「同じ機能を切り取っても若者文化は体験できない。20代の大学生・社会人とのコミュニケーションで考えるべきこと」2018年5月22日開催 月例セミナーレポート 第2部 イベント報告
- 掲載日:2018年6月28日(木)
定性調査と定量調査によって、若年層のリアルを明らかにした「若年層のSNS・動画利用実態調査結果」を受け、セミナー第2部では、サッポロビール、ポーラ、コーセーの現役マーケターらが登壇。「Twitterは古い」「動画を見ながら動画」「複数アカウント使い分けは当たり前」などの調査結果を前に、それぞれの立場から討論を行った。
モデレーター
株式会社アサツー ディ・ケイ
清家 直裕 氏
サッポロビール株式会社
福吉 敬 氏
株式会社コーセー
Web広告研究会 動画活用委員会 委員長
小林 祐樹 氏
株式会社ポーラ
Web広告研究会 動画活用委員会 副委員長
中村 俊之 氏
エスノグラフィーに大きな反響、普段のターゲティングや調査手法は
今回の調査については、その結果もさることながら、利用者の1日を定点カメラ・本人視点カメラで撮影して観察分析する「エスノグラフィー調査」の手法も注目を集めた。
動画活用委員会・副委員長として調査にも関わった小林氏は、「調査準備が大変だったし、たった4人にこの予算を使って調査するのは、企業単独では難しい。今回はWeb研だからできた」と、委員会活動の利点を挙げる。同時に「企業でも同種の調査を行える方法がないか」と、さらなる活用にも意欲を見せた。
福吉氏も「もともとブランディングをやっていたので調査は好きです。グループインタビューなどで利用シーンを聞くこともありますが、それはやはり特殊な環境下なので、本来あるべき姿が見えていないという不安がある。エスノグラフィーのような調査は興味深いし、自分も関わってみたい」とコメントしている。
こうした調査の印象を聞いたモデレーターの清家氏は、「普段はどういうターゲットの切り方をしているのか」と質問する。
小林:化粧品の場合、効果・効能の違いが年齢で明確にあるので、「25歳」「27歳」といった提示が本来は可能です。しかし、プロモーションではっきり絞るとパイが小さくなってしまうので、結局「20代中盤~30台前半」みたいな切り方をしています。
調査も本当なら“ドンズバ”の対象に当てればいいのだが、幅広くして調査を掛けているというのが現状で、「20代~40代」なんてことにもなってしまう。ただ、「いろんな人が好きだ」というブランドより、「あなたが好きだ」という関係を築けているブランドのほうが絶対にいいと思います。
中村:自分なりの考え方になりますが、ターゲットを考えるときに「ブランディング」「マーケティング」「セールス」の3つの視点を意識しています。ブランディングターゲットはブランドフィロソフィーやクリエイティブを追い込んでいくときに意識する、1人のペルソナに集約されるようなターゲットを意識しますが、これをマーケティング施策のターゲットにすると狭すぎるので、もう少し広げて考える。さらに販売現場では売上げを構成するセグメンテーションを俯瞰したうえでターゲットを意識する。こういった3段階で、どこを取るかはケースバイケースです。
また、ターゲット設定のアプローチとしては、ビジョンドリブンで「一緒に世界観を作ってくれる人」を意識して設計する場合もあれば、「実際に商品を買ってくれた人」から逆算していく場合の2つがあります。
小林:ターゲット設定は、最初にしっかりやるんだけれど、実際に商品が売れてブランドが成熟するほど、なあなあになってターゲットが薄くなるという側面はありますね。
最大の敵はターゲットに迷い「ぶれる」こと
今回の調査では「若年層=10代後半~20代」が採り上げられたが、パネリストたちは、若年層とどう向かい合っているのだろうか。「若い人にまで自社商品の消費が広がっている」と感じたときの対応を聞いた。
小林:売上データを見て感じることがありますね。たとえば、広告は30代ターゲットなのに、POSデータでは10代が伸びていたりするような場合。こういうときに、ガマン弱いブランドだと、ターゲットを軌道修正してしまう。これはできるだけやらないようにしていますが、心が揺れるときがあります。
福吉:当社はアルコール飲料を扱うため、まず10代はありません。そもそも、当社の商品の人気は、どうしても高年齢層人気に流れてしまう。戦略的ターゲットとして20代・30代を狙っているのに、40代・50代に受けていたりすると、やはり迷ってしまいます。
中村:そういう迷いはしょっちゅうあります。私は前職で、新規事業の企画も担当していましたが、事業検討の過程でこうした“ぶれ”が広がっていくと「そもそもインサイトはなんだったっけ?」と迷走してしまう。そういうときは「何を目指しているのか」に戻ってほしいですね。クリエイティブフェーズでターゲットが揺れることは多々ありますが、ぶれないで強く行ってほしいと思います。
小林:もしぶれてしまったら、「それは戦略のミスなんだ」と、データを素直に受け入れないといけないこともある。素直にデータに向き合うことも、マーケターにとっては重要でしょう。
動画では視聴完了率を重視、長尺でメッセージを伝えることは難しい
3者ともBtoC事業者であるが故に、直接的なセールスデータから若年層を実感することが多いようだ。一方、「ソーシャルメディアの反応」「Webサイトのアクセス解析」、そして今回のような「調査データ」など、“セールス以外”ではどういったデータをマーケターとして見ているのだろうか。
福吉:動画広告では視聴と反応と行動のタイミングを見られますが、小売だと「何がきっかけで、どういう行動を経てそのお店で買ったのか」という本当のコンバージョンは見えません。ですので、広告指標の判断としては、Webで完結できるデータで反応を得られていればいいと考えています。
動画のKPIとしては、視聴が完了しているかどうか。ターゲット層の反応が良ければ当たり、違う層が反応していれば見直すという感じです。メディアごとの特性、動画のタイプ・長さの違いもありますから、それも踏まえて正しく数字が出ているかを見ています。
小林:そういう点では、最近流行っている「6秒動画」は、視聴完了されやすいし、理にかなっていますね。
福吉:当社の場合、6秒動画は、複数のクリエイティブを作って、メディアによって出し分けています。最近は30秒CMをあまり作らなくなってきています。
中村:長い動画は一定数離脱されてしまうことはわかっているので、割り切ってやるのは大事だと思います。今回見られたコンテンツ判断におけるスピード感を考えると、動画の後ろにメッセージを持ってくると届かなくなってしまう。
小林:30秒動画だと、若年層の視聴完了率はガンと落ちます。場合によっては5秒でも脱落する。若年層はとくに早い段階で脱落する傾向がありますね。
根本的なライフスタイルが“おじさん世代”と異なる
今回の調査では、若年層のメディア接触やSNS利用について、リアルな実態が判明した。特に興味深いトピックとしては、以下のようなものがあげられる(詳細は第1部を参照)。
パネリストたちは、調査結果にどういう感想を抱いたのだろうか。「特に衝撃を受けたデータ」について尋ねた。
小林:噂には聞いていましたけれど、「ゲーム実況」をあんなに見ているんだ、と思いました(エスノグラフィー調査対象の1人について)。この調査は1年近くかけて行ったんですが、開始当初、私はInstagramのストーリーを使っていなかったので、彼らが何をやっているのか最初はわかりませんでした。
中村:おじさん同士でストーリーを使っても、それは「おじさん感のあるストーリーズ」になってしまって、若者の使い方は体感できない(笑)。やはり若者文化の内側から見ることが大事で、ストーリーの“機能”だけを切り取って説明しても伝わらない。
私は、ロフトでずっと過ごしている若者の姿が衝撃でした。家に帰るとロフトに直行だし、部屋の様子を見ると、テレビの前にソファがないのを不思議に感じる。リビングの配置そのものが、私世代の感覚と違うんです。
小林:これについて、“中村流仮説”があるんですよね?
中村:ベッドの滞在時間が長くて、リビングやソファで食事しない。ですので「手を使わないで食べられる食品が売れるのでは?」という仮説を立てました。たとえば、周りを汚すことなく食べられるポテトチップスがあれば、ベッドで気兼ねなく食べられるし、(手を洗うのに)ロフトを上り下りする必要もない、という発想です。さらには、ベッドで過ごす時間が増えれば、「飲酒時間そのものが減るのでは?」と思いました。「若者のアルコール離れ」の一要因だったりしないですかね。
福吉:私は、ながら視聴や同時視聴率の高さに驚きました。アテンションをどう取るかを考えると、耳で入ってくる「音」が大事だと感じました。調査のなかで「テレビが大好き」と言っている人はいましたが、実際にはながら視聴だった。「インスタ映えを狙ったビビッドな絵作り」が直近では流行っていましたが、“音だけ聞いている視聴者”を考える必要があると感じました。
中村:私たちも、Webコンテンツについて「音でアテンション取るクリエイティブにしたほうがいいんじゃないか」といった話は、以前に社内でありました。
福吉:最近うちは動画にジングルを入れてないんです。「その1秒すら、もったいない」という発想です。30秒CMとかが減って、6秒動画とかをやるようになって、クリエイティブの意識や配信の仕方もずいぶん変わりました。
小林:BtoBのユーザーは長尺でも情報を取りに行くけど、BtoCは情報があふれているから、そうなりますね。
スマホとテレビのどちらが主役かは関係ない
今回の調査のなかで、小林氏は「男性・女性、学生・社会人で、見ているコンテンツが大きく異なる」という結果に注目。ジャンルごとのデータを見て、「ドラマなら集中して見る」「アニメなら最初から最後まで見る」などの傾向の違いがあるなら、広告枠の買い付けに使えると指摘する。
一方で福吉氏は、自社顧客の6割強が男性であることなどから、男性・女性の違いには注目するが、「若年層に人気だからといって、ドラマ枠に人気タレントを使ったCMなどを出しても、商材の傾向から生きていないことがあります」とコメントしている。
また、「同時利用の場合にスマホとテレビ、どっちがファースト画面?」という疑問について、小林氏は次のように分析する。
小林:思った以上に、どちらが主といった意識は若者にありません。若年層にとっては、「画面は常に2つある」のが前提。これはチャンスも倍ということ。出稿先を考える立場としては、画面の主従に関係なくブランディングしないといけないと思います。
中村:調査では「なんでそんなこと(どちらが主画面か)を聞くの?」というリアクションをされた。
この他、自社に関するツイートを収集したり、身の回りのクチコミを収集したり、街頭や店頭にも頻繁に出たり、さまざまなチャンネルで情報を収集したりすることは、3者とも共通しているという。さらには、位置情報の活用やDMPでのオーディエンス分析や、興味関心の単位でのペルソナ分析も行っているという。
テレビは絵が映るラジオ、音でアテンションを取るという考え
最後に、今回の調査結果を踏まえた今後のアクションについて語られた。
福吉:「スマホ画面とテレビ画面とで、主従はもはやない」という話でしたが、画面サイズは異なるわけで、同じクリエイティブでも、見える物も速度感も違ってきます。クリエイティブはそこを考えないと、刺さらないと思う。「音」についても、スマートスピーカーなどもありますし、オーディオアドについて考え直していいと思います。
中村:エスノグラフィー調査で、あるユーザーは、テレビのジングルが鳴った瞬間に視線が動いていた。「音」の考え方は、もっと詰めないといけないでしょう。あともう1つ、カスタマージャーニーについて、人の数だけジャーニーが必要だなと感じています。
小林:当社ではTOKYO FMのラジオ番組を提供しています。そういう意味でも音には注目していますが、今の若年層にとって、テレビは「気になるときだけ絵が出ているラジオ」の状態なのだと思います。
であれば、スマホ画面に連動してポップアップを表示するといった手法で、「ラジオの復活」が有り得るのではないかと考えています。若い子は「radiko」を聞いてたりするわけで、テレビの音声・ラジオ・ネットラジオの区分すら、曖昧なのかもしれません。アイキャッチに加え「イヤーキャッチ」ができるようなCMの作り、画面を相互に行き来するような、新しい流れが今後考えられるでしょう。
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