで予約経験がなく、初めて予約キャンペーンに触れたターゲットを絞り込み、バナーをクリックした場所によってランディングページを変えることでコンバージョン率を8倍にした。この事例は、ユーザーを見極めることでクリエイティブを変えており、コミュニケーションの内容を決めてDMPを活用している例だと小林氏は説明する。

日経ビジネスオンラインで紹介されている資生堂の事例では、サイト訪問者のデータをもとに「購買履歴のない会員」「サイト訪問履歴のある非会員」「非ターゲティング」の3つの分類でコミュニケーションを変えた配信を行うことで、広告効果3倍、コンバージョン5倍を実現しているという。

オリックス生命保険の事例では、アクセス解析データ、サードパーティーのオーディエンスデータ、テレビCMの放送情報、見込み客データなどをDMPで分析することで、12億円の増収につなげている。この事例では、まずスポットCMを出稿してその反響をDMPで分析し、効果の高かった番組にタイムCMを出稿するようにしたという。サイト内のデータだけでなく、さまざまなデータを活用してコミュニケーション方法を考えた事例だ。

Markezineで紹介されているライオンの事例は、広告出稿だけでなく、デジタルマーケティング戦略の中心にDMPを活用した事例だ。ライオンでは2014年、新たな生活情報サイト「Lidea」をオープンする際に、さまざまな情報を収集し、自社のファンを見極め、どのようなコンテンツを作るかを考え、店頭にも情報をフィードバックするためにDMPを活用している。すべてのデータを一箇所に格納することで、活用範囲を広げようとしている事例だ。

DMP導入後に失敗する3つのポイント

小林氏は講演の最後、DMP導入の課題として、導入後に失敗してしまうパターンを紹介していく。

1つ目は、タグの入力やデータ管理が情報システム部門であった場合に、導入箇所が限定的になってしまうことがあり、部分導入にとどまってしまうケースだ。DMPにすべてのデータを格納できず、情報の連携もできない。情報連携ができなければ、全体把握ができない。DMPを導入する際には、タグの入力やデータ管理のキーマンとなる人物や必要な要素、要因を事前に把握しておく必要がある。

2つ目は、サードパーティーデータの精度が悪いために、分析結果がミスリードされてしまうケースだ。サードパーティーデータが何にもとづいて作られたかをよく把握せずに、ボリュームだけで利用した場合に起こりうるケースであり、ターゲットユーザーなどを見誤る原因につながる。

3つ目は、社内のデータを名寄せするためのキーがなく、散在するデータを入れるだけで一元管理ができないケースだ。データを結合させる方法を決めずにDMPを導入すると、Webサイトの閲覧情報、位置情報、アプリ利用情報、店舗来訪情報などを分析する際に、それぞれのID情報がつながらないケースがある。たとえば、事前に会員IDをキーとしてこれらの情報を結合させるのであれば、各情報で会員IDをどのように付与するかを考えておかなければならない。

一気通貫したデータの蓄積と運用が求められる

「DMPの肝は導入ではなく運用」だと話す小林氏は、広告の運用フローや社内のフィードバックフローを考える必要があると説く。たとえば、ブランドごとに別々の広告代理店に発注しているケースは多いが、この場合はツールもバラバラになるケースが多く、一気通貫したデータの蓄積ができなくなるため、広告主側から各広告代理店で共通のツールを使うように働きかける必要がある。

DMPを活用するためには、「どの部署に何のデータがあるか」「外部データの精度(データ元)」を把握し、「データの名寄せをする環境を整えること」が基本となると話す小林氏は、目的、手段、成果で10の成功ステップがあるとまとめ、第一部を終えた。

DMP導入の成功ステップ


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