「家入一真氏が語る企業のクラウドファンディング活用術、マーケティングから地方創生まで」2016年10月28日開催 第11回東北セミナーレポート 第3部 イベント報告
- 掲載日:2017年1月25日(水)
企業がクラウドファンディングを利用するケースが増加している。新たな資金調達の手法として世界で注目を集めているクラウドファンディングだが、起業家や個人のクリエイターだけのものではない。東北セミボラ第三部は、クラウドファンディング事業を手がける「CAMPFIRE」の代表取締役をつとめる家入一真氏が「マーケティング、ブランディング、CSRとクラウドファンディング、だけじゃない」をテーマに登壇。起業家・インキュベーターでもあるフラーの常間地悟氏と、企業がクラウドファンディングに取り組む際の指針を示した。
株式会社CAMPFIRE 代表取締役 家入 一真 氏 |
フラー株式会社 執行役員 東日本大震災・被災地支援プロジェクトメンバー 常間地 悟 氏 |
クラウドファンディングは資金調達の民主化
講演の冒頭、常間地氏は「企業のマーケティング、ブランディング、CSRなどでクラウドファンディングが使われるようになってきたが、どのように活用すればいいのか。また、地域創生のためにクラウドファンディングはどのように活用できるのか、家入さんに聞いていきたい」と話す。
家入氏は、クラウドファンディングは資金集めの民主化であり、インターネットの普及によって、さまざまな分野で民主化が進んだなかの1つだと説明。クラウドファンディングには次の5つの類型があることを示す。
クラウドファンディング5つの類型
寄付型
購入(報酬)型
融資型
成功報酬型
株式型
クラウドファンディングは、資金調達だけでなく、プロジェクトを公表することでマーケティングリサーチにも応用できるため、生産や投資リスクを軽減できる特徴もある。また、支援者からフィードバックをもらうことで、ユーザーニーズをつかんだ改良・改善につなげられるほか、注目を集めればPR・集客ツールとしても利用できる。
実際の資金調達の方法は、クラウドファンディングごとに異なるが、家入氏が運営する「CAMPFIRE」では、3つの資金調達方式を設けている。
・All or Nothing方式
プロジェクトオーナーは、期間中に目標金額を達成した場合のみ資金を受け取れる。クラウドファンディングのなかでもメジャーな資金調達方式。
・All in方式
プロジェクトオーナーは、目標金額に達しない場合でも資金をすべて受け取れる。ただし、提示した資金集めのプロジェクトを必ず実行する場合だけに限られる。目標金額に達しないと実現不可能なプロジェクトは、All or Nothingを利用することになる。
・ファンクラブ方式
持続的な支援を受けられる方式、集まった資金を毎月受け取ることができる。毎月生産した商品(野菜、工芸品ほか)を送る場合など、個人がサブスクリプションでさまざまなサービスや商品を提供する場合のほか、NPOの支援などに使われている。
資金調達とマーケティング調査を両立
続いて常間地氏は、企業のクラウドファンディングの活用事例について話を進める。
たとえば、米国GEはクラウドファンディング「Indiegogo」を利用し、レシピに応じて温度を自動的に調節する電磁調理器を開発している。
常間地氏は、大企業で新たな取り組みを行うのにはハードルがあるが、クラウドファンディングで多くの資金を集めた実績があれば、社内の理解を得られるのではないかと説明する。また、クラウドファンディングごとに特徴があり、Indiegogoは企業の利用が多いという。一方、米国でIndiegogoと並ぶ「Kickstarter」は、個人規模のプロジェクトが多く、大企業をリジェクトしていることも明かされた。
国内のマーケティング事例としては、スクウェア・エニックスがIndiegogoと協力して立ち上げたクラウドファンディング「Collective」を紹介。どのゲームだったらプレイしたいのか、まずクリエイターが投稿した企画の投票を行い、高い評価を得たゲームをクラウドファンディングに掲載することで、市場調査と開発に役立てている事例だ。
ゲームに特化した「Collective」 優れたアイデアはスクウェア・エニックスが支援する
http://collective.square-enix.com/
大日本印刷は、「GREENFUNDINGbyT-SITE」を運営するワンモアとの共同事業で「ミライメイカーズ」というサービスを創出。出版エンターテインメント分野の多様なプロジェクトの実現を支援している。
「ミライメイカーズ」は出版分野に特化したクラウドファンディング
https://greenfunding.jp/miraimakers/
その他、ユニバーサルミュージックのスピーカー内蔵レコードプレイヤー、東芝のアルコール検知デバイス「TISPY」などもクラウドファンディングを利用している。いずれも大企業の活用事例だが、発売前のマーケティングや市場調査のほか、企業イメージの向上などにも役立てられていると常間地氏は説明する。
ユニバーサルミュージック(左)と東芝(右)の事例。クラウドファンディングであれば、早期にユーザーの声を聞くことができる
また、IBMのように「社内プロジェクトに対して社内の人が支援するケース」もあり、企業が硬直せずにアイデアを出し、社内外の知見を活用してイノベーションを創るためにも、クラウドファンディングは役立てられているという。さらに、アーリーアダプターにいち早く接触できるのもクラウドファンディングは有効だと常間地氏は話す。
家入氏は、大企業がクラウドファンディングを使うメリットとして、プロジェクトをスモールスタートし、機動性高くPDCAを回して機能修正できることを挙げる。
投資への対価を提供することを明確にする
続けて家入氏は、複数社がコラボレーションして新たなサービスを立ち上げた事例を紹介。資金力のある大企業がクラウドファンディングを利用すると批判の声もあがりやすいが、他社とのコラボレーションに社会貢献などを絡めて認知を高める場合などは、クラウドファンディングが有効だと説明した。
企業によっては、一般から広く資金を集めることへの抵抗を懸念する場合もあるが、クラウドファンディングは寄付ではなく、何らかの対価を提供する仕組みであることを明確に示すことが重要だ。
地域創生とクラウドファンディング
常間地氏は、地域創生とクラウドファンディングに話題を移し、「日本国内では、東日本大震災をきっかけにクラウドファンディングが広まった背景がある。日本中どこにいても、CAMPFIREのファンクラブのように継続的な支援が行える仕組みを活用することで、支援者と地域との間で、どのような関係を築けるのだろうか」と問いかける。
これに対して家入氏は、「地域創生や地方創生と一緒くたにしてしまうと、単なるシステムのようで何の匂いも感じない」と語る。かつて、国が実施した「ふるさと創生事業」のように、上からばら撒きで仕組みを押し付けられた結果として地域の魅力が薄れてしまったように、同じような過ちを繰り返すことを危惧しているという。
およそ2年間、さまざまな地域を巡ってきたという家入氏は、島根県・隠岐諸島の海士町という島を訪れ、移住者の人からさまざまな話を聞いてきたことを振り返る。
島民の約1割が県外の移住者である同町では、地域に住む1人ひとりの物語が集積されて地域の魅力となり、人を呼んでいる。創生とは、そういうものなのではないかと家入氏は語り、「橋を修理したい、古民家を本屋に改修したいなど、地域を応援するような仕組みをクラウドファンディングで作ってほしい」と説明した。
常間地氏も、町単位や自治体単位ではなく、個々人がクラウドファンディングを使って発信することが積み重なり、その地域がよくなる世界になってほしいと話した。
最後に、常間地氏は家入氏が展開する「CAMPFIRE×LOCAL」というサービスを紹介。地域を熟知したCAMPFIRE公式パートナーがサポートする、地域特化のクラウドファンディングを利用することによって、「東北に限らず、さまざまな地域を盛り上げていければいい」と話し、セミナーを終えた。
第11回東北セミナーレポート 第1部
第11回東北セミナーレポート 第2部
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