Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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『「家族との会話が増えた」「家中をコントロールしたい」スマートスピーカーで変わる生活』2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第1部 イベント報告

  • 掲載日:2018年7月30日(月)

PC、携帯電話、スマートフォンなど、新たなテクノロジーやデバイスの登場は生活者のライフスタイルを変化させてきた。そして今、スマートスピーカーが日常を変えようとしている。

Web広告研究会の6月月例セミナーのテーマは、「情報のデジタル化から、生活のデジタル化へ ~スマートスピーカーと生活者~」。第1部では、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の加藤薫氏が登壇し、生活者に起きている変化について、海外の家庭の実態調査などを含めて紹介した。


タッチポイントがスマートフォンからスマートスピーカーに


博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所
加藤 薫 氏


Windows 95が登場した1995年以来、情報のデジタル化が一気に進んだ。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が毎年発表している「メディア定点調査」では、年を経るごとにPCや携帯電話、スマートフォンの接触時間が増えていることがわかる。特にスマートフォンなどのモバイルデバイスの接触時間は、2018年にメディア接触時間全体の3分1を超えるなど、その傾向が顕著だ。


メディア総接触時間の時系列推移(1日あたり・週平均):東京地区 2006年の調査開始から「携帯電話/スマートフォン」のメディア接触時間が伸長し続け、初めて100分を超えた


これまでメディアのタッチポイントは、あくまでPCやスマホなどのスクリーンのなかに限られていた。しかし、これからは音声でコントロールできるスマートスピーカーや自動運転の車、金融業界のフィンテックなど、スクリーンを超えて生活空間がデジタル化していくと考えられると加藤氏は話す。そして、モバイルの一極集中が終わる可能性も予測されている。

事実、エリクソン社の研究所であるEricsson ConsumerLabは、2015年の時点で「スマートフォンは5年以内に使われなくなる」と発表している。その理由は、スマートフォンは手のひらを専有するため、車の運転、料理などの生活シーンには不自然なデバイスだという。

その不自然さをカバーする代替デバイスとして注目されているのが、スマートスピーカーだ。Amazon Alexa、Google アシスタントを始め各社が製品を展開している。日本では、スマートスピーカーの普及率は東京地区でさえ5~6%とまだまだ低いが(各調査会社の資料より)、北米では2017年末時点で15%を超え「キャズムを超えた」と加藤氏は述べる。

CES 2017のAmazon社のセッションでは、「UIは文字→GUI→Web→モバイルと移り変わり、今はまさにVUI(Voice User Interface、音声UI)への過渡期にある」と紹介された。


現在はUIがVoice User Interfaceに移り変わる過渡期にある


ただし、加藤氏は「特定のUIに収束するわけではなく、音声でコマンドを出してディスプレイで動画を見るなど、選択肢が広がるというのが正しい理解」だと話す。事実、北米では、アプリ、スマートフォン、スマートスピーカーなど、メディアのフラグメンテーション(分散化)の兆候がすでに出始めている。

スマートスピーカーは、VUIを実現するデバイスの1つであり、コントロールされる各種デバイスはVoice Controlled Device(音声で制御される端末)となる。冷蔵庫、ディスプレイ、照明など、家中の家電に広がり、音声コントロールが新しいタッチポイントになっていくというのだ。


スマートスピーカーが、Voice Controlled Deviceを操作するためのタッチポイントになる


スマートフォンは個人のモノ、スマートスピーカーは家族みんなで使うモノ

スマートスピーカーが生活に入り込むと、ライフスタイルはどのように変化するのだろうか。メディア環境研究所では、2017年にスマートスピーカーの使いこなし度が異なる3つの米国の家庭訪問をし、利用実態を調査した。

・ヘビーユーザー:家の中全体をスマートスピーカーでコントロールする
・ミドルユーザー:音楽に加え、ニュースの確認やタイマーなどで使う
・ライトユーザー:音楽再生のみに使う


あるミドルユーザーは、ダイニングキッチンにあるスマートスピーカー(Amazon Alexa)を家族全員が使う。母親は料理をしながらキッチンタイマーをセットしたり、音楽をかけたりする。また、早朝のニュース速報を聞いたり、天気や交通情報を聞いたりするのにも役立っている。気になるニュースは、通勤時間中にスマートフォンやタブレットで詳細を見るなど、情報の深掘りは別の端末で行うことが多い。

8歳の息子は、物語の朗読(要追加スキル)に使い、主人公の名前を自分の名前に変えることで、より没入感のあるストーリーを楽しんでいる。

この家庭では、スマートスピーカーを導入したところ、音声による情報がきっかけになり、家族の会話が増えたという。スマートフォンは個人のための端末だったが、スマートスピーカーの「家族みんなで使えるデバイス」という特性をこのエピソードはよく現している。

代わりに、すべての過程においてスマートフォンを使う時間が減少した。ただし、ショッピングの利用、クルマとの連携などはセキュリティ面で不安があるため使っていない。今後、安全性・信頼性が担保されるのを期待している(調査時点でロック機能はなかった)。

ヘビーユーザーは、スマートスピーカー5台を家の各所において、照明、テレビ、電子レンジ、エアコンなどと連携させて家を自動化(音声コントロール)することを目指している。米国の家庭は、日本よりもスイッチの数が多いため、家電連携の欲求が強いという。

一方、ライトユーザーの使い方は、音楽再生のみにとどまった。


もう1つの調査事例として、米国のNPO団体がサポートする老人ホームでのスマートスピーカー活用が紹介された。入居者によって使い方はさまざまだ。視力が弱い女性は照明のオンオフをスマートスピーカーで行い、別の女性は音声で遊ぶ単語ゲームを楽しんでいる。「クラシックをかけて」と、気分にあわせた音楽をカジュアルに楽しむ男性もいる。

紹介されたサンディエゴの老人ホームでは、スマートスピーカーを実験的に導入したが、その結果「高齢者が欲求を口に出して言うことが脳の活性化にもつながる」として、全米に広がることが決まっている。

こうした米国の利用実態を踏まえて、加藤氏は「スマートスピーカーはこれまでスマートフォンを使わなかった人たちの行動にも影響を与えている」と述べた。


日本でのキャズム超えは2年後? スキル・アプリが普及のカギ

最後に加藤氏は、新しいUIの音声アシスタントのインパクトについてまとめた。

1. 生活者のメディア接触の分散化が加速
2. モバイルメディアと音声UIが競合。SEOだけでなく音声アシスタント最適化の流れが生まれる
3. 音声UIでは、純粋想起のブランドが強さを増す。生活者の「探さない意思」が増加する


スマートスピーカーに関しては「本当に普及するのか?」という質問をよく受けるという。この質問に対して、最後に加藤氏は次のように考えを示した。

「10年前、日本に上陸したスマートフォンが普及するまで3年弱。スマートスピーカーがアメリカで普及してキャズムを超えるのにも同じぐらいかかった。日本はこれから2年後くらいが普及期と予想する。日本でもスマートスピーカーを使っている家庭の様子をヒアリングしているが、使い方はアメリカの初期とほぼ同じ印象だ。
スマートフォンの時は、LINEをメッセンジャーアプリとして女子高生が使うようになり、普及にはずみをつけた。そのようなキラースキル、キラーアプリと呼べる決定的なものが今のころスマートスピーカーにはない。牽引するものが登場すれば、生活者の望む未来につながると思う。
現在のスマートスピーカーは音声のコマンドに対して返すだけで、使い続けると賢くなるようなレベルではない。各社は進化させると言っているので、生活のなかで自然に使えるものになれば普及が進むだろう」(加藤氏)


2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第2部 

2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第3部 

 

 

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