「Webアクセシビリティを社内で推進するには? 優れたサイトの例は? など10の疑問に専門家が回答」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(5) イベント報告
- 掲載日:2019年9月30日(月)
Webアクセシビリティを踏み出す第一歩は? 社内で推進するには? 優れたサイトの例は? おすすめチェックツールは? 国内でも訴訟はある? ―― Webアクセシビリティに関するさまざまな疑問に、専門家が答えた。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は7月23日に月例セミナーを開催。「誰のためのUX? ~アクセシビリティを再確認しよう~」というテーマのもと、第3部ではパネルディスカッションを行った。
壇上には、第2部の登壇者がパネリストとして改めて登場。大日本印刷の西田氏がモデレーターとして登壇し、事前に寄せられた問いや会場からの質問を提示。パネリストたちはその質問に答える形でWebアクセシビリティを解説していった。
【登壇者】(順不同)
・植木 真 氏(株式会社インフォアクシア 代表取締役)
・トーマス・ローガン氏(Equal Entry LLC. Owner)
・木達 一仁 氏(株式会社ミツエーリンクス 取締役CTO)
・モデレーター: 西田 健 氏(大日本印刷株式会社 / Web広告研究会 副代表幹事)
今回、パネリストたちが回答した質問は次のとおり:
・最初に始めることとして「基本の『キ』」が参考になりますが、ポイントは?
・海外ではどのようにWebアクセシビリティが浸透したのでしょうか
・会社のなかでWebアクセシビリティを推進するにはどうするべきでしょうか
・Webアクセシビリティに優れたサイトの例を教えてください
・おすすめのチェックツールは?
・動画のアクセシビリティ対策をどこまでやればいいのか、悩んでいます
・日本国内でも、アクセシビリティに関する訴訟はあるのでしょうか?
・訴えられる企業は、まったく対応していないのでしょうか、それともある程度対応していても訴えられるのでしょうか?
・B2B企業の参考になる事例があれば教えてください
・アメリカ以外でアクセシビリティに関心の高い国はありますか?
アクセシビリティといっても第一歩をなかなか踏み出せない人も多いと思います。最初に始めることとして「基本の『キ』」が参考になりますが、ポイントはどこでしょうか
植木氏: 「基本の『キ』」で忘れがちなのが、キーボード操作です。キーボードだけで想定した操作ができるのか試してみると、フォーカスインジケーターで問題が見つかることがあります。これに限らず、まずは一つひとつの項目ができているかチェックしてみるといいでしょう。
ローガン氏: 最初に障害者に使ってもらって、問題をフィードバックしてもらい、その現実を受け止めるといいと思います。
木達氏: 障害者が身近におらず試してもらえない場合は、総務省やW3Cが障害者のWebアクセスについて動画を公開していますから、参考にしてさまざまなユーザーがいることを認識してください。
左: 木達 一仁 氏(株式会社ミツエーリンクス 取締役CTO)
右:トーマス・ローガン氏(Equal Entry LLC. Owner)
海外ではどのようにWebアクセシビリティが浸透したのでしょうか
ローガン氏: テレビ、ソーシャルメディア、YouTube動画などに障害を持つ人が出演して問題を提示することで、意識が高まっていきました。
会社のなかでWebアクセシビリティを推進するにはどうするべきでしょうか
ローガン氏: 会社の内部でこのトピックに関して話すことです。特にミレニアル世代は高い意識があるので、彼らを中心としたコミュニティで、開発やデザインの情報交換をして社内の認識を高めた会社もあります。
Webアクセシビリティに優れたサイトの例を教えてください
植木氏: よく聞かれる質問なのですが、答えにくいです。というのも、全ページきっちりできているサイトがあるように思われてしまいがちですが、先程のプレゼンテーションで木達さんがいったように、完璧はないのです。
例としては、登壇している我々の会社のWebサイトもそうなのですが、そのサイトに関して「Webアクセシビリティ方針」や「JIS規格の試験結果」を公開しているサイトは参考になると思います。検索してみると、業種に関係なく見つかります。
海外では、Accessibility WinsというアクセシブルなUIの事例を紹介するサイトがあるので、実装、操作性など参考になるでしょう。
木達氏: 私も同様に同じ質問をよく受けますが、答えにくいですね。質問された方の期待している回答は、
・派手なビジュアルでもアクセシビリティ対応しているサイトを知りたい
・JavaScriptを使っていてもアクセシビリティを確保するような技術的なことを知りたい
などいろいろありますからね。
植木さんと同じく、アクセシビリティに取り組んでいることを宣言している会社のサイトは参考になると思います。特に1回だけ試験した結果ではなく、継続的に試験して結果を公開しているサイトは良いと思います。
おすすめのチェックツールは?
植木氏: 手軽に使えるのは、Chromeの開発者ツールで提供されているアクセシビリティのチェック機能です。その他、拡張機能の「Web Developer」というのもありますし、Firefoxにも同様の拡張機能があります。
ローガン氏: マイクロソフトもChromeの拡張機能やWindows用ソフトウェアとして利用できる「Accessibility Insights」を公開しています。あとはカラーコントラストアナライザーなどもあります。
木達氏: 植木さんも言及していましたが、Google Chromeに備わっているChrome DevTools(開発者ツール)でアクセシビリティ対応を簡易的に評価できるので、参考にしながら対策するといいでしょう。
左:トーマス・ローガン氏(Equal Entry LLC. Owner)
右:植木 真 氏(株式会社インフォアクシア 代表取締役)
(中央はローガン氏の通訳者)
動画のアクセシビリティ対策をどこまでやればいいのか、悩んでいます
植木氏: 音声を聞けない人のためのキャプションはYouTubeの機能で手軽につけられるようになりました。
とはいえ、第1部で大河内さんが紹介したような、映像が見えない人向けの音声解説は、ハードルが高いのは確かです。そのため、あらかじめ予算をとって制作する必要があります。音声解説は、まだ実例は少ないとは思いますが、官公庁のサイトなどで目にすることはあります。
ローガン氏: 音声によるビデオ解説を専門に提供している会社もあります。ビデオファイルを渡せば、音声解説をつけて戻してくれます。全部作成しなくても、重要な10%のみにつけるといった対応も可能です。自社で制作する場合は、音声解説部分をテキストとして作成しておいて、読み上げ音声を自動生成することも可能です。
木達氏: コンテンツだけでなく、プレイヤーのアクセシビリティもお忘れなく。
・プレイヤーの音量調節
・再生
・停止
などのボタンに適切なラベルがついているか、キーボードだけで操作できるかチェックしてみてください。
モデレーター: 西田 健 氏(大日本印刷株式会社 / Web広告研究会 副代表幹事)
日本国内でも、アクセシビリティに関する訴訟はあるのでしょうか?
植木: 日本では、障害者差別解消法(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、平成28年4月1日施行)が施行されました。とはいえ罰則がゆるいこともあり、現時点ではまだ訴訟は無いと思います。
とはいえ、日本企業が海外で訴えられる事例はあります。
木達: 同じく日本人が訴えるという例はまだ知りません。アメリカの現地法人が訴訟を受けて対応した事例はありました。
訴えられる企業は、まったく対応していないのでしょうか、それともある程度対応していても訴えられるのでしょうか?
木達: 対応していても訴えられる場合があります。実際に、アクセシビリティ方針を作って対応していたのに訴えられたグローバル企業に対して、技術的なサポートを提供したことがあります。
植木: 私のかかわった海外サイトの例では、訴えられてもしょうがないレベルが1件、提訴をきっかけに全面リニューアルしたのが1件あります。
B2B企業の参考になる事例があれば教えてください
ローガン氏: 事例ではありませんが、取引先企業の従業員に障害者がいて、その人が自社のWebサイトにアクセスできなかったらどうでしょうか? こうした状況を作らず、だれでもアクセスできるようにすることが大事です。
他の国でもアクセシビリティは関心が高いトピックです。しかし、“どこまで対応するべきなのか”に関しては、アメリカでもコンセンサスをとれていないのが現状です。
アメリカ以外でアクセシビリティに関心の高い国はありますか?
植木: EUではそれぞれの国で法整備が進んでいます。たとえばフランスでは、年間の売上が2億5千万ユーロ以上ある企業はアクセシビリティ確保が義務付けられるようになりました。カナダのオンタリオ州では、企業サイトにも全ページのアクセシビリティ対応が求められることもあります。
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