「日本とは街のバージョンが違う! 未来のデジタル社会を築く中国のエコシステム」2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第3部 イベント報告
- 掲載日:2018年7月30日(月)
中国での生活には、あらゆるところにデジタルの波が押し寄せている。日本でも何かと話題になる電子決済にとどまらず、さまざまなエコシステムが形成され、この数年で日常が大きく変化している。
6月月例セミナーの第3部は、中国のIoT事情の現実と来るべき時代に備え、マーケターが考えるべきことをディスカッション。前半でプレゼンテーションを行った加藤氏と森氏、さらにモバイル委員会の副委員長の菊井氏(東急エージェンシー)が加わり議論を交わした。
株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所
加藤 薫 氏
Web広告研究会モバイル委員会 委員長
株式会社電通 CDC エクスペリエンス・デザイン部
森 直樹 氏
Web広告研究会 モバイル委員会 副委員長
株式会社東急エージェンシー
菊井 健一 氏
街のバージョンが違う! 生活がデジタル化された中国事情
森氏:急遽、東急エージェンシーの菊井さんにも参加いただき、中国の現状を踏まえたディスカッションを行っていきたいと思います。
第2部でも話したように、中国では現金を使っている人はほぼおらず、あらゆるサービスがアリペイ(アリババ社)やWeChat Pay(テンセント社)での決済のみになっている。ただ、一時滞在の外国人はアリペイアカウントを作れないので(中国の銀行口座が必要)、外国人には優しくないですね。
露天商にまでモバイル決済が普及し、キャッシュレスが進む中国
菊井氏:モバイルSuicaのような非接触型ICカードに慣れていると、QRコードを読み取るというのが面倒に感じますが、なぜ中国はQRコードなんですか?
森氏:店舗の投資がほぼゼロなので、どんなに小さなお店でも導入できるからです※1。また、WeChatはFacebookやLINEなどと一緒でいつも開いているサービス。その延長線にある決済機能なので、抵抗感やストレスがないんです。
※1 テンセントのWeChat Pay、アリババのアリペイなどは、POSレジ不要でスマホアプリで簡単に決済できる。手数料がほとんどかからず、偽札の心配がないなどのメリットも。
加藤氏:たとえば、ワンタンのお店では、お客さんが自分で決済を完了して商品を持っていく。お金が支払われると通知がいくようになっているため、店員がお金のやり取りをする必要がなく、店員はワンタンを作り続けています。
決済に限らず、中国は街全体・生活がデジタル化しているので待ち時間が減っています。モバイルペイメントだけでなく、商品を選択した後、カメラで顔を認証すれば決済できる「フェイス・プラス・プラス」という会社の技術も使われています。まばたきなどで本物の人間かどうか確認しているので、不正はできません。
森氏:中国の場合は、国が管理している個人のIDカードと連携しているので、決済情報と個人、信用情報が結びついています。信用情報というのは、その人の支払状況などですね。
中国ではシェアリングエコノミーが盛んですが、そのシステムでも個人、決済、信頼情報が連携しています。昔は、シェアリングのサービスを使うのにデポジットを払う必要がありましたが、今は信用情報の高い人はデポジット不要です。
また、日本の場合はシェアリングサービスごとに独立したアプリが必要ですが、中国の場合はWeChatのエコシステムにサービスが組み込まれているので、いつも使っているアプリでそのままシェア自転車、シェアカー、シェア傘などが使える。
加藤氏:日本は、デジタルの度合いが個に集中していますが、アメリカは家の中がデジタル化しています。しかし、中国は「都市空間」がデジタル化していて、街のバージョンが違うという感じがあります。
森氏:そうですね、都市のバージョンが2つくらい上ですね。中国人はスマホさえあればなんでもできる状況で、給与の振込もアリペイで、投資もそこからする。クレジットカードのビジネスモデルが成り立ちづらくなっています。
地域コミュニティが新しい価値を生む可能性
森氏:では、海外と比べて日本が進んでいること、遅れていることは何でしょうか?
加藤氏:昨年の9月、弊社で日本、中国、アメリカ、タイの4都市の意識調査をしたところ、日本は生活を変えるイノベーション、新しいテクノロジーなどへの興味が低い。その背景は、「生活や社会の課題がなくてそこそこ便利だから」だと考えています。
スマホが入ってきたときも、フィーチャーフォンが便利だったからなかなか乗り換えが進まず、日本はアジアのなかでスマホの普及が最も遅くなりました。ただ、日本はみんなが使っていると、大きく動くのでその後一気に普及しました。
菊井氏:私はこれまでデジタル部門をやってきましたが、今は街づくりの仕事をしていて、渋谷の再開発を担当しています。街づくりの観点から言えば、日本が進んでいることはありません。理由は規制緩和ができていないからですね。新しいことへのネガティブキャンペーンを張るような風土もあると思います。
一方で、地域コミュニティは進んでいると思います。私の部下の何人かは、テクノロジーを使って地方都市を活性化することを目指して独立していきました。地域活性は次のフックになりそうです。今はテクノロジーを情報の共有や拡散にしか使っていませんが、新しい価値が生まれてきそうです。
加藤氏:都市部よりローカルの課題が多いことが関係していそうですね。私も最近は地方に呼ばれることが多く、街全体でどういうアプローチがあるのか考えている地域が増えていると感じます。
日本の物づくりは強いが、ソフトウェアは弱い
森氏:アジア全体にあてはまりますが、強いのはコンテンツ力。キャンペーンも最終製品も洗練されているし、進んでいると思います。特に手触りがあるものに対する完成度は高いですが、日本はソフトウェア×サービスが弱いですし、スピードも遅いですね。スピードが遅いことは、実証実験をする回数が減るということで、チャンスの芽を作る回数が減ることだと思います。
米国や中国は大企業とスタートアップが連携する仕組みができていて、投資して戦力にするという流れがあります。
菊井氏:私はベンチャー企業に出資する東急アクセラレートプログラムの運営メンバーでもあるのですが、日本は出資の検証システムが非常に厳しくて、3割の成功率を求めるんですね。むちゃくちゃだと思っています。
加藤氏:大リーガーの打率並ですね。テクノロジーの変化の影響をうけやすいのはメディアだと思いますが、10年前に放送局が抱えていた悩みを、今は銀行を始め、いろいろな業界が抱えています。企業の生業そのものが変わらなければいけない、しんどい時期なのかもしれません。
森氏:テクノロジー企業より、非テクノロジー企業の方が変化にさらされる度合いは大きいでしょうね。
デジタルマーケティング×経営企画がイノベーションの鍵
森氏:次に、人材や組織の問題を乗り越えるには、どうすべきでしょうか。サービスとマーケティングは縦割りにはできないので、横につながらないといけないのですが、それが難しいという企業が多いと思います。この問題の突破についてどう考えていますか?
加藤氏:企業に呼ばれて話をすると、「おもしろかった」「勉強になった」と言われます。しかしその後、他の部署との連携ができずに変わらない、ということがよくあります。日本は人材や組織の合意形成が重要なので、その根っこの部分をスタートできるか、ということだと思います。
菊井氏:乗り越えるためには、世代交代しかないです。スタートアップだらけになるのではなく、大企業でも世代交代が必要です。その最初の職場がどこになるか……。
森氏:デジタルマーケティング部門が当たるのでは?
菊井氏:経営企画部じゃないですか。
加藤氏:デジタルマーケティング部と経営企画部が組織として統合されるパターンが多いですよね。最近、ワークショップをよくやるのですが、主催はたいていデジタルマーケティングか経営企画部。博報堂としては、ワークショップだけでなく、その後の合意形成のやり方についても丁寧にフォローしていく必要性を感じています。
3年、5年後を考えて今から動けるマーケターになる
森氏:最後にこれからのマーケティング部に求められることについて。
加藤氏:タッチポイントが、スマホの外に出て移動空間、家、店頭などに広がっていきますが、今後統合されるようにもなっていきます。「メディア環境やコミュニケーション環境は10年に1回大きく変わる」と言われているので、さまざまな部署がメディア化して、生活者と企業をつなぐタッチポイントやプラットフォームが変わっていくと思います。
菊井氏:生活が変わるというより、人と人の関わり方が変わりそうですよね。
森氏:テクノロジーだけがライフスタイルを変えるわけではありませんが、4~5割くらいがテクノロジーに起因すると思います。マーケティング部は、5年後にテクノロジーがどう変わるのか、いろいろなデータを集めて真摯に考えていかないといけない。
予算の申請、実証実験、ローンチまで3年くらいはかかるので、今から想像して着手して動けるところが、今後勝てる会社になると思います。
2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第1部
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