「オムニチャネル時代のコンテンツマーケティングとストーリーテリング」2014年4月4日開催 第6回東北セミナーレポート(2) イベント報告
- 掲載日:2014年6月6日(金)
オムニチャネル時代のコンテンツマーケティングとストーリーテリング
顧客のオムニチャネルに対する期待が高まる一方、店舗やオンラインストアなどのチャネルを連携させることは簡単ではない。企業は消費者とどのようにエンゲージメントを築いていけばいいのか。そのために必要な次世代のストーリーテリングとはなにか。「オムニチャネル時代のコンテンツマーケティング」をテーマに、電通レイザーフィッシュの得丸英俊氏が国内外の事例を交えて解説した。
オムニチャネル化を実現するための3つの壁
株式会社電通レイザーフィッシュ
代表取締役社長(CEO)
得丸 英俊氏
モバイルデバイス、ソーシャルネットワーク、クラウドが普及し、生活の環境が変化しているなか、「オムニチャネル」という言葉がバズワードとなっている。得丸氏によれば、オムニチャネルという言葉は登場したのは約3年前のこと。全米小売業協会(National Retail Federation)が発表したサプライチェーンなどのモバイル対応を示したレポート「Mobile Retailing Blueprint」で使われたのが最初だという。
シングルチャネルからマルチチャネル、クロスチャネル、オムニチャネルへの変化
オムニチャネルの前に注目されていたのが、マルチチャネルやクロスチャネルだ。クロスチャネルでは、複数チャネルで顧客の情報を集約するが、チャネルごとの施策は独立している。一方で、オムニチャネルでは、複数チャネルを通じた顧客のブランド体験を考えるため、顧客の情報を一貫して捉える横断的でシームレスな施策が必要となる。オムニチャネル化を実現するためには、チャネルを横断するようなデータベースとプラットフォームを利用するのと同時に、チャネル横断的に分析やプランニングを行う力と実行力が必要となる。
オムニチャネル化の事例として、英国の大手スーパーマーケット「テスコ」の「Click & Collect」という施策を得丸氏は示す。これは、オンラインで時間指定して注文すると、駐車場まで荷物を運んでくれるというサービスで、ECとリアル店舗をシームレスにつないでいる。
また、テスコでは、会員カードとハンディスキャナで決済をスムーズにする「Scan as you Shop」や、陳列棚の商品をカメラで視覚的にチェックして在庫管理を行う「Broccoli Cam」、情報端末で商品情報を調べられる「Smart badges for staff」などのさまざまな施策が行われている。これらを得丸氏はテスコの事例動画「In-store Innovation at Tesco」と共に説明した。すでに先進的な流通店舗のなかでは、さまざまなデータを使いながら顧客サービスを高める施策が行われているのだ。
In-store Innovation at Tesco
しかし、国内を含め多くの企業では各チャネルが孤立してバラバラに管理されている場合が多い。チャネル横断的に一貫したサービスを実現するには、以下の3つの“壁”があると得丸氏は説明する。
オムニチャネル化の3つの壁
1. 組織の壁(組織横断的な意思決定プロセス、P&L管理)
2. インフラの壁(基幹システムとの統合)
3. オペレーションの壁(人材不足、教育の必要性、カルチャー)
オムニチャネル化には、複数チャネルを横断したサービスが欠かせないが、組織をまたがって意思決定することは難しく、インフラを回していく体制を準備することも難しい。実際にForrester Researchが行った小売業の調査では、これらの壁がないと答えている小売事業者はわずか6%だったという。今はまだ、オムニチャネルという言葉が独り歩きし、実態がともなっていない状況だが、顧客の期待は高まりつつあると得丸氏は説明する。
顧客の要求レベルが高まる
実現が難しいオムニチャネル化だが、顧客の期待は高まっている。理由の1つは、購買行動の変化だ。今は購買前にネットなどで多くの情報を得ているため、購買のイニシアチブが企業から顧客側にシフトしつつある。利便性の面でも、シームレスかつパーソナライズされたサービスへの要望が強くなっている。また、「いつ、どこで買うか」という購買機会の選択肢が増えているため、顧客のニーズに応えられるタイミングを逸すると販売機会を損失してしまう可能性が高い。
オムニチャネル化が進むと、タッチポイントと情報流通量が増大し、流通店舗内にさまざまなタッチデバイスやセンサーが設置され、ユーザーの利便性を高めるような試みが行われるようになる。また、顧客行動に基づいてパーソナライズされた情報が増加していくが、これにはプライバシーの問題がともなうため、注意が必要だ。
モバイルデバイスの重要性もさらに高まる。モバイルデバイスはメンバーシップカードや決済手段として利用でき、顧客管理のためのアプリなども活用できる。すでに、入店するとクーポンを提供する「Shopkick」や、店内をナビゲートする「Aisle411」といったサービスも実現されている。
店舗内に設置されたセンサーやタッチデバイスを利用したサービスが登場している
欧米では、Webアプリよりもネイティブアプリのほうが圧倒的に利用されやすく、ネイティブアプリにシフトしている傾向があるという。また、屋外でのスマートフォン利用が進み、店舗内でもソーシャルメディアで商品の評価を見ることができるため、ソーシャルメディアの購買への影響力も高まることが予想される。
モバイルとソーシャルがマーケティングにもたらした変化
モバイルとソーシャルメディアがマーケティングにもたらした変化には、以下の3つがあると得丸氏は話を続ける。
1. ビッグアイデアからスモールアイデアの積み重ねへ
2. 360度から365日へ/平面から立体へ
3. 完結したメッセージからシェアされるストーリーテリングへ
まず、ソーシャルメディアが普及する以前はビッグアイデアの時代で、表現コンセプトとして、斬新かつ大胆なアイデアのコミュニケーション施策が採用されていたが、ソーシャルメディアの普及後は、戦略的にタイムリーな小さなアイデアを積み重ねることが必要となってくる。
コミュニケーションの性質もマスメディアを使った一方向なものから、ネットやソーシャルメディアを通じた双方向のアプローチとなっている。一例として得丸氏は、オレオの100周年を記念したキャンペーン「Daily Twist」を示す。100日間にわたって、その時々のトピックに合わせたクッキーとクリームを使ったアートを投稿し、スモールアイデアを積み重ねることで、ソーシャルメディア上での話題拡散やPRにつなげた事例だ。
2つ目の「360度から365日へ」では、継続的なアプローチと状況に合わせた柔軟な対応が必要であることを以下の図のように説明し、スーパーボールで停電が発生したときにオレオが迅速な意思決定と柔軟な対応で「Power out? No problem. You Can Still Dunk In The Dark」とツイートしたことによって話題を獲得した例を示した。
3つ目の「完結したメッセージからシェアされるストーリーテリングへ」とは、ソーシャルメディアでは幅広く多くの人に共有してもらうことを念頭に設計する必要があるということ。従来のテレビCMなどでは、ターゲットユーザーに対して完結したメッセージを出していたが、得丸氏は、その先にいるユーザーにまで伝播させるストーリー作りが必要だと説明する。
たとえば、映画「Monsters University」のキャンペーンでは、独自の世界観で作りこんだ大学風のTumblerサイトを公開し、クチコミ拡散のためのコンテンツを提供した。その結果、ファンが加工した二次利用コンテンツが拡散し、FacebookやTwitterのフォロワーが急増、公開時の興行収入も全米1位を達成した。マスメディア中心のPRから、ファンが喜ぶコンテンツ作りとクチコミ拡散へと戦略を切り替えて成功した事例だ。
共感を生み出すためのコミュニケーションプランニング
このようにマーケティング環境が変化するなかでは、「共感を生み出すコミュニケーションプランニング」が必要であると得丸氏は説明する。共感を生みだすには、「LISTEN」「PLAN」「ENGAGE」という3つの共感クリエーションメソッドに整理し、短期的ではなく、常につながるAlways Onのコミュニケーションを実現していくことが重要になる。
LISTEN:生活者の心と行動を理解する
オウンドメディアやアーンドメディアの情報を軸に、生活者の興味関心・ニーズ、ブランド提供価値と生活者の評価、実現性などを分析する。この分析をもとにPLANを立て、データに基づいた戦略で各チャネルに対してプランニングし、そこから得られたフィードバックによって、さらにブラシュアップしていくことが重要だ。
PLAN:戦略的なストーリーとコンテキストを作る
PLANのフェーズでは、ビジネス上の課題とLISTENの分析結果をもとに解決すべき課題を整理していく。そして、その課題を解決するためのアイデアをLISTENから導き出した関心テーマから導き出し、コアアイデアとしてENGAGEのフェーズで実行するのが電通レイザーフィッシュの行っている施策だ。
電通レイザーフィッシュが実施した通信事業者の事例
また、消費者と商品・ブランドとの関係性を、体験前の認知の段階から、体験後にファンになるまで、2つのファネルを一貫して見ていく「Double Funnel Marketing」というアプローチも紹介された。
ブランド体験前と体験後、2つのファネルを一貫して捉える
こうしたダブルファネルマーケティングのプランニングでは、「コンセプトダイアグラム」や「カスタマージャーニーマップ」などで生活者と商品・ブランドの関わりを時系列でマッピングし、「どこで接触し、どこに課題があるか」を俯瞰して、コンタクトポイントの設計やキャンペーンの計画を立てていくことがポイントになる。
ENGAGE:共感を促して好意の輪を形成する
そして、LISTENから作られた戦略的プランをもとに顧客とのENGAGEを深めていく。ただし、LISTEN、PLAN、ENGAGEという大きなPDCAサイクルだけでなく、ENGAGEのなかでも「Content(コンテンツを作る)」「Connections(常に繋がる)」「Conversation(会話する)」という小さなPDCAサイクルを回していくことが重要だと得丸氏は示す。
コンテンツ開発で必要な次世代のストーリーテリング
一方、海外ではもう1つ違った視点でマーケティングが行われていると、得丸氏は米国Razorfishがコンテンツ開発で考えている次世代のストーリーテリングを紹介する。次世代のストーリーテリングでは、プランニングに向けて、以下の3つのトレンドを認識する必要がある。
1. クリエイティビティの民主化とコラボレーションの増大
2. クリエーティブディレクターの役割は、キュレーターへ
3. サービスとしてブランドを考える
1. クリエイティビティの民主化とコラボレーションの増大
多くの人がクリエーティブに携われるような環境では「1つのビジョン」よりも「コラボレーション」が増えることになり、広告に対する「フィードバック」を生活者からもらうのではなく、一緒に「コ・クリエーション」していくようになるという。従来の「クリエーティブ」がテクノロジーの知識を持って「クリエーティブ・テクノロジスト」の役割を担っていく。
2. クリエーティブディレクターの役割は、キュレーターへ
今後はクリエーティブディレクターの役割として、最適なテクノロジーとメディアを組み合わせたソリューションに対して、最適なクリエーティブアイディアを選び、実施のための最適な人材と協業することが求められる。データとクリエーティブを結び付け、キュレーションできる人材が必要となってくる。
この事例として得丸氏は、ドイツのマクドナルドで行われた40周年記念キャンペーン「MAKE YOUR OWN BURGER」を示し、「CROWD SOURCED BURGAR」と称してさまざまな具材の組み合わせで独自のバーガーを作成し、そのバーガーをキャンペーンできるような仕組みを提供して人気投票を行ったことを紹介している。消費者に商品開発からデジタルキャンペーンに参加してもらい、40周年を一緒に祝い、大きな成功を収めたという。
3. サービスとしてブランドを考える
3つ目の「サービスとしてブランドを考える」は、顧客が何かを達成することをブランドが手助けするというものだ。日常の活動を記録するNIKEの「FuelBand」がその一例だが、このような大掛かりなものだけでなく、P&Gのトイレットペーパーブランド「Charmin」がトイレの場所とそのキレイさを地図上に表示するアプリ「Charmin Sit or Squat」のような施策もあると得丸氏は説明する。
最後に得丸氏は、「P&GのCharmin Sit or Squatでは、クラウドのプラットフォームが使われており、テクノロジーが加味されている。また、ユーザーからの投稿によってトイレの情報を更新しており、ユーザーを巻き込んで共創している」と話し、データとオープンAPIと共創型クリエーティブによって、新しいブランドの価値を上げていくエクスペリエンスを作っていけることを強調し、第二部の講演を終えた。
2014年4月4日第6回東北セミナーレポート(1)
2014年4月4日第6回東北セミナーレポート(3)
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