「Webアクセシビリティのよくある10の勘違い。あなたはマインドセットを変革できるか」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(4) イベント報告
- 掲載日:2019年9月30日(月)
「アクセシビリティ対応したサイトはデザイン性に劣る」
「視覚障害者のためにアクセシビリティを確保する」
「アクセシビリティ対応ではコーダーにがんばってもらう」
「文字拡大ボタンや色反転ボタンはアクセシビリティで重要」
――そんな風に思っているあなたは、Webアクセシビリティを誤解しているかもしれない。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は7月23日に月例セミナーを開催。「誰のためのUX? ~アクセシビリティを再確認しよう~」というテーマのもと、第2部ではWebアクセシビリティに造形の深い3名が登壇し、それぞれ20分間のショートプレゼンを行った。
ショートプレゼン3人目として登壇したミツエーリンクスの木達氏は、まずWebアクセシビリティのありがちな10個の誤解を解いていった。
木達 一仁 氏(株式会社ミツエーリンクス 取締役CTO)
Webアクセシビリティでありがちな10の誤解
木達氏が提示した「Webアクセシビリティのありがちな10個の誤解」とは、次のようなものだ。
※以下のリストは間違っている捉え方を示していることに注意
・障害者や高齢者はWebを使っていない
・Webアクセシビリティは視覚障害者だけが必要
・アクセシビリティを必要とするのはユーザーの一部
・アクセシビリティを向上させるには特殊な取り組みが必要
・アクセシビリティは付け足す(オプション扱いする)ことができる
・コーディング担当者が頑張ればアクセシビリティは向上できる
・アクセシビリティを向上させるには大きなコストがかかる
・アクセシビリティは一度だけ向上させれば良い
・文字拡大ボタンや色反転ボタンを用意すれば問題ない
・アクセシビリティを向上させると見た目が平凡で醜くなる
それぞれについて、木達氏は例を挙げながら解説する。
× 障害者や高齢者はWebを使っていない
「まったくそんなことはなく、障害者でもiPhoneを買ったその日からどんどん使っている」と木達氏。
第1部の基調講演で大河内氏が解説していたように、iPhoneは音声読み上げのスクリーンリーダーを備えているため視覚障害をもつ人でも使いやすデバイスだ。そうした手段を使って、さまざまな人がWebを利用している。
× Webアクセシビリティは視覚障害者だけが必要
Webアクセシビリティの議論では、スクリーンリーダーに着目されがちだ。しかし、視覚障害に限らず、聴覚障害、肢体不自由、学習障害、識字障害などさまざまな障害のある人がWebにアクセスしている。そのため、だれもがアクセスできるようにする必要があるのだ。
特に高齢者は、次のような複数の障害をもつ場合もある点に注意が必要だ。
・視力が弱い
・耳が聞こえにくい
・マウス操作がおぼつかない
×アクセシビリティを必要とするのはユーザーの一部
アクセシビリティは全ユーザーが必要とする品質である。この前に説明した「視覚障害者だけが必要」の解説を理解すれば、一部のユーザーだけを対象としているわけではないということがわかるだろう。
また、インフォアクシア植木氏のセッションで「インクルーシブデザイン」に言及されていたように、あらゆる人をデザインプロセスに取り込む発想が世界的にも広がってきている。
×アクセシビリティを向上させるには特殊な取り組みが必要
アクセシビリティ対応を進めるには費用がかかると構えてしまう人がいる。しかし、インフォアクシアの植木氏が紹介した「Webアクセシビリティ確保 基本の『キ』」を守るだけならば、特殊な取り組みが不要であり、それだけでもアクセシビリティは大きく向上する。
木達氏は「『基本の『キ』』は、「Web制作者にとっては当たり前のことなので、すでにできていることも多いはず」と会場に投げかけた。
×アクセシビリティは付け足す(オプション扱いする)ことができる
サイトがあらかたできあがってからアクセシビリティ対応を検討するというフローになっている場合もあるだろう。しかし木達氏は「アクセシビリティは広義のWebデザインの一部。後から追加するのは難しい場合もあり、企画段階から考慮する必要がある」と説明した。
×コーディング担当者が頑張ればアクセシビリティは向上できる
アクセシビリティはコーディング担当者だけでなく、サイト制作に関わる全員の取り組みだ。たとえば、画像の代替テキスト(alt属性値)。原稿作者とは別のコーディング担当者が、HTMLを書きながら代替テキストを考えるのは適切ではない。本来、原稿を作成し画像を用意するタイミングで代替テキストも一緒に考えるほうが自然だろう。
×アクセシビリティを向上させるには大きなコストがかかる
時間と費用がかかると思うと、構えてしまって先送りしてしまうものだ。しかし、
・画像にalt属性で代替テキストを指定する
・見出しをしっかりと見出し要素としてマークアップする
といったことは、日常的に改善できることだ。「スモールスタートで進めればいい、背伸びをすることはない」と木達氏はアドバイスした。
×アクセシビリティは一度だけ向上させれば良い
アクセシビリティというと、サイトの新規公開やリニューアルのときだけ検証して、それで満足してしまう事例が多い。しかし、サイトは更新していくものだという観点でみると、それではよろしくない。
「コンテンツは生もの。新規コンテンツの追加や既存コンテンツの更新が品質低下要因となる可能性があるので、継続的に取り組み品質を下げないよう注意してほしい」と木達氏は警鐘を鳴らす。
×文字拡大ボタンや色反転ボタンを用意すれば問題ない
インフォアクシア植木氏の「Webアクセシビリティ確保 基本の『キ』」にも含まれる項目だが、木達氏もこの点については意識を変えるように啓発する。
文字を拡大したり色を判定させたりという機能をWebサイト上にボタンとして用意するということは、公的機関ではよく行われている。しかし、実際に障害をもつ人は、この機能を利用することは少ない。というのも、文字の拡大や色の反転といったことは、普段から利用しているハードウェアやソフトウェアが備えており、それを使い慣れているからだ。いつも使っているものとは異なる機能をわざわざWebサイト側で用意する必要はない。
×アクセシビリティを向上させると見た目が平凡で醜くなる
「アクセシビリティに配慮したサイトはデザイン性に劣る」というのは、昔から言われていることだ。しかし、これは必ずしもそうだとは言えない。「機能的な価値と情緒的な価値は両立できる」と木達氏は呼びかける。
もちろん、色のコントラストなど、見た目に影響するアクセシビリティ基準もある。しかし、多くはスクリーンリーダーに情報を伝えるための要件が多いからだ。
Webアクセシビリティ向上のためのマインドセット変革
Webアクセシビリティに関する誤解をこうして正していった木達氏は、「Webアクセシビリティの正しいマインドセット」として、次のようなメッセージでまとめる。
・アクセシビリティは、あらゆるWebサイト、コンテンツが備えるべき品質である
・そのため、制作に関わる人が上流から取り組むべきである
・一方で、ガイドライン準拠を目指して完璧主義に陥ると苦しくなるので、段階的、継続的に改善していく選択肢もある
・そして、アクセシビリティを理由にビジュアルデザインを諦めることなく、多くの人が使える設計を目指してほしい
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