2010年9月29日開催 Web広告研究会 第22回WABフォーラムレポート(1)第一部「Web現役担当者による、課題と自己育成」 イベント報告
- 掲載日:2010年10月26日(火)
第一部「Web現役担当者による、課題と自己育成」
Webの現場が抱える課題とその解決策とは
第22回WABフォーラムが、第8回となるWebクリエーション・アウォード贈賞式も兼ねて9月29日に開催された。Web広告研究会では、2月に開催した、第21回のWABフォーラムにおいて「トリプルメディア、トリプルスクリーン戦略を考える時代」との宣言を行ったが、今回はより複雑化するWebマーケティングの世界において、何が課題となり、何を行っていけばよいのか、フォーラムはこうした問題を2つのパネルディスカッションによって紐解いていく絶好の機会となった。
広告と宣伝のコミュニケーションに加え
事業部などとのコミュニケーションが課題
Web広告研究会 代表幹事
渡辺 春樹氏
開会挨拶で登壇したWeb広告研究会の代表幹事である渡辺春樹氏は、1999年4月に設立されたWeb広告研究会の11年間の歩みを振り返り、「広報やマーケティングも含めた全社でWebやインターネットをやらなければならなくなってきた。Web広告研究会の最大のメリットは、ネットの最前線で戦ってきた人たちと情報共有できること。今後は国内だけでなく、グローバルに海外でも活動していきたい」と、これまでの環境の変化と今後の抱負を語った。
Web広告研究会 幹事
本間 充氏
続いて、第一部のパネルディスカッション『私たちに任せれば、次のWebマーケティングをリードできる!! ~Web現役担当者による、課題と自己育成』の開始に先立ち、Web広告研究会の幹事である本間充氏が登壇。「メディアの接触時間が変化し、環境が変わってやらなければならないことが複雑化しているなかで、いろんなことを考えていかねばならず、我々は迷子になっているのかもしれない」と話し、マーケティング戦略に悩む人が多いことを明かす。第一部のパネルディスカッションでは、「なぜ迷っているのか」を考えるために、若い世代の広告代理店や広告主の生の声を聞き、現場では何が考えられ、どのような課題があるのかを知ってほしいと、今回のパネルディスカッションの目的を語る。
株式会社サイバーエージェント
内藤 貴仁氏
パネルディスカッションでは、広告代理店側から、株式会社サイバーエージェントの内藤貴仁氏をモデレータに迎え、広告主側の若手担当者として、パナソニック株式会社の工藤里衣氏、サントリーホールディングス株式会社の若林純氏、日本たばこ産業株式会社の上原美香氏の3人のパネリストが登壇。今回のパネリスト3名は、いずれも広報に近い立場のWeb担当者だが、内藤氏は、「広報と宣伝の関係性と課題」というテーマから話を始めた。
日本たばこ産業株式会社
上原 美香氏
日本たばこ産業(以下、JT)のパブリックリレーション部で、JTのWebサイトの管理・統括、また企業ブランディングを目的としてコンテンツの企画・運営を行っている上原氏は、「幅広い人とのコミュニケーションを行うことがパブリックリレーション部の役割」と前置きしたうえで、「親しみを持ってもらうためにどのような情報を発信していくかが課題」と語る。JTは、たばこをはじめ医薬と食品という3本の主要事業があり、子会社も多いため、異なる文化の人と意見を調整しながら、どのようなメッセージを出していくかを決めていかなければならない難しさがあるという。「3つの異なる事業と多くの子会社をJTという1つの組織のWebサイトとしてメッセージを発信することは非常に難しく、見せ方や各事業の調整が必要になってくる」と上原氏は話した。
サントリーホールディングス株式会社
若林 純氏
一方、サントリーホールディングス(以下、サントリー)の広報部に属している若林氏は「Webコンテンツは商品、ブランドごとに事業部のマーケッターが管理し、広報部は事業部のマーケッターがTwitterなどを使うような場合のレクチャーやルール作りを行っている。しかし、サントリーの事業も酒類から食品まで幅広いものがあり、たとえば、ワインと健康食品ではそのマーケット手法が異なってくるため、必ずしも1つのルールに当てはめることができない」と、現場の課題を話した。また、「1つの組織でWebやインターネットが完結するわけではないということが大前提。チームで動くことが必須となっているなかで、担当者がWebに詳しいかどうかの差で施策が決まることもあれば、活動が進まないということも課題となる」とも話した。
「チームで動く場合、予算設定はどのように考えるのか」と内藤氏から質問されると、若林氏は「宣伝予算と事業予算が明確に違うなかで、インターネットが販促なのか広告なのかを明確に分けることはできないため、臨機応変に対応している。広報部は宣伝と比べて大きな予算を持っているわけではないので、ある施策を大々的に行いたいというときに機能的に動きにくいという面はある。また、目標設定に関しては、商品・ブランドごとにKPIやターゲットが異なるため、その都度設定を決めていかなければならないという大変さはある」と答えた。
パナソニック株式会社
工藤 里衣氏
パナソニックの工藤氏は、「宣伝グループや広報グループはあるものの、それ以外にWeb推進チームが作られており、インターネット上で行うこと=Web推進チームの仕事となることは依然としてあります」と話し、「予算が組織ごとに設けられている以上、宣伝、広報などと明確な分類がない自社サイト上での活動は、どこの予算として扱うのかの交渉が難しいのは1つの課題」と明かしてくれた。
企業やブランドが消費者とコミュニケーションをするための場として、Webサイトの運用には広報やマーケティングなど、多くのステークホルダーが関わることになる。多くの事業部、またはグローバルとローカルというように分かれているなかで、Webをどのように組織立てて融合させていくかが多くの企業にとって課題となっているようだ。
仕事をスムーズにするための社内体制とは
Twitterなどのソーシャルメディアや、スマートフォンなどの新しいデバイスに対する対応もマーケティング戦略の中では重要となってくる。若林氏は、「基本的にブランドサイトのコンテンツオーナーは各商品の事業部であり、その責任のもとで施策が行われる。しかし、ソーシャルメディアや新たなデバイスを利用する場合は、事業部の担当者が専門的な分野まですべて把握することは困難なので、広報部に各メディアやデバイスのプロフェッショナルな担当者を置き、ルール作りやガイドライン作り、サポートを行っている」と話した。
しかし、工藤氏が「ソーシャルメディアとなると宣伝側が手を引きたがる印象がある」と話し、「長期的な関係をつくるという文化や発想が宣伝にはなく、自社でもソーシャルを真剣にやりたいと最初に手が挙がったところは、もともと長いコミュニケーションをしているところになる」と話すと、若林氏も「広告部や宣伝部は情報発信することを考えている部署であって、ソーシャルメディアに手を上げてくるのは、お客様とコミュニケーションを取るCSRなどだと感じる」と同意を示した。工藤氏は「コミュニケーションを続けるには、そのための“ネタ”が必要となるが、宣伝部はネタを持っているわけではなく(ネタをもらって表現する部署なので)、ソーシャルメディアとの相性がいいとは言えない」とも指摘した。
このような課題がある現状で、内藤氏は「もっと仕事をやりやすくするためにはどのようにすればよいか」という話題を3人のパネリストに振っていく。上原氏は、「事業や部署、ブランドごとのコンテンツオーナーがいるなかで、統一したメッセージを出すための調整に追われる」という課題を示したうえで、「Webチームが組織として独立し、そのなかにすべての事業部の担当者が入り、Webからすべての情報発信を行えるような強い組織になっていけば、スピード感を持って統一したメッセージを発信でき、ガイドラインも作りやすくなる」と話した。
また、若林氏は「社内啓蒙活動が非常に重要」だと話す。サントリーでは、2年ほど前から全コンテンツオーナーや一部グループ会社を集め、質問者が出やすいように10人ほどの小規模なグループでセミナーを行っている。その結果、「Webのことを各担当者が理解できるようになり、お互いに顔が見えているので相談しやすい雰囲気が作れた」という。「こういった啓蒙活動をもっと推し進めていき、さまざまな部署の立場からWebを見ていくことで、マーケッター的な気付きや宣伝的な気付きが出てくるようになり、1つの目的に対してみんなが集まって意見を出しながら作業できるようになる」と、若林氏自信の経験を伝えた。
「組織的には満足している」と話す工藤氏は、「社長のメッセージをもっと発信していきたい」と言う。また、「社長のメッセージをグローバルに発信していくことで、一般のお客様とともに従業員もそのメッセージを聞くことになる。イントラネットで従業員にメッセージを出すよりも、グローバルに対外的に出されたメッセージを従業員が聞けると、よりモチベーションを高められると思う。社長自らがステークホルダーに対して伝えていく言葉は、強いと思う」とした。
部署を超えて連携し、目標に向かうことが必要
パネルディスカッションの後半は、Twitterや会場から寄せられた質問に各パネリストが答える形で進められた。「テレビや新聞など、従来のメディアとのメディアヒエラルキーを感じて仕事しづらいと思うことはあるか」という質問に対して、工藤氏は「未だにヒエラルキーは感じるし、費用面に大きな差を感じる」と答えている。Webのビジネス活用が進んだとはいえ、新聞やテレビなどの広告費と比べると、Webの予算はまだまだ小額であり、広告費用に高いコストをかけられるのであれば、もっとWebにも予算を回してほしいと考えるのがWeb担当者の本音だろう。
上原氏も「JTがたばこ以外にもさまざまな事業を行って社会貢献をしているという企業メッセージをCMで大きく発信しているが、それは最初の接点となるキッカケとなるもの。興味を持った人がより深い情報を探しに来るのは、やはりWebなので、もっと予算をかけてほしい」と話した。また、若林氏は「これまでの実績があるメディアに比べ、上の人にとっては効果があるかどうかがわからず、自身も使ったことがなく、実体感や実績のない、リスクのともなうソーシャルメディアなどに決裁は出しづらいと思う」とした。現場のWeb担当者にしてみれば、もっと広告代理店なども一緒になってWebやソーシャルメディアの実績がわかるようにし、上長に提案しやすい体制を作りたいと考えており、広告代理店側として内藤氏も、提案において社内説得の協力を求められることがあると話した。
また、「コーポレートブランディングは広報的に行ったほうが効果的か」といった話題も振られ、長期的観点と短期的観点のどちらで臨むのか、組織運営上の課題はないのか、といった意見が来場者も交えて活発に行われていった。
「そもそも広報も宣伝も一緒にしてしまったほうがよいのでは」という質問に対しては、各パネリストとも、「広報と宣伝の間に壁があるのではなく、明確に役割が違う」という答えとなった。一緒にするという議論は別にして、これからは広報部、宣伝部、事業部が連携し合わなければならないのだという。トリプルメディア時代とされる現在では、テレビCMや新聞広告、またはWebだけの施策を考えるのではなく、目標を実現するために最適なメディアを選択し、うまく連携させていくことが必要であり、各メディアを効果的に活用するためには、事業部間の連携が重要になるだろう。
ディスカッションの話題にあった、“Twitterを使うこと”が目的となってしまっている企画書が多いという話も興味深い。本来は商品・サービスの販売や、話題づくりの手段としてTwitterを使うという結論になるはずが、Twitterありきで考えてしまうケースが多いというのだ。「しっかりと中長期的なコミュニケーションを行うことを考えて、本当にTwitterが必要なのか、どのように使っていくのかを考えてほしい」と若林氏は話した。
時間いっぱいまで質問やWebクリエーション・アウォード受賞者も交えた意見交換が行われることで、第一部は現在の課題を来場者が改めて認識できるよい機会となった。