「情報過多時代の最強メディアはファンのクチコミ、佐藤 尚之氏が語るファンマーケティングの重要性」2016年10月25日開催 月例セミナーレポート 第1部 イベント報告
- 掲載日:2017年1月25日(水)
情報過多の現代において、企業が生活者にメッセージを届けることは容易ではない。Web広告研究会の10月月例セミナーでは、コミュニケーションディレクターの佐藤 尚之氏が「ファンマーケティングはブランドにとって有効か? ~現場担当者と語りあうコミュニケーションの『今』~」をテーマに講演し、ファンマーケティングの重要性を解説。
なぜファンマーケティングが重要なのか、3つのポイントを示した。
1. ファンマーケティングは高感度層に伝わる数少ない有効手段
2. ファン(高関与層)は多くの売上を持っている
3. 高関与層が低関与層をプルアップして高関与層に引き上げる
1. ファンマーケティングは高感度層に伝わる数少ない有効手段
コミュニケーションディレクター
佐藤 尚之氏
イノベーターやアーリーアダプターでもある情報感度の高い「高感度層」は、日常的にネットを駆使し、膨大な量の情報に触れている。
現在、ネット上には世界中の砂浜の砂の数とされる1ZB(ゼタバイト)よりも多くの情報が流れており、さらにSNSも含めた「仲間ごと」という超関心事が激増しているため、ただ露出しただけでは目がとまりにくくなっている。
多くの商品があふれた成熟市場において、メディアやツール、エンタメコンテンツなども激増しているため、超情報過多のなかにいる高感度層にリーチさせることは困難だと佐藤氏は指摘する。露出してもメッセージは届かず、届いたとしてもスルーされてしまう。
一方で、日本には月に1回もネットを使わない非利用者も多い。東京と地方ではネットの利用やスマートフォンの普及率が大幅に違い、特に東京は別世界と言えるほど状況が違う。
高感度層と低感度層の違い
※ニールセン、2014年日本国内におけるインターネットサービス利用者数ランキングよりhttp://www.netratings.co.jp/news_release/2014/12/Newsrelease20141216.html
・東京人しか検索していない(東京は別の国)
※ヤフー、日本は2つの国からできている!?~データで見る東京の特異性~
http://docs.yahoo.co.jp/info/bigdata/special/2016/01/
・主要SNSの月間アクティブユーザーは2,500〜3500万人程度(SNS各社の日本支社発表)
・スマホの普及率もようやく50%
※ニールセン、スマートフォンアプリの利用動向(2016年4月時点)
http://www.nielsen.com/jp/ja/insights/newswire-j/press-release-chart/nielsen-pressrelease-20160531-smartphone-app.html
・ヘビーユーザーは2割。2割が全体の8割の活動量を占める(Nielsen Mobile NetView2016)
http://www.nielsen.com/jp/ja/insights/reports/nielsen-digital-trends-2016-first-half.html
ネットを日常的に使わない情報感度が低い「低感度層」の生活者に対しては、テレビCMのような従来型の露出が有効だが、逆にネット広告はほぼ効かないという。高感度の生活者と低感度の生活者は二極化しており、情報環境においては別人種というくらいの違いがあるため、伝えたい相手によってプランニングを変える必要がある。
最強のメディアは友人知人
高感度層に従来型の露出は、ほぼ届かない。そこで重要なのが、「世の中の関心ごと」であるマスメディアやインターネットからの情報ではなく、「仲間ごと」である友人知人を介した情報だ。そのため、直接リーチではなく間接リーチを意識することが重要だと佐藤氏は話す。友人の自然なお勧め(クチコミ)は、スルーせずに行動変容させる可能性が高い。
超情報過多のなかにいる高感度層に情報を届けるには、友人知人のフィルタを通した間接リーチが有効
この情報を拡散してくれるファンの母数は、少なくてもいいと佐藤氏は話を続ける。たとえば、あるイベントの情報を100人が書いてくれれば、SNSの友人数の平均は約130人(Facebook発表の世界平均。Twitterは約300人)であるため、一次波及効果として1万3,000人に伝わる可能性があり、そのうちの3%がシェアすれば6万3,700人に、さらに6万3,700人の3%がシェアすれば、31万2,130人に伝わることになる。
100人のファンの声が、何万何十万と拡散していく
この数字は、日本で最も売れている女性ファッション誌の発行部数に匹敵し、しかも友人という信頼できる情報源から伝わるため、目にとまりやすい。
ファンミーティングなどで数十名しか集まらない場合、経営層や上層部から効果に疑問をていされることもあるが、濃いファンであれば少人数でも十二分に拡散が発生する。黙っていても買ってくれるファンへのアプローチは無駄だと考えがちだが、既存のファンとしっかりエンゲージして企業の想いを伝えることで、その友人知人に広がり、結果的にパイを広げる可能性が高まることになる。
また、キャンペーンで数百のいいね!やリツイートを得るより、テレビや新聞で何百万人へと届けた方が伝わるという考えは、「露出脳」だと佐藤氏は指摘。高感度層の生活者に情報を伝える、ほぼ唯一の解は「最強のメディアである友人知人にお勧めしてもらうことだ」と述べる。
2. ファン(高関与層)は多くの売り上げを持っている
2つ目の「ファン(高関与層)が多くの売り上げを持っている」という点について、佐藤氏は3.3%の超高関与層と10.0%の高関与層でそれぞれ全体の1/3の売り上げがあり、2つの層で全体の2/3の売り上げになると説明。場合によっては、超高関与層と高関与層だけで9割を超える売上となるケースもあるという。
つまり、ファンとエンゲージしてキープすることは売り上げに直結する。たとえば、カゴメのトマトジュースは上位2.5%の顧客から売り上げの30~40%を得ており、2.5%の高関与層の離脱を防ぐためにコミュニティを運営しているという。やみくもにコミュニティの会員数を増やすことよりも、ファンとエンゲージすることを重視しているのだ。
3. 高関与層が低関与層をプルアップして高関与層に引き上げる
また、高関与層とエンゲージする目的は、売り上げを安定させることだけではない。佐藤氏は、高関与層が低関与層をプルアップする(引き上げる)と話し、高関与層を通して低関与層の態度変容を中長期的に促すためにも、ファンマーケティングが重要だと説明する。
広告などで企業から直接、まだファンになっていない低関与層にリーチして高関与層に引き上げる従来の考え方ではなく、高関与層から低関与層に伝えることで態度変容を促し、ファンのお勧めをきっかけに高関与層になってもらう考え方だ。
また、クチコミはネット上だけでなくリアルでも生まれるため、ネットを利用していない低関与層にもリーチする可能性があると佐藤氏は説明する。
低関与層に直接アプローチするのではなく、熱心なファン(高関与層)のお勧めで態度変容を促す
ただし、自然なクチコミは簡単には生まれないため、低関与層の友人に商品を勧めたくなるような、「文脈やきっかけ」をつくることが重要だと佐藤氏は話す。このような施策は効果が出るまでに時間がかかるため、短期施策と組み合わせて中長期的に取り組むのがいいという。
ファンとのエンゲージを高めるための施策はいくつか考えられるが、特にファンミーティングは社員や開発者がファンから直接的な声を聞く場として非常に重要だと佐藤氏は話す。ファン同士が盛り上がって商品の好きなところを発見し合う点が、グループインタビューとは異なる。
また、リアルのファンミーティングと違い、ネットでは毎日ファンとつきあうことができる。ネットを駆使する高感度層には、従来型の露出は効果が見込めないため、これからのネット部門は露出ではなくエンゲージを重視すべきだと、佐藤氏は最後に語った。
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