「コミュニティの課題とゴール・KPI・リアルとオンライン・人材育成など、コミュニティを巡る7つの疑問にプレイドとパナソニックが回答!」2019年9月24日開催 月例セミナーレポート(4) イベント報告
- 掲載日:2019年12月18日(水)
「コミュニティの課題とゴール」「ありたい姿」「KPI」「リアルイベントとオンラインとの相乗効果」「人材育成」など、コミュニティを巡る7つの疑問に、プレイドとパナソニックが、自社の事例をもとに回答。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は9月24日に月例セミナーを開催。「コミュニティ型へシフトするソーシャルメディアマーケティング」というテーマのもと、第4部ではドリームデザイン、プレイド、パナソニックが一堂に会し、コミュニティマーケティングやコミュニティマネジメントを巡る疑問について、パネルディスカッションを行った。
コミュニティを巡る7つの疑問
パネリスト(左より):
・株式会社ドリームデザイン COO / Web広告研究会 ソーシャルメディア委員会 平林 泰直 氏
・株式会社プレイド カスタマーエクスペリエンスデザイナー 平岡 志織 氏
・パナソニック株式会社アプライアンス社 日本地域CM部門 コンシューマーマーケティングジャパン本部 データマネジメント部 部長 増田 健二 氏
モデレーター:
日本航空株式会社 ブランドコミュニケーション・東京2020オリンピックパラリンピック推進部 Webコミュニケーショングループ長 / Web広告研究会幹事 山名 敏雄氏
ディスカッションは、モデレーターである日本航空の山名氏が提示した以下の7つの質問に、それぞれが答えていく形で進行した。
1. ご担当されているビジネスの課題とゴールを教えてください。
2. その解決、もしくは達成の手段として「コミュニティ」を選択した理由を教えてください。
3. コミュニティの概念や定義はさまざまだと思いますが、担当されているコミュニティのありたい姿とはどのようなものか教えてください。
4. リアルイベントとオンラインとの相乗効果について教えてください。
5. コミュニティのKGI、KPIを教えてください。
6. 現在の組織体制と今後の組織体制を教えてください。
7. コミュニティの企画、運営における人材育成をどのように考えていますか。
1. ビジネスの課題とゴール
「ご担当されているビジネスの課題とゴールを教えてください。」
【増田(パナソニック)】 「今後シュリンクしていく国内の家電市場において、他社との競争にどう勝つか」が一番の課題です。これを解決するためには、メーカーチェンジをさせずに“固定票をしっかり取っていく” 必要がある。そこがゴールです。
【平岡(プレイド)】 カスタマーサクセスチームのゴールは、クライアントに「KARTEを使えば、エンドユーザーの顧客体験をより良くできる」と感じていただくこと。これこそがクライアントにとってのKARTEの価値です。
そのなかでコミュニティチームはまだ立ち上げ期ということにあり、参加への熱量を上げ、交流やナレッジの共有を促すことに目的を置いています。ここでのつながりが、KARTEの価値を伝播させるにとどまらず、KARTEの価値をより高め、新たな価値までも生み出す、そんな場にしていきたいです。
2. 「コミュニティ」を選択した理由
「その解決、もしくは達成の手段として『コミュニティ』を選択した理由を教えてください。」
【増田】 歴史的にパナソニックは“街中の電気店様”が強く、そうした電気店様がお客様との濃いつながりを作っていました。さまざまな課題や意見も、電気店様を通じてパナソニックに伝わっていました。しかし大型店や通販に時代が変化し、お客様の意見がメーカーにまったく届かなくなってきた。 “デジタルな新時代にこそ顧客接点をしっかり回復する”ということで、コミュニティを選択しました。
【山名(日本航空)】 あくまで“デジタルで接点を作る”ということで、“ECサイトに誘導する”ということではないんですね?
【増田】 電気店の皆様によっても意見がわかれるかもしれません。ある量販店様からは「店頭に来るのは、パナソニックではなく我々のお客様。その人たちのデータをとるとは何事だ!」という意見をいただきました。一方で「そういうデータがあるなら、うちとしっかり連携していきましょう!」という意見もありました。
【平岡】 私たちはチャットサポートも用意していますが、コミュニティを通して出てくる意見は少し違う様相があります。たとえば、
・プロダクトへのポジティブな改善提案
・私たちでは思いつきもしなかった使い方や発想
などがあるのです。
エンドユーザーに向き合うKARTE Friendsだからこそ紡げる言葉は、コミュニティ参加者にとって大きな付加価値であるはず。プレイドのメンバーを介さず、参加者同士で学ぶことができるという意味では、“テックタッチ的”だとも言えますね。
【山名】 そう聞くと、KARTEのコミュニティの場合、既存顧客のナーチャリング(育成)という意味合いが強いと感じますが、新規開拓についてはどうですか?
【平岡】 可能性はありますが、現時点で“コミュニティを活用して新規顧客を取りに行く”というよりは“既存顧客の満足度を高める”局面だと思っています。
ちなみに、KARTE Friendsでなくても、ご紹介をいただければ、ミートアップにはどんな方でも参加いただけるようにしています。
3. 担当しているコミュニティの“ありたい姿”
「コミュニティの概念や定義はさまざまだと思いますが、担当されているコミュニティのありたい姿とはどのようなものか教えてください。」
【増田】 漠然としていますが、“トップ・オブ・ザ・トップ”というか、“アンバサダー(推奨者)”というか、そういった方々を形成して、そのお客様が増えることによって、パナソニックの家電を繰り返し継続して購入いただける方が増えるのが最終形だと思っています。
【平岡】 なかなか難しい質問ですが、私の講演部分で話をした「7P」(People・Purpose・Place・Participation・Promotion・Policy・Performance)が大事なのはもちろん、自分たちの会社の“社風”につながっていくと思います。
自社の風土・社風がオープンでフラットなものであれば、コミュニティも自ずとそうなっていきます。プレイドは、相互に助け合えるというか、横に広いというか、コミュニティもそういう場をイメージし、その方向に進んでいます。
【増田】 まだまだしっかりしたロイヤリティプログラム制度もありませんし、DMPを使ってお客様をターゲティングしているレベルではありますが、私たちパナソニックも、“これから”を考え、目指すべき方向に突き進んでいると思っています。
【山名】 当社(日本航空)の場合、ものすごく熱量を持っていて「乗るなら必ず日本航空!」と言ってくれるお客様がいる。ただ、回数ではどうしても、出張などで頻繁に飛行機に乗るお客様には負けてしまうということがある。そういう“ファン”がもっと脚光を浴びてほしい、という想いはありますね。
【平林(ドリームデザイン)】 参考にした他社の事例とかはありますか?
【増田】 じつは完全オリジナルで企画したので、あまり他社さんは参考にしませんでした。
【平岡】 私たちも、ほとんど他社さんは参考にしていません。BtoBサービスのコミュニティだと、他社さんもいままさに構築中ですし、どうしても外資の事例が多いので、私たちならではのコミュニティを作りたいと思っています。
4. リアルとオンラインの相乗効果
「リアルイベントとオンラインとの相乗効果について教えてください。」
【山名】 通常は、オンラインイベントから始めてオフラインイベントに移行する会社が多いと思うのですが、プレイドさんの事例は、珍しくオフラインイベントが先ですよね?
【平岡】 ラッキーなことに、私どもは当初から、有志によるオフラインイベントが中心にありました。オンライン活動は、あまり活発化していなかったようです。現在オンラインコミュニティも構築していますが、コントロールしにくい事案が発生しないかを考慮はしています。そのため、「実際にオフラインでも会ったことのある人たちが、交流を深められる場」としてオンラインコミュニティを考えています。
【山名】 オフラインイベントは、参加人数に物理的な上限が発生することや、首都圏での開催が多く、地方の方が参加しにくいことがネックですよね。それを解消できるのが、オンラインコミュニティの良さだと思います。
【平岡】 KARTEでは、機能の使い方などの問い合わせにはチャットサポートを用意していますし、フォーラムによる疑問解消もできるようになっています。なのでオンラインコミュニティでは「交流」がメインになっているという事情があります。
なんでもかんでも情報をオープンにしたいわけでもないので、オンラインコミュニティは“交流・会話・雑談”の場になっていると思います。ミートアップの生配信なんかもトライしています。
【増田】 メーカーのコミュニティサービスに対してユーザーが一番望んでいるのは、
・「中の人と喋りたい」
・「工場を見学したい」
といったリアルな体験系ばかりで、ネットはあまり役に立たなかったんですよね。そういった意見を踏まえて、ユーザーが喜んでくれそうなイベントプログラムを作りました。
製品については、“使いこなし”に注力するとともに、エリアマーケティングに注力しました。今後はこういった試みが、相乗効果を生むと期待しています。現在は、市場調査のデータやPOSデータを注視しつつ、連動した動きを指標化できないかを考えています。
態度変容についても、半年間イベント参加者を追いかけています。たとえば、「イベントに参加する人はそもそもすでにファンなので、イベントに参加しなくてもうちの商品を買っていたんじゃないの?」といった意見がでることは想定されます。それに対しても、 LTVの観点で愛用者登録や継続年数との対照を行い、検証を進めています。
5. KGI、KPI
「コミュニティのKGI、KPIを教えてください。」
【増田】 セールスポイントと実際の活動を結び付けて考えるのが基本ですが、まだまだ明確ではないと思っています。いまは「NPS」や「販売の連動」などをじっくり見ています。
【山名】 たとえば売り上げ以外で、「ユーザーがSNSで発信してくれた」といったデータは集計していないんでしょうか?
【増田】 まさにパナソニックは、それを集計し始めたところです。ビューティ系商品はわかりやすいんですが、メジャー商品(冷蔵庫・洗濯機など)は、“あえてSNSで言及する”という人が極度に少ないんですね。そこの計測は課題だと思っています。
【平岡】 コミュニティについては、「参加人数」と「その熱量」を見ています。定性的な部分ですが、これから反応内容など「事例」も見ていこうとしています。
SNSでハッシュタグを付けてつぶやいてくれる方もいますが、絶対数が多くないので、そこはKPIとして計測していません。
「サービス利用継続率」については、ニワトリとタマゴの関係だと思っていて、
・ミートアップに参加してくださったから継続につながったのか
・継続するくらい熱量があるからミートアップにも参加してくださったのか
の判定は難しいと感じています。
【平林】 「熱量」という単語が出てきましたが、経営サイドはなかなかお客さんに直に接することがないので、熱量を感じにくいのではないかと思います。どのぐらい意識しているんでしょう?
【平岡】 それについては、経営サイドというより、コミュニティサイドの意向として、全社を巻き込んでいこうと思っています。ずっと同じ担当者が前面に立っていると、
・「この人には言いにくい」
・「技術的な部分なのでエンジニアと話したい」
といったこともでてきます。そうした要望に応えるために、全社を巻き込むことを意識しています。そうしたフィードバックは、エンジニアのモチベーションアップにもつながっています。
でも、そうした動きは経営からリクエストされたわけではなく、現場からの動きです。
【増田】 それはうちも同じですね。コミュニティ活動をしていると、製品について
・想像を絶する使い方
・ハンパない使い方
をしているユーザーさんが存在していることが見えてきます(笑)。製品開発の現場がそうした情報に触れると「有意義だった」「今後の商品企画に活かせる」と、良い刺激になることが多いんですよね。
6. 組織体制
「現在の組織体制と今後の組織体制を教えてください。」
【増田】 社員については少数精鋭ですが、内部リソースだけだと足りないので、かなり協力会社さんに助けてもらっています。目下の悩みは、
・形式知化
・ノウハウの継承
ですね。内部にどうやって知識を残していくか、若いスタッフをどう獲得し育てていくかが課題です。
平均年齢の高い会社なので、若い人に最初からデジタル部門に入ってもらい、人材として育てていくのが理想ではありますね。
【山名】 うちもジョブローテーションによって2~3年で異動が発生する。コミュニティ立ち上げの若手メンバーが、今年、那覇空港に異動しました。引き継ぎ時間も限られていて、かなりつらい状況でしたね。
【平岡】 ビジネスサイドとエンジニアサイドで考えると、ビジネスサイドのカスタマーサクセスのなかにコミュニティチームが存在しています。その他にさまざまなチームが存在するわけですが、現在の組織体制でいえば、フォーカスによって2~3か月ごとにチーム編成や体制を変えています。
コミュニティチームについては、大きく人数を増やすといったことはなく、「あえて少ない人数。だからこそ、他部署を巻き込む」というスタイルを続けます。
7. 人材育成
「コミュニティの企画、運営における人材育成をどのように考えていますか。」
【平岡】 コミュニティ担当のメンバーは、お客様にKARTEの価値を伝える立場ですので、プレイドにジョインした人がいきなり担当になるということはあまりないかと思います。まずは製品への理解を深め、そのうえで社内異動してきてもらうというのが理想だと考えています。
もちろん外部でキャリアを積んできたという方もいらっしゃるので、そういう方に異動してきてもらうということは考えていますが。
【山名】 コミュニティの企画・運営を行うには、どういう資質が重要なんでしょうかね?
【平岡】 私自身が選ばれたときは、正直よくわかっていませんでした(笑)。そのときは
・ KARTE Friendsの気持ちに立てる人
・社内の状況を強く推進できる人
という“二面性を持てる人”が良いと思う、と言われました。コミュニティマネージャをしていると、お客様に寄り添いすぎる状況が生まれます。一方でビジネスも考えないといけない。うちのチームは2名なので、これを役割で分担していたりもします。
【山名】 ワンプラットフォームで解決していればいいんですけど、複数のプラットフォームやテクノロジーを導入するとなると、デジタルやITに詳しい人が必要になってきますよね。
【増田】 パナソニックは「お客様最優先」ということが徹底しています。ですから、コミュニティ運営だから、オーナーズクラブだから、といって、特別なことをしているわけではありません。パナソニックの場合、そもそもデジタルやITに強い新入社員がそんなにいません。ジョブローテーションも思ったより固定するので、デジタルやITに強い人材は、意識して育てていくことが重要です。
◇ ◇ ◇
パネルディスカッションで印象的だった回答や意見を挙げるとすると、次のようなものだろうか。参考にしながら、自社のコミュニティ構築や運営をプランしていってほしい。
【増田】 シュリンクしていく国内の家電市場において、“固定票をしっかり取っていく”ための施策の1つが、コミュニティ。
【平岡】 コミュニティ運営の担当はあえて少ない人数。他部署を巻き込んでいくスタイルで。
【山名】 物凄く熱量を持って「乗るなら必ず日本航空!」と言ってくれる“ファン”に、もっと脚光を浴びてほしい、その熱量にわれわれも応えていきたい。
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