2011年9月14日開催 Web広告研究会 第24回WABフォーラムレポート 第二部「ブランド・コミュニティの7つの神話と現実から見る ソーシャルメディアの神話と現実」(2) イベント報告
- 掲載日:2011年10月13日(木)
【第24回WABフォーラムレポート第二部(2)】
神話:ブランド・コミュニティは、ロイヤルティの高いブランド支持者のための「愛の祭典」でなければならない
VS
現実:賢明な企業は、対立を歓迎し、コミュニティを賑わせる
このテーマに対しては、鈴木健氏が“愛の祭典”が悪いわけではなく、うまく使うことが重要だという話を展開している。「マーケティング的に見ると、パレー トの法則のように2割のロイヤルカスタマーがいたとすれば、売上を伸ばすことを考えて残りの8割をどうするかに注力してしまう。ロイヤルカスタマーは何も しなくてもついてくるから、マーケティングは必要ないという視点で、マーケティングができていない層を探すのが普通のパターン。しかし、コミュニティには さまざまな人がいて、その人たちがブランドを広げたり、新しいコンテンツを作ってくれたりする。したがって、変な炎上マーケティングをするということでは なく、ちゃんとコミュニティを見て、それに対して話題を提供していくことが必要となる。ニューバランスにはコアなファンがいて、ソーシャルメディアのおか げでその人たちがいかにニューバランスが好きかを表現できるようになっている。現在、Facebookページでは、『44 styles of new balance』という動画イベントを行って おり、多くの応募者から44人に絞り込んでニューバランスの好きなところを語る動画コンテンツを提供している。スタイリストやプレスの方々がほとんどだ が、無償で動画に協力してくれている。したがって、このテーマは“愛の祭典”でロイヤリティの高いブランド支持者をケアするということではなく、ロイヤル カスタマーを使って新しいユーザーを捕まえることをもう少し考えたほうがよいと捉えている」
ここで工藤氏は、鈴木健氏と鈴木曜氏に「コアファンが増えれば増えるほど、コミュニティで答えにくいコアな質問が増えると思うが、どう対処しているのか」 と質問する。それに対して鈴木健氏は、「自分たちのわかる範囲内であれば調べて答えるが、それ以上の場合はお客様相談室に聞いてから答えるようにしてい る。時間がかかる場合は、きちんと今調べているのでお待ちくださいと質問者に伝えている」と答えた。また、鈴木曜氏は「コミュニティである以上、コミュニ ケーションが重要であり、質問できないような環境は作りたくないと考えている」と話したうえで、「タイヤのゴムはどこ製か、といったコアな質問に対して は、基本的にマニュアルを整備して共有することで対応している。こういったカスタマーケアは今後増えていくと思うので、マニュアルを用意しておけば時間を かけずに質問に答えていくことができる」と話した。
一方で、「苦情に対してどう対処するかというのが問題」だと鈴木曜氏は指摘する。苦情の対処をコミュニティ内で解決しようとして失敗してしまえば、組織全 体に影響を与えることにもなりかねない。「苦情は月に何件か入ってくるが、そのような場合は対応する部署と連携する体制を整えている。基本的にはコミュニ ティ内で回答を返すようにはしているが、どうしようもないときは、お客様相談室と連携して対応することもある。そのお客様だけに時間を取られることもマイ ナスとなるので、お客様相談室との連携と協力は必須になる」と鈴木曜氏は話した。
このテーマでの「対立」とは、ブランドと顧客ではなく、顧客同士の対立という話も議論された。一方で、顧客同士の対立が企業に飛び火する可能性もあること や、対立を歓迎するためには、企業も顧客もある程度の許容が必要となるといったことも話し合われた。また、坂井氏は、サントリーでもお客様センターとの連 携が行われていることを明かした。
神話:オピニオン・リーダーが、強固なコミュニティを築き上げる
VS
現実:ブランド・コミュニティは、メンバーがそれぞれの役割を果たすとき、最も強固になる
「このテーマは、現実が正しいと思う」と話す鈴木曜氏は、次のように話を続けた。「このテーマは、現実が正しいと思う。スバルのコミュニティにもユーザー の声を傾聴してコメントを書いていく人もいれば、スバルに批判的な投稿をする人もいて、先ほどのテーマのように対立も歓迎すべきだと思う。これらが新たな ユーザーの目に触れたりすれば、Webへの誘導になる。しかし、ユーザーはそれぞれが役割を意識しているわけではない。したがって、オピニオン・リーダー やインフルエンサーを無理やり作ったり、育てても失敗するだけだと思う」
一方、工藤氏は「我々にとってこのテーマは、ソーシャルメディアではまだ未体験」と話す。「オピニオン・リーダーは広報活動的にコラボできれば、よい力を発揮すると考えている。その記事やアクティビティを見た一般の人が進化した先に、役割分担があるのではないか。コミュニティのなかで広報的な役割をする人やエバンジェリスト的な役割の人が出てくるというのは、すごく成熟したコミュニティだと思うし、その先にブランドに対してファンになってくれる人が増える、というのは、企業が前面に出ないコミュニティの成り立ちとして非常に理想的だと思う」
鈴木健氏は、「このテーマの役割は非常に細かく決められており、マルコム・グラッドウェルが提唱したティッピング・ポイントのコネクタ、メイブン、セール スマンだけでなく、それ以上のたくさんの役割がある。このテーマが示したいのは、“コミュニティは何となく自然に集まっているように見えるが、実際には役 割が違う”ということなのかなと感じている。そういった人たちに対しては、役割ごとにお勧めの機能やリワードをして手助けすることで活性化すると思う」と 話した。
坂井氏は、「Facebookページを立ち上げるにあたって、さまざまな企業の公式Facebookページを見ていったが、ある一定の規模を超えると、企業の投稿に対してお客様同士が突っ込みあったり、“いいね”を言い合うようになっていた。一定の規模になれば、それぞれの役割ができて“いいね”を言った り、コメントを返したり、助け合うようになると感じているし、工藤氏の言うようなゴールに近づくのではないか」と話した。それに対して鈴木曜氏から「突っ 込みなどが出てきたときは、ブランドとして何かを発信するべきなのか」と聞かれると、坂井氏は「静かにしておいて、振られたら答えるほうがいい。ブランド 側が“俺が、俺が”になるとうるさく感じられるような気がする」と回答した。
神話:SNSは、コミュニティ戦略のカギである
VS
現実:SNSは、コミュニティ戦略ではなく単なるツールである
まず、鈴木曜氏が「コミュニティ戦略だけが重要なのではなく、全体でSNSをどうするかという設計なくしてコミュニティを作ると、その場しのぎの対応に終 始しがちになる」と話した。また、「我々はイベントを同時にやることが重要だと考えていて、体験を一緒にすることによって、インターネット上でのつながり がリアルなつながりに変わり、イベントの前後ではコミュニケーションが明らかに変化する。コミュニティは、お客様をつなげるための1つのシステムや方法で あり、コミュニティがインターネット上だけで形成されるとは考えていない。自動車の場合は、同じ車に乗っている者同志のオフ会などもあり、オフ会にオフィ シャルグッズをプレゼントするなどの応援も行っている。お客様同士がつながるようなイベントを用意して、全体の流れのなかでコミュニティを1つの重要な ツールとして使えば、効率的に機能すると思う」とも話している。鈴木健氏は「やはり広告代理店など、提案側としてはFacebookなど新しいツールを提 案しやすいとは思います。しかし、本来はそれぞれのマーケティング上で、コミュニティがどのように使えるのか、どうやってつながっていくのか、という視点 から考えなくてはいけない。そういった意味では、ツールというのが現実であると思う。ターゲットをまず考えたうえで導入を検討するべき」と話した。
一方で、工藤氏は「単なるツールだという話はよく言われるが、今の日本においてはカギでもあると思う。たとえば、予算を獲得するときにSNSをチラつかせ るのは有効であったりする。また、ソーシャルメディアで何かを発信しないブランドは、コミュニティ戦略以前に忘れ去られるという危機感がある。確かにツー ルではあるが、カギでもあるという実感が現場にはあると思う」と話している。
神話:ブランド・コミュニティは、厳格なマネジメントとコントロールによって成功する
VS
現実:ブランド・コミュニティは、人々のものであり、人々によって成り立っており、マネジメントとコントロールを受け付けない
「ファン同士の対立を見守ることと同じだと思う。自分としては、まだ始まったばかりなので、マネジメントやコントロールに悩んでみたいというのが実情。一 方で、アカウントのガバナンスという面で見れば、どこまでマネジメントすべきかという悩みがある」と話す工藤氏は、次のように話を続ける。「パナソニック は、世界に百何十ものアカウントがあり、各国が自由にソーシャルメディアを使っている。この場合、特に英語で書かれているコミュニティには国境がなく、違う 国のお客様が書き込んでくることもある。自分の国ではないから、とは言えないはずだが、国によっては無視してしまうところもある。運用面では、コミュニ ティの対応をコントロールし、マネジメントし、ポリシーを決めていく必要があると思う。これによって、コミュニティの質や雰囲気は変わっていくだろうし、 ゆくゆくはパナソニックのブランドイメージにつながっていく部分だ。これは、1つの国のマーケティング部門の問題ではなく、事業全体に関わる問題だと感じ ている」
続いて鈴木曜氏は、「先ほどと同じように、イベントなどを入れることによって、お客様の流れを作り出すことはできると考えている。どのような体験をさせる かを設計して、それを見据えたインターネットの構築を行う必要があるが、ブランドをアピールするのではなく、お客様が楽しめるかを考えてストーリー作りを していくことで、うまくいくのだと思う」と話した。また、工藤氏の各国ごとの対応にも触れ、「個人的には、欧米の企業のほうが本国チェックといった話もよ く聞くので、日本よりも各国アカウントのコントロールが厳しいような気がする。これからの日本ブランドをどうしていくかと考えたときには、この問題はピン チとなると思っていて、各国に顔がある状態でトータルにマネジメントされていないという問題は、今後大きくなっていくと思う」と話した。この問題に関して は、システマチックにやっていくのか、文化の違う国とどうコミュニケーションを取っていくのか、教育やルールをどうするのかなど、その方法論についてさま ざまな議論が交わされていった。
これらの意見を受けて鈴木健氏は、「グローバルに統一するよりもローカライズしたほうがよい場合もある」と話した。「ニューバランスはあまりグローバル化されていない企業で、日本のファンと米国のファンが同じでなければならないとは考えていない。さまざまな人がいて当たり前と考えれば、もう少し各国の文 化に合わせたほうがいいと思う。フードビジネスは顕著な例で、その国の食文化に合わせたメニューの提供なども行われている。今の時代は、ある程度ローカル に最適な形でコミュニティに馴染んでいくほうがいい。たとえば、ニューバランスでは、英国の工場で作っている皮のスニーカーが高品質であるため、Made in UKの製品がファンにリスペクトされ、米国のブランドなのに英国に価値があるという現象が起きている。このように、これからはローカライズによってグロー バルでうまくいくといった形が出てくると感じており、ある程度自由度があるほうが面白くなるのではないかとこのテーマの現実を見て思った」
これに対しても、ナショナルアイデンティティの問題や、国ごとの事情を汲み取りながらどのように設計していくかといったグローバル企業ならではの議論が交わされ、大いに盛り上がりを見せた。
神話:ブランド・コミュニティは、マーケティング戦略である
VS
現実:ブランド・コミュニティは、事業戦略である
鈴木健氏は、「論文ではここが核となる部分で、最初に書かれていて、自分としても最もしっくりくる言葉だと思う」と話した。また、「先ほど鈴木曜氏も言っ ていたが、単にファンを大事にするだけでなく、イベントを開催し、イベントには必ず社員が出席してお客様と対話し、その意見をもとに製品作りやコミュニ ケーション作りを行うということも書かれている。だれがどの役割を担うということではなく、1人ひとりが会社の社長のような立場で接しなければならない。 そうすることで、少数精鋭でも力強い組織となると思う」と話した。
鈴木曜氏は、イベントへの社員の参加という点に触れ、次のように話す。「自分が手がけたコミュニティのイベントには、自分はもちろん、開発者を何人か連れ て行くようにしている。最初は嫌がっていたが、行ってみるとお客様の生の声が聞けて、かえって社員のほうが満足して帰るようになった。お客様とのコミュニ ケーションをマーケティング部門だけがやっていても仕方がないし、マーケティングだけで完結させようとすると広がりがない。お客様にとっても開発責任者の 話が直接聞けることはうれしいことだし、さまざまな部署がコミュニケーションの場に入ることは非常にいいことで、そこで聞いた話は決して無駄にはならない はずだ」
また、別の視点から工藤氏は、「ソーシャルメディアを運営していると、事業の構造や商品開発の仕組み、カスタマーサポートのあり方などをもう一度見直して いかなければならないと感じることが多い。コミュニティやソーシャルメディアが事業戦略を見直すキッカケになるということは間違いないと感じている。たと えば、日本でテレビの発売日が発表されると、翌日には複数の言語に翻訳された記事が世界中に配信され、他の国からいつ発売になるのかとの問い合わせが来 る。日本の記者に対しては“各国では順次発売する予定”という答えを用意しているが、他の国からの問い合わせにも同じ回答で、はたしてきちんとコミュニ ケーションが取れていると言えるのか、と疑問に感じてしまう。ここでもう少し暖かな答えができれば、ファン度が少し上がるかもしれないし、その積み重ねが ファンとのエンゲージをを強くしていくのだと思う。また、製品発売は世界同時という日が来ても面白いと(開発現場のことをちょっとヨコに置いておいて)思ったりもするなど、新たな面白い試みを行う きっかけがソーシャルメディアにはあると感じている」と話した。
最後には、比較的成果がだしづらく、手間もかかるコミュニティの存在意義をどのように社内で認めさせていったのかなど、Web広告研究会らしく登壇者と会場参加者とで議論が交わされ、第24回WABフォーラムは盛況のうちに幕を閉じた。