「過去の成功体験にとらわれず、今の生活者に向き合う――「企業デジタルネイティブ時代」のコミュニケーション戦略」3月21日(火)第31回WABフォーラムレポート第二部 イベント報告
- 掲載日:2017年5月18日(木)
これからは企業・顧客にとってデジタルが当たり前になる。第31回WABフォーラム第一部のWAB宣言「企業デジタルネイティブ時代」を受けたパネルディスカッションでは、メディアや広告主など、立場の違う現場の担当者たちが、各々の視点でデジタルネイティブ時代にあるべき企業の姿や仕事の進め方を議論した。
写真右から
渡辺春樹氏(株式会社ビービット/Web広告研究会 幹事)
田中滋子(NEC/Web広告研究会 代表幹事)
木内愛氏(株式会社インフォバーン)
北見裕介氏(株式会社ワコール)
内田佳奈氏(ライオン株式会社)
中村俊之氏(コニカミノルタ株式会社/Web広告研究会 幹事)
安田英久氏(株式会社インプレス Web担当者Forum編集長)
デジタルネイティブ世代の顧客と向き合う
モデレーター 株式会社ビービット /Web広告研究会 幹事 渡辺 春樹 氏 |
渡辺:まず、WAB宣言「企業デジタルネイティブ時代」について感想を聞きたい。
木内:自分はデジタルネイティブ世代だが、企業がデジタルネイティブになるとはどういうことか、モヤモヤと考えていた。考え方としてはよくわかるが、言葉には引っかかりを感じている。
安田:改めて確認したい。今回のWAB宣言は「企業がデジタルネイティブになる」という話なのか、それとも「デジタルネイティブの顧客に対応する」という話なのか。
田中:後者の「デジタルネイティブの顧客に対応する」ことを意図している。我々の周辺のさまざまなものがデジタル化されている。デジタル化を当然の動きとして取り入れ、特別なものとせずに顧客とのコミュニケーションを構築しなければならない。
株式会社インフォバーン 木内 愛 氏 |
北見:自分は前者の「企業がデジタルネイティブになる」ことだと思っていた。プロモーションやマーケティング、経営企画など、Webやデジタルを使えばうまくいくわけではなく、お客様の行動に基づいた施策のなかにデジタルが入っていなければならない。普通の業務としてやれるように、自分がしっかり活動するようにしなければならないと思う。
渡辺:確かに、企業デジタルネイティブを組織の問題として考え、組織のすべての業務にデジタルが入っていなければならないという側面も、実際にはある。
コニカミノルタ株式会社 /Web広告研究会 幹事 中村 俊之 氏 |
中村:言葉自体を捉えると、マーケティングやコミュニケーションのデジタル化が肝だと思う。しかし、Webやデジタルは、さまざまな業務で十数年前から使っている。今、デジタルマーケティングやオンライン施策でやろうとしていることは、人の手で昔からやってきたことだが、さまざまな部署の活動や顧客との対話の蓄積が、本当につながるときが来たのではないかと感じている。
同時にデジタル関連施策に対する説明責任も増えていると感じている。様々な施策においてデジタルコミュニケーションがどれだけ事業に貢献しているのか説明する必要がある。コミュニケーションやマーケティングだけでなく、様々なファンクションでデジタルを介した共通の話ができていることが、企業のデジタルネイティブ化だと思う。
株式会社インプレス Web担当者Forum編集長 安田 英久 氏 |
安田:しっかりとした説明や報告が求められるようになってきたのは、デジタルの価値が認められているからこそ。デジタルで成果が上がっていることが正しく評価されるので、むしろ良いことだと思う。
内田:「デジタルネイティブの生活者に対応しなさい」とは、弊社の宣伝部内でもよく言われている。一方、Facebookのタイムラインを見ていると、これからはオフライン・オンラインの統合型でコミュニケーションを取っていくのだから、「デジタル」という冠を付けずに「マーケター」と名乗るべきだといった議論を目にすることもある。
少し生意気だが、こうしたやり取りは滑稽に思える。デジタルネイティブ世代にしてみれば、デジタルマーケティングとして仕事を与えられたとしても、必要ならマスの仕事もする。そのときの生活者を見て仕事をするべきだと思っているので、「企業デジタルネイティブ時代」とは、自分の小手先のスキルだけで仕事を
するなということだと捉えている。
ライオン株式会社 内田 佳奈 氏 |
安田:第一部の徳丸さん(資生堂ジャパン)の講演で「心地よい場所に安住しないこと」という表現があったが、自分のできることやスキルに閉じて保守的になってはいけない。肩書きにデジタルを付けるか付けないかという議論はくだらない。
デジタルでできること、できないことを経営陣に理解してもらう
渡辺:「企業デジタルネイティブ時代」に向けて、これから何が課題となっていくのか話したい。すべてを新しくする必要はなく、古くてもいいもの、捨てられないものはあると思う。
中村:「企画や結果をわかりやすく人に伝えきれていない」というのが、自分の反省点。CTRやCVRといった指標は出てくるが、それが企業として求めている数値だとは限らない。
我々がBtoBビジネスでモノを売るときは、クロージングまで半年ぐらいの期間があるが、KPIを設計する際に複雑になりがちなため、しっかりとしたロジックを組む必要がある。数値を、施策の成果としてわかりやすくすることが課題。
株式会社ワコール 北見 裕介 氏 |
北見:デジタルではいろいろな数字が取れるからこそ、本質的なところが見えずに伝えにくいことはある。
内田:今の話を聞いて、デジタルに背負わせている範囲が広すぎる可能性があると思った。私が困っているのは、「何でもデジタルでできる」と思われてしまうこと。事業KPIとはほど遠いところでしかデジタルが活用できないこともある。誰に何を伝えるべきなのか、デジタルで伝えるべきことは何か、もっと目的の精査が必要だと思う。
渡辺:デジタルに夢を抱いている人に、何ができるのかしっかりと理解してもらう必要がある。たとえば、上の人にわかりやすく成果を伝えるためには、どうやって数字をまとめるかというのも課題の1つ。
中村:デジタルにどこまで背負わせるのかは、ビジネスによって異なると思っている。よくBtoBマーケティングとひとくくりされるが、同じ事業のなかでも商材によってやるべきことは違う。
デジタルを使ってどれだけ売れるのか聞かれることがあるが、販売部門の責任者でセールスの人的工数を新規リード獲得、既存顧客のフォローなど、それぞれの施策に何割を使うべきか答えられる人がどれだけいるのだろうか。しかしながら、マーケターはデジタルに限らず、どれだけのリソースをどの施策に割り振るのか考え抜かなければならないと思う。
木内:上の人たちを説得するのは難しい。自分も前職はメーカーのマーケティング部門にいたが、「これだけのPVやUUが欲しい」と、根拠のない目標が立てられてしまう状況がよくあった。
予算をかければ数値は達成できるかもしれないが、それでいいとは限らない。伝えたい人に伝わっているのか、気持ちが動いたのか、本質的なところを大切にしたほうがいいと思っている。「デジタルには限界があること」「数字だけを見てはいけないこと」を、みんなが共通認識とする取り組みが必要だと思う。
内田:上の人たちが理解してくれないという悩みがあると思うが、商品開発部門など、普段からデジタルに携わっていないようなメンバーは、知らないなら知らないまま任せてくれるし、企画のなかで間違っている点があれば、こちらが丁寧に説明することでちゃんと取り入れようと話を聞いてくれると思う。
やっかいなのは、デジタルマーケティングを中途半端にかじっている人。持っているノウハウに頼ってしまい、本質的なものが見えていない人がいるのではないかと思う。
渡辺:早くからデジタルを始めた人が、過去の成功体験に引っ張られてしまう。
北見:さきほど中村さんが言っていた課題(デジタルは結果がわかりづらく、伝えにくいこと)は、自分も数年ぐらい悩んでいる。
数字を取りやすいため説明できそうな気がする。しかし、実際には独りよがりになりがち。最近は聞く人の目線で、たとえば、相手の成功体験に合わせて、「もう一度、今の時代で成功体験しませんか」といった説得をしている。
安田:相手に合わせた説明という観点では、以前、Web広告研究会で「延べWeb接客時間」という指標を出していた。その数字に意味はなくても、Webサイトで1か月にこれだけの接客をしたと示せば、店舗接客と比較した説明に使えるものだったと思う。
NEC/Web広告研究会 代表幹事 田中 滋子 |
田中:その他にも、マス広告のGRP換算と比較してWebのROIはどうなのかと各社が悩んでいたので、各社のアクセス数を集めて指標を出したことがある。指標なので、自社と比較して考えなければならないため、なかなか説得できない企業もあると思う。
北見:高速PDCAとA/Bテストを社内に説明しているが、理解してもらうのが難しい。やりながら改善すればいいという前提がない人には、しっかりと説明する必要がある。経験すると理解できるが、説明の段階でつまずいてしまっている。
安田:こうした若手の悩みの背景には、自分が考えていることを正しく他部署や上の人たちに伝えて、すべて理解してもらうべきだと考えているからではないか。たとえば、渡辺さんは説得する内容と実行する内容を完全に一致させようとはしないと思う。
渡辺:完全一致はしなくてもいい。相手が聞きたいことを喋って、達成したいことを実現して、その裏で自分がやりたいことをやるというのは常識(笑)。
安田:理解してもらう必要すらなくて、大きな方向性とゴールについて相手が納得すればいい。
渡辺:社長にわからないのだから自分に任せてほしいと言うのがゴール。当然、自分が詳しくないとできないが、そうしなければやりたいことはできない。これは、さほど難しいことではない。
安田:高速PDCAやA/Bテストも、実はすべて細かく説明する必要はないと考えてみてはどうか。「こうした結果こうなる」と、良い点を説明したうえで「私に任せてください」と言えばいい。
生活者を第一にコミュニケーションを考える
渡辺:これからどうあるべきかという話に移りたい。企業のデジタルネイティブ化を妨げているのは、人、組織、世の中、あるいはジェネレーションギャップなのか。
木内:自分のまわりと会話をすることが重要だと思うし、話すことで相手の考え方がわかる。デジタルを専門にしていても、それを完璧に極めるのは無理があるし日々変わっていく。まわりの人の話を聞いたり、情報を収集したりして、目標に向かって動くことが大切。話して考え方がわかると、許容や理解も生まれるので、お客様を見てデジタルが適しているか、マスが適しているのかを考えるうえでも、多様性と対話が必要だと思う。
北見:社内でWebが注目されてやりやすくなってきている。だからこそ、好き勝手やるのではなく、わかりやすい成果を出していかなければならない。Web施策の以外のことでも、結果を取って、データを取得して、効果測定をサポートしながらプランニングすることが重要だと感じている。
内田:徹底的に生活者目線のマーケターでありたいと感じており、このセッションを聞いて、社内のコミュニケーションデザインを頑張ろうと思った。
生活者目線であるということは、デジタルに限らず、何をするときにも生活者のことを見てコミュニケーションプランを立てることが何より大事。そうすれば、社内のコミュニケーションデザインも、生活者目線で共通言語化できると考えている。
中村:第一部講演の「データを蓄積して価値あるものに変えなければならない」という話を目標にしたい。社内のさまざまなデータをつなげられるときがきていると思うので、部署連携ではなく、ビジネスを形成しているアクションとフローでしっかりとつなげていきたい。そのうえで、どうやってOne to Oneコミュニケーションするかが重要。
安田:企業のデジタルネイティブ時代は、戦術の話ではなく、戦略の話であることをしっかりと理解してほしい。デジタルネイティブ時代の顧客は、モノや値段だけではなく、購買、契約、利用などの体験全体を見るようになっている。そのような顧客にどうコミュニケーションしていくのか、経営層を含め戦略として持つべき。そのうえで、変化を理解するためのコミュニケーションをして共通化していく必要がある。
対話の観点で大事に思っているのは、「言わなければ絶対に伝わらない」ということ。自明のことであっても、相手に響く点が見つかるまで、伝え方を変えながら何度もコミュニケーションすることが一番重要だと考えている。
渡辺:今日のディスカッションから、戦術や小手先のテクニックはどうでもよくて、戦略が重要だということを持ち帰ってほしい。
田中:個人的には、長くWebに携わってきたなかで、これまで何をしてきたのか棚卸しをしている最中。新しいことにチャレンジするにしても、ベースとなる考え方があるので、ノウハウを次の世代につなげていきたい。企業活動の基本的な部分に追加して、デジタルで何ができるのか考えながら、デジタルネイティブ時代に入っていきたいと思う。
第31回WABフォーラムレポート第一部
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