Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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『メディアの価値・インサイトを4つに分類、広告コミュニケーションの新モデル「メディア・フォロワーモデル」』2018年10月23日開催 月例セミナーレポート第1部 イベント報告

  • 掲載日:2018年12月11日(火)

メディア・フォロワーモデルとは、日経広告研究所が3年間かけて実施した3回にわたるユーザー調査の結果をもとに開発された新しいコミュニケーションモデルだ。Web広告研究会10月月例セミナーは、「メディア利用者の心理に寄り添った新しい広告コミュニケーションモデル ~メディア・フォロワーモデルとクリエイティブの挑戦」がテーマ。

第1部では、なぜ今、メディア・フォロワーモデルが広告に必要なのか、クリエイティブ側の視点から博報堂ケトルの嶋浩一郎氏が紹介。続けて、日経広告研究所の坂井直樹氏がメディア・フォロワーモデルの詳細を解説した。

乗り物が変わればコミュニケーションの作法も変わる
株式会社博報堂ケトル
代表取締役
嶋 浩一郎 氏


1つのコンテンツである映像をテレビCM、SNS、トレインチャンネルなど、異なるメディアに流す「ワンコンテンツマルチユース」は効果的なのか? 嶋氏は、こうした提案に対して疑問を唱えた。

嶋氏は、これまでクライアントのメッセージをさまざまなメディアで配信してきた経験から、チャンネルによって視聴しているユーザーの情報ニーズや視聴態度が異なると感覚的に気づいていた。伝えたいメッセージが同じだとしても、それぞれのチャンネルに合わせて編集の技法、見せ方などを変えて、クリエイティブ制作に取り組んできた。

「乗り物(メディア)が変わると、お作法が変わる。今は乗り物がたくさんあり、それぞれの運転免許が必要。どの情報がどの乗り物に適しているか、メディアを見ている人々のマインドセットをメディアインサイトとして理解しないといけない」(嶋氏)

嶋氏は、乗り物とお作法の例として、テレビで活躍するタレントがラジオに出演したときの挨拶について紹介した。

テレビで活躍する人は「ラジオの前のみなさん、こんにちは」と挨拶しがちだ。しかし、同じ電波でもラジオでは、単数の二人称で「あなた」と呼びかけられた方がリスナーは気持ちがいい。経験豊富なパーソナリティーは、ラジオならではのリスナーの感覚を理解しており、自然に使い分けているという。


同じコンテンツでも雑誌とWebでは見せ方が違う

乗り物にあわせてお作法を変えたメディアの例としては、週刊ポストのネット媒体「ニュースポストセブン」が紹介された。

当初は、週刊誌のコンテンツをそのままWeb上に掲載していたが、思ったような反応が得られないことに気づいた。そこで、ネット媒体に詳しい編集者の中川淳一郎氏らに協力を依頼、「ネット民にとって主観的な表現はそぐわない」というネットのお作法のアドバイスを受けて、Web向けの見出しを付けるようにしたという。

雑誌の読者はその雑誌に興味がありわざわざ雑誌を購入している人たちなので、限られた読者にだけ通じるジャーゴン(専門用語)を使っても伝わる。たとえば、女性誌では「もてかわ」などの言葉が使われた。しかし、これをネットで公開すると、ターゲット以外の不特定多数の人にも情報が届くため、「かっこつけやがって」「意味がわからない」などと、炎上の恐れがある。


ネットニュースは、多くの人に伝わる見せ方のほうが受けやすい


Excel営業がメディアインサイトを軽視してきた

紙媒体とネット媒体の差異は多くの人が感じているだろうが、なぜ今「メディア・フォロワーモデル」がメディアや広告業界にとって価値ある研究となっているのか。嶋氏は「これまで広告業界がメディアインサイトを軽視してきた」からだと指摘する。

背景にあるのが、メディアの世界観を軽視した広告代理店による広告主への「Excel営業」だという。広告主の多くがメディアへの出稿を検討した時に、代理店からExcelにまとめられたメディアリストを提示された経験があるだろう。そのリストでは、「家事を楽しむ雑誌」も「家事の効率化を目指す雑誌」も一緒くたに、「30代女性向け雑誌」としてまとめられてしまう。

「メディアの一番の強みは世界観にある。本来は、“あなたの商品はこの媒体に載せるべきです”と、広告したい商品と雑誌の世界観をマッチングしてメディア選定をしないといけない。しかし、読者が好感を持つメディアの世界観とのレレバンシー(関連性)よりも、リーチを重視する考え方でメディアが売られているわけです」(嶋氏)

テクノロジーの進化によってメディアインサイトは大きく変化しており、常時接続の時代には人々のメディアに対する接触の仕方もかわってくるだろう。こうした時代において、メディア利用者の心理に寄り添った広告コミュニケーションモデルである「メディア・フォロワーモデル」は、メディア業界、広告業界に示唆を与えると嶋氏は述べた。

 

メディア・フォロワーモデルの基本的な考え



日経広告研究所
研究部長
坂井 直樹 氏


続いて、「メディア・フォロワーモデル」の開発に携わった日経広告研究所の坂井直樹氏が、モデルの詳細を解説した。

「メディア・フォロワー」とは、「特定のメディアを継続的に視聴・閲覧する人」であり、メディアを単発的に利用する人とは分けて考える。モデルで対象とするメディアは新聞、雑誌、テレビ、Webメディアなどに加えて、SNSで発信する人や企業など従来のメディアの概念を拡張した領域も含まれている。


メディア・フォロワーとメディア利用者の違い


メディア・フォロワーに注目するのは、「特定のメディアを継続的に利用することは、情報に対する個人の価値観を反映しているから」だと坂井氏は説明する。現代は、1人ひとりが趣味嗜好にあわせてメディアを多数選択できるようになり、選択肢の増加によって受け手の心理的な価値観が反映されやすくなったという。

フォローしているメディア=「ベースメディア」は、個人の好むコミュニケーションスタイルを示すだけでなく、情報を受けた後の検索、シェアなど、行動にも特徴が表れる。近年のメディアの多機能化(シェア機能の実装など)も、情報取得後の行動を後押ししている。

ベースメディアに求められる情報価値を知り、それを踏まえたうえで情報を発信すれば、コミュニケーション効果を高められるというのが、メディア・フォロワーモデルの基本的な考えである。


メディア・フォロワーを4つのクラスターに分類

メディア・フォロワーモデルの開発は、日頃利用しているメディアの調査から始まり、さらに利用メディアへの期待を評価してもらった。その結果から、メディア・フォロワー群とメディアに対する期待を分類。この2つの類似性をコレスポンデンス分析(クロス集計の関係性を数値化する分析手法)し、メディアを4つのクラスターに分類することで、それぞれの価値意識・ライフスタイルを比較した。

 


メディア・フォロワー群と、期待する価値観の関係

・社会志向型メディア:新聞、マスコミのニュースサイト、地上波テレビのニュース・報道番組など
・個人志向型メディア:有名人、SNSのニュース、動画共有サイトなど
・能動型メディア:専門家、まとめサイト系のニュース・生活情報、メーカー
・受動型メディア:地上波テレビのドラマ・映画番組、ワイドショー、娯楽番組


社会志向型メディアのフォロワーが最も多い


メディア・フォロワー群の特徴と適したアプローチ手法

分類した4つのクラスターごとに、情報に対する志向、個人の資質、対人発信力を比較してみたところ、いくつかの傾向が見られた。たとえば、商品の購入では次のような特性がある。

商品購入の特性
・能動型メディア・フォロワー:他人との差別化志向が強く、特別な製品やブランドを買うことが多い。受動型メディア・フォロワーは、同様の傾向が小さい。
・個人志向型メディア・フォロワー:多くの人が購入する普及品を避けようとする傾向がある。社会志向型メディア・フォロワーは、同様の傾向が小さい。

また、電気自動車、4Kテレビ、格安スマートフォンなどのイノベーティブな商品の購入については、能動型および社会志向型メディア・フォロワーの購入率が高い。一方、人に勧めたかどうかでは、実際に使ったことのない個人志向型メディア・フォロワーに分類される人が多くなるという。


個人志向型メディア・フォロワーには、実際にイノベーティブな商品を利用してはいなくても、人に勧めている人が多い


こうしたクラスターごとの特性は、今後のメディアの統合的なプランニング、メディア利用者のエンゲージメントを高めるためのコンテンツやクリエイティブ開発、社会に伝播させるためのコミュニケーション戦略、イノベーティブな商品の開発など役立てられる可能性がある。

メディア・フォロワーモデルは実務でどのように活用できるのか、メディア別の価値観や心理、行動が把握できたことで、4つのクラスター別に適したアプローチがあると、坂井氏は最後にまとめた。

・社会志向型メディア:社会的事実の訴求
新聞、マスコミ、地上波テレビのニュース報道番組など、信頼できる情報源を重視する。社会の動き、流行や普及しているモノにならう傾向がある。

・個人志向型メディア:感性的・感情的な訴求
有名人やSNSのニュース、動画投稿サイトなど、個人的な気分や感情を重視し、感情的に好きかどうかで情報を判断する。普及品よりも、希少な商品を好む。

・能動型メディア:話題の本質の解説
専門家、まとめサイトのニュース、メーカー、メディアなどの情報を参考にする。他人がマネできない商品を身につけて差別化したい欲求がある。情報収集志向が強く、前のめりの人が多い。

・受動型メディア:感覚的に受け入れやすい表現
地上波テレビのドラマ・映画番組・ワイドショー・娯楽番組などをフォロー。他人との差別化にこだわらず、情報発信の志向も低い。物事の背景など、解説情報を好まない


「メディア・フォロワーモデルは、広告会社にとっては、メディアのポジショニング確認、クリエイティブの新たな切り口として使える。媒体社にとっては、読者・視聴者の心理を活かした新しいコミュニケーションの提案に、そして広告主にとっては製品開発、マーケティングの新たな切り口として活用できる」(坂井氏)


メディア・フォロワーモデル5つの可能性

セミナー後半では、博報堂ケトルの嶋氏が再び登壇し、メディア・フォロワーモデルの活用の可能性について話した。

1つ目は、異種格闘技マップとしての役割だ。

「メディアにとっては、メディア業界全体のなかで自メディアの価値を知るために使える。広告主は、これまでは新聞社なら新聞社同士の比較しかなく、同じカテゴリから比較して出稿をプランニングしていたが、メディアの境界を越えて検討できるようになる」(嶋氏)

2つ目は、メディアの価値観をもとにした表現チェッカーとしての可能性。たとえば、コネクテッドカーの情報を伝えるとき、4つのターゲット分類にあわせて適切なメッセージを検討することができる。

・社会志向型メディア:事故が減る
・個人志向型メディア:クルマで最高のエンタメを
・能動型メディア:クルマが第三のオフィスになる
・受動型メディア:コネクテッドカーがこれからみんなの常識

3つ目は、メディアインサイトの理解につながることだ。「右上は、正しいか間違っているかを重視、左下は好きか嫌いかというような感覚があると推定できる」(嶋氏)


メディア・フォロワーの特性によって、適切なメッセージやインサイトは異なる


4つ目は、コミュニケーションとして広告発想(メディア・フォロワーモデルの右下)と、PR発想(同左上)のどちらが適しているのか判断できること。

5つ目は、ターゲットを攻略するときに、どこから「火をつけていくか」検討できる材料になること。

IoTなどテクノロジーの発達により、これまでメディアとして認識していたものだけでなく、人間を取り巻くあらゆるモノが常に情報を配信するようになる。「企業がとるべきコミュニケーションは常に変化する。メディア・フォロワーモデルの研究と実務が一緒になって進化していけばいい」と嶋氏は期待を寄せた。

 

2018年10月23日開催 月例セミナーレポート第2部

 

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