「IoTや先端モバイル機器を生活者は求めているのか? グローバル意識調査で知る利用実態」2016年5月27日開催 月例セミナー 第1部 イベント報告
- 掲載日:2016年8月10日(水)
モノのインターネット(IoT)時代の到来が近づいてきている。あらゆるモノがインターネットにつながる世界で、ネットワークやデータを活用した新しい価値の創造へと期待が膨らむなか、生活者も新しいライフスタイルの始まりを期待しているのだろうか。Web広告研究会の5月月例セミナーでは、日本を含めた世界6都市のグローバル調査から、モバイルやIoTの利用実態が明かされた。
日本はPC・スマホ中心、タブレットの保有割合は低い
セミナー第一部では、2015年末に実施した「モバイル及びIoT領域に関するグローバル生活者インサイト・基礎調査」の結果を、調査主体の電通マクロミルインサイトの福井愛氏とゴン・リズン氏が発表した。
株式会社電通マクロミルインサイト 福井 愛 氏 |
株式会社電通マクロミルインサイト ゴン・リズン 氏 |
同調査は、グローバルのIoT機器に対する意識や市場ポテンシャルを明らかにするため、日本(東京)、アメリカ(カリフォルニア)、中国(上海)、ドイツ(ベルリン)、ブラジル(サンパウロ)、インド(バンガロール)の6都市に住む若者の利用実態や意識を調査したものだ。地域差による意識のばらつきをなくすため、調査地域は都市部に絞っている(調査概要は記事末尾を参照)。
まず、生活者が保有する端末の種類は、日本はPCの保有率が96.5%と高いが、タブレットの保有率は6都市中最も低い36.0%だった。PCとタブレット、両方の保有率が最も高いのは中国だった。
PC・タブレットの保有割合
メディア接触時間を見ると、日本ではテレビの接触時間が平日平均130分ある。若年層のテレビ離れが指摘されているが実際の接触時間は長いと福井氏は説明する。デバイスごとの接触時間を見ると、PC(3時間)・タブレット(1時間)・スマートフォン(2時間)を合わせて平均約6時間に達する。
メディア接触時間(平日平均)
普段見聞きするニュースの情報源としてはテレビが最も高く、ニュースサイトやSNSが続く。
普段見聞きするニュースの情報源
企業イメージに広告やSNSが与える影響度は、各国でばらつきがあるものの「テレビCM」「SNS」「口コミ」が上位を占めている。商品やサービスの利用喚起に結び付いた情報源としては、テレビCMや口コミの影響度が高く、インターネット広告やSNSも高い。
広告やSNSが企業イメージに与える影響度
各国で差はあるが、これらが今後の有力な情報源として使われていくだろうと福井氏は予測する。
スマートフォンと家電の機能連動はこれから
スマートフォンの利用機種に関しては、日本はiPhoneが主流だが、他の国はAndroid端末が主流だ。特にドイツ・ブラジル・インドはAndroid端末の利用率が高い。
各国のスマートフォン利用機種
スマートフォンの利用サービスは、各国ともネット閲覧やSMS、動画閲覧、地図などが多い。音楽やゲームなどの利用も多いが、IoT領域の家電との機能連動などは各国ともスコアが低く、今後はこれらの領域に可能性があると福井氏は話す。
スマートフォンでの利用経験があるサービス1
スマートフォンでの利用経験があるサービス2
インストールしているアプリ数は、各国で13~15個なのに対し、中国が17.6個と最も多い。各国でよく利用されているアプリは、SNS、天気、地図、ニュースなどだが、特に中国の若者はアプリの利用数が多く、ネットショッピング関連のアプリ利用も多いのが特徴だという。
スマートフォンでの利用しているアプリの種類(日本の利用アプリ上位20から選出)
SNSに関しては、日本は投稿をしない「見ているだけ」の人の比率が他の国よりも高い。
SNSの投稿実態
人気のチャットアプリは、日本ではLINE、南米や欧州ではWhatsApp、中国ではWeChatで、それぞれ普及が進んでいるという。中国版のLINEとも呼ばれるWeChatだが、公共料金支払、資産投資管理、政府機関の関連サービス、クレジットカード支払など、充実した支払機能のほか、生活に便利な機能が多数搭載されているのが大きな違いだという。
スマートフォンでの商品購入経験が少ない日本
スマートフォンでの商品購入経験は、中国が97.5%と最も高く、米国も8割以上の一方、日本、ドイツ、ブラジルは6割程度にとどまっている。購入する商品は、各国とも洋服が多く、中国では食品や「雑貨/アクセサリ」、アメリカでは「ゲームソフト」や「サプリメント」の購入が多いという。月額平均の購入金額は、アメリカと中国が1万円を超え、日本は8,000円程度だった。
スマートフォンでのショッピング経験
音楽配信サービスの利用率は、アメリカが90%と最も高く、日本は56.5%と最も低い。アメリカにはデータ通信料を無料にしている会社もあるため、それによって利用率が高くなっていることが考えられる。
音楽配信サービスの利用状況
利用する音楽サービスは、iPhoneユーザーが中心の日本はiTunesが多く、アメリカ、ドイツ、ブラジルではGoogle Play Musicが多い。また、アメリカではPandora、ドイツやブラジルではSpotifyといったストリーミング配信サービスが上位に入っている。
日本人のIoT機器の保有割合・関心はまだまだ低い
インターネットに接続する機器(IoT機器)の所有については、各国が7~8割ほど所有しているのに対し、日本は55.5%と最も低い。また、各国ともテレビの接続割合が高いが、日本ではゲーム機の接続がテレビを若干上回った。
自宅でのIoT機器所有の有無
今後インターネットに接続して使いたいモノがあるかどうかも、アメリカ、中国、ブラジルが8割以上関心を持っているのに対し、日本は49%と海外よりも関心が低い。スマートフォンを持っている日本の若年層は、テレビやゲームをスマートフォンで楽しんでいる傾向があることも影響していると予測される。
今後のIoT機器の利用意向
日本での最先端サービス利用はこれからが本番
昨今、話題を集めているUber、Airbnb、カーシェアリングなどのWebサービスの認知・利用状況調査では、海外と比べて日本は圧倒的に認知度が低い。カーシェアリングは4割程度の認知があるが、UberやAirbnbは2割程度に留まり、知っているサービスはないとの回答も4割以上あった。
話題のWebサービスの認知状況
実際の利用状況についても、日本は最も低い。4割の認知があったカーシェアリングでも1割程度の利用者しかいなかった。
話題のWebサービスの利用状況
「現段階では、日本の消費者はシェアリングエコノミー型サービスに対して慎重だといえる」と福井氏は説明し、未知のサービスにおける事故やトラブルの対応に漠然とした不安を感じている人が多く、信頼性の向上が課題になると述べた。
一方、中国では配車サービスの利用者が6割を超えている。これは、中国タクシーのサービス品質が悪く、Uberのインストールが簡単であること、百度地図や銀行カードと連携して利用できるなど、使い勝手が良いためだとゴン氏は分析する。
スマートハウスやスマートカー、スマートウォッチ、スマート家電などのICTサービスの認知状況についても、各国では8割を超えているのに対し、日本では7割弱とやや低い。
日本では、スマートウォッチやスマート家電の認知率が5割ほどあるものの、その他のサービスは3割程度に留まっている。また、日本でICTサービスや技術を日常生活に取り入れる人も5割程度と、他国に比べて低い。
各種ICTサービスの認知状況
ICTサービス提供による企業のイメージの変化について、「イメージが良くなる」とアメリカ、ブラジル、中国では6割~8割が回答し、日本の5割を上回った。ICTサービス提供が企業のサービス・商品の利用意向に与える変化も日本は低いが、他の国のスコアが高い傾向にあることが影響しておりポテンシャルはあると福井氏は話す。
ICTサービス提供による企業や商品のイメージ変化
新たなサービスを生活者に届けるための考え
調査結果報告後は、モバイル委員会委員長の森直樹氏が、福井氏とゴン氏に質問する形でディスカッションが行われた(以下、敬称略)。
株式会社電通
Web広告研究会 モバイル委員会 委員長
森 直樹 氏
森:WebサービスやICTサービスなど、日本の生活者の新興サービスに対する関心が低いのはなぜか。
ゴン:個人的な意見だが、日本の若者は生活しやすい環境で過ごしているため、新興サービスを求める意識が低いのではないか。日本は外からの刺激が少ない気がする。
森:スマートフォンの利用について、他の国では機能的な利用へとデジタルトランスフォーメーションが進み始めているのに対し、日本はSNSなどのコミュニケーションに偏っていると思う。PCも使っているからなのか、デジタルに対するリテラシーに差があるからなのか。
福井:先ほどの中国の例では、WeChatはLINE以上に生活に便利な機能が揃っていて、サービスが充実していることを感じる。日本でも、若者との接点が多いサービスをもっと展開していけば、さまざまなサービスを利用していくと思う。
森:アメリカや中国に比べて、日本は広告主が出すスマートフォン向けのサービスが少なく、UXも洗練されていないと感じる。これらが提供されていくことで、利用状況が変っていくのだろうか。
福井:身近に使い勝手がよいサービスがあれば、特に若者(18~34歳)が飛びつくと思われる。
森:日本は、IoT機器の利用が5割ほどと他国より低かった。アメリカはケーブルテレビと衛星放送が世帯の9割以上に浸透しており、IPTV化が進んでいるため感覚としてわかるが、中国のIoT機器の利用が7割を超えるのはなぜか。
ゴン:中国はここ数年で一気にIoT機器が開放された。若い世代を中心に新しいモノを求める傾向にあり、チャレンジ精神を持っているため消費意欲が高いと思う。中国では、40歳代までのスマートフォン保有率が100%近くある。
森:実際にアメリカに行くと、日本でウェアラブルデバイスに興味を持ちそうにない世代が、普通にFitbitなどを使ってランニングしているのを見る。利活用のリテラシーが高く、カルチャーとして浸透していることを感じる。日本において、ICTサービスの利活用によって企業や商品イメージが他国に比べてよくならないのは、周囲に利用者が少ないせいなのか。
福井:日本では、周りにICTサービスや技術を使っている人や知っている人が少ない。知らないサービスを提供されても、イメージが上がるのか、使いたくなるのかはわからないため、4割が「どちらとも言えない」と答えていると感じる。わからないが故の結果であり、今後、きちんと理解促進を進めていくことが必要だと思う。
デジタル領域のコミュニケーション戦略がグローバル競争力では重要
講演前半のリサーチデータ解説および後半のディスカッションを経て、森氏は自身が感じたこと次のようにまとめた。
「他国に比べて、日本の生活者は若い人であっても、新しいモノが好きなポテンシャルが高い人と、興味を持たない成熟した人の二極化していると感じる。
調査結果から、日本でテクノロジードリブンなモノを生活者に訴求するときには、広くすべての人にコミュニケーションするのではなく、ポテンシャルが高い人に絞ってコミュニケーションし、そこから広げていくことで状況が変わると思う。これから、企業が事業やサービスをデジタル化していくうえで、生活者とどのようにコミュニケーションしていくべきなのか参考になった。
また、デジタルやICTコミュニケーションに強いというイメージが、グローバルで競争力を高めてブランドをリフトするためにも重要ということが、肌感覚ではなく、調査結果で裏付けられた」
調査概要
調査目的:米国、中国、東南アジア等の若者を対象にモバイルの利用実態、IoT及びコネクティビティに関する、意識、意向、 認知、市場ポテンシャルについて調査をし、グローバルでのIoT及び先端コネクティビティ領域における意識差を得るのが狙い。
手法:オンライン調査
対象国(都市):日本(東京)、アメリカ(カリフォルニア州)、中国(上海)、ドイツ(ベルリン)、ブラジル(サンパウロ)、インド(バンガロール)
サンプル数・割付:各国200ss(男性:100ss、女性:100ss)
実施期間:2015年12月14日(月)~12月21日(月)
調査機関:(株)電通マクロミルインサイト
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