Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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『二次創作からn次創作へ、世界へ広がる「初音ミク」のクリエイティブ・イノベーションの仕組み』2017年2月24日開催セミナーレポート 第2部 イベント報告

  • 掲載日:2017年4月27日(木)

二次創作からn次創作へ、ファンからファンへと創作の連鎖がつながり、新しいクリエイティブが生み出されている「初音ミク」。「初音ミクとNo Maps、オープンイノベーションが切り拓くコンテンツの未来」と題したWeb広告研究会の講演で、デジタルの枠を超えて世界中に広がる作品の舞台裏を、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏が語った。

コンピュータミュージックに足りなかった歌声を生み出す


クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役
No Maps実行委員会委員長
伊藤 博之 氏 

クリプトン・フューチャー・メディアは、音楽制作ソフトウエアやBGMライブラリなど、音に関するテクノロジーを専門とする企業だ。ギター、ドラム、ピアノといった楽器からフルオーケストラまで、あらゆる楽器は「Virtual Instruments(仮想楽器)」と呼ばれるソフトウエアとして、音楽・映像・ゲーム業界など、多くのシーンで利用されている。

いまや、ボーカロイド「初音ミク」の開発で業界を越えて知られている同社だが、ボーカロイドシリーズはヤマハの歌声合成技術を利用した「歌声」を扱うソフトとして生まれた。

「初音ミクは、今から約10年前にヤマハのボーカロイドテクノロジーを使って開発しました。それまで、あらゆる楽器のソフトウエアを手がけてきましたが、1つだけ実現できなかったのが人間の歌声です。もし、人間の歌声を合成できるようになれば、コンピュータの中で音楽のすべてができるようになる」

音のテクノロジーを専門とする同社が、歌声を合成するソフトとして生み出したのが初音ミクだった。主役は歌声合成ソフトだが、キャラクター性を付与することで「ソフトウエアとしての初音ミク」と「キャラクターとしての初音ミク」が確立されていったという。

「初音ミクという存在を世界中に知らしめるために、キャラクター性が非常に大きな役割を果たしました。初めての試みでしたが、歌声合成のソフトウエアがいろいろな形で創作を連鎖的に生み出した。いわばUGCですが、その媒介を果たしたのは紛れもなくキャラクターです」

ある人の作品から、別の人の作品が生まれる創作の連鎖は、YouTubeやニコニコ動画のような動画共有サイトや、イラスト投稿サイトの登場によって身近な存在となった。同様に世界中でムーブメントを起こした初音ミクだが、創作の連鎖が広がるにつれて問題になるのが著作権だ。

著作権法に則ると、初音ミクの原著作はクリプトン・フューチャー・メディアが保有するが、創作が連鎖的に広がると関わる権利者が多くなる。正規にn次著作物の利用申請をしようとすれば、複雑な手続きが必要だ。

創作活動が連鎖していくほど権利処理が複雑に

「我々としては、気兼ねなく初音ミクの作品を作って公開いただきたい。そのためには著作権のライセンス周りを整備する必要があった」と伊藤氏は話す。そこで、クリプトン・フューチャー・メディアでは、「自社の権利」と「ファンが創作した権利」の両面で、前述のような複雑な手続きを減らすよう取り組んだ。

創作と共感の連鎖をつなぐ独自のライセンス

クリプトン・フューチャー・メディア側の権利処理は、発行したライセンスに準じた創作活動をお願いするという比較的シンプルなものだ。スムーズな創作活動を実現するため、あらかじめライセンスをネット上に公開した。

現在は、出版社が二次創作のライセンスやガイドラインを公式に発表する例は珍しくないが、当時は参考事例が少なかった。特に苦労したのが、音楽や絵画と異なり著作権法上で明確に定義されていない「キャラクター」の扱いだった。

クリエイティブ・コモンズを参考に、弁護士と繰り返し相談して作り上げたのが、独自の「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」だ。

「ライセンスは、小学校高学年ぐらいの子供でも読める要約版も公開しました。ファンアートについては、投稿サイトの『piapro(ピアプロ)』を作りました。ピアプロのサイト全体に対して初音ミクのキャラクター利用許諾を与えています。ピアプロを使うときに利用許諾へ同意してもらうため、ユーザーは当社の権利をクリアしています。また、投稿作品は他のピアプロユーザーが創作のために利用してもいい」

小さな子供にもわかりやすいライセンスの要約版を公開
http://piapro.jp/license/pcl/summary

ピアプロでは、あらかじめ利用規約で創作物の二次利用範囲が定められているため、ユーザーは自身の作品だけでなく、ピアプロに投稿された作品をもとに創作活動ができる。また、創作の連鎖とともに共感の連鎖をつなげようと、「規約とは別に、マナーとしてクリエーター同士で『ありがとう』と伝えることをお願いしている」と伊藤氏は話す。

「インターネットの創作の連鎖は国境を越えて、世界中に広がっていきます。自分の作品が役立っているという実感をクリエーター同士が持つことで、共感の連鎖が世界中に広がる。クリエーターを尊重することは、非常に大事だと思っています」

ピアプロのクリアランスのフロー

こうした初音ミクの創作の連鎖は、いまや音楽・映像・イラストにとどまらず、世界中で多くのムーブメントを起こしている。デジタルだけでなく、CGコンサート、オーケストラや歌舞伎とのコラボレーションなど、リアルにも活躍の場を広げている。

初音ミクのムーブメントは世界中に広がる


ボーカロイド楽曲の人気アーティストが生まれている


デジタルの領域を越えてリアルの世界へ


企業・ブランドとコラボレーション


初音ミクの創作文化を体験する「マジカルミライ 2017」、昨年は2万5000人が参加

札幌市全体を先端テクノロジーの実験場へ「No Maps」

伊藤氏はセミナーの後半、北海道札幌市で2017年10月に開催するイベント「No Maps」について説明する。

No Mapsは、「Film」「Music」「Interactive」の3つを柱としたクリエイティブビジネスの国際コンベンションだ。札幌市全体を先端テクノロジーやアイデアの実験場とし、新たなビジネスやイノベーションを生み出すことを加速させる。

「No Maps 2017」の第1回開催は10月5日~15日。米国のコンベンション「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」をモデルにしている
https://no-maps.jp/

No Maps開催の背景には、北海道をIT先端技術の開拓地としてとらえ、新しい社会実装、社会実験、企業進出、創業支援などを促しながら、北海道が抱える課題を解決する想いもあると伊藤氏は話す。

クリプトン・フューチャー・メディアの所在地でもある北海道札幌市は、IT企業やクリエーターが多数所属し、IT産業が成長している。ブランド総合研究所が毎年発表する「地域ブランド調査」では、魅力的な市町村の上位常連であり、地域のブランドイメージも良好だ。

一方、伊藤氏は札幌市には課題もあると語る。それは、産業の「低付加価値」、13大都市中最下位の「低所得」、全国で東京・京都に次ぐ「低い出生率(1.27)」などであり、このような社会課題を解決することもNo Mapsで取り組もうというのだ。

「No Mapsは実行委員会という形で、民間企業をはじめ、大学、官公庁にも支援もいただいています。つまり、北海道や札幌の街、全体をショーケースとして実験しやすい環境にある。たとえば、札幌市内中心街にセンサーを設置したビッグデータの実験などができる」

昨年10月には、本開催に向けたプレイベント「No Maps 2016」を開催。札幌市の街頭でのVR体験、展示会やワークショップ、音楽フェスティバルなどを行った。2017年は対象コンテンツのカテゴリを問わず、映像や音楽だけでなく、さらに食や観光などにまで広げる考えもあると、伊藤氏は最後に語った。

「北海道は広大です。産業の中心は、農業や漁業といった一次産業ですが、農業をIoTで管理するようなスタートアップが現われている。新しい技術は、意外とこうした地域(都市部に限らない全域)に眠っている。その技術を広げていくためのサポートをしていきたい」

 

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